北村匠海「あんぱん」は役者人生約20年の総決算、今田美桜と歩んだ1年間の軌跡を語る
連続テレビ小説「あんぱん」で柳井嵩を演じる北村匠海(DISH//)の取材会が、去る8月21日に東京・NHK放送センター内で行われた。翌日にクランクアップを控えた北村は、主人公のぶ役の今田美桜と走り切った約1年間の撮影を振り返り、彼女への信頼感を語っていく。さらに初の朝ドラ出演を経て実感した成長や、高橋文哉、妻夫木聡、大森元貴(Mrs. GREEN APPLE)とのコミュニケーションについても。来年、役者人生20周年を迎える彼が、改めて本作に参加した意義を明かした。
やなせさんは「あんぱん」全体を包み込む象徴
先頃放送された第120回では、嵩が「アンパンマン」にたどり着く姿が描かれた。北村は「(撮影中の)1年間撮影してきましたが、ようやくここに到着したという気持ち」と切り出し、「撮影当初はとにかくやなせ(たかし)さんの模倣をしようという思いでしたが、嵩はやなせさん本人と比べると暗い人物。だから主体性をどこに置くのかをずっと考えていました」と回想。「最終的に、やなせさんが『あんぱん』全体を包み込む象徴なんだというところに行き着きました」と伝える。
続けて北村は「柳井嵩として『アンパンマン』を観ると、ここまでの苦しさや愛しさ、今まで出会ってきた人たちのいろいろな顔が浮かびました。でもやっぱり一番感じたのは、のぶちゃんの存在です」と吐露。のぶと嵩が幼少期に出会っていたという設定がドラマオリジナルであることに触れ、「だから実際にやなせ(たかし)さんと(小松)暢さんが過ごした時間より、のぶと嵩の時間のほうが長いんですよね。嵩は常に尻をたたかれながら進んできたけど、時には自分が前に立つ瞬間があったり、どうしようもなく落ち込んでいるのぶを横で見つめることもあったり。2人で歩むようになった日々の軌跡を『アンパンマン』に感じる。これはきっと柳井嵩オリジナルの感情なのかもしれない」と話した。
今田美桜と前室に居続けた撮影期間は「“支え合う”という言葉が一番正しかったです」
今田との共演について聞かれると、「“支え合う”という言葉が一番正しかったです」と答える北村。「支える立場として1年間いろいろな出来事を通して、今田さんが何度も立ち止まったり後ろを振り返る瞬間を近くで見てきた。そのたびに、のぶと嵩の思いや2人の道筋を言葉にして確かめ合いました。芝居場から離れたときも、脚本だったり『今のシーンは……』という話をしてましたね」と振り返る。中でも今田の“責任感の強さ”を強く実感したそうで、「のぶとも通ずるもので、常に気丈で現場を明るく照らしてくれる“ひまわり”のような存在であることは、今まで共演してきた作品からも変わらない印象でした」とコメント。「でもちゃんと彼女の中にも迷いや悩み、悔しさがあった」とも言い、「役者の世界っていうのは孤独を感じやすいから、誰かと言葉を交わして1個1個消化していかないといけないんです。僕にもその瞬間がいっぱいありましたから、松葉杖のように支え合いながらここまでやってきました。何があっても前を向いてるのはのぶ(今田)だったなという気がしています」と信頼感をのぞかせた。
「あんぱん」を通して一貫していた習慣を質問すると、北村は「1度も楽屋に帰りませんでした」と打ち明け、「気付けば今田さんも帰らなくなっていて、前室(スタジオ付近の待機スペース)でスタッフ・キャストさんと会話しながら現場を作っていったような気がします。彼女が自然に足並みを合わせてくれたのかなと思いました」と笑顔に。「最初はすごく距離があったのぶと嵩が、今や一緒に同じ家で生活しているような……」とも説明し、「『今日、雨すごいらしいよ』など、なんでもない会話をして、そこに距離感を生ませてはいけないと意識していました。そこに自然と原(菜乃華)さんや河合(優実)さん、(高橋)文哉くんやたくちゃん(いせたくや役の大森元貴)など同世代のキャストが集まってくれて、たまに“絵しりとり”をすることもあったり(笑)。『僕がやったことはきっと間違いではなかったのかもしれない』と実感しました」と晴れやかに語った。
嵩としてしゃべっているほうがニュートラルになってくる
