300/400転用で高速ミサイルが激増、ツィルコン量産:ウクライナ迎撃戦闘2026年2月分の傾向(JSF)
2026年2月にウクライナ空軍司令部が報告したロシア軍の長距離ドローン・ミサイル攻撃は合計で5348飛来(ドローン5059機+ミサイル289発)でした。これは先月の2025年1月(分析記事)の4587飛来(ドローン4452機+ミサイル135発)から飛来数が約16%ほど増えています。空襲報告の出典:ウクライナ空軍司令部
ロシア軍の長距離ドローン・ミサイル攻撃の飛来数
筆者作成図:ロシア軍の長距離ドローン・ミサイル攻撃の飛来数。青色:ドローン、橙色:ミサイル:2025年3月~2026年2月※飛来数で見るとドローンが攻撃の主力かと錯覚するが、後述の「突破数の打撃力換算」で見ると2026年2月はミサイルの方がドローンよりも与えた被害は2倍近く大きい。
○2026年2月:5348飛来4582排除
各種ミサイル:289飛来170撃墜2未到達 ※阻止率60%
- 高速ミサイル:143飛来51撃墜2未到達 ※阻止率37%
- 低速ミサイル:146飛来119撃墜 ※阻止率82%
各種ドローン:5059飛来4410排除 ※阻止率87%
※高速ミサイル:2026年1月以降からイスカンデルM弾道ミサイルとS-300/400地対空ミサイル対地攻撃転用が判別できずに混じった状態で報告されたケースが多数出始めており、弾道ミサイルと転用ミサイルの区別がつかないため、超音速以上を発揮する弾道ミサイルと転用ミサイルを纏めて「高速ミサイル」と分類する。
※低速ミサイル:亜音速巡航ミサイル。高速ミサイルとの比較の意味での低速であり、巡航ミサイルは低速とはいってもジェットエンジンで飛行するために長距離ドローンの4~5倍の速度を発揮する。
※排除:排除とは宇空軍報告の「撃墜または抑制(ЗБИТО/ПОДАВЛЕНО)」のことで、抑制とは本来は電子妨害で目標から外れた無力化を意味するが、しかしここではドローンに関しては囮無人機の燃料切れ墜落による「未到達」も含む。
※シャヘド推定数:飛行中の自爆無人機と囮無人機の判別はレーダーでは困難で、撃墜後の残骸の全数調査は数が多過ぎて非現実的なので、このシャヘド推定数は不正確な数字であり、当記事では分析に用いない。
※2月の大規模攻撃7例。なおドローンは毎日飛来している。
高速ミサイル2月傾向:過去最大143飛来
- イスカンデルM弾道ミサイル×27飛来0撃墜
- イスカンデルM弾道ミサイル/S-400転用×33飛来12撃墜
- イスカンデルM弾道ミサイル/S-300転用×56飛来26撃墜
- キンジャール空中発射弾道ミサイル×4飛来0撃墜2未到達
- ツィルコン極超音速巡航ミサイル/オーニクス×4飛来4撃墜
- ツィルコン極超音速巡航ミサイル×12飛来6撃墜
- Kh-22/32超音速空対艦ミサイル転用×7飛来3撃墜
○高速ミサイル合計:143飛来51撃墜2未到達90突破 ※阻止率37%
転用ミサイルについて
※S-300/400:地対空ミサイルを対地攻撃転用したもので準弾道飛行で超音速を発揮する。イスカンデルM弾道ミサイルと種類判別が出来ずに纏めて集計報告。S-300の迎撃ミサイル5V55系とS-400の迎撃ミサイル48N6系(先月に残骸の発見報告:出典)が対地攻撃に転用されている。S-300Vの迎撃ミサイル9M82/9M83系は対地攻撃に転用されていない。
※Kh-22/32:超音速空対艦ミサイルを対地攻撃転用したものでTu-22M爆撃機で運用する。Kh-22の弾頭重量を半分にして射程を2倍にした改良型がKh-32。巡航ミサイルの一種で液体燃料ロケットエンジンを持ち、弾道ミサイルに近い高速を発揮するが、本来は対艦用であり対地での命中精度は劣悪。
※なお2月16日にKh-31P対レーダーミサイル×1飛来0撃墜の報告があるが、対レーダー用という戦術用途に絞られる性格のミサイルなので当記事の集計からは除外。
①北朝鮮製KN-23弾道ミサイルの飛来報告無し
先月と同じく2月も北朝鮮製KN-23弾道ミサイルの飛来報告がありません。ただしレーダー観測ではロシア製イスカンデルMと見分けが付かない筈なので、実際に未飛来なのかははっきりしていません。
②キンジャールの飛来が再開
