「好きこのんでやってるわけじゃないんですよ…」ベテランハンターが漏らした“駆除への本音”と「駆除したクマの爪」を保管している深いワケ

日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている

「正直、気分がいいものではありません」──そう語るのは秋田県内の猟友会歴50年という大ベテランハンター・門田孝雄さん(仮名)は、クマの駆除に対してそう本音を漏らした。門田さんは自治体からの要請でクマを駆除しているが、今年、所属する駆除したクマは約40頭。昨年は数頭だったという。【前後編の後編。前編から読む

「しかも今年は子グマの出没が多い。昨年は木の実が豊作だったから、その影響で母グマがたくさん子を産んだんでしょうね。

 しかも駆除といっても、すでに罠にかかっているクマを相手にすることが多いんです。逃げられない状況のクマを至近距離から発砲するんですよ。好きこのんでやっているわけではありません。 

 でも彼らは賢いので、逃すと『人間の生活圏では美味しいものがある』と学習してしまい、また人里に戻ってきてしまう。逃すという選択肢を取るわけにはいかないんです。ただね、そうした実態を知らない人たちから、猟友会へ毎日のようにクレームが入る。でも私らが駆除しないと、地域の人が不安で日常生活を送れない。ハンターの多くがボランティア精神でなんとかやっているんです」

 門田さんがハンターになったのは50年以上前。山の動物たちに対して敬意を持ちながら狩猟を楽しんでいたという。

「もともとこのあたりにもマタギみたいな人がいて、彼らに憧れて猟友免許を取りました。キジやシカを狩って、美味しく仲間内でいただくことが楽しみ、猟友会はそんな趣味を持った人間の集まりなんです。

 いまでも駆除したクマの肉は猟友会が解体し、仲間内で消費しています。肉だって、血抜きがしっかりしていれば臭みはなく、味噌とよく合うので鍋にしていただいています。命を奪った動物を無駄にしないことは、私たちハンターの務めでもある。

 ただ仲間内で消費するにも限度があります。販売には自治体の許可した加工施設が必要で、この地域にはまだ整備されていない。だからクマ肉を無駄にしてしまうこともあります。いま冬の猟が解禁されたばかりですが、すでに多くの仲間はクマへの対応で疲れ切っていますよ。

 警察や自衛隊の力を借りて駆除するのは大歓迎ですが、駆除の後についてもしっかりと話を進めてほしいですね」

 政府はさまざまな対策を講じているが、現場の門田さんとしては今後どのようなことが必要になってくると考えているのだろうか。

「まずは、数を減らすこと。爆発的に増えてしまっているので、放置すればどんどん増えて手に負えなくなってしまう。そして長期的には山にクマが好きな栗やどんぐりの木をたくさん植える。クマが山で生活しやすい環境を作って、人間とクマがそれぞれの領域で生活できるようにすべきだと思います」

 そう話し、門田さんが差し出したのは、大きくて鋭いクマの爪だ。

「最近はね、狩猟文化や解体技術を学びに来る若者もいるんですよ。いい子が多いし、交流は楽しい。そういった人たちに見せるためにも、クマの爪を保管しています。これで引っかかれたら人間なんてひとたまりもないと、恐怖を伝えられるでしょ? それにこれは、彼らクマが生きてきた証でもありますから」

 山と対峙してきたハンターらは、クマに対して人一倍思い入れがある。彼らは葛藤を抱え、駆除に向き合っているのだ。

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