糖尿病の人の脳の老化は防げる 中年期に運動量を増やすと認知症予防につながる
2型糖尿病や前糖尿病(糖尿病予備群)のある人は、血糖値が高い状態が続くと、脳の老化が加速しやすいことが知られているが、健康的なライフスタイルによりこれを低減できることが、スウェーデンのカロリンスカ研究所の研究で示されている。
2型糖尿病のある人は、脳の老化が早い傾向がみられ、実年齢に比べて2.3歳の老化と関連していた。糖尿病予備群でも0.5歳の脳の老化がみられた。
しかし、食事療法や運動療法に取り組み、アルコールの飲みすぎや喫煙を控えている人では、脳の老化は抑えられていることも分かった。
研究は、スウェーデンアルツハイマー財団、認知症研究基金などの支援を得て行われたもので、研究成果は「Diabetes Care」に発表された。
糖尿病を適切に管理できていないと認知症リスクは上昇
「糖尿病とともに生きる人は、健康的なライフスタイルにより、脳の老化を抑制できる可能性が示されました」と、同研究所老化研究センターのアビゲイル ダブ氏は言う。
「糖尿病のある人は、糖尿病を適切に管理できていないと、認知症のリスクが上昇することが知られています。2型糖尿病のリスクのある人は世界的に増えています」と、ダブ氏は言う。
研究グループは、英国で実施されている大規模研究であるUKバイオバンクに参加した40~70歳の認知症のない3万1,229人の成人を対象に、11年間追跡して調査し、脳MRIスキャン(磁気共鳴画像検査)などを実施した。
研究グループは、参加者の一部を対象に、現在も脳のMRI検査を定期的に行っており、糖尿病と脳の老化の関連についての長期にわたる研究を続けている。
中年期にウォーキングなどの運動を増やすと認知症予防につながる
食事や運動などのライフスタイルを改善することで、脳の老化を抑えられるという研究は、世界中で増えている。
45歳~65歳の中年期に、ウォーキングなどの運動や身体活動を増やすと、認知症の予防効果を期待できるという、新しい研究が発表された。逆に、中年期に運動不足であると、脳の健康に悪影響があらわれる可能性があるという。
研究は、スペインのバルセロナ国際保健研究所(ISGlobal)などによるもの。研究成果は、「Alzheimer's & Dementia」に発表された。
「世界中のアルツハイマー病の症例の13%は、運動不足に起因すると推定されています。認知症を発症する人のなかで、もっとも大きな割合を占めるのがアルツハイマー型認知症です」と、同研究所の研究員であるアイダー アレナサ-ウルキホ氏は言う。
「運動は心血管系とメンタルヘルスを改善することで、アルツハイマー病のリスクを低減することが知られています。最近の研究では、運動がアルツハイマー病に関連する脳病変の発症に直接影響を与える可能性が示されています」としている。
運動不足は脳の老化を促す 運動を続けると脳の健康に良い効果が
研究グループは、アルツハイマー病の家族歴のあるカタルーニャ州に在住している45歳~65歳の男女337人を約4年間、追跡して調査した。
その結果、運動ガイドラインで推奨されているレベルの運動や身体活動を行っていた人は、運動不足を維持した人や運動量を減らした人に比べ、脳のアミロイドβの蓄積量が少ないことが示された。
アミロイドβは、脳内に蓄積すると神経伝達を阻害するタンパク質で、アルツハイマー病で最初に起こる病理学的変化とみられている。
さらに運動不足の人では、アルツハイマー病に関連する皮質の脳の萎縮がみられた。側頭葉の皮質は記憶力に関連しており、その萎縮などは神経変性の初期症状としている。
「運動量が推奨されるよりも少なかった人でも、運動をしていない人に比べると、脳の皮質が厚いことが示されました。これは、どんな運動であっても、続けることで脳の健康に良い効果があらわれることを示唆しています」と、アレナサ-ウルキホ氏は指摘する。
「研究結果は、アルツハイマー病を予防するための公衆衛生上の戦略として、中年期の運動や身体活動の促進が重要であることを示しています。運動の増加を促進するための介入は、将来のアルツハイマー病の発症率を低下させる鍵になる可能性があります」としている。
A healthy lifestyle may counteract diabetes-associated brain ageing (カロリンスカ研究所 2024年9月4日) Diabetes, Prediabetes, and Brain Aging: The Role of Healthy Lifestyle (Diabetes Care 2024年8月28日) Increasing Physical Activity in Middle Age May Protect Against Alzheimer's Disease (バルセロナ国際保健研究所 2025年4月3日) Physical activity changes during midlife link to brain integrity and amyloid burden (Alzheimer's & Dementia 2025年4月30日)