ドローン革命がウクライナの防衛に圧力、ロシアはいかに戦場の変化に適応したのか

ロシア軍のドローン(無人機)攻撃で損傷した集合住宅=7月、ウクライナ南部オデーサ/Nina Liashonok/Reuters

(CNN) ロシアの首都モスクワに拠点を置く極秘のロシア部隊がドローン(無人機)での戦いの様相を一変させ、これまでウクライナ側が優位だった分野を弱点へと転じさせている。

この部隊は「ルビコン」と呼ばれ、昨年6月にベロウソフ国防相が就任して以降、急速に存在感を増してきた。ロシア国営メディアが公開した動画によれば、ベロウソフ氏は2024年10月に部隊本部を訪問し、開発中の各種のドローンを視察した。

「ルビコン(正式名称:無人先端技術センター)」の登場は、ウクライナでの戦争の中で、いかにしてロシア軍が従来の硬直した戦闘方法から脱却して、急速に変化する戦場に適応することを学んだのかを示す好例といえる。

ルビコンがその価値を証明したことを受けて、ロシアのプーチン大統領は6月、ロシアが「無人航空システム」に特化した軍司令部を設置すると発表した。

その組織は今月に入り正式に発足した。

「無人システム部門のトップが任命され、すべてのレベルで軍の指揮統制機構が整備された」と、副司令官のセルゲイ・イシュトゥガノフ大佐は述べた。

ロシア軍のドローン部隊「ルビコン」はベロウソフ国防相の下で急速に拡大した/Florence Lo/Reuters

イシュトゥガノフ氏は地元メディアの取材に対し、わずか1年前にロシア軍にこれほどさまざまな種類のドローンがあったことはなかったと振り返り、ロシア軍が空で徐々に戦況を好転させることができたと語った。

独自のエンブレムも存在し、そこには交差した矢と剣、そして中央に星と翼をあしらったマイクロチップが描かれている。

ルビコンはドローンの設計と配備にとどまらず、先進的なロボットシステムや人工知能(AI)の開発と試験も行っている。

ルビコンは戦場で大きな影響を与えた「光ファイバードローン」の運用の先駆けでもあった。これは光ファイバーケーブルを介して制御され、リアルタイムの安全な映像伝送が可能で、妨害が効かない。

そして、他部隊の能力向上にも寄与している。

「ルビコンの部隊はウクライナ側のドローン操縦者にとって依然として大きな課題だ。ドローン部隊そのものだけでなく、ロシアの他のドローン部隊も訓練しているからだ」と、カーネギー国際平和財団の上級研究員マイケル・コフマン氏は指摘した。

ドローン攻撃の現場でドローンの部品を回収する警官=6月、ウクライナ首都キーウ/Andrew Kravchenko/Bloomberg/Getty Images

研究室から前線へ

ルビコンが設立されて数カ月のうちに、部隊は新型ドローンを携えて各地の前線に展開し、ウクライナ軍の優位を逆転させた。

ルビコンが初めて関与したとされるのは昨夏、ウクライナ軍がロシア西部クルスク州の一部に侵入して占領したときだった。ルビコンが同地域に現れた直後、ウクライナ軍は補給線がドローン攻撃によってほぼ完全に遮断されたと報告した。

ウクライナ軍は今年になり同地域から撤退した。その後、2人の司令官がCNNに語ったところによると、訓練されたロシア部隊が突然戦況を一変させ、ウクライナ側の補給やドローン操作者を狙い撃ちしたという。当時、ルビコンが投入されたことは知られていなかった。

それ以降、ルビコン部隊は戦場の多くで目撃されている。前線よりかなり後方のウクライナの補給路やドローン操作者を攻撃することでロシア軍に優位をもたらしている。

ウクライナ軍第93機械化旅団の司令官は8月、CNNの取材に対し、ドネツク州コンスタンチノフカで、ロシア軍の旅団にルビコン部隊が統合されていたと語った。

1週間のうちに、同司令官の部隊は車両やドローン発射地点、アンテナ、通信装備の大半を失ったという。開戦以来、ロシア側はウクライナのドローン操作者を標的にしてきたが、ルビコンはそれを新たな段階に引き上げた。

最近ウクライナを訪問した軍事アナリストのミック・ライアン氏は、戦闘について、「ドローンの運用環境が飽和状態」にあると語った。ライアン氏によると、前線の将校たちから、ロシアのドローン技術革新は恐らくウクライナをわずかに上回っていると聞かされたという。

