広瀬すずが少女から女へ「ゆきてかへらぬ」大正ロマン衣装の仕掛けとは
文化が百花 繚乱(りょうらん) した大正時代を舞台に、若き芸術家3人の愛と青春の軌跡を描いた映画「ゆきてかへらぬ」が2月21日から全国公開されます。「ツィゴイネルワイゼン」(1980年)や「セーラー服と機関銃」(1981年)で知られる田中陽造が40年以上も前に手掛けた“幻の脚本”に、名匠・根岸吉太郎監督がほれ込み、16年ぶりにメガホンを取った本作は、主演・広瀬すずの大正ロマンあふれる華麗なファッションが大きな見どころの一つとなっています。
広瀬が演じたのは、実在した俳優・長谷川泰子(1904~93年)。木戸大聖が演じる天才詩人・中原中也(1907~37年)、岡田将生ふんする文芸評論家・小林秀雄(1902~83年)との間の「奇妙な三角関係」がスクリーン上で繰り広げられます。
衣裳デザイナーお手製のセーラーカラー
セーラーカラーの服をまとった泰子(広瀬すず)は劇中、花札に興じる。©︎2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会映画の冒頭で泰子は、チャコールグレーにブルーの入ったセーラーカラーを着ています。実はこの服、「大正時代の着物が大好き」な 衣裳(いしょう) デザイナーの大塚満が大正時代の生地を選び、自ら作ったもの。
このセーラーカラー着用のシーンでは、泰子は中也相手に花札賭博に興じ、中也の有り金を全部巻き上げてしまうのですが、かれんな外見とのギャップにちょっと驚かされました。
スタイリストも絶賛 広瀬の着こなしセンス
ブラックドレス姿の泰子(広瀬すず)。©︎2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会セーラーカラーはどこかユニセックス風で、泰子はまだ少女っぽい面影を残しています。しかし、映画のクライマックスでは、りんとしたブラックドレス姿に。このドレスは、2人の男性との愛を経た泰子が、人生の喜びや哀しみを知る“女”へと変貌したことを物語ります。
セーラーカラーで始まり、ブラックドレスへ――。スタイリストの伊賀大介は、クライマックスから冒頭までを逆算して全体のスタイリングを考案したといいます。
様々なタイプの服が本作には登場しますが、広瀬の着こなし方が抜群だったと伊賀は振り返ります。「モードの服だろうが、古着だろうが、服が訴えかけてくるものをキャッチする運動神経がめちゃくちゃいいんです」
服の変化でヒロインの成長を表現
ひし形の模様が美しい、普段使いの着物を着用した泰子(広瀬すず)。©︎2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会伊賀が主に洋装を担当したのに対し、和装は大塚が手がけました。「大正時代の着物が好き」と語る大塚は、中也と小林の間で揺れ動くヒロインを描写するに当たり、「服と共に成長し、変化していく姿を見せられればいいかなと考えていた」と明かします。
作中、時代劇に出演した際の派手な着物のまま、京都の街中を歩く泰子(広瀬すず)。©︎2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会泰子が作中、時代劇に出演している際の派手な着物と、普段の生活で身にまとう着物を描き分けるなど、彼女の精神的な変化や成長を表現するために、衣装が巧みに活用されています。
中也、小林と散策中の泰子(広瀬すず)。©︎2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会広瀬すずのファンならずとも、2人の男性を愛し、愛された女性の生きざまを赤裸々に演じた広瀬の“七変化”を堪能できそうです。
黄色みがかった衣装を着こなす泰子(広瀬すず)。©︎2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会【映画のあらすじ】
劇中、木戸演じる中也と手をつないでローラースケートに興じる泰子(広瀬すず)。©︎2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会芽の出ない女優・長谷川泰子(広瀬すず)は、まだ学生だった中原中也(木戸大聖)と京都で出会う。20歳の泰子と17歳の中也。どこか虚勢を張る2人は、互いに引かれ、一緒に暮らし始める。
東京に引っ越した2人の家を小林秀雄(岡田将生)がふいに訪れる。中也の詩人としての才能を誰よりも知る小林。中也も批評の達人である小林に一目置かれることが誇りだった。2人の男の仲むつまじい様子を、置いてきぼりにされたような気持ちで見つめる泰子。しかし、小林も泰子の魅力に気づく。本物を求める評論家は新進女優にもホンモノを見いだした。こうして、複雑でシンプルな3人の関係が始まる――。