キンジャールは2025年12月27日を最後に飛来が途絶えていましたが、2026年2月6日と2月11日に飛来報告があります。なお2月6日のキンジャール2飛来について空軍報告では「未到達があり調査中」とありましたが、追加発表が無かったので当記事では未到達ゼロとして集計してあります。また2月11日のキンジャールについてウクライナ空軍司令部は飛来数を報告していないのですが(未到達とのみ報告)、リヴィウ市長は2飛来(全て未到達)と発表しています。参考記事:ウクルインフォルム
③S-300/400地対空ミサイル対地攻撃転用の大量使用
先月の66飛来(6回)に続いて2月は「イスカンデルM弾道ミサイルまたはS-300/400地対空ミサイル対地攻撃転用」が89飛来(4回)も飛来しています。おそらくですがイスカンデルMの生産能力の限界から、S-300/400の対地攻撃転用が多く占めていると思われます。
④Kh-22/32超音速空対艦ミサイル対地攻撃転用の使用継続
先月の12飛来に続いて2月もKh-22/32が7飛来と使用が継続しています。但し先月も今月もKh-22/32の使用は1回のみです。⑤ツィルコン極超音速巡航ミサイルが量産開始の兆候
2月はツィルコンが12飛来、ツィルコンまたはオーニクスが4飛来で、合計16飛来も報告されています。オーニクスの報告はおそらく全てツィルコンでしょう。開発したばかりの最新鋭兵器であるツィルコンはこれまで試験投入レベルで、2024年2月の初確認以降、年間数飛来しか飛んで来ていなかったのに、2026年2月から突然に急増しています。
- 2026年02月:16飛来10撃墜
- 2026年01月:3飛来0撃墜
- 2025年合計:2飛来0撃墜
- 2024年合計:4飛来1撃墜 ※2月7日初確認
この傾向が来月以降も続くならば、ツィルコンは試験投入レベルではなくなり、量産を開始して本格投入が始まったことになります。関連記事:ツィルコン撃墜の動画を紹介(2023年2月16日迎撃戦闘)
⑥イスカンデルM弾道ミサイルのヴァスィリキーウ空軍基地攻撃
2月9日にイスカンデルM弾道ミサイル11発の飛来報告がウクライナ空軍司令部からありますが(出典)、「一部のイスカンデルMは迎撃され目標に到達しなかった」とあるものの撃墜数は触れられていません。当日の空襲記録からはキーウ州のヴァスィリキーウ空軍基地に弾道ミサイル攻撃が集中していたことが分かっていますが、おそらく敵にデータを与えないために、わざと撃墜数を秘匿しているものと思われます。詳細が全く不明なので当記事ではこれを暫定的に撃墜ゼロとして集計しています。
高速ミサイル(弾道ミサイル+転用ミサイル)の飛来数
筆者作成図:ロシア軍の高速ミサイルの飛来数の推移。黄色:弾道ミサイル、青色:転用ミサイル、緑色:弾道ミサイルと転用ミサイルの混在:2025年3月~2026年2月- 2026年02月:143飛来(弾道47発+転用7発+混在89発)
- 2026年01月:90飛来(弾道12発+転用12発+混在66発)
- 2025年12月:58飛来(弾道56発+転用2発)
- 2025年11月:107飛来(弾道91発+転用16発)
- 2025年10月:109飛来(弾道101発+転用8発)
- 2025年09月:31飛来(弾道21発+転用10発)
- 2025年08月:59飛来(弾道51発+転用8発)
- 2025年07月:82飛来(弾道58発+転用24発)
- 2025年06月:67飛来(弾道59発+転用8発)
- 2025年05月:50飛来(弾道47発+転用3発)
- 2025年04月:33飛来(弾道26発+転用7発)
- 2025年03月:30飛来(弾道22発+転用8発)
※2026年1月から「イスカンデルM弾道ミサイルまたはS-300/400地対空ミサイル対地攻撃転用」という報告が増えているため、これを「混在」と分類する。
※ツィルコンは極超音速スクラムジェット巡航ミサイルだが短距離弾道ミサイルと同等の高速性を発揮する対地・対艦両用の兵器なので、ここでは弾道ミサイルのカテゴリーに入れている。
高速ミサイルは開戦初期に混乱して正確な集計が出来なかった時期を除いて、これまでは2025年10月の109飛来が過去最大でした。それが2026年2月の143飛来で大幅に更新されています。
