アルコール依存症疑い64.4万人と推計。最新の全国調査の結果を公表【久里浜医療センター】
独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター(所在地:神奈川県横須賀市、院長:松下幸生)は2025年9月1日、全国の成人8,000名を対象に実施した「令和6年度 飲酒と生活習慣に関する調査」(厚生労働省補助事業)の結果速報を公表しました。
本調査の結果、過去1年間に飲酒経験があった人は男性で75.2%、女性で55.1%であり、ふだんよく飲むお酒の種類として最も多く選ばれたのは「ビール・発泡酒(69.2%)」でした。多量飲酒者(一度に純アルコール60g以上)の割合は、男性全体で11.2%であり、20代から60代までほぼ変わらない割合でした。女性は全体2.7%であり、40代、20代で割合が高くなっていました。
また、生涯に一度でもアルコール依存症の診断基準を満たす人は、全国で約64.4万人と推計されました。さらに、過去1年間にアルコール使用障害が疑われる者は、全国で約304.1万人と推計されました。お酒を飲んで行ったことのある行動では、「口論した」「会社や学校を遅刻・欠席・欠勤した」「飲酒運転をした」が多く選ばれ、これらの行動はアルコール使用障害が疑われる人々において特に高い割合で見られました。
飲酒が国民にとって身近なものである中で、問題飲酒の危険性や飲酒に対する正しい知識が国民に周知されるように、本調査結果が活用されることを望んでいます。
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本プレスリリース内容詳細、結果速報の資料は依存症対策全国センターHPにて閲覧できます(下のボタンからリンクに飛ぶことができます)。
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なお、本調査で収集したその他の項目の結果については、今後報告書を執筆、同ホームページ内で公開予定です。
こちらから直接資料を閲覧できます。※「調査・研究」欄最上部
アルコール健康障害対策基本法(平成25年法律第109号)第24条では「アルコール健康障害の発生、進行及び再発の防止並びに治療の方法に関する研究、アルコール関連問題に関する実態調査」等の研究推進が掲げられています。これに基づき、これまで約5年ごとに国民の飲酒行動およびアルコール健康障害を明らかにすることを目的とした実態調査が実施されてきました。このたび、厚生労働省より補助を受けて、令和6年に独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターが実施した「飲酒と生活習慣に関する調査」(研究代表者:木村 充)の主要な結果をとりまとめましたので公表します。
全国の市町村361地点に居住する満20歳以上の日本国籍を有する男女から、層化二段階無作為抽出法を用いて8,000名を対象として、調査員による面接調査を実施しました。さらに、面接調査に協力が得られた対象者に対して、自記式アンケートへの回答協力を依頼しました。
■回収数および有効回答数
面接調査:回収数4,302票、有効回答数4,300票(有効回答率53.8%)
自記式アンケート調査:回収数4,268票、有効回答数4,265票(有効回答率53.3%)
■調査実施期間:令和6年8月20日から11月19日
有効回答者の年齢は70代が最も多く、20代、30代の若年層の割合は少なかった。
◆面接調査の有効回答者数内訳(図1)
・男性1,923名(44.7%)、女性2,377名(55.3%)
・平均年齢:男性58.2歳(標準偏差17.9歳)、女性59.0歳(標準偏差17.6歳)
◆自記式アンケート調査の有効回答者数内訳(図2)
・男性1,907名(44.7%)、女性2,358名(55.3%)
・平均年齢:男性58.2歳(標準偏差17.9歳)、女性58.9歳(標準偏差17.6歳)
※年齢調整について※
・本調査では、年代構成に配慮して対象者を抽出したが、結果として高年齢層の回答者が多かった。そのため、主要な指標については、年齢調整によって補正した値を掲載している。
・年齢調整:回答者の年齢構成による影響を最小限に抑えるため、実際の人口構成に合わせて割合を補正する方法のこと。本調査では令和6年10月1日時点の日本の人口構成(総務省統計局)を基準に補正している。
各種スクリーニングテストを用い、ICD-10基準における生涯のアルコール依存症該当者割合および、過去1年にアルコール使用障害が疑われる者の割合を推計した。これらの推計値を算出するために用いた集計対象者の母数は以下の通りである。
◆ICD-10診断基準における「生涯のアルコール依存症該当者割合」の集計対象者(母数)
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「生涯のアルコール依存症が疑われる者」の推計には、ICD-10診断基準に準拠したアルコ ール依存症のスクリーニングテスト(※4)を用いた。
