「週3回、40分の早歩きを1年続けると2歳若返る」筋トレでもストレッチでも叶わない、脳の破壊を食い止める有酸素運動のスゴすぎ効果|au Webポータル
〈自分のために好きなことをしている時間が短くても長すぎてもストレスになってしまう科学的根拠とは‥脳のリラックスに必要な3つの習慣〉から続く
スイス在住の医師・平井麻依子氏は、日々の幸福感は脳のコンディションを整えることで得られるという。今回は、脳手術の後遺症に悩んだ彼女が実際に実践した「脳にいいこと」から、仕事のパフォーマンスなどに関する脳の活性化のための方法を伝授する。
【画像】有酸素運動で得られる脳の神経回路「デフォルトモードネットワーク」の仕組み
『「脳にいいこと」すべて試して1冊にまとめてみた』より一部抜粋、再構成してお届けする。
1年間の有酸素運動で、加齢による喪失を1、2年分取り戻す!?
運動が身体によいとはよくいわれていますが、これは脳にもよいのです。
最近では、ジムを併設する企業が増えました。日本の厚生労働省、欧米の各国政府機関も、週に150分の有酸素運動を健康のために推奨しています。
これは研究が進んでいる分野で、運動の脳に対する効能は主に、以下のようなものがあります。
●有酸素運動をすると、脳内の成長因子である脳由来神経栄養因子(BDNF)が増える。これにより、新しい細胞を成長させ、細胞間のつながり(シナプス)を増やす●定期的に有酸素運動を続けていると、ストレスに対してコルチゾールの分泌がされにくくなり、記憶を司る海馬の破壊を防いでくれるようになる
●有酸素運動で脳の血流量が増えることにより、脳が活性化する。また長期にわたって運動することで、新しい血管が作られ、血液や酸素の供給量が増え長期的な活性化が望める
また、有酸素運動をすれば、薬に頼ることなく加齢による認知機能の低下や神経変性疾患をかなりの確率で予防できることが、さまざまな実験によりわかっています。
たとえば、2011年のアメリカ・ピッツバーグ大学のカーク・エリクソンの研究チームは、120人の高齢者を対象とした研究を発表しました。
それは、有酸素運動によって海馬が大きくなり、記憶力が向上したという結果でした。1年間の有酸素運動で、海馬の体積が2%増えたということ。つまり、加齢による喪失を1、2年分取り戻したということになります。
ストレッチなど軽いエクササイズより有酸素運動が脳の老化におすすめの理由
「さあ、運動をしよう」と、闇雲に重いダンベルを持ち上げたり、坂道全力ダッシュをしたりしてはいけません。脳にとって一番よい運動を考えていきましょう。
脳のことを考えると、心拍数を、最大心拍数の70〜75%に保つことが一番よいといわれています。
どの程度の運動でその心拍数になるのかは人によりますし、いまはスマートウォッチで簡単に調べられます。あまり運動をしない人だと早歩き、運動をある程度する人だと軽いジョギングくらいでしょう。
先ほど述べた脳由来神経栄養因子(BDNF)を増やし、海馬を大きくするのに一番適しているのは有酸素運動です。
筋力トレーニングやストレッチでは同じ効果を得られません。
2011年、アメリカ・ピッツバーグ大学のカーク・エリクソン率いる研究チームが、120人の被験者を対象に1年間の間隔を空けて、脳を二度スキャンして海馬の大きさを測った実験があります。
実験に先立ち、被験者たちは無作為に2つのグループに分けられ、異なるタイプの運動を行うように指示されました。
一方は、有酸素運動(週に3回、40分の早歩き)。もう一方は、心拍数が増えないストレッチなどの軽いエクササイズでした。
1年が経過すると、ストレッチを行っていたグループの海馬は平均1.4%縮小していました。平均で年間1、2%縮小することを考えると理にかなった数字です。
これと比較して、有酸素運動を行ったグループの海馬は成長しており、2%ほど大きくなっていました。1年間老化がまったく進んでいなかったどころか、2歳も若返っていたのです。
私も、週3回を目安に、軽いジョギングをしています。
スイスの山の中に住んでいるので、家の周りは自然にあふれており、大自然の中を走ることができます。このときの心拍数は、最大心拍数の70~75%に抑えるようにしています。
運動でアイデアがどんどん浮かぶ。デフォルトモードネットワークを体験
有酸素運動の利点は、「脳の破壊を食い止める」ということに留まりません。
デフォルトモードネットワークというものをご存じでしょうか。簡単にいうと、どんどんアイデアが思い浮かぶ魔法のような脳の神経回路です。
ジョギングは、このデフォルトモードネットワークと深く関わっています。
脳には、特定の課題に取り組むわけではなく、ぼんやりしているときに働きはじめ、記憶を整理したり、感情を整えたりする機能があるといわれています。
ぼんやりしているときに、何かを思い出したり、よいアイデアが浮かんだりという経験はありませんか?
