「粒子衝突」は朝飯前。ブラックホールが粒子加速器を軽々超える能力を発揮
やっぱり宇宙は壮大だ…。
世界中の権威が集まり、粒子加速器を使った実験で何十年もかけて高エネルギーの「粒子衝突」を実現しようとしていますが、どうやらブラックホールは、自然のうちにすでに実現しているようです。
ブラックホール、「粒子衝突」を実現
2025年6月5日にジョンズ・ホプキンス大学の研究者グループが『Physical Review Letters』で公開した論文で、ブラックホールは天然の「粒子加速器」のような役割を果たしていることが判明しました。またCERNが建設した「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」と同等、もしくはそれ以上の能力を発揮しているとのこと。
この発見は、基礎物理学の研究予算がどんどん縮小しているアメリカで、粒子衝突の実現がはるか未来に先送りになってしまう可能性が高まっていることを考えると、特に重要な出来事と言えます。
米Gizmodoの取材に際し、論文の主著者であるAndrew Mummery氏はこう語っています。
10年ほど前から、超大な質量を持つブラックホールがこうした現象を生み出しているのではないか、と専門家たちの間で議論されてきました。
今回の研究ではこの理論の正当性を立証するために、ブラックホールによる粒子加速器のようなふるまいを引き起こす自然条件を探ることに挑戦したんです。
この現象の仕組みが明らかになれば、正体不明のダークマターやその他の粒子に関する研究に、新たな道が拓ける可能性があるかもしれません。
論文の共著者であるJoseph Silk氏は、「まだ何の立証もできていないが、LHCのような粒子加速器でダークマターを生み出せる可能性があるという大きな希望を抱いている」と語っています。
だからこそ、はるかに強力な次世代型の超加速器を建設しようという議論が進んでいるんです。
300億ドルもの投資を行ない、40年の歳月をかけてその加速器を完成させようと、我々が奮闘している間に、自然界ではすでに、超大質量のブラックホールがその方法を編み出しているのかもしれません。
質量の大きなブラックホールはとてつもなく高速で回転することによって、猛烈な勢いでプラズマのジェットを噴出しています。今回の研究では、この回転の側で起きるガスの流れが粒子を巻き込み、粒子加速器で起きるような粒子衝突を引き起こす様子をシミュレーションしたのだとか。
Silk氏によれば、「こうした衝突で生まれたいくつかの粒子はブラックホールの穴に落ちていき、消滅する」ようですが、そのエネルギーや運動量によって一部が外に漏れ出すんだそう。その漏れ出した粒子が前例のないほどの高エネルギーにまで加速するといいます。
こうした超高エネルギーの粒子は、理論上宇宙空間を突き抜けて、地球にまで届き、南極にあるIceCubeや地中海の海底にあるKM3NeT望遠鏡といった観測装置で検出されるケースもあります。
すでに「ニュートリノ」と呼ばれる粒子が捉えられており、今年初めにはKM3NeT望遠鏡の調査員の手によって、観測史上最も高エネルギーのニュートリノが検出されています。この発見は、一瞬で消えてしまう超パワフルな粒子のふるまいを理解するうえで、とても大きな可能性を秘めているのだとか。
ブラックホールから何が放出されているのかを突き止めることができれば、従来の粒子加速器に代わる、低コストかつ自然発生的な手段を導き出せるようになるかも。もっと言えば、ダークマターが何なのかもわかるようになるかもしれません。
未知なるブラックホールの謎を解き明かすことは、ロマンにあふれてますね!