さらに北村は、“ネガティブ思考”な嵩役として過ごした月日の長さに触れ「嵩を演じてからは、めちゃめちゃ落ち込むようにはなりましたね(笑)。振り返れば学生時代は正直ネガティブ人間だったので、そこに立ち返る感覚があったのかもしれない」と述懐。初挑戦の朝ドラで得た経験を「1日通して芝居をしている時間が長いので、嵩としてしゃべっているほうが自分にとってニュートラルな感じに思えてくるんです。その感覚は過去にはなかった」「15分に起承転結を付け、さらに1週間という中での大きな起承転結も必要になってくる。その難しさも初めて知った」と話していく。今までは撮影現場を“ドライに見る”感覚があったそうで、「役というものを客観的に捉えることを意識していたのですが、1年間やっているとどうしても主観になってしまうことがあった。そういう瞬間にこそ、すごくいいシーンができあがったりするんです」と語りかけた。
懐いてくれた高橋文哉、横から救い上げてくださる妻夫木聡
嵩の親友・辛島健太郎役を演じたのは高橋文哉。彼の印象を尋ねられると、「文哉くんとはスタイリストさんが同じなんです」とほほえみ、「俳優仲間から『文哉くんは輝きすぎてるから、まぶしくて匠海とはタイプが違うと思う』と言われた(笑)。実際に会ったとき、確かに『まぶしいな』と感じましたね」と告白。「でもDISH//のライブを観てくれたことを期に、懐いてくれて……」と切り出すと、「今では本当によき友達を持ったなあと思います。お芝居も素敵でバランス感覚もあり、技術もある。これから大きな作品を背負うことがどんどん増えてくる役者です」と評し、「だから、迷ったときに彼が立ち返れる場所でいようと。文哉くんにとってふがいない先輩ではいたくないなと思います」と関係性を明かした。
そして嵩の人生にとって重要な支えとなったのが、妻夫木聡が扮した八木信之介だ。妻夫木とは2008年の映画「ブタがいた教室」以来の共演だったという北村は「僕が人生で初めて会ったいわゆる芸能人が妻夫木さん。『ブタがいた教室』では幼い自分に“生きること”について教えていただき、『あんぱん』でも戦争シーンで飢餓や死というものを感じる空間を一緒に過ごした。妻夫木さんは嵩としてどう言葉を発するか迷ったときに、横から救い上げてくださる」と尊敬心をのぞかせる。「嵩は八木さんから幾度となく『お前、これやってみろ』と言われるんですが、妻夫木さん自身は演じつつも『それを繰り返すことで嵩の主体性がなくなっていくのでは』と懸念されていたんです。だから2人で『嵩から能動的な思いが湧くような物語にしなければ』という話をしました。『あんぱん』で再びご一緒できて本当によかったです」と現場でのコミュニケーションの様子を報告した。
ミセス大森との“セッション”は
嵩は作詞家としての一面を持つが、北村も4人組バンド・DISH//のボーカルとして活動している。「本作が歌手活動にどう影響を与えたか?」と質問が飛ぶと、北村は「価値観や哲学の部分で近いものがあるというのを、やなせさんの言葉を見ていて感じました」とまず一言。「アンパンマンのマーチ」を例に挙げ、「子供向けの明るい歌ですが、命にまつわる深い歌詞があったりもします。僕も歌詞を書いていて周囲に『暗すぎる』と言われることがあるけれど、ネガティブな面を書かないことにはポジティブな感情は伝わらないと思っています。“光と影”でいう影の部分を歌詞で表現したいという思いを、やなせさんが肯定してくださっている感覚があった」と言葉を紡いだ。
北村と同じく歌手活動にも軸を置いているのが、いせたくや役の大森元貴だ。彼の印象に話が及ぶと、北村は「元貴くんがオールアップしたときに『本当に才能と努力の化身でした』という言葉を贈りました。彼は感覚や天性で演技していくんですが、実はちゃんと頭で考えているから理論に裏付けされている。まるで楽譜から音楽を奏でるような芝居をするんです」と演技を絶賛。「僕は脚本に書かれていることや句読点などを自然と意識してしまうんですけど、その考えを一度全部ひっくり返し、現場の空気感を生かして作っていくことで、嵩らしいポップな瞬間がたくさん生まれたような気がしています」と大森との“セッション”を振り返る。