これは、デフォルトモードネットワークによるものです。
特定の課題に取り組んでいるのではなく、ぼんやりしているときに起こるので、人によって生じるタイミングが異なります。
たとえば、散歩しているときによいアイデアが浮かぶ人もいますし、自転車にのっているときに、それが浮かぶ人もいるでしょう。散歩で、デフォルトモードネットワークを体験する方は多いと思います。
19世紀半ばに活躍したアメリカの偉大な思想家ヘンリー・ソローも、散歩によってその考え方を深めたことで有名です。
著書『歩く』(ポプラ社)の中で以下のように述べています。
「私が語っている歩くということは(中略)運動とは似ても似つかないものです。それ自体が一日の大胆な取り組みであり、冒険なのです」「一日に少なくとも四時間、ふつうは四時間以上、森や丘や草原を越え、世間の約束事から完全に解放されて歩きまわることなしには、自分の健康と精神を保つことができない、と私は思っています」
課題を残したままランニングするとよいアイデアが湧く
ランニングをしているときに、デフォルトモードネットワークが働く人も多いです。
著名人だと、『ノルウェイの森』などで知られる小説家村上春樹さんも、週に70キロ走るランナーとしても有名です。
彼は、『走ることについて語るときに僕の語ること』(文藝春秋)にて、「僕は原則的には空白の中を走っている。逆の言い方をすれば、空白を獲得するために走っている、ということかもしれない」と述べています。
私は日中に走りに行くことが多いのですが、朝少しヘビーな仕事をして、何個か課題を残したまま走りに出ます。
すると、走っている最中に午前中の課題に対するよいアイデアが浮かぶことがあります。
大体、最新科学系の本のオーディオブックを聞きながら走りはじめて、10分くらいすると、デフォルトモードネットワークが活性化してくるようです。アイデアが浮かびはじめると、オーディオブックを止めて走ります。
私の場合、小説やラジオだと上手くデフォルトモードネットワークに入れません。また、ランニングマシンなどでも上手くいきません。
人によって何をすればデフォルトモードネットワークに入りやすいかは異なるので、いろいろ試してみて自分に合ったものを見つけてください。
文/平井麻依子 写真/Shutterstock
2025/1/30
1,650円(税込)
224ページ
ISBN: 978-4763141965
世界中の脳科学のエビデンスを自分の脳で実験。医師が実践する脳のコンディションを整える方法。「昔に比べ、仕事の処理能力が落ちた」「なんとなく、毎日楽しくない」「最近、イライラすることが増えた」その悩みは、仕事のやり方に問題があるせいでも、あなたが落ち込んでいるせいでも、あなたを怒らせる人のせいでも、ありません。
ただ、「脳のコンディションが悪い」だけ。
この本では脳のコンディションを整えて仕事のパフォーマンスや日々の幸福度を上げる方法をお伝えします。その方法はすべて医師である著者が自分の脳で実験したものです。きっかけは、自身の脳手術による後遺症に立ち向かうためでした。医学知識、経験、ネットワークを総動員して「脳のコンディションを整える」という100個ほどのエビデンスを集め自分の脳を実験台にスタート。
◉科学的に裏付けられた「ストレス解消法」◉脳を若返らせるのに効果的な「運動法」◉やる気をもたらす“自分が主人公と思って過ごす”「マインド術」◉幸せホルモンのオキシトシンを効果的に出す「人づき合いの方法」など、本当に効果があった方法をこの1冊にまとめ上げました。実践した結果、◉判断がいままでよりも早くなった◉週の半ばころには体が疲れてしまう……がなくなった◉片頭痛が出なくなった
◉苦戦していた語学学習も新しい言葉がすんなりと入ってきた
という、“バージョンアップした自分”になって見事、仕事復帰をかなえたのです。特別付録として巻末に脳のアンチエイジングや幸せホルモンを増やす方法「2週間で脳のコンディションを改善する!」アクションシート付き。