ヒトはなぜビタミンCを体内で作れないのか→ほとんどの哺乳類は自分の体内で合成できるのに(デイリースポーツ)
おもしろい論文を見つけたのでご紹介します。2025年アメリカ発の報告です。「ヒトにおけるビタミンC生合成の喪失は寄生虫感染から保護するため」という題で、ほとんどの哺乳類は自分の体内でビタミンCを生合成できる能力を持っているのに、ヒトはその遺伝子が封印されていて、外部から摂取し続けなければならないという非常に不便な生物です。 生物の世界では必須分子を合成する能力が、何かの理由で失われることがあります。典型的な例がアスコルビン酸(ビタミンC)で、これはほとんどの動物でL-グロノラクトン酸化酵素(GULO)によって合成されますが、この酵素はある動物(ヒトやサル)では進化の過程で失われました。何らかの理由があると言われていますが、まだ謎で、実際にヒトを含むGULO欠損動物は食事でビタミンCを摂取しないと生きていけません。では、どうしてこうなったのでしょう。 ヒトがビタミンCを自分の体内で生合成できれば、こんなにありがたいことはないのに、なぜ?という疑問に対する答えです。 論文によりますと、いまも毎年、世界で2億5000万人の人が罹患しているとされる、寄生虫疾患の「住血吸虫症」に対して、ビタミンCをつくれないマウスだけが生存するということがわかったのです。マンソン住血吸虫は体内で卵を産むために宿主のアスコルビン酸を必要とします。その結果、アスコルビン酸欠損マウスはビタミンCが体内にないので、住血吸虫症に感染しなかったのです。 あくまでマウスの実験で、実際には年間に大勢の人が住血吸虫症に感染していますので、これが結論だとするのは尚早ですが、ヒトのビタミンC合成能喪失は必ずしも有害ではなく、ビタミンCを必要とする病原体から自身を保護するメリットがあると結論づけています。人間がビタミンCを自身で作れなくなったのは、進化の過程で寄生虫から守るためであった、という一つの新説なのです。 (参考)Gongwen Chen.et.al; Loss of vitamin C biosynthesis protects from a parasitic infection https://doi.org/10.1101/2025.07.22.666193 ◆松本浩彦(まつもと・ひろひこ)芦屋市・松本クリニック院長。内科・外科をはじめ「ホーム・ドクター」家庭の総合医を実践している。同志社大学客員教授、日本臍帯プラセンタ学会会長。