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本スクリーニングテストは生涯飲酒経験がある者を対象とし、さらに定期的な飲酒またはひどく酔っぱらった経験がない者は回答対象外とした。そのため、生涯におけるアルコール依存症が疑われる者の割合を算出する際、生涯飲酒経験がない者、定期的な飲酒またはひどく酔っぱらった経験がない者を「生涯においてアルコール依存症の疑いがない者」として割合母数に含めた。
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面接調査有効回答者4,300名のうち、回答に不備があった2名を除く、4,298名を母数とした。
◆AUDITを用いた「過去1年にアルコール使用障害が疑われる者の割合」の集計対象者(母数)
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「過去1年のアルコール使用障害が疑われる者」の推計には、アルコール使用障害のスクリーニングテストであるAUDIT(Alcohol Use Disorders Identification Test ※5)を用いた。
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有効回答者4,265名のうち、AUDIT完答者(n = 4,011)と非飲酒者(n = 142)を合わせた、4,153名(男性1,855名、女性2,298名)をアルコール使用障害が疑われる者の推計の集計対象者とした。なお、非飲酒者はスクリーニングテストの得点を0点として処理した。
※4 SSAGA(Semi-Structured Assessment for the Genetics of Alcoholism)の日本語版(翻訳:樋口進・松本太郎)からICD-10のアルコール依存症に該当する質問項目を抽出して使用。なお、原著論文は右記を参照:Reich T, Edenberg HJ, Goate A, et al. Genome-wide search for genes affecting the risk for alcohol dependence. Am J Med Genet. 1998;81(3):207-215.
※5 廣 尚典・島 悟(1996)問題飲酒指標AUDIT日本語版の有用性に関する検討(日本アルコール・薬物医学会雑誌)に基づき、久里浜医療センターが全国調査用に改訂した質問票を使用。
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本調査では、純アルコール量をドリンク数に換算してカウントしている。
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本調査では1ドリンクを純アルコールで10g相当と定義した。
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純アルコール量(g)は「飲んだ酒の量(ml)× 酒のアルコール濃度(%)× 0.8」で算出可能。
各項目の有効回答者を全体(割合の母数)とし、国民の飲酒行動に関する項目について集計を行った。
◆飲酒経験について
① 生涯の飲酒経験(集計対象者:男性1,923名、女性2,377名)
生涯において飲酒経験があると回答した者の割合:全体86.6%(男性:93.9%、女性:80.7%)
② 過去1年の飲酒経験(集計対象者:男性1,923名、女性2,376名)
過去1年間において飲酒経験があると回答した者の割合:64.1%(男性:75.2%、女性:55.1%)
◆初めてお酒を飲んだ年齢(集計対象者:男性1,781名、女性1,858名)
初めてお酒を飲んだ年齢(初飲年齢)は、全体の27.6%が20歳未満であった。さらに男女別では、男性の37.7%(5~15歳: 4.3%、16~19歳: 33.5%)、女性の17.9%(5~15歳: 1.4%、16~19歳: 16.5%)が初飲年齢を20歳未満と回答していた。
◆習慣飲酒開始年齢(集計対象者:男性1,308名、女性877名)
習慣飲酒開始年齢(少なくとも月1回以上のペースで6か月以上続けて飲み始めた年齢)の平均は全体で26.8歳、男性24.8歳、女性29.8歳であった。習慣飲酒開始年齢を20歳未満と回答した者の割合は、男性の7.6%、女性の1.8%であった。
◆ふだん飲んでいるお酒の種類(図3)※6
(集計対象者(過去1年に飲酒経験がある者):男性1,447名、女性1,308名)
・最も多く選ばれた酒類:「ビール・発泡酒」(全体: 65.1%、男性: 69.2%、女性: 60.5%)。
・2番目に多く選ばれた酒類:「酎ハイ」(全体: 26.7%、男性: 23.2%、女性: 30.6%)。
※6 前述の「アルコール飲料のドリンク数の換算方法について」を基に調査員が対面にて聴取。
◆飲酒頻度(図4、図5)(集計対象者:男性1,893名、女性2,335名)
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ふだんの飲酒頻度について、「あなたは、ふだん酒類(アルコール含有飲料)を、平均するとどのくらいの頻度で飲みますか。」と尋ねた。