加えて大森との出会いを「仲間を見つけた感覚にも近い」と思い返す北村は「元貴くんは撮影中に『尊敬してます』と言ってくれるので、『僕もあなたのことを“大尊敬”してます』と返す。そういうことを言い合える仲間っていうのは見つけようと思っても見つかるものじゃない」と頬をゆるませる。「彼の才能には嫉妬もしましたし、役者を続けてほしいと思いますね」と語った。
役者人生約20年の総決算「僕にとって大切な財産になりました」
「本作に参加した意義」に話が移ると、北村は「のぶと嵩が歩んできた道は『ごはんがおいしいね』っていう普通の毎日で、この温かさを届けられただけでも『あんぱん』という作品が生まれた理由があったのではないかなと思います」と口にする。やなせが作詞した「アンパンマンのマーチ」の「なんのために生まれて なにをして生きるのか」を引用し、「これはエンタメ業界に課せられている言葉である気がします。作品1つひとつに対して『自分は何を残し、何を伝えたいのか』とか『この作品に僕が選ばれた理由』をしっかり持ち続けないと、時間は過ぎていくし、世の中はどんどん変わっていく。役者としてどう向き合うかを突きつけられているような気持ちです」と言葉に力を込める。
最後に北村は「『あんぱん』の撮影において、“出会い直す”という日々が僕の中ですごく大きかったんです」と述べ、第25週で嵩が手がけるミュージカル「怪傑アンパンマン」に出演する古川マモル役の西山潤との共演に思いを馳せていく。「彼は僕と同じ事務所。かつて幼少期、同じ作品に出演しました。子役時代から一緒にやってきた彼と、また同じ作品に出演するということが感慨深かった」と目を細める。そして「(『あんぱん』の主題歌を担当する)RADWIMPSさんとも子供の頃にMV撮影でご一緒して以来の“出会い直し”をしたわけですし、妻夫木さんや今田さんらもそう。僕は来年で役者人生20周年になりますけど、その総決算みたいな感覚があります。改めて僕にとって大切な財産になりました」と締め括った。
「あんぱん」はNHK総合ほかで放送中。
連続テレビ小説「あんぱん」放送情報
放送局・放送日時
NHK総合 毎週月曜~土曜 8:00~ / 12:45~(再放送)※土曜は1週間の振り返りNHK BS、NHK BSプレミアム4K 毎週月曜~金曜 7:30~
スタッフ・キャスト
作:中園ミホ音楽:井筒昭雄主題歌:RADWIMPS「賜物」語り:林田理沙
出演:今田美桜 / 北村匠海 / 江口のりこ / 河合優実 / 原菜乃華 / 高橋文哉 / 古川琴音 / 眞栄田郷敦 / 大森元貴 / 妻夫木聡 / 阿部サダヲ / 松嶋菜々子 ほか
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アンパン
2025年3月31日(月)8:00~(NHK総合) / 全26週(130回) / 連続テレビ小説
解説
第112作目の連続テレビ小説。やなせたかし、小松暢をモデルに、何者でもなかった2人があらゆる荒波を乗り越え、“逆転しない正義”を体現した「アンパンマン」にたどり着くまでを描く。主人公・朝田のぶを演じるのは今田美桜。のぶの夫となる柳井嵩に北村匠海が扮する。脚本を手がけるのは「花子とアン」の中園ミホ。
キャスト
朝田のぶ:今田美桜 柳井嵩:北村匠海 朝田羽多子:江口のりこ 朝田蘭子:河合優実 朝田メイコ:原菜乃華 辛島健太郎:高橋文哉 中尾星子:古川琴音 手嶌治虫:眞栄田郷敦 いせたくや:大森元貴 八木信之介:妻夫木聡 屋村草吉:阿部サダヲ 柳井登美子:松嶋菜々子 柳井千代子:戸田菜穂 薪鉄子:戸田恵子 朝田くら:浅田美代子 朝田釜次:吉田鋼太郎 柳井千尋:中沢元紀 柳井清:二宮和也 朝田結太郎:加瀬亮 原豪:細田佳央太 柳井寛:竹野内豊 宇戸しん:瞳水ひまり 小川うさ子:志田彩良 山下実美:ソニン 黒井雪子:瀧内公美 座間晴斗:山寺宏一 東海林明:津田健次郎 小田琴子:鳴海唯 岩清水信司:倉悠貴 白鳥玉恵:久保史緒里 六原永輔:藤堂日向 語り:林田理沙
スタッフ
作:中園ミホ 演出:柳川強 / 橋爪紳一朗 / 野口雄大 / 佐原裕貴 / 尾崎達哉 音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS 「賜物」