地球と深宇宙の「温度差」から生まれた壮大すぎる新エネルギー。装置はミニサイズです
2025年12月2日の記事を編集して再掲載しています。
宇宙スケールの壮大さと小さな装置の温度差もいい感じです。
深宇宙には、未来の宇宙船の燃料となるダークマター(暗黒物質)などの隠れたエネルギー源が存在する可能性があります。
ただ、そんな壮大な話にたどり着く前に、新しい実験的なエンジンが、実はもうすでに深宇宙をエネルギー源として利用できるかもしれないという可能性を示してくれました。
もちろん、今回の技術はまだ小規模で、すぐに星と星のあいだを旅する恒星間旅行ができるわけではありませんが、とりあえず一歩前進です。
地表の暖かさと宇宙の冷たさを利用して動くエンジン
2025年11月12日付のScience Advancesに掲載されたオープンアクセスの研究論文で発表されたこの新しいエンジンの目的は、そんなに壮大なわけじゃありません。
現時点での主な用途は、温室や建物の換気。このシンプルな装置は「スターリングエンジン」として知られており、温度の差を動力(機械的なエネルギー)に変える仕組みになっています。
しかしこのエンジンが特別なのは、動力を生み出すのに必要な「冷たさ」を深宇宙から引っ張ってきているという点です。
カリフォルニア大学デービス校の研究チームは声明で、動力源となる「暖かい」部分は、地球上にある自然の熱で、それに対して、「冷たい」部分は、「とてつもなく冷たく、とてつもなく遠い場所、つまり深宇宙」を使っていると説明しています。
また、研究論文の上級著者であるJeremy Munday氏は、声明で「実際に宇宙と物理的な接触を行なう必要はありません。放射(光や熱の放出)を通じて宇宙とやり取りするだけでいいのです」と述べています。
放射で宇宙とつながるって一体どういうこと?
まず、スターリングエンジンがどう動くかを考えてみましょう。
Munday氏の説明によると、ほかの多くのエンジンと違って、スターリングエンジンは「熱いコーヒーとその周りの空気のようにわずかな温度差しかない場合でも、驚くほど効率よく動く」という特徴があります。 エンジン内の「高温部分」と「低温部分」を明確にわけておくことが、うまく動かすためのカギなんだそうです。
この新しいエンジンをつくるために必要なのは、たったひとつのシンプルな改造だけでした。
Mundayと共同執筆者である大学院生のTristan Deppe氏は、熱を放射するためのアンテナとして機能するシンプルなパネルを製作。そして、市販されているスターリングエンジンを、ノートパソコンより少し大きいくらい四角いアンテナの上に設置したといいます。
Image: Deppe and Munday 2025 / Science Advances仕組みはシンプルです。論文によると、地面側の面は、アルミ製の取り付け具で地面と接続され、地表からの熱を確実に吸収できるようにしました。
一方、夜空に面している側は、深宇宙との熱のやり取りを効率化するために、大気の吸収を受けにくい8~13μmの赤外線を効率よく放出できる特殊な塗料で覆われています。これにより、地表の熱が大気の窓を通り抜けて宇宙へ逃げ(放射)、極低温の深宇宙とつながることで冷たさを確保できるようになったそうです。
Image: UC Davis College of Engineering音声トラックで日本語を選択すると、動画を日本語で見ることができます。Munday氏は、このエンジンを紹介する動画(音声トラックで日本語を選択すると日本語で見ることができます)の中で、次のように説明しています。
この技術が他と異なる点は、多くのエンジンが温度差を利用しているものの、通常は近接したもの同士の熱を対象としていることです。
しかし、私たちの場合、近くに暖かい地球はありますが、宇宙の冷たい部分はとてつもなく遠くにあります。私たちが成し遂げた飛躍は、たとえ二つの対象が遠く離れていても、放射の力で結合させ、熱をやり取りできる点です。
小さなエンジンに宇宙のパワー
Munday氏とDeppe氏は、1年以上にわたって研究室の外に区画をつくって装置の実験を行ないました。その結果、日没後には、四角いアンテナの両面(暖かい側と冷たい側)の間に10°Cもの温度差が生まれることを発見しました。
論文によると、この温度差(熱勾配)は、1平方メートルあたり最低400ミリワットの動力を生み出すのに十分で、ファンや小型の電動モーターを直接駆動できるほどのエネルギー量に相当するとのこと。
しかし、研究者たちが最も将来性を感じたのは、小さな温室の中で行なった実験でした。この実験では、エンジンの部品(フライホイール)を特注のファンの羽根に交換した装置が、夜間に温室の換気をできるかどうかを観察しました。
驚いたことに、このファンは温室の温度を調整するのに十分な空気の循環を提供できることがわかりました。
論文では、これはまだ最初の試作品であるため、改良を続け、技術の規模を大きくしていけば、「完全に受動的(電力や燃料が不要)な方法で、公共の場の健康的な空気を確保したり、温室や栽培施設で湿度や二酸化炭素レベルを調整して、植物の成長を促進したりできるでしょう」と述べています。
この設計について、カリフォルニア大学デービス校はすでに暫定特許を申請しているとのことです。
論文の結論部分に、「この技術は、夜間に再生可能エネルギーを生み出す革新的かつ規模を拡大しやすいアプローチを提供するだけでなく、同時に気候変動の緩和にも貢献するものとなります」とあるのが気になるところ。
いまのところ「ポテンシャルとして1平方メートルあたり6ワット以上の可能性」と、夜間に太陽光を代替えする規模にはほど遠い感じですけど、将来性に期待です。