ライアン氏によると、前線から15キロ以内では車両の移動が困難もしくは不可能になっている。歩兵は10〜15キロを徒歩で移動して陣地に到着しなければならないという。

ライアン氏は「装甲車両や砲兵が配備されている場合、プラットフォームごとに1日に数十回の攻撃を受ける可能性がある」と語った。ロシアのドローンによる探知と破壊を避けるため、すべての司令部はいまや地下深くに埋められているという。

ロシアのテレグラムアカウント「ロスト・アーマー」は、「今日、ドローン操縦者こそが勝利の立役者であり、現代の戦場を形成している。ドローン操縦者が歩兵の前進を支えている」として、ポクロウスク地域で破壊されたウクライナ軍の装甲車両の映像を投稿した。

ドローン対策のネットに覆われた道路を移動するウクライナ軍兵士=ウクライナ・ドネツク州/Anatolii Stepanov/Reuters

ルビコンの前進基地を探して

ウクライナ軍は前線後方の道路や小道にネットを張り、ルビコンのドローンを絡め取ろうとしているものの、戦闘地域が広大で効果は限定的だ。

ルビコンは、ウクライナのドローンを撃墜するためのレーダー網の開発でも革新的な実績を残している。

ウクライナの電子戦専門家セルヒー・ベスクレストノフ氏によれば、ロシアは、ウクライナのあらゆる種類の主力無人機を戦利品として捕獲した。「ロシアは当然、内部の電子機器や通信システム、航法システムをすべて研究した」

ルビコンは、8月にドナウ川河口でウクライナの艦艇を攻撃したロシア海軍の海上ドローンの初めての成功例にも関与したとみられる。

ルビコン部隊の重要性は非常に高く、ウクライナ治安当局はルビコンの前進基地の探知に力を入れている。ウクライナの情報機関によれば、占領下のアウジーイウカで今月、ロシア軍の基地を狙ったドローン攻撃が行われ、ルビコンの司令部が破壊された。

「戦争が軍を形作る」

ウクライナで続く戦闘は、敵が繰り出す革新技術を先取りしたり無効化したりするための対抗策の応酬となりつつある。敵のドローンを探知し、妨害し、欺くための電子戦技術とドローンとの間で絶え間なく続く攻防だ。

「敵が周波数をいじれば、こちらは電子戦システムを再構成する。敵が電子戦でわれわれを抑えにかかれば、われわれは別の周波数に切り替える」とロシア軍のイシュトゥガノフ氏は言う。

前線近くで撃墜されたロシアの無人機「モルニヤ」=2月、ウクライナ・ドニプロペトロウシク州/Oleksandr Klymenko/Reuters

適応には終わりがない。

ルビコン部隊の兵器庫には「モルニヤ」と呼ばれるドローンがある。合板を主に使った比較的単純な無人機だ。ロシア語で「稲妻」を意味する第2世代のモルニヤは最大7キロの弾頭を搭載し、前線の背後30キロ超を飛行できる。「母艦」としてFPV(一人称視点)の兵器2発を発射することもできる。CNNが8月に報じたように、モルニヤによって重要な経路を通る移動が難しくなっている。

ウクライナ軍がモルニヤを入手すると、すぐに設計の模倣と改良に着手した。前線から少なくとも20キロ後方のルビコン司令部も攻撃できる新型ドローン「FP2」も開発した。

開戦当初、西側諸国はロシア軍の硬直した戦術や劣悪な装備、凡庸な指揮について嘲笑することもあった。いまや状況は変わった。

ロシア軍は大きく方向転換し、スタートアップ型の製造企業も受け入れ始めた。

攻撃後、ドローン「シャヘド」を調べる警官ら=6月/Sergey Bobok/AFP/Getty Images

ロシア軍が技術革新を受け入れることで、ロシアは「ウクライナにとってより危険な敵となり、欧州を脅かす軍事力としてもより有能で危険な存在になる」と米シンクタンク「特別競争力研究プロジェクト」は分析する。

軍事アナリストのダラ・マシコット氏は、ルビコンとその支援者らが思い描く世界では、「敵の防御を圧倒し得る自律型ドローンの群れや、識別や阻止が難しいマイクロドローン、鳥や虫など野生動物を模倣するドローンが間もなく登場する」と述べる。

ドローン戦と対ドローンの電子戦は、生き延びるための代償としてほぼ毎週のペースで進化している。

「専門家は、軍隊が戦争を形作ると言うのを好むが、戦争もまた軍を形作る」とマシコット氏は語る。

ウクライナ北部のスーミ州の森林では、それはドローン部隊司令官にとって終わりのない日常業務を意味する。「体系的な作業だ。探知して破壊、また探知して破壊の繰り返しだ」

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