SGLT2阻害薬で心筋梗塞サイズは縮小せず
SGLT2阻害薬は、2型糖尿病患者の心血管死と心不全入院のリスクを低減することが示されているが、心筋梗塞に対する影響は明らかでない。主要な既報において一貫した結果は得られておらず、いずれの研究も梗塞時の虚血危険領域(EMA)が考慮されていなかった。ドイツ・University of FreiburgのIstvan Bojti氏らは、心筋梗塞に対して経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を施行した2型糖尿病患者を対象に、SGLT2阻害薬使用と心筋梗塞サイズを含む臨床転帰との関連を評価する後ろ向き研究を実施。他の血糖降下薬と比べ、SGLT2阻害薬使用による心筋梗塞サイズの縮小や入院中の有害事象の減少は認められなかったとBMC Cardiovasc Disord(2025; 25: 566)に報告した。(関連記事「SGLT2阻害薬、CVDリスクを一貫して低減」)
hs-TnTmaxをEMAで補正して梗塞サイズを評価
対象は、2015年11月~23年12月にUniversity of Freiburg心臓センターで心筋梗塞に対しPCIを施行した2型糖尿病患者681例。入院時にSGLT2阻害薬を継続使用していたSGLT2阻害薬群105例、他の血糖降下薬を使用していた対照群576例に分類した。
主要評価項目は心筋梗塞サイズとし、①高感度トロポニンT(hs-TnT)のピーク値(hs-TnTmax):基準上限値(ULN)の倍数で表現、②EMA:冠動脈造影所見を基に、心筋虚血に関与する左室分画数を17分画モデルで除し、百分率で表現、③hs-TnTmaxのEMA補正値:①の値を②で除して算出-の3指標で評価。副次評価項目は、入院中の主要有害事象および集中治療室(ICU)滞在日数とした。
入院日数、心筋梗塞再発や心不全入院にも有意差なし
背景を見ると、対照群に比べSGLT2阻害薬群は若齢で(年齢中央値72歳 vs. 67歳)、男性が多く(69.1% vs. 80.0%)、冠動脈疾患既往(42.7% vs. 57.1%)と心不全既往(10.2% vs. 20.0%)が多かった。
hs-TnTmax中央値はSGLT2阻害薬群が55×ULN〔四分位範囲(IQR)13~174×ULN〕で対照群が68×ULN(同22~182×ULN)、EMAはそれぞれ41%(29~59%)と35%(24~59%)、EMA補正後のhs-TnTmax(log変換値)は1.4(0.47~5)と2.2(0.6~6.25)で、いずれも両群に有意差はなかった。逆確率重み付け解析の結果も同様で、SGLT2阻害薬の継続使用と心筋梗塞サイズの縮小との有意な関連は認められなかった(P=0.54)。
副次評価項目を見ると、ICU滞在日数中央値(SGLT2阻害薬群1日 vs. 対照群1日)、院内死亡率(同3.8% vs. 4.2%)に両群で差はなく、入院日数、PCI後の左室駆出率(LVEF)、ステント血栓発生率、心筋梗塞再発/心不全入院に関しても有意差はなかった。
これらの結果を踏まえ、Bojti氏らは「心筋梗塞に対するPCI施行後の2型糖尿病患者において、SGLT2阻害薬の使用は心筋梗塞サイズの縮小や入院中の有害事象の減少と関連しなかった」と結論。「SGLT2阻害薬の心筋梗塞への潜在的な保護効果を検証するには、非糖尿病例を含む他の患者集団を対象とした臨床研究が必要である」と付言している。
(医学ライター・小路浩史)