韓国ユーチューブ、保守と左派が非難合戦…選挙の度に偽情報が拡散し「いたちごっこ」
韓国で戒厳令を宣布した 尹錫悦(ユンソンニョル) 大統領を 罷免(ひめん) するかどうか、近く憲法裁判所の判断が下されるのを前に、大統領選を念頭に置いた保守と左派の論戦が熱を帯びている。主な舞台の一つがユーチューブだ。
保守の尹氏支持者は今月、運営するユーチューブチャンネル「神の一手」で「(野党の)『共に民主党』と一部のメディアは毎日(尹氏の)罷免の可能性を訴え、国民を扇動した」と主張した。チャンネル登録者は162万人に上る。
韓国・聯合ニュースによると、「神の一手」は視聴者が支援金を送る「スーパーチャット(投げ銭)」で、2月までの3か月間に3億1000万ウォン(約3100万円)を稼いだ。韓国では最高額だという。
これに対し、尹氏に批判的な左派系の人気ユーチューブチャンネル「 金於俊(キムオジュン) の謙遜はつらいニュース工場」を運営する金氏は「憲法裁の宣告が理解できないほど遅れている。意図的な遅れであることは明らかだ」と訴えた。
韓国では、政治系ユーチューブチャンネルの影響力が大きい。韓国紙・毎日経済新聞によると、1月のスーパーチャットの収入ランキングで上位100チャンネルのうち58を政治系が占めた。収益を目的に注目を集めようと、過激な主張を繰り返すチャンネルも多い。
韓国KBS元記者のユーチューバー、 李永豊(イヨンプン) 氏は「既存メディアが触れない情報をユーチューブが取り上げている。私のように政治評論を行うユーチューバーは大統領の 弾劾(だんがい) 騒動で急成長した」と語る。
韓国では1980年代の民主化以降、保守と左派の対立が続く。左派系の新聞やテレビは政党と一体化した主張を打ち出し、保守系の新聞などは世論を気にして保守政権も批判する論調が目立つようになった。韓国外国語大の 李哉黙(イジェムク) 教授は「保守と左派がそれぞれの思想に反する新聞などを攻撃し、次第に既存メディアは信頼を失っていった」と分析する。スマートフォンの普及で、刺激的な内容を発信し、気軽にみられるSNSへの支持が広がったという。
韓国の国民は「保守4割、左派4割、中間層2割」とされ、保守と左派の分断が固定化されてきた。昨年12月の 尹錫悦(ユンソンニョル) 大統領の戒厳令宣布後、保守と左派がSNSで非難合戦を繰り広げ、分断は一層深刻化している。1月に尹氏の逮捕状を発付した裁判所に暴徒化した支持者が乱入する事件が起き、今月には憲法裁判所の前で尹氏の 罷免(ひめん) を訴えた野党議員の顔に卵が投げつけられた。
尹氏の罷免が決まれば、60日以内に大統領選が行われる。選挙戦はユーチューバーを巻き込み、激しい中間層の奪い合いとなりそうだ。
これまで韓国の国政選挙ではSNS上の偽情報や中傷が問題視されてきた。中央選挙管理委員会は、自動検索システムと人力による監視を行い、偽情報など違法な投稿を発見した場合はSNS事業者に削除を要請する。韓国紙ハンギョレによると、2022年の大統領選挙では削除要請が8万6629件に上った。
選挙の度に偽情報が拡散し、「いたちごっこ」が続く。李教授は「違法な投稿を通報する制度の活性化や、SNS運営業者の責任を強化する施策を講じるべきだ」と指摘する。
政党や政治家にとって、有利な情報を流してくれるユーチューバーはありがたい存在でもある。ある政党職員は「SNS上で陰謀論を流すような人たちが強力な支持層になっていることもある。政党として距離を置くのは難しい」と打ち明けた。厳しい規制は逆風になりかねないのが現実だ。
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