高速ミサイルの飛来数(撃墜数+未到達+突破数)
筆者作成図:ロシア軍の高速ミサイルの飛来数の推移。灰色:撃墜数、薄橙色:未到達、橙色:突破数:2025年3月~2026年2月高速ミサイル阻止率(%)の推移
筆者作成図:高速ミサイル阻止率(%)の推移:2025年3月~2026年2月高速ミサイルの突破数についても2026年2月は90発と、これまで過去最大だった2025年11月(87発)を超えています。高速ミサイルの撃墜数も2026年2月は51発と過去最大です。なお阻止率については敵が高速目標を迎撃可能なパトリオット配備地域を狙ってくるかどうかで大きく変動するので、個別の高速ミサイル飛来地域とパトリオット配備推定を勘案しながらでないと、この推移グラフだけを見ても迎撃戦闘の傾向は分かりません。
低速ミサイル2月傾向:飛来数が元に戻る
- Kh-101巡航ミサイル×83飛来75撃墜
- Kh-101/イスカンデルK巡航ミサイル×28飛来20撃墜
- カリブル巡航ミサイル×16飛来10撃墜
- イスカンデルK巡航ミサイル×6飛来6撃墜
- Kh-59/69空対地ミサイル×13飛来8撃墜
○低速ミサイル合計:146飛来119撃墜27突破 ※阻止率82%
※当記事での低速ミサイルとは亜音速巡航ミサイルを指す。低速とはいっても長距離ドローンの4~5倍の速度を発揮する。
※Kh-101(空中発射)、カリブル(艦船発射)、イスカンデルK(地上発射)、Kh-59/69(空中発射)。なおカリブルとイスカンデルKは兄弟機で構成部品の多くが共通。またKh-69はKh-59の改良型だが形状や性能が激変しており、Kh-69は巡航ミサイルと呼べる射程を持つ。
巡航ミサイルの飛来数(撃墜数+未到達+突破数)
筆者作成図:ロシア軍の巡航ミサイルの飛来数の推移。灰色:撃墜数、薄橙色:未到達、桃色:突破数:2025年3月~2026年2月巡航ミサイル阻止率(%)の推移
筆者作成図:巡航ミサイル阻止率(%)の推移:2025年3月~2026年2月巡航ミサイルは先月の2026年1月が例外的に少なかったのですが、2月は元に戻りました。これはおそらくウクライナに大寒波(最低気温マイナス20度という20年に1度のもの)が到来したタイミングを狙った攻撃の関係で、逆に寒波が緩んでいた時期は攻撃を控えていたのでしょう。また例年ですと秋季に巡航ミサイルの使用を控える備蓄期間を設けて冬季攻撃に備えるのですが、2025年秋はそのような備蓄期間は設定されていませんでした。
各種ドローン2月傾向:阻止率は改善傾向
※シャヘド136自爆無人機やガーベラ囮無人機の他にイタルマス自爆無人機の報告が増え始めており、ウクライナ空軍司令部からは2026年2月分では2日と4日以外の全てでイタルマスの報告がある。ただし実際に飛来しているのはイタルマスと同じ特徴のデルタ翼フロントエンジン牽引プロペラ式のBM-35自爆無人機である可能性が高い。
長距離ドローン攻撃の飛来数(排除数+突破数)
筆者作成図:ロシア軍の長距離ドローン攻撃の飛来数(灰色:排除数、青色:突破数):2025年3月~2026年2月ドローン阻止率(%)の推移
筆者作成図:長距離ドローン阻止率(%):2025年3月~2026年2月長距離ドローン攻撃の突破数
筆者作成図:ロシア軍の長距離ドローン攻撃の突破数:2025年3月~2026年2月- 2026年02月:659突破:5059飛来4410排除 ※阻止率87%
- 2026年01月:732突破:4452飛来3720排除 ※阻止率84%
- 2025年12月:984突破:5131飛来4147排除 ※阻止率81%
- 2025年11月:886突破:5446飛来4560排除 ※阻止率84%
- 2025年10月:1077突破:5298飛来4221排除 ※阻止率80%
- 2025年09月:736突破:5585飛来4849排除 ※阻止率87%
- 2025年08月:697突破:4132飛来3435排除 ※阻止率83%
- 2025年07月:723突破:6297飛来5574排除 ※阻止率89%
- 2025年06月:757突破:5438飛来4681排除 ※阻止率86%
- 2025年05月:715突破:4005飛来3290排除 ※阻止率82%
