米政府、アッバス議長の国連総会出席を阻止 パレスチナ自治政府へのビザ制限

画像提供, Reuters

画像説明, パレスチナ自治政府のアッバス議長は9月下旬からの国連総会に出席するため、米ニューヨークを訪れる予定だった(写真は、2023年9月の国連総会一般討論で演説するアッバス議長)

9月下旬から米ニューヨークで開かれる国連総会を前に、米国務省は29日、パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長をはじめ、パレスチナ自治政府やパレスチナ解放機構(PLO)の関係者約80人に対し、ビザ(査証)の発給を制限する方針を発表した。議長らは、国連総会の一般討論に出席する予定だった。

マルコ・ルビオ国務長官は、アッバス議長らが和平努力を妨害し、「仮定上のパレスチナ国家の一方的な承認」を求めていると非難した。

アメリカは通常、国連本部を訪れる各国の政府関係者の渡航を支援するものとされているため、今回の措置は異例。国際社会では現在、フランスを筆頭に、パレスチナ国家承認の動きが進んでいる。トランプ米政権はパレスチナ国家承認に反対している。

パレスチナ自治政府のリアド・マンスール国連大使は、アッバス議長が代表団の団長としてニューヨークを訪れ、各国首脳が集まる国連総会の一般討論に出席する予定だったと述べていた。

しかし、国務省の当局者は後に、アッバス議長のほか、PLOおよびパレスチナ自治政府の関係者約80人を、査証の拒否および取り消しの対象とすると発表。ルビオ長官は、すでにニューヨークにいるパレスチナ国連代表部のパレスチナ代表者は、国連本部協定に基づき総会に出席できると述べた。

ただし、アメリカによる今回の査証の発行拒否や取り消しが、国連本部協定に準じているかは不明。国連本部をニューヨークに設置する際にアメリカと国連が結んだこの協定は、国連が招いた人や加盟国の代表団や国連職員などの訪問について、相手国政府とアメリカ政府との関係にかかわらず、そのニューヨーク訪問を妨げてはならないと定めている。

アッバス氏の事務所は、「国際法および国連本部協定に明確に反するもので、特にパレスチナ国家が国連のオブザーバー加盟国であることを踏まえると、容認できない」と述べ、アメリカに決定の撤回を求めている。

イスラエルのギデオン・サール外相は、国務省の決定を歓迎した。

パレスチナでは、イスラム組織ハマスが長年にわたりガザ地区を支配する一方、対立するPLO主流派のファタハがヨルダン川西岸地区を統治している。ただし、ファタハを中心とするパレスチナ自治政府は、西岸地区の統治に苦労し、対立勢力やユダヤ人入植地の拡大に直面している。

アッバス議長は、国際的な場でパレスチナ人を代表する包括的組織PLOの議長も務めている。1964年設立のPLOは1974年から国連でオブザーバー資格を持ち、会合には参加できるが、決議への投票権はない。PLOとイスラエルのオスロ合意(1993年)に基づき、パレスチナ自治政府は将来的なパレスチナ人国家の枠組みになるものとして1994年に設立された。

オスロ合意を通じてイスラエル・パレスチナ紛争の解決策とされてきた2国家解決案は、ヨルダン川西岸地区とガザ地区に独立したパレスチナ国家を樹立し、イスラエルと並存させ、東エルサレムをその首都とするもの。

しかし、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、この2国家解決案を一貫して拒否し続け、パレスチナ国家の承認は「ハマスの凶悪なテロ行為への報酬」に等しいと主張している。

ハマスが2023年10月7日に南部イスラエルを奇襲し、約1200人を殺害、251人を人質にしたことを受け、イスラエル軍はガザで軍事作戦を開始した。ハマスが運営する保健省によると、ガザではそれ以降、6万3000人以上が殺害されている。

ルビオ長官は29日の声明で、PLOとパレスチナ自治政府が「和平のパートナーと見なされるためには、10月7日の虐殺を含むテロ行為を一貫して否定し、教育におけるテロ扇動を終わらせなくてはならない」と述べた。これはアメリカの法律が定めることで、PLOも順守を約束していると、ルビオ氏は指摘した。

また、イスラエルを国際刑事裁判所や国際司法裁判所などに次々と提訴することで交渉を回避しようとしたり、「想定上のパレスチナ国家を一方的に承認させようとする取り組み」をパレスチナ自治政府は終わらせなくてはならないとも、ルビオ氏は主張。「その両方の動きが、ハマスの人質解放拒否とガザ和平協議の破綻に、具体的につながった」と批判した。

国連のステファン・デュジャリック報道官はアッバス議長らのビザについて米国務省と協議する方針を示し、問題の解決を望んでいると述べた。「すべての加盟国およびオブザーバーが(国連総会に)出席するのは重要なことだ。特に今回は、総会の冒頭で、フランスとサウジアラビアが2国家解決に関する会合を主催するだけに、全加盟国とオブザーバーの出席はなおさら重要だ」と述べた。

ただし、国境が確定せず、ヨルダン川西岸の広い地域が国際法上違法とされるイスラエルの入植者によって支配されているほか、イスラエルではガザ入植の呼びかけもされているだけに、パレスチナ国家の承認が現地の状況を大きく変えることはないとみられている。

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