トップアスリートの55%がビタミンD不足で握力との関連を示唆 屋内競技やジュニア層ではより深刻 ドイツの調査

トップアスリートの過半数がビタミンD不足であり、屋内競技の選手はよりその割合が高く、ビタミンDレベルが低いほど握力が低いという有意な関連のあることが、ドイツから報告された。著者らは、サプリメントの利用を含む個別化された栄養戦略の必要性を指摘している。

アスリートのビタミンD不足の影響

脂溶性の微量栄養素であるビタミンDは、セコステロイドホルモン(ステロイド骨格の一部が開裂〈seco〉した構造)であり、骨代謝、免疫機能、筋肉のパフォーマンスなどに重要な役割を果たしている。ビタミンDの不足は疲労骨折や感染症、筋損傷のリスク上昇につながることが示唆されており、アスリートのキャリアにマイナスに働く可能性が指摘されている。ただしアスリートの筋力とビタミンDレベルとの関連はまだ十分検討されていない。これを背景として本論文の著者らは、ドイツのトップアスリートのビタミンDの充足状況を把握するとともに、ビタミンDレベルが全身の筋力の代替指標である握力と関連しているか、およびビタミンD不足の関連因子はなにかを調査した。

なお、ビタミンD不足の定義に関して、複数の組織が異なる閾値を提唱しており、さらに地理的環境(主として緯度)や分析方法が、定義の標準化を困難にしている。本研究では血清中の25-ヒドロキシビタミンD[25(OH)D]濃度が20ng/mL(50nmol/L)未満の場合を「欠乏」、20~30ng/mL(50~75nmol/L)の場合を「不足」、30ng/mL(75nmol/L)以上の場合を「充足」と分類している。

ドイツの代表チームに所属しているアスリート474人を対象に調査

この研究は、ドイツの代表チームに所属している10種類の競技(体操、近代五種、卓球、バレーボールなど、すべてオリンピック競技)アスリート、計474人を対象に実施された。対象者のおもな特徴は、平均年齢19.3歳(範囲13~39)、女性48.73%、屋内競技71.73%など。

血清25(OH)D(以下、ビタミンD)レベルや握力の測定に加えて、3日間の食事記録を基にビタミンD摂取量を算出。また、ビタミンDの代謝にかかわる17種類の一塩基多型(single nucleotide polymorphism;SNP)の有無を判定した。なお、ビタミンDレベル測定の時期は、夏季(4~9月)が59.07%、冬季(10~3月)が40.93%だった。

4割がビタミンD不足、16%は欠乏で、ジュニア層、屋内競技でより低値

対象全体のビタミンDの平均は30.98±13.43ng/mLだった。55.5%はビタミンD不足または欠乏に該当し、39.5%が不足、16%が欠乏に該当した。

次に、性別、年齢層(18歳未満/以上)、屋内競技/屋外競技とビタミンレベルとの関連を検討。

その結果、年齢層についてはシニアアスリートのほうがジュニアアスリートより高かった(34.39±14.76ng/mL vs 27.46±10.84ng/mL、p<0.001)。また、屋外競技のアスリートは屋内競技のアスリートよりも高かった(35.15±16.10ng>

食事記録のデータを得られたのは226人だった。その記録から推計された、食事からのビタミンD摂取量は平均2.6±2.55μg/日だった。226人のうち38人(女性21人)はビタミンDサプリメントを摂取しており、それを加えると10.8±23.7μg/日となった。

226人中、食事とサプリメントを通じてドイツ栄養学会が推奨する1日あたりのビタミンD摂取量である20μgを満たしていたのは、わずか34人(15.0%)だった。

ビタミンDレベルが低い選手は握力が弱い

握力が測定されたのは404人だった。解析の結果、握力はビタミンDレベルと有意に正相関していた(β=0.01、p<0.001)。具体的には、ビタミンdレベルが1ng>

上記のほかに、一塩基多型(SNP)との関連の解析では、AC遺伝子型(β=7.46)やCC遺伝子型(β=6.23)が、ビタミンDレベルと有意に関連していた。

著者らは本研究で明らかになったことを、「ドイツのトップアスリートにおいて、ビタミンD欠乏または不足の有病率が55.5%と非常に高いことが強調される。またビタミンDレベルと握力の間に観察された正の相関関係は、ビタミンD欠乏/不足に的を絞った介入の必要性を示している。とくに、シニアアスリートに比較しジュニアアスリートで不足傾向が顕著であり、また、屋内競技のアスリートで低値だった」と総括。そのうえで、「ビタミンD不足の有病率が高いことを踏まえ、今後の研究ではトップアスリートにおけるビタミンD不足のリスクを軽減するための包括的な戦略の開発に焦点を当てるべきであり、その戦略にはビタミンDの重要性を強調した栄養教育やサプリメントプログラムなどが挙げられる」と提案している。

文献情報

原題のタイトルは、「Vitamin D status and its determinants in German elite athletes」。〔Eur J Appl Physiol. 2025 Jan 4〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部

0.001)。具体的には、ビタミンdレベルが1ng>0.001)。また、屋外競技のアスリートは屋内競技のアスリートよりも高かった(35.15±16.10ng>

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塩味に甘味を加えた、いわゆる「甘じょっぱい」食品では、高濃度塩味による忌避性が低下することがわかった。とくにCKD患者はもともと高濃度塩味への忌避反応が低下しており、塩味に甘味を加えると、ほぼ完全に忌避反応が消失するという。京都府立医科大学とハウス食品グループ本社株式会社の研究グループの成果であり、「Scientific Reports」に論文が掲載され、プレスリリースが発表された。著者らは、甘味の摂取が塩味の摂取過剰にも関連している可能性があり、今後の減塩指導にも役立つのではないかとしている。

研究の背景:味覚の相互作用から、高濃度塩味に対する忌避反応低下要因を検討

近年の高齢化に伴い、慢性腎臓病や慢性心不全など臓器不全患者が増加している。高血圧はこれらの疾患の主要因であり、適切な血圧管理と塩分制限(1日6g以下)は腎疾患・心血管疾患予防に不可欠。しかし、多くの患者で推奨レベルの塩分制限は達成されていない。

