かゆい・痛い・じくじくする 張高齢社会で増える皮膚の疾患に対応するために 松本市で信毎健康フォーラム
第103回信毎健康フォーラム(信濃毎日新聞社など主催、キッセイ薬品工業協賛)は15日、「皮膚の健康」をテーマに松本市の信毎メディアガーデンで開いた。
皮膚の疾患は、かゆい、痛い、腫れたりじくじくするなど、つらいものも多い。超高齢社会を背景に、増えているものも目につく。参加者は、具体的で丁寧な解説に聞き入り、理解を深めた。
奥山隆平・信州大学皮膚科学教室教授(医学部長)の皮膚の病気とスキンケア、木庭幸子・同教室准教授の帯状疱疹(ほうしん)を巡っての解説報告と、パネル討論の内容を報告する。(司会は信濃毎日新聞特別編集委員・飯島裕一)
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■加齢による乾皮症性湿疹、保湿剤をしっかりと外用 奥山隆平・信州大学医学部長・皮膚科学教室教授
皮膚科を受診する患者の3分の1は湿疹、いわゆるかぶれが原因です。特徴は三つで、まずかゆいこと。かゆくない場合は別の病気の可能性を考えます。二つ目は患部の境界が不明瞭で、水彩絵の具がにじんだようになることです。三つ目は細かく多彩な発疹(皮膚の変化)が混在することです。
湿疹にはさまざまな種類があります。代表的なのは「接触性皮膚炎」です。漆や金属でかぶれたりします。原因を特定するためにはパッチテストを行います。アレルギーの原因として疑われるものを皮膚に48時間貼り、かぶれが再現されるか調べる検査です。
一方、冬場にはしばしば「乾皮症性湿疹(皮脂欠乏性湿疹)」が生じます。加齢に伴い皮膚は乾燥し乾燥肌(乾皮症)になってきます。乾燥肌をベースにして生じる湿疹が乾皮症性湿疹です。
皮膚の表面の角層には、1層がラップ剤くらいの薄さの角質細胞が層状に積み重なっており、足の裏では約50層、顔では15層程度あります。角層の細胞と細胞の間にはセラミドやコレステロール、脂肪酸を中心とした「細胞間脂質」というものが満ちています。
角層の状態を評価する指標として「バリアー機能」と「水分保持機能」がありますが、乾皮症性湿疹では水分保持機能に変化が生じています。水分保持機能は肌の滑らかさを保つ上で重要ですが、年齢とともに細胞間脂質などが減って角層の水分が減少するため、皮膚の表面が乾燥してしまいます。
水分保持機能を改善するには保湿剤をしっかり外用することが大切です。2週間ほどで効果が出るでしょう。湿疹がひどく傷になるほどかいてしまう場合は、炎症の程度に応じた強さのステロイド薬を塗るのがいいでしょう。
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[おくやま・りゅうへい] 信州大医学部長、皮膚科学教室教授。医学博士。宇都宮市出身。東北大医学部卒業、同大学院医学系研究科博士課程修了(1995年)。専門は皮膚科学。東北大医学部准教授などを経て現職。趣味はラグビー観戦、温泉巡り。
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■帯状疱疹の進行と治療 早めの薬服用で痛みを我慢しない 木庭幸子・信州大学医学部皮膚科学教室准教授
帯状疱疹(ほうしん)の原因は「水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)」です。このウイルスが初めて体に入ると水ぼうそう(水痘)になり、治った後も体内に潜伏します。普段は免疫力でVZVを抑えていますが、免疫が低下すると再活性化して神経に沿って活動し、帯状疱疹を発症します。水痘ワクチンを接種した人も体内にVZVを持っています。
症状は最初、急に体の片側だけに痛みや違和感、かゆみが出ます。1週間ほどたつと皮膚に赤みや水ぶくれが出て、さらに1週間ほどでじくじくした状態になります。自然にかさぶたとなり、たいていは3~4週間で治ります。
帯状疱疹ができた場所によって異なる症状が出ることがあります。例えば顔では強い頭痛、耳の周囲では耳鳴りやめまい、おなか周辺では便秘など。目の周囲だと視力障害を伴う場合もあります。
強調したいのは治療は早めに始めてほしい―ということです。ウイルスが増える時期に抗ウイルス薬で増殖を抑えるのが有効です。痛みには神経痛に対する痛み止めを。皮膚がじくじくしたら塗り薬とガーゼで患部を保護します。
VZVの活動が収まって皮膚が治っても神経に傷が残る「帯状疱疹後神経痛」という後遺症があります。帯状疱疹の発症から3カ月時点で2割の人に、数年後も1割ほどに痛みが残ります。年齢とともに増える傾向があり、80代以上で33%がかかります。我慢せず、内服薬で早い段階から痛みを取ることが大切です。
ワクチンで予防や、合併症のリスクを減らすことができます。希望すれば50歳以上から接種でき、2025年度から65歳の人らを対象に定期接種も始まります。厚生労働省や市町村などのホームページに詳しく載っているので参考にしてください。
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[きにわ・ゆきこ] 信州大医学部皮膚科学教室准教授。医学博士。兵庫県西宮市出身。同大医学部卒業(1993年)。専門は皮膚がん、アレルギー疾患。長野赤十字病院、信大医学部皮膚科学教室助教、講師などを経て現職。趣味は山歩き。
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■かゆみの原因が内臓の病気の場合も(パネル討論要旨)
―乾皮症性湿疹などでは外用ステロイド薬を使うと伺いましたが、市民には「ステロイドは怖い」とのイメージもあります。上手な使い方は。
奥山 刃物と同じで使いようだと思います。湿疹の治療の柱は保湿剤と外用ステロイド薬です。本当に湿疹かどうかの確認は重要で、1~3日ほど薬を塗っても良くならない場合は皮膚科やかかりつけの医師に診てもらうといい。塗ると決めたら少しべたべたするくらい塗りましょう。
―皮膚に異常がなくてもかゆみを引き起こす内臓疾患があるそうですね。
木庭 内臓の病気が原因で、かゆみを全身に感じる人がいます。例えば糖尿病の人、肝臓の機能が落ちている人、透析を受けている人など。妊娠中にかゆみを感じる人も多くいます。
―肌の老化は気になるところです。日常生活の中で予防のためにできることや注意することを教えてください。
奥山 自分の顔とおなかの皮膚を比べると、顔の方がしみがあったりして傷んでいるのではないでしょうか。原因は紫外線です。日差しの強いときは日焼け止めを塗ったり、帽子をかぶったりして日焼けしないようにするのが重要です。
―帯状疱疹(ほうしん)と似た病気に、単純ヘルペスという病気があるそうですね。
木庭 神経痛は伴いませんが、水ぶくれを伴った皮膚の発疹でかさぶたになって治るという点は似ています。特に唇の周りやお尻にできやすく、原因となる単純ヘルペスウイルスは、水痘・帯状疱疹ウイルスの親戚のようなイメージです。
―聴講者からの質問です。指のあかぎれに効果のあるケアを教えてください。
奥山 面倒でもゴム手袋をして水仕事をするといいです。仕事と仕事の合間には保湿剤を塗り、夜寝る前にステロイド薬をしっかり塗ることで少しずつ良くなります。
―爪に縦の筋が入り、そこから割れやすくなってしまう。対策は。
木庭 元々手荒れがあり爪も割れやすい人は保湿が大切です。割れた場合は市販のコーティング剤で保護してください。1本だけ割れてそこに痛みがある場合は、爪の下に異常があるのかもしれないので、皮膚科の受診を検討してください。