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男性の傾向:28.2%が「まったく飲まない」と回答した一方、「1週間に4回以上」と答えた者の割合は33.4%であった。年代別にみると、20代は月1回以下、30代はまったく飲まないと回答した者の割合が最多であった一方、40代~70代では、週4回以上と回答した者の割合が最も高く、年代により大きく異なることが示された。ただし、「まったく飲まない」と回答した者の割合が2番目に高く(または同率)、40〜70代の男性では飲酒頻度が二極化している傾向がみられる。また、80代以降では「まったく飲まない」と回答した者の割合が最も高い(37.5%)ものの、35.1%は「1週間に4回以上」と回答しており、高頻度飲酒者は一定数存在していた。
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女性の傾向:「まったく飲まない」が約半数を占めた(48.1%)。年代別にみると、30代以降は「まったく飲まない」と回答した者の割合が最も高く、高齢になるほど「まったく飲まない」と回答した者の割合が高くなっていた。一方で40代、60代では「1週間に4回以上」と回答した者の割合が2番目に高く、中高年層において高頻度飲酒者が一定数存在していた。
◆ふだんの飲酒量(図6、図7)※7 (集計対象者:男性1,868名、女性2,300名)
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ふだんの飲酒量について「ふだんお酒を飲むときには、1日にどれくらい飲みますか」と尋ねた。
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全体の傾向:性・年代によって飲酒量は異なり、男性は女性より飲酒量が多い者の割合が高かった。
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男性の傾向:過去1年飲酒経験なし(25.5%)、2ドリンク以上4ドリンク未満(24.6%)の順に割合が高かった。年代別にみると、高齢になるほど「過去1年飲酒していない」と回答した者の割合が高くなっていた。一方で、男性で生活習慣病のリスクを高める飲酒量(※8)とされている「1日4ドリンク」以上の割合は30代、50代で高く、ふだんの飲酒量が6ドリンク以上である者(多量飲酒者)の割合は、20代から60代まで大きな違いはみられなかった。70代以降は過去1年の飲酒経験がない者の割合が最も高いものの、4ドリンク以上飲んでいる者の割合は、比較的若い年代と同程度に存在していた。
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女性の傾向:過去1年飲酒していない者が46.4%を占めていた。年代別にみると、20代、30代、40代は「2ドリンク未満」、50代以降は「過去1年飲酒していない」と回答した者の割合が最も高かった。また、女性で生活習慣病のリスクを高める飲酒量とされている「1日2ドリンク」以上を飲んでいる割合は、20代が最も高かった。一方、ふだんの飲酒量が6ドリンク以上である者(多量飲酒者)の割合は20代から50代まで大きな違いは認められなかった。
※7 飲酒量は両調査票で聴取しているが、調査員が聞き取り、計算する面接票の数値を採用
※8 生活習慣病リスクは本来、飲酒量と頻度の両面から評価されるが(国民健康栄養調査)、本調査では飲酒量に基づき参考に記載
◆一時多量飲酒(集計対象者:男性1,855名、女性2,298名)
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アルコール健康障害対策推進基本計画(令和3年3月)では、一時多量飲酒者に関し、“過去30日間で一度に純アルコール量60gの飲酒をした者”という基準が用いられている(純アルコール60gは6ドリンクと同等である)。
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一時多量飲酒者の割合:全体11.1%(男性:19.2%、女性:4.7%)
◆健康に配慮した飲酒に関するガイドラインの周知について(図8)
(集計対象者:男性1,912名、女性2,369名)
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厚生労働省は2024年に飲酒に伴うリスクに関する知識の普及の推進を図るため、国民それぞれの状況に応じた適切な飲酒量・飲酒行動の判断に資する「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を作成している。
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ガイドラインの周知状況:全体の86.3%が「ガイドラインを知らない」と回答した。
厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドラインについて」
国民におけるアルコール依存症、アルコール使用障害が疑われる者の割合と人数を推計した。なお、表1および表2に示した割合(%)と推計人数およびそれぞれの95%信頼区間は、令和6年10月1日の現在人口を用いて算出した年齢調整後(※9)の値である。