塩分制限は一般的に、人は塩分を好むという前提に基づいている。しかし、これまでの研究から、哺乳類が低濃度の塩を好む一方で、高濃度の塩には嫌悪反応を示すことが報告されている。

同研究グループは最近、塩化ナトリウムを含浸させた濾紙を使用して、高濃度塩味に対する忌避反応(塩味を嫌う反応)を定量化する簡便な方法を確立し、健常者および慢性腎臓病(CKD)患者を対象に調査した。その結果、CKD患者では塩味を認識しづらく、高濃度塩味に対する忌避反応が低下していることがわかった。これは、CKD患者が高濃度塩味を不快だと認識できず、減塩をさらに難しくしている可能性を示唆している。

また、「味覚相互作用」として知られる現象がある。これは、異なる味覚が同時に刺激されることで(例えば、スイカに塩、レモンに塩、コーヒーに砂糖など)、味の強度が増強または抑制される現象を指す(図1)。味覚相互作用の研究から、甘味が酸味や塩味を抑制することが示されており、特定の味覚が他の味覚刺激によって、どの程度増強または抑制されるかも明らかにされてきている。しかし、味覚の相互作用によって、高濃度味覚刺激への忌避反応にどのような影響を与えるのかは知られていない。

図1 味覚相互作用が塩味忌避に与える影響は?

(出典:京都府立医科大学)

本研究では、味覚の相互作用に着目し、高濃度塩味に対する忌避反応を低下させる要因を検討した。具体的には、健常者・CKD患者の両方を対象に、塩味に甘味を加えることで、塩味に対する忌避性が低下するかどうかを調べた。また、塩味以外の酸味・苦味においても、甘味を加えることによる忌避性の変化を調べた。

研究の内容:高濃度の塩味でも甘味を加えると忌避反応が生じにくい

健常者では、甘味添加により塩味忌避性が変化

はじめに、健常者・CKD患者で、異なる濃度の塩味、酸味、苦味に対する忌避反応を調べた。濾紙を用いた味覚試験を応用し、各種味覚の認知機能とともに高濃度刺激に対する忌避反応を検討。濾紙に種々の濃度の食塩水(塩味)、クエン酸水(酸味)、キニーネ水(苦味)、ショ糖水(甘味)を一滴垂らし、口腔内で濾紙を3秒間保持し、味覚を正確に同定できるか、その刺激が「嫌い」、「嫌いじゃない」を選択してもらい、味覚の認知、忌避反応を定量化した。甘味添加による忌避性への影響を評価するために、塩味・酸味・苦味の各試薬に80%ショ糖水を等量添加した試薬でも、同様の検査を行った。

その結果、健常者では5%食塩水から忌避性が現れ、濃度依存的に忌避性を示す割合が増加した。甘味を加えることで塩味に対する忌避反応は低下(塩味に対する忌避反応を示す割合は、5%食塩水で32%から17%へ、10%食塩水で45%から25%へ減少)した(図2)。

図2 健常者では、甘味を加えることにより、高濃度塩味に対する忌避反応が低下した

(出典:京都府立医科大学)

酸味や苦味においても、濃度が上昇するにつれて忌避性を示す割合が増加し、とくに苦味で顕著だった。塩味と同様に、甘味を加えたところ酸味への忌避反応は低下したが、苦味では変化に乏しく、強い忌避反応が維持された。

慢性腎臓病(CKD)患者は甘味を加えると高濃度塩味への忌避反応がほぼ消失

CKD患者では、健常者と比較すると、高濃度塩味への忌避反応が低下しており、10%食塩水に忌避反応を示したCKD患者の割合は、わずか15.2%だった。健常者と同様に、CKD患者においても甘味を加えることにより、高濃度の塩味への忌避反応は低下した。10%および20%食塩水で忌避反応を示した割合は、それぞれ15.2%から3.0%へ、および21.2%から7.6%へと低下した。この結果は、甘味を加えることにより、高濃度塩味に対する忌避反応がほぼ消失していることを示す(図3)。

図3 慢性腎不全患者では、甘味を加えることにより、高濃度塩味に対する忌避性がほぼ消失した

(出典:京都府立医科大学)

酸味については、甘味添加で忌避反応に変化を示さなかった。これは、健常者と比較し、CKD患者では、酸味を認知する機能が低下しており、そもそも忌避反応を示している割合が少ないことに由来していると考えられる。苦味については健常者と同様に、甘味添加による変化は認めなかった。

まとめと今後の展開:これまでの減塩指導の盲点とも言える知見

研究グループでは、以前の研究で、CKD患者において高濃度塩味刺激に対する忌避反応が低下していることを見いだしていた。しかし、人々が食事をする際には単一の味を感じるのではなく、種々の濃度の複数の味覚刺激物質の総和として味を認識する。そのため、味覚の相互作用による味覚への認識の変化を評価することが重要。

本研究では、哺乳類が最も好む味である甘味を加えることで、各種味覚への忌避反応の変化について検討した。その結果、高濃度塩味に対する忌避反応は、甘味を加えることで低下することがわかった。とくにCKD患者では、もともと高濃度塩味に対する忌避性が低下しているが、甘味を加えることでその忌避反応はほぼ完全に消失した。

このことは、甘味を含む食事では、高濃度塩味に対し通常以上に忌避反応が生じにくく、無意識に塩分摂取過剰を助長してしまう可能性を示唆している。食事の中でも、甘味を控えることで塩味への感受性を高め、減塩行動に繋がるのではないかと考えられる。この甘味を加えることによる変化が生じる要因が明らかになれば、減塩指導をするうえで、さらに有用な手立てになると思われる(図4)。

図4 当研究から導かれる今後の展開 甘味を控えることで、本来の塩分濃度を認識する

(出典:京都府立医科大学)

プレスリリース

【論文掲載】食塩摂取の新たな盲点:甘味が塩辛さの感覚を鈍らせる-慢性腎臓病患者の味覚変化に加え、甘じょっぱい食品が塩分摂取量に与える影響を解明-(京都府立医科大学)

文献情報

原題のタイトルは、「The addition of sweetness reduces aversion to high salt concentrations in patients with chronic kidney disease」。〔Sci Rep. 2025 Jul 7;15(1):24322〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部


