佐々木朗希、“新大魔神”として覚醒 リリーフで蘇った怪物は「理屈で再現できる天才」へ
ポストシーズンで圧巻の投球を見せた佐々木朗希。100マイルの直球と“高速ナックル”とも呼べるフォークで完全復活した背景にある「ピッチングデザイン」の最適化と、私が提唱してきた“ジャイロフォーク理論”を解説する。
■「ピッチングデザイン」の真髄を体現した完全復活
野球というスポーツは、突き詰めれば物理現象の探求であり、打者との駆け引きから生まれる相対的な芸術だ。私が提唱してきたピッチングデザイン とは、単なる球質設計ではない。配球、フォーム、メンタル、キャリア戦略まで含めた「投球の総合設計」だ。
今回、その理念を完全に体現したのが、佐々木朗希だった。ポストシーズンでリリーフ登板した彼は、まさに“新たな怪物”として覚醒した。NLDS(ナショナルリーグ・ディビジョンシリーズ)でMVPが選出されるなら、満場一致で佐々木だったと断言できる。
それほどまでに、彼の投球は支配的で、チームを救い出した。
2022〜23年に私が「人類史上最高の投手」と評したときの、あの異次元のピッチングが、完全に戻ってきた。
■ 原点回帰が生んだ“100マイル×高速ナックル”という異次元の融合
なぜここまで劇的な復活を遂げられたのか?その答えは、投球デザインの最適化 にある。
不調期は多くの球種を試行錯誤していたが、今ポストシーズンでは研ぎ澄まされたツーピッチ──100マイル(約161km/h)のストレートと、“魔球”フォーク──に立ち返った。
ストレートは常時160km/h前後を維持し、打者をねじ伏せた。そして、佐々木朗希という存在を唯一無二にするフォークが完全復活。
「計算できる高速ナックル」とも呼べるボールだ。
回転数は500rpm前後。低回転が生む不規則な揺れに、球速は140km/h台。これはもはやフォークではなく、“高速で制御されたナックル”と呼ぶべき球質である。
軌道も興味深い。わずかにジャイロ成分を帯び、時にスライダーのようにも見える。私はかつてから「ジャイロフォークこそ理想形」だと述べてきた。一見すると不安定に見えるジャイロ回転だが、打者の視点では“ボールが浮き上がり消える”ように見える。
実際、この回転軸を再現した複数のプロ投手で空振り率が顕著に向上した。
打者は表面的には「ストレートかフォークか」の2択を迫られているようで、実際には「ストレート・スライダー・フォーク」の3軌道を同時に追わされている。
さらに興味深いのは、佐々木のフォークには左投手のカーブのようなの成分がある点だ。
フォーク特有の縦落ちに加え、ボールが浮き上がってから下方向へ滑る。まるで左腕が投げるビッグカーブを右腕で再現したかのような軌道で、これが打者の目線とスイング軌道をずらし、空振りを誘発する。
この“縦・横・揺れ”が重なり合う三重錯覚構造こそ、佐々木朗希のフォークを“魔球”たらしめている。
佐々木朗希 トラッキングデータ 筆者作成 per:statcast■ R.A.ディッキーとの比較──「ナックルの原理を高速で再現した唯一の投手」
2012年、ナックルボーラーの R.A.ディッキー がサイ・ヤング賞を受賞した。彼のナックルはその年キャリア最速で最速132km/hを計測。メジャー屈指の強打者たちがまるで子どものように手玉に取られた。
球が浮き、揺れ、消える──それがナックルの本質だった。
佐々木のフォークは、その物理的原理を90マイル級の速度で再現している。ディッキーのナックルが“自然の混沌”だとすれば、佐々木のそれは“設計された混沌”だ。
制御された不規則性。これは物理的にも、歴史的にも、かつて存在しなかった領域である。
私が「人類史上最高の投手」と称する理由は、単に球速や成績ではない。“ナックル的現象を意図的にデザインできる”という点で、彼はすでに新たな時代を切り拓いているのだ。しかも100マイルの速球を併せ持っているのだ。
■ 挫折が“天才”を“本物”に変えた──理屈で掴んだ再現性
順風満帆なキャリアも美しいが、一度挫折を味わったことも今後に繋がる。世界最高のサッカークラブ・レアル・マドリーも同じだ。鳴り物入りで入団した選手ほど、一度壁にぶつかる。
そこから役割を変え、自分にできることを遂行して這い上がった者だけが、本物の“ガラクティコ”になる。
佐々木もまた、感覚で頂点に登りつめた。だが一度その感覚がズレたとき、修正法を持たなかった。マイナーでの調整期間を経て、“理屈で感覚を再現する方法”を掴んだ。感覚で得たものを、論理で再現できる。
それこそ、再現性という才能だ。
リリーフとして投げたことで、100%の強度で腕を振る感覚を取り戻した。そして、その再現に必要な理論的裏付けを得た。今の佐々木は、崩れてもすぐに立て直せる。
天才とは、感覚でできる人間ではなく、崩れた感覚を理屈で戻せる人間のことを言う。
■ “新大魔神”の完成へ──WBCとメジャーへのロードマップ
この復活劇を見て、来春のWBCでの彼を想像しないファンはいないだろう。短期決戦では、クローザーとしての起用も選択肢に入る。
100マイルと高速ナックルで試合を締める姿は、日本の「新大魔神」と呼ぶにふさわしい。
そして、メジャーで頂点を目指すには、あと一歩、ピッチデザインを深化させたい。俺が以前から千賀滉大の例で語ってきたように、高速球とフォークを持つ投手には、
ハードカッター系の球が非常に有効だ。
フォーシーム、ツーシーム、カッターという“速球三方向の布陣”に、高速ナックルフォークを組み合わせれば、打者に対応策はない。必要以上の多くの球種は不要。
ひとつひとつのボールが完璧に設計されていること。
それがピッチングデザインの神髄だ。■ 理論で進化した怪物──「再現性」を武器に世界の頂点へ
ポストシーズンで見せた投球は、佐々木朗希の第二章の序章に過ぎない。感覚の天才が、理論という武器を手にした。
今後、データ分析や可視化技術が進む中で、彼はそれを「感覚と結合」させる最先端の存在になる。
WBC、そして来季。“理屈で再現できる怪物”──新大魔神・佐々木朗希から、目を離すことはできない。
野球は物理的かつ相対的なものである( ー`дー´) Pitch Designは球質設計。 お股ニキのピッチングデザイン"MOON method"は、それに配球・フォーム・心理・契約戦略まで含めた“投球の総合設計”です。 MLB 6名、NPB 70名以上、ドラフト候補6名を指導。 プロ選手・コーチ・エージェントとのアドバイザー契約多数。 ヤフーコメンテーター/オーサー、集英社5年連載、ベストセラー著書4冊。