※9 総務省統計局 人口推計/各年10月1日人口 第2表 年齢 (5歳階級) 、男女、月別人口(各月1日現在)
◆ICD-10の基準における「生涯のアルコール依存症が疑われる者」の推計(表1)
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男性の1.2%、女性の0.2%、全体で0.6%が、生涯においてICD-10の診断に基づくアルコール依存症の疑いがあると推計された。
◆AUDITにおける「過去1年間にアルコール使用障害が疑われる者」の推計(表2)
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男性の5.4%、女性の0.8%、全体で3.0%が過去1年間においてアルコール使用障害が疑われると推計された。
※前回調査との比較について※
前回調査(2018年)のアルコール依存症が疑われる者の割合を比較した結果、男女ともに統計的に有意な差は見られなかった(全体: p = 0.54、男性: p = 0.17、女性: p = 1.00)。つまり、前回調査時から、日本全体で生涯においてICD-10の診断に基づくアルコール依存症が疑われる者の割合が増えたとは言えない。推計人数で見ると約10万人の増加があるように見えるが、これは約4300人の調査対象のうち25人の割合を全国人口(約1億152万人)に当てはめたものであり、実際の差は4人程度。こうした違いは調査のばらつき(誤差)として十分に起こり得るため、実質的な増加とは判断できない。また、過去1年間にアルコール使用障害が疑われる者の推計(AUDIT)についても同様の分析を行ったが、統計的に有意な差は見られず(全体: p = 0.78、男性: p = 0.78、女性: p = 0.71)、前回調査から変化があったとは言えない。
AUDIT得点に基づき3区分(8点未満:非飲酒者・ローリスク飲酒者、8-14点:ハイリスク飲酒者、15点以上:アルコール使用障害の疑い)に分類し、各群の特徴を分析した。特に15点以上のアルコール使用障害が疑われる者の特徴に注目した。各群の年齢調整後の推計割合について表3に示す。
◆AUDIT各区分の年齢分布(男女別)(図9、図10)
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男性のAUDIT15点以上の年代別割合:30代(7.3%)で割合が最も高かった。
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女性のAUDIT15点以上の年代別割合:20代(2.4%)で割合が最も高かった。
◆アルコールに関連した害(図11)(集計対象者:非飲酒者・ローリスク飲酒者:3,563名、ハイリスク飲酒者:335名、アルコール使用障害の疑い:112名)
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「お酒を飲んで行ったことのある行動やおこった結果」についての10項目について、それぞれに「あった」と答えた割合をAUDITの3区分(8点未満:非飲酒者・ローリスク飲酒者、8-14点:ハイリスク飲酒者、15点以上:アルコール使用障害の疑い)で比較した。
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すべての項目で、アルコール使用障害の疑いの群が他の群と比較して、行動や結果を「あった」と答えた割合が高かった。
◆自分のアルコール問題で相談した経験
(有効回答数:非飲酒者・ローリスク飲酒者:3,625名、ハイリスク飲酒者:339名、アルコール使用障害の疑い:119名)
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アルコール使用障害が疑われる者におけるアルコール問題についての相談経験:「いずれもない」95.8%(114名)、「専門機関で治療を受けた」4.2%(5名)、「その他」2.5%(3名)。
◆睡眠について(図12)
(集計対象者:非飲酒者・ローリスク飲酒者:3,624名、ハイリスク飲酒者:342名、アルコール使用障害の疑い:120名)
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アテネ不眠尺度(Athens Insomnia Scale:AIS ※10)を用いて、対象者の睡眠/不眠の状態について測定した。
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非飲酒者・ローリスク飲酒者/ハイリスク飲酒者/アルコール使用障害の疑いの群と、アテネ不眠尺度の3区分(0~3点:睡眠がとれている、4~5点:不眠症の疑い、6~24点:不眠症の可能性が高い)で該当者割合を比較した。
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アルコール使用障害が疑われる者の群は、「不眠症の可能性が高い(6~24点)」の該当者割合が有意に高かった(χ2(4) = 16.71、 p < .01)。
※10 井上雄一・岡島 義 (編)(2012). 不眠の科学 朝倉書店