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4万人以上の日本人を対象とした研究から、同じ日本人集団内にも明確な遺伝クラスタが存在していて、野菜の摂取頻度や牛乳を飲む習慣、睡眠の質などが、遺伝クラスタごとに異なる傾向があることが明らかになった。東京大学医科学研究所などの研究グループの研究成果であり、「Communications Biology」に論文が掲載され、プレスリリースが発表された。分類された遺伝クラスタは、祖先の地理的ルーツと関連しているだけでなく、HDLコレステロールや肝機能、血糖コントロールなどの特定の形質に関わる遺伝子群の違いによって特徴付けられるという。

図1 日本人集団に潜む遺伝構造と生活習慣・食事の関係

(出典:東京大学医科学研究所)

研究の概要:均一とされる日本人にも遺伝クラスタがあり健康リスクや生活習慣に関与

東京大学医科学研究所などの研究グループは、4万人以上の大規模遺伝子データを解析し、日本人集団内の微細な遺伝構造と食習慣・生活習慣との関連を明らかにした。本研究では、ゲノム研究プロジェクト「MYCODE Research」の下で収集された遺伝子データを対象に、PCA※1、UMAP※2、DBSCAN※3といった機械学習手法を用いて微細な遺伝構造の抽出を試みた。

※1 MYCODE Research:

その結果、比較的均一と言われている日本人集団内にも複数の確かな遺伝クラスタが存在し、これらは祖先の地理的ルーツと関連していることが示された。また、分類された遺伝クラスタは、HDLコレステロールや肝機能、血糖コントロールなどの特定の形質に関わる遺伝子群に有意な違いがあること、さらには、野菜や牛乳の摂取頻度、睡眠の質などの食習慣や健康行動に違いがあることが示された(図2)。

図2 研究の全体概要

(出典:東京大学医科学研究所)

今回の成果は、ゲノム解析と疫学解析を統合することで、遺伝的体質と生活環境が複雑に影響し合うことを体系的に明らかにしたものであり、今後の公衆衛生研究、ゲノム情報に基づく個別化予防や精密医療の発展に貢献すると期待される。

研究の背景:日本人内での遺伝構造の違いは? その生活習慣への影響は?

近年、個人の遺伝子データを詳しく分析し、病気の予防や健康管理に役立てる取り組みが広がっている。とくに、機械学習や人工知能による新しい解析技術の発展により、疾患などの個人の属性を予め与えることなく膨大なデータの中から類似性を見つけ出す「教師なし学習」※4が、新たな特徴を共有する集団の発見において注目されている。

これまで日本人は遺伝的に均質な集団と考えられてきたが、最新の機械学習解析により、同じ集団内にもわずかな遺伝的違いが存在することがわかってきた。こうした違いは、地域ごとの祖先構成や歴史的移動と関わっている可能性があり、体質や病気のかかりやすさにも影響を与えると考えられている。しかし、こうした微細な遺伝構造と、日々の食習慣や生活習慣との関連性は十分に解明されていなかった。

研究内容と成果:「罪悪感を感じる傾向」といった心理的特徴との関連も明らかに

本研究では、(株)DeNAライフサイエンスが提供した個人向け遺伝子検査サービス「MYCODE」を利用した会員のうち、研究への参加について同意された会員4万人以上の日本人の大規模遺伝子データを対象に、PCA、UMAP、DBSCANといった機械学習手法を組み合わせ、日本人集団内の微細な遺伝構造を解析した(図3)。

図3 機械学習による日本人集団内の微細遺伝構造の可視化

(出典:東京大学医科学研究所)

解析の結果、遺伝的違いによって解析対象の集団は六つの遺伝クラスタに分かれた。中でもクラスタ2(赤、15.2%)とクラスタ3(緑、11.2%)は最も異なる特徴を示し、クラスタ1(青、54.5%)は集団全体を代表する特徴を持ちながら、クラスタ5(紫、7.8%)やクラスタ6(茶、1.8%)ととくに近い遺伝的特徴を共有していた。なお、クラスタ5と6は人数が少なかったため、解析ではクラスタ1とまとめて「クラスタ1*」として扱い、全体を四つのクラスタに分けて解析を行った。

次に、各遺伝クラスタに特徴的に関連する遺伝子群を調べるために遺伝子セット解析※5を行った。その結果、合計64種類の有意な遺伝子群が見つかった。

例えば、クラスタ1*では血液中のHDLコレステロール、クラスタ2では日中の睡眠関連形質、クラスタ3では肝機能や血糖コントロール、クラスタ4では「罪悪感を感じる傾向」といった心理的特徴に関連が認められた(図4上)。

さらに、年齢・性別・BMIを考慮した統計解析により、食習慣や生活習慣との関連を調べたところ、175項目のうち21項目で有意な関連が認められた(図4下)。

図4 日本人集団における遺伝クラスタごとの特徴的な遺伝子群と生活習慣の関連

(出典:東京大学医科学研究所)

(出典:東京大学医科学研究所)

例えば、クラスタ3とクラスタ4では野菜を食べる頻度が高く、クラスタ3では牛乳を飲む頻度も高いなど、各クラスタに特徴的な食習慣や生活習慣が明らかになった。

これらの結果から、日本人集団内における明確な遺伝的違いが、食習慣や生活習慣、健康指標と複雑に関連していることが示された。

本研究は、こうした遺伝構造と生活習慣の関係を包括的に解析したものであり、今後の公衆衛生研究や個別化予防、精密医療の発展に貢献することが期待される。

プレスリリース

日本人集団に潜む遺伝構造と生活習慣・食事の関係を明らかに ――機械学習で読み解く4万人のゲノムデータ――(東京大学医科学研究所)

文献情報

原題のタイトルは、「Intricate interactions between fine-scale genetic structure, lifestyle, and dietary habits in the Japanese population」。〔Commun Biol. 2025 Jul 12;8(1):1046〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部


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アスリートはタンパク質過多の食事と高強度の運動が原因で腸内環境が乱れやすいが、機能性食品(グアー豆食物繊維・カシス抽出物)の摂取により腸内環境が改善することが報告された。太陽化学株式会社、摂南大学、京都府立医科大学、森下仁丹株式会社の研究グループの成果であり、「Microorganisms」に論文が掲載され、プレスリリースが発表された。腸内環境が悪い選手ほど、機能性食品の効果がとくに大きいという。

腸の負担が増えやすいというアスリート特有の課題を機能性食品で解決できないか?

