コラム:上海協力機構、習氏最大の戦利品は中央アジア「電力元」か
[香港 3日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 中国天津市で開かれた上海協力機構(SCO)首脳会議で1日、中国の習近平国家主席、ロシアのプーチン大統領、インドのモディ首相が笑顔で寄り添う写真は、力の政治を大々的に見せつけた。しかし会議の実質的な核心は、中国と中央アジアの連携強化にあるかもしれない。
習氏は基調演説で、「グローバル・サウス」に向けたより包括的で多国間の経済秩序ビジョンを示した。これは米国と西側諸国への直接的な挑戦となる。ビジョンの核心は、中国、ロシア、中央アジア4カ国によって設立された地域安全保障機構であるSCO内での、特にエネルギーとインフラ分野における協力の強化だ。注目すべきは、習氏がこれらの国々の再生可能エネルギー容量の増強を支援すると約束した点にある。
実現にはなお時間を要するが、習氏は経済関係緊密化の道筋を整えている。今年1―5月期に中国と中央アジア5カ国との貿易総額は前年同期比10.4%増え、過去最高の400億ドルに達した。このうち機械や電気自動車(EV)を含む中国からの輸出は260億ドルを超える。さらに習氏は1日、SCO開発銀行の創設を呼びかけ、同銀を通じて中国は今年、加盟国に20億元(2億8000万ドル)の無償援助を提供すると表明した。
こうした中国主導のエネルギー事業と開発銀行は最終的に習氏がもくろむ米ドルの支配力低下を加速させるかもしれない。
2023年に中国企業がウズベキスタンで500メガワットの風力発電プロジェクトに投資した際、特筆すべき点として決済に人民元が使われたことが挙げられる。EVや人工知能(AI)が地域の電力需要を押し上げる中、人民元建て決済は今後さらに一般化し、オイルダラーに似た「電力元」の台頭を促すかもしれない。
1970年代に増加した原油輸出は米ドルで決済され、国際貿易・金融におけるドルの支配的地位を固めた。世界が「ネット・ゼロ・エネルギー」に移行するにつれ、人民元建てのグリーン電力取引は元利用拡大への道を開く可能性がある。これが実現すれば、習氏の西側諸国に対する最大の勝利になると言ってよいだろう。
●背景となるニュース
*1日に中国天津市で開催された上海協力機構(SCO)首脳会議には、ロシアのプーチン大統領やインドのモディ首相など20カ国余りの首脳が出席した。会議は中国の習近平国家主席が主催した。
*中国はSCO加盟国との間で、エネルギー、グリーン産業、デジタル経済の3分野における協力のプラットフォームを設立する。習氏は基調演説で「われわれはSCO諸国と協力し、向こう5年で太陽光、風力発電の容量をそれぞれ1000万キロワット増やす」と宣言。SCO開発銀行の創設も呼びかけた。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
Chan Ka Sing is China Columnist for Reuters Breakingviews. Prior to joining Reuters, he worked at Week in China, Hong Kong Economic Journal and Dow Jones Newswires.