なぜH.265(HEVC)サポートを終了するPCメーカーが登場したのか、H.265のライセンスが複雑な理由とは?
動画を圧縮・解凍するコーデックにはさまざまあり、主流なものにはH.264(AVC)、H.265(HEVC)、AV1などがあります。このうち、H.265はライセンス料の問題で、一部PCメーカーがサポートを無効にする事態も起こっています。H.265のライセンス料やロイヤリティについて、IT系ニュースサイトのArs Techinicaがまとめています。
Clarifying HEVC licensing fees, royalties, and why vendors kill HEVC support - Ars Technica
https://arstechnica.com/gadgets/2026/04/lawsuits-licensing-and-royalties-are-complicating-4k-video-support-in-gadgets/ H.265はH.264の後継規格として発表されたコーデックで、2013年にITU(国際電気通信連合)によって承認されました。H.265の特徴は圧縮率の高さで、高画質の動画でもH.264よりも小さいファイルサイズに圧縮できました。また、H.264は4K・60fpsまでしかサポートしていませんが、H.265は8K・300fpsまでサポートしており、動画の高解像度・高フレームレート化が進んでいくなかでより時代に適応したコーデックといえます。 しかし、DellとHPの一部ノートPCではH.265のハードウェアエンコーダー&デコーダーが無効化されていることが明らかに。該当するPCではH.265でエンコードされた動画コンテンツをハードウェアデコードできなくなり、一部のアプリの機能が制限されたりパフォーマンスが落ちたりしたという報告が上がっています。
DellとHPの一部PCでH.265のハードウェアエンコーダー&デコーダーが無効化されている、搭載プロセッサ自体が対応していてもメーカー側で意図的に無効化 - GIGAZINE
H.265は4KやHDRの動画配信で広く使われており、NetflixやApple TV+の高解像度再生のほか、スマートフォンで撮影した動画やモバイルアプリでも一般的です。そのため、PC側でH.265のハードウェアエンコーダー/デコーダー機能が無効になると、ブラウザやデスクトップアプリで4KやHDRの動画が再生できなくなったり、iPhoneで撮影したH.265動画が一部アプリやWindowsのメディアプレーヤーで再生しにくくなったりします。 さらに、Adobe Premiere Proのような動画編集ソフトでは、デコードやエンコードをソフトウェア処理に頼る場面が増え、編集や書き出しが遅くなる可能性があります。
こうした場合、ユーザーはMicrosoft Storeで販売されているHEVC拡張機能を120円で購入して、ハードウェアアクセラレーションを有効にできるケースがあります。また、VLC Media Playerのようにソフトウェアデコードを内蔵したアプリを使う回避策もありますが、たとえばNetflixの4KコンテンツをVLCで再生するような使い方はできないため、根本的な解決にはなりません。
この問題の背景には、H.265のデコードやエンコードに必要な技術がエリクソンやInterDigital、ノキアなど複数企業の特許で保護されているという事情があります。製品ベンダーは特許権者と直接契約するか、特許プールの管理会社を通じてライセンスを取得し、使用料やロイヤリティを支払う必要があります。つまり、単にCPUやGPUがH.265に対応しているだけでは十分ではなく、最終製品として販売する側にも法的あるいは商業的な整理が必要になります。
アメリカでHEVC特許ライセンスを扱う非特許権者系の事業者としては、Access AdvanceとVelos Mediaが挙げられます。Access AdvanceはVia Licensing AllianceのHEVC/VVCプログラムを取得して以降、世界のHEVC特許の約80%をカバーする特許プールを運営しているとされ、2015年当初は500件だった対象特許が、現在では約2万9000件にまで増えています。一方のVelos MediaはHEVC関連特許を扱っていたものの、2023年にHEVC特許プールを終了しています。
特に注目されているのが、Access AdvanceのHEVC Advance特許プールにおけるロイヤリティ率の引き上げです。新しい料率は当初2026年1月開始の予定でしたが、開始時期は7月1日に延期されています。契約は10年単位で、最初の5年間は料率据え置きではあるものの、その後は最大20%まで引き上げられる可能性があるとのこと。なお、DellとHPは現在の10年契約の途中にあるため、少なくとも2030年までは今回の新料率の直接的な対象ではありません。 ここで重要なのは、CPUメーカーがいればその会社が自動的にライセンス費用を肩代わりしてくれるわけではないという点です。Access Advanceの説明では、同社がライセンスするのはIntel製CPUそのものではなく、そのCPUを搭載してH.265機能を備えたノートPCのような消費者向け完成品です。かつてH.264の特許プールではMicrosoftやIntelが顧客企業を一定程度カバーできた時期もありましたが、HEVCではそうした仕組みがそのまま維持されているわけではありません。 さらに、企業がH.265対応をためらう理由は、特許プールへの支払いだけではありません。たとえば、ノキアはHEVCの標準必須特許を保有しており、ドイツではAcerとAsusのPCがノキアの特許を侵害していると判断された結果、両社は1月以降、同国でPCを販売できない状態になっています。アメリカでもノキアがHP、ハイセンス、Amazon、パラマウント、ワーナー・ブロスを相手取って提訴しており、このうちHP、ハイセンス、Amazonはその後にライセンス契約を結んだ一方、パラマウントとワーナー・ブロスに対する訴訟は継続中です。 このため、H.265サポートの削除は、特許プールへの支払い負担よりも、むしろプール外の特許権者から訴えられるリスクを減らす意味合いが強いのではないかという見方もあります。ノキア側は、「自社技術の利用に対して公正な対価を得ることと、すでに支払いを行っている企業との公平性を保つことが目的であり、訴訟はあくまで最後の手段」と説明しています。また、得られたロイヤリティは次世代のマルチメディア技術開発に再投資されるとも述べています。 しかし、Ars Technicaは「その結果、しわ寄せを受けるのはユーザーです」と指摘。実際、無効化された新しいノートPCでは、Microsoft Media Foundationまわりの設定変更やブラウザ側でのハードウェアアクセラレーション無効化が必要になり、会議アプリの背景ぼかしが使えなくなるほか、システム全体の性能低下まで起こるという報告もあります。動画コーデックは本来、一般ユーザーが意識せずに使えるべき基盤技術ですが、H.265ではその前提が崩れつつあるというわけです。 なお、ライセンスでがんじがらめになっているH.265の代替策として、AOMediaによるロイヤリティフリーを目指したコーデック「AV1」があり、YouTubeやNetFlixでも採用されています。ただし、AV1も関連する特許侵害による訴訟が起こっており、そのロイヤリティフリー性が疑問視されています。Dolbyが動画コーデックを巡ってSnapchatを提訴、AV1の「オープンでロイヤリティフリー」が疑問視されている - GIGAZINE
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