近年、腸内細菌がヒトの健康にさまざまな影響を与えることが明らかになりつつあり、アスリートの腸内細菌叢にも注目が集まっている。摂南大学の研究チームによる先行研(詳細はこちら)では、ラグビー部員88人の腸内環境を調査した結果、多くの学生アスリートでは一般成人と比べて悪玉菌が多く、それらが作るコハク酸(悪い物質)が腸内に蓄積する傾向があることが明らかにされた。

こうした腸内環境の悪化の背景には、タンパク質や炭水化物の摂取を重視するあまり、食物繊維の摂取が不足しがちであること、さらに、身体接触を伴う高強度な運動によって腸内に酸化ストレスがかかりやすいことが考えられる。

このような状況を踏まえ、同研究チームでは、学生アスリートの栄養改善による健康・パフォーマンスのさらなる向上に向けた研究を継続的に行ってきた。本研究では、太陽化学、森下仁丹の協力のもと、学生アスリートの腸内環境を改善するための食事介入試験を実施した。

研究では、上記のような学生アスリート特有の問題に着目し、水溶性食物繊維「グアー豆食物繊維」と、抗酸化物質を豊富に含む「カシス抽出物」を4週間摂取することで、腸内環境にどのような変化が起こるかを検証した。なお、本研究は、腸内環境への効果をより厳密に評価するため、二重盲検試験※2という科学的信頼性の高い試験手法を採用した点も、大きなポイント。

グアー豆食物繊維、カシス抽出物で善玉菌が増えて短鎖脂肪酸も有意に増加

実験の結果、グアー豆食物繊維またはカシス抽出物、あるいはその両方を摂取した被験者では、善玉菌として知られるビフィズス菌(Bifidobacterium属細菌)や、有用物質である「酪酸」を産生するMegasphaera属細菌が有意に増加するなど、腸内環境の改善を示す結果がみられた。また、試験開始時に腸内環境が悪かった被験者に絞った層別解析では、より顕著な改善効果が確認された。

これらの被験者では、機能性食品の摂取により、酪酸などを産生し腸のバリア機能維持に貢献するFaecalibacterium属細菌や、腸内のコハク酸蓄積解消に貢献し得るPhascolarctobacterium属細菌といった有用菌が増加した。加えて、腸内環境改善の重要な指標である有用物質「短鎖脂肪酸」の総量も有意に増加した。

図1 研究の概要

(出典:太陽化学株式会社)

今回の結果は、グアー豆食物繊維およびカシス抽出物が、とくに腸内環境が乱れている学生アスリートの腸内環境を改善し、腸の健康を促進する有効な機能性素材となり得ることを示している。また、摂南大学などによる別の先行研究(詳細はこちら)では、長距離ランナーでも同様の腸内環境の悪化が報告されており、本研究の成果はラグビー選手にとどまらず、高強度のトレーニングを行う幅広いアスリートに応用できる可能性がある。

プレスリリース

学生アスリートの腸内環境が機能性食品で改善-“腸活”によるパフォーマンス向上に期待-(太陽化学株式会社)

文献情報

原題のタイトルは、「Effects of Blackcurrant Extract and Partially Hydrolyzed Guar Gum Intake on Gut Dysbiosis in Male University Rugby Players」。〔Microorganisms. 2025 Jul 2;13(7):1561〕 原文はこちら(MDPI)

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スポーツ栄養Web編集部


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コストをかけず非侵襲にいつでも測定可能な「ふくらはぎ周囲長」の経時的な変化を把握することで、四肢骨格筋量の減少や増加を捉えられることが明らかになった。公益財団法人明治安田厚生事業団体力医学研究所の川上諒子氏、早稲田大学スポーツ科学学術院の谷澤薫平氏らの研究グループの研究によるもので、「Clinical Nutrition ESPEN」に論文が掲載されるとともに、プレスリリースが掲載された。著者らは本研究の成果を、このトピックに関する縦断的な研究として世界初の知見としたうえで、「ウエスト周囲長がメタボリックシンドローム改善の指標となるように、加齢等による筋肉量減少(サルコペニア)を改善しようとする際には、ふくらはぎ周囲長が指標となり得るのではないか」と述べている。

図1 研究結果の概要

(出典:明治安田厚生事業団)

いつでも測れる「ふくらはぎ周囲長」と、四肢骨格筋量の関係を縦断的に検討

ふくらはぎ周囲長が骨格筋量と相関することに関しては、既に複数の横断研究のエビデンスがあり、サルコペニアのスクリーニングにも用いられている。ただし、縦断研究のエビデンスはこれまでなく、骨格筋量の減少または増加を、ふくらはぎ周囲長の変化で把握できるのか否かは明らかでなかった。

骨格筋量の測定には専用の機器が必要でコストや手間もかかるため、測定機会は限られている。一方、ふくらはぎ周囲長は、簡便、非侵襲、低コスト、かつ自分自身でも測定可能。仮に、骨格筋量の変動をふくらはぎ周囲長で把握できるのであれば、サルコペニアのスクリーニングだけでなく、その後の介入効果の判定にも、ふくらはぎ周囲長を広く利用可能となる。さらに、日常生活において自分自身で測定することで、筋量維持・増進のための運動・食習慣に役立てられる可能性もある。

これらを背景として著者らは、早稲田大学の卒業生とその配偶者を対象として、運動や食事などの生活習慣が健康に及ぼす影響を長期間観察している「Waseda Alumni's Sports, Exercise, Daily Activity, Sedentariness and Health Study;WASEDA'S Health Study(早稲田大学校友を対象とした健康づくり研究)」のデータを用いて、縦断的な解析を行った。

ふくらはぎ周囲長の変化は、四肢骨格筋量(ASM)の変化と相関するか?

