〈目撃〉仰向けで休むクジラ、不可解な光景に研究者も困惑「まさにお手上げ状態でした」(ナショナル ジオグラフィック日本版)
オーストラリア南部にあるグレート・オーストラリア湾の最奥部に位置するヘッド・オブ・バイトで、ミナミセミクジラの母親が腹部を上に向け、胸びれを空に向かって伸ばすように休んでいる。数分後、彼女はゆっくりと体を回転させ、噴気孔を上に向けると息を吸い、再び仰向けの状態に戻った。その間、生まれたばかりの子どもは母親のそばに寄り添っていた。そしてようやく母親が本来の姿勢に戻ると、歯磨き粉のようにねっとりとした母乳を飲み始めた。
この不可解な光景は2026年7月6日付けで学術誌「Mammalian Biology」に発表された研究の一環としてドローンで撮影された。研究者たちは、同じように仰向けになって休むミナミセミクジラの母親を計15頭記録している。「本当に奇妙な行動です」と西オーストラリア大学生物科学部の研究員で、この不可思議な現象を調べたレナエ・ファン・ノールト氏は言う。「この行動は遠くからでも観察できます。お腹の部分はほんの少し見えるだけですが、巨大なひれが海面から突き出しています」ミナミセミクジラの母親はなぜ仰向けに浮かぶのか? 研究者たちは論文の中で、母親が休憩を必要としているからかもしれないと推測している。
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その一方、ミナミセミクジラが仰向けになるのは体温を下げるためではないかという説もある。ミナミセミクジラには、他の多くのクジラやイルカが体温調節に使っている背びれがない。「ミナミセミクジラは腹部と胸びれを水の外に出すことで、放熱量を増やしているのかもしれません。これは私たちが夏、プールに足を入れるようなものです」とファン・ノールト氏は言う。 しかしコーケロン氏は、ミナミセミクジラにはもっと効率よくクールダウンできる方法あると言い、この説には納得していない。「セミクジラの口蓋には非常に細かい毛細血管が無数に集まっています」と氏は言う。「口を開けたまま泳ぎまわり、口の中を海水で洗い流せば、大量の熱を放出できます」 理由がどうであれ、仰向けで休む行動が、セミクジラ属の別の種でも見られるのか、それともミナミセミクジラに限ったことなのか、研究者たちにもまだ分かっていない。 ミナミセミクジラの出産シーズン中、ヘッド・オブ・バイトでは船舶の航行が禁止されている。今回の発見は、他の場所でも禁止すべき根拠となると専門家たちは言う。おそらく仰向けになったクジラの母親は素早く船を避けることが難しいからだ。
航行禁止区域を設けることが、母親のクジラを保護する上で非常に重要だと人々が理解すれば、別の場所でも同様の区域を設置することを考えてくれるだろうと、コーケロン氏は言う。「世界の別の場所でも、これをばかげた実現不可能なアイデアだと一蹴せずに検討してみるべきでしょう」