川崎フロンターレの守護神となった山口瑠伊に「正直、驚きはない」。元同僚も唸る「エグかった」能力と唯一無二の才能【コラム】

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 明治安田J1リーグの第9節、FC町田ゼルビア対川崎フロンターレは2-2の引き分けに終わった。フロンターレのGK山口瑠伊にとっては古巣との一戦。町田では奪えなかった守護神の座についた今、最後尾からチームを支える山口の才能は誰もが認めるところだ。だが、その片鱗は町田時代からすでに垣間見えていた。(取材・文:菊地正典)

日本で初めての古巣戦を迎えた山口瑠伊

【写真:Getty Images】

 とにかく勝ちたかった。試合終了のホイッスルを聞いた瞬間に湧き上がった悔しさはいつもとは少し違っていた。

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 4月6日に行われたJ1第9節、FC町田ゼルビア戦。山口瑠伊は日本で初めての古巣戦を迎えた。それは、水戸ホーリーホックに在籍していた2023年以来、J1リーグでは初めての町田GIONスタジアムでのプレーだった。

 2024年のシーズン前半戦、山口は町田に在籍したが、シーズン開幕わずか3日前に負傷したという不運もあり、リーグ戦はホームゲームながら国立競技場で行われたヴィッセル神戸戦にメンバー入りしただけで出場機会は得られなかった。

 たった一度、戦った公式戦は天皇杯2回戦の筑波大学戦。町田で戦った唯一の公式戦で味わったのは、トップカテゴリーのチームが大学生相手にPK戦で敗れるという屈辱だった。

 その場所へ帰る。しかも上位を争うチームの正GKとして。

 今季が始動した3ヶ月ほど前、この状況を想像していた人はそう多くなかっただろう。山口が加入して以降もフロンターレのゴールマウスを守り続けていたチョン・ソンリョンからポジションを奪うことは容易いことではなかったはずだ。

 だが、この状況をまるで当たり前のように捉えていた選手もいた。かつてのチームメイト、昌子源である。


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「正直、驚きはないです」

 公式戦では一度も同じピッチに立てなかったGKと上位争いをしたことについて問われると、町田のキャプテンは涼しい表情でそう答えた。そして、関西出身者らしい抑揚の効いた声で続ける。

「瑠伊は能力で言うともう、エグかったので」

 山口のキックやスローイングの飛距離、ジャンプ力を見るたびに昌子は目を丸くしていた。山口の身体能力はフィールドプレーヤーを含めた昨季の町田でトップクラスだったと昌子は言う。

 また、昌子曰く「瑠伊にとっては壁として大きな存在だった」という谷晃生も、山口の活躍に驚くことはなかった。

「シュートストップに関してはJリーグトップですから。彼が川崎の守備を支えていると思いますし、失点が少ないのも彼の力だと思います」

 1試合少ない状況ではあるが、7試合3失点とリーグ最少失点で迎えた古巣戦。特別な試合だとは考えていなかった。プレッシャーを感じることもない。普段どおりに試合に向けた準備を進めていた。

 それでも、ピッチに入ると普段以上にふつふつと湧き上がる感情があった。

「本当に勝ちたい」

 その思いがこれまでのどの試合よりも強かったことを認め、試合開始のホイッスルを聞いた。


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 それから約3時間後、取材対応中の山口のもとにドレシェヴィッチ、ミッチェル・デュークがやってきた。元チームメイトがハグや握手で再会を喜ぶことは取材エリアでも決して珍しくない光景だ。

 ただ、彼らの様子は少し違った。報道陣の質問に答える山口の後ろを通過しながら、後頭部を擦り上げるように触り、振り返ってニヤりと笑う。選手とは一心同体と言われる通訳の村上剛氏も同じ行動、同じ表情を見せた。

 フランス人の父、日本人の母のもとに生まれた山口は、日本語、フランス語、4年間暮らしたことで身につけたスペイン語、さらに英語と4ヶ国語を操る。

 同じくハーフであるファンウェルメスケルケン際とは日常的に英語で会話し、スペイン語圏であるコロンビア出身のセサル・アイダルから「自分のことをよく理解してくれている選手」に挙げられる。国籍を問わずコミュニケーションを取れることが山口の特徴の一つだ。

 当然、ピッチ上でもコミュニケーションを大切にする。連戦でフィールドプレーヤーが入れ替わる中、GKとしてどのようにチームを支えていくのか。7連戦を控えた数週間前、そう問われていた山口はこう答えていた。


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【写真:Getty Images】

「あまり試合経験のない選手が出た場合は後ろからしっかりコミュニケーションを取って、セットプレーのポジショニングや役割は積極的に自分からコーチングしていきたいと思います」

 町田戦でまさにそんな場面に直面していた。

 15分にすでにボランチの橘田健人が負傷交代していたフロンターレは、33分にセンターバックのジェジエウも負傷交代。車屋紳太郎が出場することになった。

 ただでさえ、センターバックがアクシデントで代わるのはチームにとって、GKにとって難しい状況だ。さらに今季、車屋が出場したのはJ1第4節の京都サンガF.C.戦とAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)・リーグステージ第8節のセントラルコースト・マリナーズ戦のみ。そのいずれも山口は欠場していた。公式戦で初めて車屋とともにプレーする機会が急に訪れた。

 コミュニケーションを図り、確認作業を行ったつもりだった。それでも、対応しきれなかった。勢いと強さがあると山口も知っていた町田のセットプレー。結果として車屋が絡み、失点を喫してしまう。

 山口はすぐに気持ちを切り替えた。車屋をはじめチームメイトにも伝える。

「これ以上の失点はせずに前半を終えよう」

 その言葉どおり前半を1失点で終えたが、後半開始早々の53分に2失点目を許してしまう。

「後半は自分たちの試合にしたい。だから攻撃を意識して回数を増やすことを大事にしましたけど、入りのところでは守備を意識していたのに、ちょっとした隙があるところでやられた」


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 昨季からの課題であったクロスからの失点。今季は長谷部茂利監督の指導のもと、修正できている実感もあったが、クロスを上げる選手に対してもゴール前の選手に対しても対応が甘くなってしまった。

「本当に勝ちたかった」

 チームが追いつき、勝ち点1を得たことはポジティブに捉えられるが、2失点を喫したことに加えて引き分けという結果には満足できなかった。

 町田も引き分けには満足していない。ただ、「勝ちきれなかった試合」と感想を語りながらも、昌子は言う。

「最少失点だったので、瑠伊からゴールを取ってやろうという気持ちは漲っていたかもしれないですね、うちの選手たちは」

 谷も山口から刺激をもらいつつ、失点数で負けられない相手だと考えている。

「アンダー世代の代表でも町田でも一緒にプレーしていた瑠伊の活躍はうれしいですし、いい刺激をもらっています。まだシーズンは始まったばかりですし、まだまだこれからです」

 かつてのチームメイトも評価する能力を武器に、安定したパフォーマンスでフロンターレの守護神の座をがっちりつかんでいる。

「それでも満足はしてほしくないですし、伸びしろはまだまだたくさんあると信じています」

 これまでとは一味違った悔しい思いを生かし、これからも成長を続けていく。

(取材・文:菊地正典)

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参照元:YouTube

【了】

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