WASEDA'S Health Studyの参加者の中から、2015年3月~2024年9月に、ふくらはぎ周囲長と二重エネルギーX線吸収測定法(DXA法)による四肢筋量の測定が2回実施されていた、40~87歳の日本人成人227人(平均年齢は男性55±10歳、女性51±7歳)を解析対象とした。

左右のふくらはぎの周囲長を測定し、その平均を算出。平均8.0±0.4年の追跡で、ふくらはぎ周囲長の変化は、-0.1±1.2cmだった。一方、同期間の四肢骨格筋量(appendicular skeletal muscle mass;ASM)の変化は、-0.7±1.0kgだった。

ふくらはぎ周囲長とASMの変化は、性別・年齢・肥満の有無にかかわらず正相関

解析の結果、ふくらはぎ周囲長の変化量は、性別を問わず、ASMの変化量と正相関することが明らかになった(男性・女性ともにr=0.71)。得られたこの結果を基にした計算から、ふくらはぎ周囲長1.0cmの減少は、男性ではASM1.4kgの減少に相当し、女性では0.9kgの減少に相当すると考えられた。

なお、この相関をASMの部位別に検討した場合、ふくらはぎ周囲長の変化は上肢のASM(相関係数は男性0.51、女性0.38)に比べて、下肢のASM(同順に0.71、0.75)との相関のほうがより強く認められた。

図2 ふくらはぎ周囲長の変化と四肢筋量の変化の関係性(男女別)

(出典:明治安田厚生事業団)

年齢や肥満の有無でのサブグループ解析

次に、年齢で層別化した解析を実施。すると、60歳未満ではr=0.70、60歳以上ではr=0.67であり、年齢にかかわらず、両者の変化量は正相関することが確認された。

続いて肥満(DXA法による体脂肪率が男性は25%以上、女性は30%以上で定義)の有無で層別化した解析を行った結果、肥満群はr=0.72、非肥満群はr=0.69であって、やはりいずれの群でも両者の正相関が認められた。

ふくらはぎ周囲長をモニタリングしサルコペニアの「発見」と「改善」に役立てる

著者らは本研究が単一コホートでの解析結果であることなどを限界点として挙げている。そのうえで、「本研究はふくらはぎ周囲長の変化と筋量の変化の関係性を縦断的に解析した世界初の研究であり、年齢や肥満の有無にかかわらず、ふくらはぎ周囲長の変化と四肢筋量の変化との間には正の相関関係があることが示された。すなわち、ふくらはぎ周囲長の変化をモニタリングすることによって、誰もが容易に筋量の変化を推定できる可能性が示唆された」と述べている。

また、「ふくらはぎ周囲長の測定という手軽な手法で筋量変化を把握できれば、早期に筋量の衰えに気づくことができる。さらに、筋量の衰えを予防・改善するための筋力トレーニングなどの効果を、ふくらはぎ周囲長の変化から把握することができる」とし、ふくらはぎ周囲長を活用した新たな公衆衛生戦略の可能性を強調。さらに、「ウエスト周囲長が大きくなってきたら肥満を気にするのと同じように、ふくらはぎ周囲長が小さくなってきたら筋量減少を気にするということが、社会の共通認識として定着する日も近いのではないか」と期待を表している。

文献情報

原題のタイトルは、「Relationship between longitudinal changes in calf circumference and skeletal muscle mass」。〔Clin Nutr ESPEN. 2025 May 28:68:447-450〕 原文はこちら(Elsevier)

関連情報

公益財団法人明治安田厚生事業団/プレスリリース

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スポーツ栄養Web編集部


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米国栄養学会など4学会はこのほど、GLP-1RAによる肥満症治療の際に留意すべき栄養上の優先事項をまとめ、共同勧告として発表した。多領域の専門家が専門知識と臨床経験に基づき科学文献を評価し、関連するトピックを取り上げ推奨を掲げ、今後の方向性を示している。著者らは、「おもに米国の医療環境に焦点を当てているが、ほかの国でのGLP-1RA肥満治療にも影響を与え得るもの」としている。栄養面以外の情報も盛り込んだ大部な勧告から、おもに栄養指導に関する部分を中心にピックアップし、要旨を紹介する。

GLP-1RA登場以前は減量に必須だった栄養療法

GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体作動薬(GLP-1RA)は、治験段階では5~18%の体重減少を示し、臨床ではそれよりやや効果が低いものの、明確な減量効果が認められている。一方でGLP-1RAの課題として、副作用(とくに消化器症状)、摂取エネルギー減少による栄養不良、筋肉量や骨量の減少、使用中止後のリバウンド、コストの高さなどが挙げられる。

また、GLP-1RAが減量目的で使われるようになる以前は栄養指導がほぼ必須であったが、GLP-1RA登場以降、栄養介入に重きを置かれなくなってきている。これらの課題に対応するため、米国のライフスタイル医学会、栄養学会、肥満医学協会、肥満学会という4団体による共同勧告がまとめられた。

副作用

栄養不良

GLP-1RA使用により食欲が低下し摂取エネルギー量は16~39%減少する。これに伴い、必須ビタミンやミネラルの不足につながる可能性がある。その兆候として、倦怠感、脱毛、皮膚症状、筋力低下、傷の治りの悪さ、異常なあざなどが挙げられる。

筋肉量・骨量減少

GLP-1RAによる減量は、62%が脂肪の減少、38%は筋肉などの除脂肪量の減少だとする報告がある。除脂肪体重の約半分が筋肉であることから、GLP-1RAによる減量の約20%は筋肉量の減少によるものと考えられる。これに食事摂取量の減少に伴うタンパク質摂取量の低下も加わり、とくに高齢者や運動不足の個人において、サルコペニアのリスク増大につながる可能性がある。

ベースラインでの栄養評価

GLP-1RA使用に関連するスクリーニング項目

胃腸の症状または障害。気分・情動障害、自殺念慮。摂食障害。サルコペニア、骨粗鬆症。腎結石または腎機能障害。

身体検査

筋力と機能(例えば、立ち上がる、階段を上るなど。必要に応じて運動生理学の専門家または筋力トレーナーにコンサルテーションを検討)。必用に応じて筋肉量を測定(生体電気インピーダンス法、二重エネルギーX線吸収測定法など)。

消化器症状の管理

吐き気、下痢、便秘などの消化器症状はGLP-1RA治療開始時や増量時に発現しやすいことから、これらに該当する数日間は少量の食事を頻回に摂取し、脂肪分や食物繊維の多い食品を避けることが役立つ可能性がある。

