ドルに売り圧力、トランプ氏のFRB人事に懸念-統計局長解任も憂慮

米制度の信頼性に対する懸念が強まる中、ストラテジストやエコノミストの間では、ドルを含む米資産に一段の売り圧力がかかる可能性が指摘されている。

  トランプ米大統領は、1日に辞任を表明したクーグラー連邦準備制度理事会(FRB)理事の後任を選ぶ機会を得た。これにより、パウエルFRB議長の影響力が弱まる可能性が出てきた。

  トランプ大統領が先週、米労働省労働統計局(BLS)のマッケンターファー局長を解任したことも考えると、経済データや金融政策の独立性が脅かされることで、投資家が米資産の評価を引き下げるリスクがある。こうした懸念は、今年に入ってすでにドル安につながっており、一部のファンドは米国債や米国株から資金を引き揚げ始めている。

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  ストックホルムにあるSEBのシニアエコノミスト、ロバート・ベリークビスト氏は「残念ながら、ホワイトハウスに権力を集中する深刻な動きが新たに見られる」と指摘。「こうした状況では、さまざまな米国資産を保有する際のリスクプレミアムが上昇するのは当然だ」と述べた。

  米機関の政治化に対する懸念は、景気減速の兆しが見られる中、さらに高まっている。先週初め、ドルは一時的な反発の兆しを見せたものの、予想を下回る雇用統計を受けて、1日は主要10通過に対して下落した。

  この雇用統計を受けて、米金融緩和観測が強まり、短期金融市場は9月利下げの可能性が高いことを示唆した。トランプ大統領は即時利下げを求めており、クーグラー氏の辞任が利下げ観測に拍車をかけた。

  ブラウン・ブラザーズ・ハリマン(BBH)のストラテジスト、エリアス・ハダッド氏は「米国の政策決定の信頼性が一段と脅かされている」と述べ、ドルはさらに下落する可能性があるとの見方を示した。トランプ大統領が利下げを迫る姿勢は「FRBの独立性を損なう」一方、マッケンターファー氏の解任は「米経済統計の信頼性に対する認識を損なうリスクがある」と話した。

  トランプ大統領がよりハト派的なFRB議長を指名し、パウエル氏の任期満了後に利下げペースが加速するとの予想を基にしたポジションが構築されてきたが、クーグラー氏の辞任により、その時期が早まっている。トランプ大統領が指名する新議長は、パウエル氏の任期が満了する 5 月に議長職に就任する可能性がある。

  次期議長の人事が早期に発表されると、「影の議長」という状況が生まれる可能性がある。その背景には、トランプ大統領が指名する後任議長の方が間もなく就任するという前提があるため、パウエル氏よりも後任議長の政策指針の方に注目が集まるとの考え方がある。

  ブルームバーグのマクロストラテジスト、マーク・カドモア氏は「トランプ大統領が労働統計局長を解雇したというニュースを、市場が前向きに解釈するはずがない。トランプ大統領が示唆するように、これまでの米経済指標はゆがめられていたか、あるいはデータの信頼性は可能な限り高いものの、政治化されているかのどちらかだ。いずれにせよ、今後の経済指標の発表は信頼性を失い、米資産のリスクプレミアムは一段と上昇する」と述べた。

  三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のグローバル市場調査責任者、デレク・ハルペニー氏は、パウエル氏の後任候補として名前が挙がっている中で、ハセット米国家経済会議(NEC)委員長は「大統領と親しい関係にあることから、ドルにとって最悪の人選だ」と指摘。ベッセント財務長官も、ハセット氏ほどではないものの、トランプ大統領との親密な関係から投資家からは否定的に見られているという。

  ハルペニー氏によると、ウォーシュ元FRB理事およびウォーラー現理事、ボウマン副議長はFRBでの経験から、より好意的に見られている。

  「発表があるまで、1日に下落したドルへの買い意欲は限定的だろう」と、ハルペニー氏は述べた。4日のドル指数はほぼ横ばい。年初来では8%近く下げている。

  いずれにせよ、投資家が休暇に入る8月に流動性が低下する中、FRBの指名人事は市場にとってリスク要因となる。トランプ大統領は3日、クーグラー氏とマッケンターファー氏の後任を近日中に発表する意向を表明した。

  ジム・リード氏率いるドイツ銀行のチームは「FRB理事とBLS局長の両方が交代すると、最終的には米国の双子の赤字の資金調達に悪影響が出る可能性がある」と分析。「景気が大幅に減速しない限り、長期債の上昇を妨げる要因になるだろう」と続けた。

原題:US Dollar Seen at Risk From Trump’s Moves to Pick Policymakers(抜粋)

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