- 2025年04月:381突破:2476飛来2095排除 ※阻止率85%
- 2025年03月:377突破:4198飛来3821排除 ※阻止率91%
参考:囮無人機が混じっていない2024年6月以前(1年分)
○2023年7月~2024年6月:682突破:4433飛来3751撃墜
- 1カ月分平均:約57突破:約369飛来約313撃墜 ※阻止率85%
※囮無人機は2024年7月から確認され始め、2024年10月から大規模投入が始まる。当初はガーベラ囮無人機とパロディ囮無人機が飛来していたが、現在は囮無人機はほぼガーベラが占めている。
※ドローンは囮無人機のせいで飛来数があまりに膨大な上に自、爆無人機との比率が特定が困難(空軍発表のシャヘド推定数は不正確)なので、「突破数(つまり必然的に自爆無人機のみになる)」に注目して比較すると迎撃戦闘の傾向が分かりやすい。
長距離ドローン攻撃については、2024年10月以降の囮無人機の大量投入開始(および自爆無人機も増産)による飛来数の激増と、2025年3月以降の突破数の急増(目標選定の変化:考察記事)以降は、大きな変化がありません。
突破数の打撃力換算(青:ドローン、橙:ミサイル)
筆者作成図:ロシア軍の長距離ドローン・ミサイル攻撃の突破数の打撃力換算(青色:ドローン、橙色:ミサイル):2025年3月~2026年2月- 2026年02月:打撃力182.9点(ドローン65.9点+ミサイル117点)
- 2026年01月:打撃力138.2点(ドローン73.2点+ミサイル65点)
- 2025年12月:打撃力151.4点(ドローン98.4点+ミサイル53点)
- 2025年11月:打撃力203.6点(ドローン88.6点+ミサイル115点)
- 2025年10月:打撃力214.7点(ドローン107.7点+ミサイル107点)
- 2025年09月:打撃力131.6点(ドローン73.6点+ミサイル58点)
- 2025年08月:打撃力118.7点(ドローン69.7点+ミサイル49点)
- 2025年07月:打撃力145.3点(ドローン72.3点+ミサイル73点)
- 2025年06月:打撃力143.7点(ドローン75.7点+ミサイル68点)
- 2025年05月:打撃力126.5点(ドローン71.5点+ミサイル55点)
- 2025年04月:打撃力88.1点(ドローン38.1点+ミサイル50点)
- 2025年03月:打撃力83.7点(ドローン37.7点+ミサイル46点)
○1年分合計:打撃力1729.4点(ドローン873.4点+ミサイル856点)
※打撃力換算はミサイルとドローンの弾頭重量差を10倍とする。突破して来たミサイル1発を打撃力1点、ドローン1機を0.1点と計算する。
※「突破数の打撃力換算」では突破して来たドローンは爆発した以上は全て自爆無人機と見做せるので飛来傾向の判断材料として正確性が高い。また実際に与えた被害量の大まかな把握ができる。
※打撃力の点に0.5を掛けると投射された弾頭重量(単位はトン)が出る。ただしミサイルの弾頭重量を1発500kg、ドローンの弾頭重量を1機50kgで計算した大まかな値。
2026年2月はミサイルの打撃量がドローンの打撃量の2倍近い規模で、最近1年間の傾向では突出してミサイルの比率が大きいのは、高速ミサイルの大量投入が原因となります。
撃墜動画の特集記事(2026年2月)
マクドナルドの屋根にイスカンデルM弾道ミサイルの残骸
※イスカンデルM弾道ミサイルの尾部の操舵翼ユニットの残骸。パトリオット防空システムで撃墜した証拠になる。キーウのマクドナルド。
対ドローン網装甲を装着した消防車
ウクライナ国家非常事態庁ハルキウ本部より対ドローン網装甲を装着した消防車ロシア軍の長距離ドローン攻撃後にウクライナ非常事態庁の救援
※ロシア軍がFPV自爆ドローンで消防車や救急車を狙って攻撃してくるため(戦争犯罪)、対ドローン網装甲を車両に装着せざるをえない。出典:ウクライナ国家非常事態庁ハルキウ本部
※場所はハルキウ州クピャンスキー地区ヴェリキー・ブルルク共同体ホルビウカ村。座標(50.011944, 37.325000)の周辺。
弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。