吐き気の症状は朝や長時間食事をとっていない時に生じやすいことから、吐き気のために食事をとらないことが悪循環を招くこともある。ショウガやミントの利用、指圧バンドなどは有益。

便秘は減量効果の発現に従い現れやすくなり。これに対しては水分と食物繊維の摂取が推奨される。

栄養不良の予防、筋肉量・骨量の維持

食事記録や写真を用いて摂取量を定期的にモニタリングし、治療中の栄養不良の発生リスクを検出し早期に対処する。食事への興味が低下している場合、少量の食事を頻回に摂取することが有効な可能性がある。果物、野菜、牛乳、ヨーグルトを使った料理は、赤身肉などの重たい料理よりも食欲をそそることがある。

GLP-1RAによる減量が筋肉や骨に及ぼす影響は、身体活動量やたんぱく質摂取量が少ない個人や高齢者で顕著であり、対策が重要となる。食事においては最初にタンパク質食品を摂取することが役立ち、より重要な点として、筋力トレーニングを並行して行わずタンパク質摂取のみでは、筋肉量の維持に不十分と考えられることが指摘される。筋肉量と骨量の維持のために、GLP-1RAによる肥満症治療中には週3回以上の筋トレ、および150分以上の有酸素運動を目標とした運動介入を行うべきであろう。

管理栄養士による行動変容のサポート

管理栄養士は、ライフスタイルや薬物療法、場合によっては外科的治療のサポートにおいて重要な役割を果たす。GLP-1RAの使用と管理栄養士による食事指導を組み合わせることで、アドヒアランスの向上、消化器系の副作用の予防や管理(とくに治療開始時と増量時)、適切な栄養摂取、長期的な体重管理と健康全般を向上させる他の行動(身体活動、睡眠、目標設定など)の促進が期待される。

しかし、肥満症治療における管理栄養士による介入は、依然として保険適用範囲が限定的であり、臨床での広範な利用を妨げている。

将来の方向性

長期遵守の改善

肥満症治療のためにGLP-1RAが処方された患者の多くが1年以内にドロップアウトする。この理由は十分検討されていないが、筆者らの臨床経験に基づけば、副作用、コストの課題が挙げられる。重要なことは、食事や生活習慣の改善を維持することも、多くの人にとって困難であり、GLP-1RA中止とともに生活習慣が元に戻ってしまい、体重がリバウンドするということが少なくない。長期的な治療遵守をいかにサポートするかは、今後の研究の大きなテーマである。

特定の食事パターンとの併用

GLP-1RAによる減量は、しばしば社会的関心の高い他の食事パターン、例えばケトジェニックダイエットや断続的断食などとともに語られる。

ケトジェニックダイエットや超低炭水化物ダイエットは、一部の人にとっては減量や血糖管理の実用的なアプローチとなり得るが、一方で長期の継続が難しい人もいる。また糖尿病患者の場合、ケトジェニックダイエットとGLP-1RA療法の併用は、糖尿病性ケトアシドーシスや低血糖のリスクを高める可能性があり、医療提供者による注意深いモニタリングの下で行われるべきである。

断続的断食も、血糖降下薬を使用している糖尿病患者の低血糖リスクを高める可能性がある。GLP-1療法中には、空腹感が抑制される結果として、意図せず断続的な断食状態になってしまうことがあり得る。十分なタンパク質摂取や食事の多様性が不足した長期間の断続的断食は、栄養不良、臨床的栄養欠乏、除脂肪体重の減少、安静時エネルギー代謝の低下につながる可能性がある。

文献情報

原題のタイトルは、「Nutritional priorities to support GLP-1 therapy for obesity: a joint Advisory from the American College of Lifestyle Medicine, the American Society for Nutrition, the Obesity Medicine Association, and The Obesity Society」。

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スポーツ栄養Web編集部


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β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(HMB)の体組成と筋力への影響を検討したメタ解析の結果を統合した、アンブレラレビュー論文が報告された。HMBは体重や脂肪量には影響することなく、筋肉量と筋力を高めるのに役立つと結論づけられている。

HMBの有効性をアンブレラレビューで検討

β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(β-Hydroxy-β-methyl butyrate;HMB)は、分岐鎖アミノ酸であるロイシンの代謝の過程で生成される化合物で、筋タンパク質の同化作用と抗異化作用を持つと考えられており、体組成や筋肉量・筋力に対する影響が研究されてきている。また、筋グリコーゲンの増加やミトコンドリアの生合成促進を介した、有酸素能力の向上も報告されている。ほかにも、インスリン感受性の亢進や脂質代謝を促進させるように働くとする報告もある。

これまで、アスリート、高齢者、ボディービルダーなど、さまざまな対象でHMBサプリメントの効果が検討されてきている。それらの研究のうち、筋力や体組成に関しては、効果ありとするものと有意な変化はないとするものが混在している。このような研究結果の差異は、研究対象者の年齢や健康状態などの違いによるものである可能性が想定されるが、そのような視点での検討はまだ十分行われていない。これを背景として、今回取り上げる論文の著者らは、“メタ解析のメタ解析”と言われるアンブレラレビューによる検討を行った。

文献検索の手法と抽出されたメタ解析の特徴

Scopus、EMBASE、Web of Science、PubMedなどの文献データベースに、2024年8月までに収載された論文を対象として、発表の時期や言語を制限せずに検索を実施。包括基準は、成人を対象にHMBサプリを用いた介入を行い、体組成や筋力への影響を対照群を設けて検討した無作為化比較試験のメタ解析の報告であり、基礎研究、観察研究、メタ解析を行っていないシステマティックレビューなどは除外した。

重複削除後の126報を2名の研究者が独立してタイトルと要約に基づきスクリーニングを実施し、18報に絞り込み全文精査を行った。その結果、41件のデータセットからなる11報のメタ解析の報告が適格と判断された。

メタ解析は2003年以降に報告されていて、脂肪量、筋力などへの影響を評価

11報の論文のうち3件は中国発の論文で、米国が2報、その他、英国、カナダ、スペイン、チリ、オーストラリア、ニュージーランド発の論文が各1報だった。すべて2003年以降に発表されたもので、対象研究のサンプル数は113~433人、年齢範囲は23~78歳、介入に用いられたHMBの用量は1~4g、介入期間は1週間~1年だった。

