「セナ、なんで泣くの?」号泣するセッター関菜々巳にブラジル主将が贈った“アイラブユー”の意味とは?「セナのいる日本とやるのは本当に嫌!」(Number Web)

「私じゃなくて、ジョンさん(島村)がブロックした1点だったんですけど(笑)。でもガビに選択肢があるのはわかっていたので。ここで何をしてくるんだろうというワクワクもあるし、わかっているからこそ決められると悔しい。(東京五輪からパリ五輪までの)3年間もブラジルとは毎回いい勝負をしてきたし、『やってやろう』っていう気持ちはありましたけど、でもその時と今、ガビのことをよく知っている自分が感じるワクワクは、今までとちょっと違う気がしています」  関が初めて日本代表に選出された2019年から、ブラジルとは数えきれないほど対戦してきた。メダルをかけた一戦や、五輪の大舞台で敗れた苦い記憶も浮かぶ。  いかなる時も、立ちはだかる壁――。  そんな宿敵ブラジルの、しかもチームの象徴とも言うべきガビとこんな風に向き合える日が来るなんて、想像もしなかった。  パリ五輪を終えると、関はイタリアへ渡った。  2024/25シーズンに所属したイモコ・コネリアーノは世界のトップという称号にふさわしく、イタリア・セリエAだけでなくコッパイタリア、世界クラブ選手権、欧州チャンピオンズリーグなどすべてのタイトルを制した強豪中の強豪だ。各国の名だたるスーパースターが揃い、前述のガビともチームメイトになった。  関の定位置はセカンドセッターで、出場機会こそ限られたものの、ガビを始めとする超一流の選手たちと過ごす時間は、何事においてもネガティブだった思考を変えるきっかけとなった。

 特に関が「今でも忘れられない」と振り返るのが、2月のコッパ・イタリアだ。  決勝では同じイタリア・セリエAでリベロ福留慧美が所属するミラノと対戦した。1点を争う拮抗した展開の中、関に出番が巡ってきたのは第1セット終盤。21ー20の場面でリリーフサーバーとして出場したが、サーブはエンドラインを割った。  結果的にはコネリアーノが3ー0で勝利したが、限られたチャンスを活かせなかった関は、その1本のサーブミスを拭いきれず、歓喜するチームメイトの中でひとり涙した。  関が「忘れられない」と振り返るのは、その後の出来事があったからだ。  ガビをはじめとするチームメイトたちが涙する関を囲み、「I LOVE YOU!」と何度も叫んだ。 「なぜ勝ったのに泣くの?」  自らのミスを責める関に対するエールだった。それが関はたまらなく嬉しかった。  あれから4カ月。ブラジル代表として来日したガビにその真意を聞いた。当時のことを「よく覚えている」と笑いながら振り返る。 「セナは本当に素晴らしい人柄で、すごく努力家なんです。確かに(コッパ・イタリアの)重要な場面でサーブミスをしてしまって、とても落ち込んでいた。マジメだから、1本のミスを100本のミスのように受け止めていたけれど、その1本のサーブがすべてを決めるわけじゃない。何より、彼女はいつだって、チームのために力を尽くして、支えてくれる存在でした。だから、そんな1本のミスで彼女の価値が下がるわけじゃないし、その1回のミスよりも、あなたがこれまでしてくれた100回の素晴らしいことのほうがずっと大きい。セナが果たした貢献は1%も減らないよ、という思いを込めて『I LOVE YOU』と伝えたんです」  高校時代から成績も良く、マジメな性格は緻密なセッターというポジションには向いているかもしれない。一方で、それは成長の妨げにもなっていた。  いいプレーをしても、うまくいかなかった結果ばかりに目を向けて落ち込む。マイナス思考の関に向けられた、たった1本のミスですべてが決まるわけじゃない、というメッセージ――勝者のメンタリティと仲間たちが包み込む深い愛情によって、関は変わった。


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 ガビの言葉に反し、結果はブラジルのストレート勝ち。日本代表としても、関自身も、改めて強さを実感させられる試合になった。試合後、関が述べた課題は具体的だった。 「ほんとに、やっぱりレベルが高い、世界一を争うチームだと思いますし、私たちも追いついていかないといけない。あのフィジカルであの速さ、あの精密さがブラジルの強さだと思うし、私たちはそのフィジカルが足りない分、もう一つ精度を上げてやらないといけないとすごく感じました」  収穫と課題。どちらも「五分五分」と振り返る試合の直後、ネットを挟んで互いの健闘を称える握手と共に、ガビと短い言葉を交わした。 「『I proud of you』って。ガビはすごくいい人で、優しいから誰に対してもそういう言葉をかけられる人だと思うんですけど、でも、世界の誰もが憧れる人が自分のことも認めてくれる。それだけで嬉しいし、認めてもらえているんだからもっと自信を持とう、持っていいんだと今は素直に思えます」  互いにファイナルラウンドで勝ち進めば、準決勝で再戦の可能性がある。やられっぱなしじゃなく、次はやってやる。  たとえうまくいかなくても、チャレンジを恐れず、自信を持って駆け引きを楽しむ。 世界を知り、解き放たれた関が、ファイナルラウンドではどんなトスワークを見せるのか。さらなる成長の時は、これからだ。

(「バレーボールPRESS」田中夕子 = 文)

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