ニューヨーク・タイムズが報じる「中居正広の性加害とフジのグダグダぶり」
Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images
Text by Martin Fackler, Kiuko Notoya and Hisako Ueno
中居正広の性的暴行疑惑とフジテレビの杜撰な対応のニュースは海を越えて、米国でも大きく報じられた。「ニューヨーク・タイムズ」は、ジャニー喜多川による性的虐待事件を引き合いに、日本の大手スポンサー企業の変化に注目している。
それは、ある週刊誌のスクープから始まった。中年の元アイドルスターで、人気のテレビ司会者となった人物が、何らかの不正行為の代償として女性に口止め料を支払ったという疑惑だ。 そこから後追い記事が出はじめ、それは性的暴行事件であったと報じられた。ここでその元アイドルだけでなく、彼を起用し続けていた大手テレビ局に対する世間の怒りが噴出した。 1月23日には渦中の中居正広(52)が引退を表明したが、この一件はすでに大きな問題となっていた。海外の投資家がフジテレビを批判し、日本の大手企業が次々と同局をボイコットするリストに名を連ねた。トヨタ、ソフトバンク、マクドナルドなど、約75社がCMの出稿やスポンサーシップを取りやめたのだ。
そのCM枠が無償で提供される公共広告で埋まるなか、憤慨した企業のCEOたちはフジテレビにこの問題への対応を求めている。
飲料メーカーのキリンホールディングスは、「必要な調査が充分におこなわれ、事実が明らかにされたうえで、適切な対応がなされるまで広告出稿を停止する」との声明を発表。「当社の人権方針に基づいた」決定だとつけ加えた。
こうした怒りは、日本で数年前に暴かれたスキャンダルをきっかけに、性加害に対する世間の目が厳しくなっていることの表れだと、専門家たちは指摘する。
日本の大手タレント事務所の創設者であるジャニー喜多川が、数十年にわたって少年らに性的虐待を加えていた事実が白日の下にさらされたのは、2年前のことだ。2019年に死去した喜多川は一度も罪に問われることなく、企業スポンサーはジャニーズ事務所内で横行していた悪事を黙認していたと非難された。
しかし今回、大手企業は、自分たちは変わったのだということを示そうと躍起になっている。
「ジャニーズのスキャンダルは転換点になりました。スポンサー企業は何もしなかったことで加担したと非難されたのです」と、広告やメディア業界に関する著書の多いノンフィクション作家の本間龍は言う。
今回の事件が初めて明るみに出たのは12月中旬。週刊誌「女性セブン」が、中居と女性との間で「深刻なトラブル」が起こり、彼女に9000万円を支払ったと報じた。これに続いた他のメディアの記事では、そのトラブルとは性的暴行であったことが、より明確に示された。
中居は1月初めに声明を出し、「トラブル」があったこと、そして示談金を支払ったことを認めた。ただし、暴力はいっさい振るっていないと述べ、テレビ出演を続けることに問題はないと主張した。
だがその後も弱まらない批判と広告ボイコットにより、彼はその決断を撤回せざるを得なくなった。23日、中居は芸能界を引退し、自身の個人事務所も廃業すると発表した。
人気番組の司会として中居を起用していたフジテレビへの怒りも高まっている。週刊誌の記事によると、事件が起こった2023年6月の中居と女性との会食をセッティングしたのは、フジテレビの社員だったという。
フジは当初、この週刊誌報道について曖昧な否定をした。だがその後、調査委員会を立ち上げると発表。中居をめぐる疑惑に加え、男性タレントのために女性アナウンサーとの出会いの場を設けることが長年おこなわれていると指摘されている問題についても調査するという。
とはいえフジテレビは、この中居の一件への対応が遅すぎただけでなく、その対処の仕方についても批判を浴びている。17日に開いた会見は、限られたメディアしか会場に入ることが許されず、中継も許されなかったからだ。
港浩一社長は会見で、事件については直後に認識していたが、公にしなかったと述べた。
「当時の判断として、事案を公にせず、他者に知られずに仕事に復帰したいとの女性の意思を尊重し、心身の回復とプライバシーの保護を最優先に対応してまいりました」
この記者会見は、フジテレビの親会社フジ・メディア・ホールディングスの株主である米投資ファンド「ダルトン・インベストメンツ」が、同社宛てに書簡を送った後に開かれた。それは、同社が問題の解決どころか対応さえ怠っていると厳しく批判する内容だった。
中居をめぐる一連の騒動は、「エンターテインメント業界の問題だけでなく、フジのコーポレート・ガバナンスに重大な欠陥があることを露呈している」と指摘したうえで、「事実の報告における透明性の欠如やその後の不充分きわまりない対応は、深刻な非難に値する」と糾弾した。
この書簡を受けてフジテレビは会見を開いたのだが、翌日から大手企業が相次いで広告の出稿を取りやめた。
23日には、ついに親会社が対応に乗り出した。フジ・メディア・ホールディングスの金光修社長は「社員、スポンサー、視聴者の信頼を回復することが急務だ」と述べ、独立した第三者委員会の設置が臨時取締役会で決定したと発表した。
「見て見ぬふりをしてはいけないという認識が広まるのに時間がかかりました」と前出の本間は言う。「大口の顧客が離れて初めて、行動が起こされるのです」