体重に対する影響に関しては5件のデータセットからなる4件のメタ解析、脂肪量に関しては11件のデータセットからなる8件のメタ解析、除脂肪量に関しては8件のデータセットからなる5件のメタ解析、筋肉量に関しては5件のデータセットからなる5件のメタ解析、筋力に関しては6件のデータセットからなる12件のメタ解析がなされていた。

HMBの除脂肪量への影響

除脂肪量に関する8件のメタ解析は、4件が有意、4件は非有意という結果であり、それらを統合した解析の結果、HMBサプリは除脂肪量を有意に増加させることが示された(効果量〈ES〉:0.22〈95%CI;0.11~0.34〉、p<0.001)。ただし、研究間に大きな異質性が認められたが(i2=58%)、感度分析ではいずれかの研究を除外しても結果は変わらなかった。<>

サブグループ解析から、介入期間と年齢が異質性の原因であることが示唆された。例えば介入期間については、8週間超ではES:0.35と効果が高いながら異質性も高く(I2=67%)、8週以下ではES:0.12で異質性はなかった(I2=0%)。また年齢については、70歳以上ではES:0.33、I2=83.5%、30歳以下ではES:0.12、I2=0%だった。

HMBの筋力への影響

筋力に関する12件のメタ解析は、9件が有意、3件は非有意という結果であり、それらを統合した解析の結果、HMBサプリは筋力を有意に増加させることが示された(ES:0.27〈0.19~0.35〉、p< 0.001)。異質性は高くなく(i2=44.4%)、感度分析ではいずれかの研究を除外しても結果は変わらなかった。<>

サブグループ解析から、30歳以下(ES:0.17)よりも60歳以上(ES:0.36)で有効性が高く、また介入期間が8週間超(ES0.36)で8週間以下(ES:0.17)よりも有効性が高かった。また、HMB単独よりもカルシウムと併用した場合に筋力への影響がより強く、とくに上半身より下半身の筋力に対する有効性が高いことが示唆された。

HMBの筋肉量への影響

筋肉量に関する5件のメタ解析は、3件が有意、2件は非有意という結果であり、それらを統合した解析の結果、HMBサプリは筋肉量を有意に増加させることが示された(ES:0.21〈0.06~0.35〉、p=0.004)。異質性は許容範囲内で(I2=49.5%)、感度分析ではいずれかの研究を除外しても結果は変わらなかった。

サブグループ解析から、30歳以下(ES:0.15)よりも70歳以上(ES:0.26)で有効性が高く、また介入期間が8週間超(ES0.26)で8週間以下(ES:0.15)よりも有効性が高かった。

HMBサプリは体組成や筋力の向上に有用で、とくに高齢者でメリットが高い可能性

このほかには、脂肪量に関する11件のメタ解析はすべて非有意という結果であり、それらを統合した解析の結果、HMBサプリは脂肪量を有意に変化させないことが示された(ES:0.0〈-0.04~0.35〉、p=0.09)。また体重に関する5件のメタ解析は、1件が有意、4件は非有意という結果であり、それらを統合した解析の結果、HMBサプリは体重を有意に変化させないことが示された(ES:0.09〈-0.06~0.24〉、p=0.22)。

まとめると、HMBサプリは筋肉量、除脂肪体重、筋力に対して有意なプラス作用をもたらし、脂肪量や体重に対しては有意な影響を与えないと考えられた。論文の結論には、「生理学的疾患のために筋萎縮を来しているような人にとって、HMBの摂取は有益な可能性があり、HMBの筋肉量と筋力への影響は、若年者と比較して高齢者でより顕著であるように思われる。高齢者は、HMBのエルゴジェニック効果によって、より大きなメリットを受けられるのではないか」と述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「Ergogenic Benefits of β-Hydroxy-β-Methyl Butyrate (HMB) Supplementation on Body Composition and Muscle Strength: An Umbrella Review of Meta-Analyses」。〔J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2025 Feb;16(1):e13671〕 原文はこちら(John Wiley & Sons)

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スポーツ栄養Web編集部

 0.001)。異質性は高くなく(i2=44.4%)、感度分析ではいずれかの研究を除外しても結果は変わらなかった。<>0.001)。ただし、研究間に大きな異質性が認められたが(i2=58%)、感度分析ではいずれかの研究を除外しても結果は変わらなかった。<>

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高温環境でのスポーツパフォーマンス低下に対する、新たな戦略の有効性が報告された。休憩時間に-50°Cのアイスパックを短時間、足底にあてがうことで、その後のパフォーマンスが向上する可能性があるという。環太平洋大学体育学部体育学科の河端隆志氏らの研究によるもので、「Journal of Exercise Science & Fitness」に論文が掲載された。

パフォーマンス発揮を妨げる地球温暖化への対策

地球の温暖化が人々の生理反応や運動能力に影響を及ぼしており、アスリートにとってもパフォーマンスを十分に発揮するための暑熱対策が必須となってきた。これまでの研究で、暑熱環境下での運動パフォーマン低下抑制戦略として、冷水に全身を浸す全身浸漬の有効性が多く報告されてきている。しかし、全身浸漬は実験環境では行えるものの、競技会での実施は現実的でない。

そこで代替手段として、冷却ベストの着用、アイスタオルの使用などが試みられている。また近年、全身ではなく体の末梢、特に手や足を冷却するという手法が提案されている。体の末梢は体幹に比べ、体積に対する表面積が大きいために熱放散効果が高い。さらに手掌(手の平)や足底(足の裏)には、動静脈吻合(arteriovenous anastomosis;AVA)と呼ばれ、毛細血管網を介さずに動脈と静脈が直接つながっている特殊な血管走行が存在する。このAVAは循環や体温の調節に重要な役割を果たしており、全身ではなく手や足のみの冷却でも、効果を得られる可能性がある。

河端氏らの研究は、このような理論的な背景のもとで、足底に対する短時間の冷却刺激の有効性を検証するために実施された。

アスリート8人を対象とする無作為化クロスオーバー法で足底冷却の効果を検討

事前の統計学的検討から、この介入の有意性の検討に必要なサンプルサイズは8人以上と予測され、9名のアスリートが研究に参加した。適格条件は、高強度運動を習慣的(週に4日以上)行っていて、呼吸器や循環器系の疾患の既往がなく、暑熱馴化を受けていない、18~30歳の非喫煙者とされた。1名は試験データの取得が十分でないことから解析から除外され、解析対象は男性6名、女性2名で、平均年齢は24.89±3.10歳だった。

研究デザインはクロスオーバー法で、研究参加者を無作為に2群に分け、1群は足底冷却を行う「介入条件」、他の1群は足底冷却をしない「対照条件」の下でパフォーマンスを評価。72時間以上おいて条件を切り替え、パフォーマンスを再度評価した。

パフォーマンスの評価方法について

パフォーマンスの評価は以下の手順で行った。

まず、暑熱環境(35°C、相対湿度60%)のチャンバー内で、自転車エルゴメーターを用いて70%VO2maxで15分間の運動を負荷し、15分経過後からは最大強度の負荷をかけ、疲労困憊に至るまで続けられた。なお、VO2maxは試験の72時間以上前に、中和(性)温域の環境(25°C、相対湿度40%)で測定されていた。

疲労困憊に至った時点から10分間の座位での休憩時間が設けられた。その間、介入条件では、-50°Cに冷却されたアイスパックを厚さ2mmのタオルに包んで、足底に2分間あてがった。対照条件は単に座位での休憩とした。

休憩時間終了後に再度、自転車エルゴメーターを用い、暑熱環境下で最高強度の一定負荷によるパフォーマンステストを疲労困憊に至るまで続け、その継続時間を計測した。

一連の試験中、食道・皮膚・大腿筋の温度、前腕皮膚血流量、心拍数、心拍出量などをモニタリングし、2分ごとに自覚的運動強度と体感温度をレポートしてもらった。

足底冷却で疲労困憊に至るまでの時間が有意に延長

10分間の休憩時間中、皮膚温(対照条件37.25±0.36 vs 介入条件36.60±0.42°C)、前腕皮膚血流量(同順に12.57±2.71 vs 10.89±2.25mL/分/100mL)はともに、介入条件のほうが有意に低値だった(いずれもp<0.05)。なお、介入条件における2分間の足底冷却の前後で、アイスパック表面とタオルを介して接している足底温は36.2±1.0°cから19.2±2.7°cに低下していた。<>

そして、本研究の主題である休憩後の暑熱環境下でのパフォーマンステストで疲労困憊に至るまでの時間は、対照条件が3.23±1.07分であるのに対して、介入条件は3.92±1.10分と有意に延長していた(p<0.01)。また、運動負荷開始2分経過後の自覚的運動強度に有意差が認められ、介入条件の方が低値だった(19.37±0.74>

その他の評価項目である、食道や大腿筋の温度、心拍数、心拍出量などについては、両条件間で有意差のあるポイントはなかった。

パフォーマンスへの効果を最大化する冷却方法の探索が必要

まとめると、暑熱環境下での足底の局所冷却は、深部体温を低下させることはないものの、局所の皮膚温を低下させ体感温度の改善に寄与する。さらに、このような影響を介して、パフォーマンスの維持・向上につながる可能性が示された。

著者らは、「今後の研究では、局所冷却がパフォーマンスに及ぼす影響の根底にある生理学的または心理学的メカニズムの解明が必要とされる。また、効果を最大化し得る冷却部位・温度・時間の探索も求められる」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Enhancing intermittent exercise performance through brief sole cryostimulation during breaks in a hot environment」。〔J Exerc Sci Fit. 2025 Jul;23(3):230-239〕 原文はこちら(Elsevier)

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スポーツ栄養Web編集部

0.01)。また、運動負荷開始2分経過後の自覚的運動強度に有意差が認められ、介入条件の方が低値だった(19.37±0.74>0.05)。なお、介入条件における2分間の足底冷却の前後で、アイスパック表面とタオルを介して接している足底温は36.2±1.0°cから19.2±2.7°cに低下していた。<>

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生体電気インピーダンス法で把握でき、筋肉の質や細胞の栄養状態などの指標とされる位相角と、BMIや除脂肪量との関係を、日常的な身体トレーニング習慣の有無で層別化して解析した結果が報告された。岡山県立大学情報工学部の大下和茂氏、村井聡紀氏、九州共立大学スポーツ学部の疋田晃久氏、名頭薗亮太氏の研究によるもので、「Physiological Reports」に論文が掲載された。位相角が、BMIや除脂肪量では把握できない、競技レベルや身体活動量の新たな指標となる可能性が示唆されている。

簡便かつ低コストで測定可能な位相角の新たな可能性を探る

微細な電流を生体に流し、その抵抗から体脂肪率などのパラメーターを得る生体電気インピーダンス法(bioelectrical impedance analysis;BIA)は、低コストで簡便に繰り返し測定できるという特徴から、医学の臨床や研究のほか、健診やスポーツの現場でも広く用いられるようになってきている。これまでのところBIAは主に、体組成の評価のために使われてきているが、BIAで測定可能なパラメーターの一つに「位相角(phase angle;PhA)」も含まれる。

位相角は、周波数の影響を受ける抵抗と影響を受けにくい抵抗の位相差から算出される値であり、細胞の健康状態を表すマーカーとして位置づけられている。また、身体トレーニングや栄養介入の効果の評価指標としてのエビデンスも蓄積されつつある。ただし、スポーツ領域における位相角の研究は結果の一貫性が十分でなく、年齢や性別、競技レベルなどの多因子が位相角に影響を及ぼしている可能性がある。

これを背景として大下氏らは、国内の大学生を対象とする横断研究を実施し、BMIや競技スポーツへの参加の有無と位相角との関連を調査した。

スポーツへの参加の有無による位相角への影響の違いが明らかに

研究参加者は、18~22歳の大学生408人(うち男子230人)。この集団を、性別および、競技スポーツを行っているか否かで二分し、かつ、各群のBMIの中央値で二分し、合計八つの群に分類した。詳細は以下のとおり。

男性で競技スポーツを行っている(以下、アスリート)学生が159人で、BMIが23.2以上の「L-sports群」が63人、BMIが23.1以下の「S-sports群」が65人。男性で競技スポーツを行っていない(以下、非アスリート)学生は71人で、BMIが21.0以上の「L-normal群」が34人、BMIが20.9以下の「S-normal群」が37人。

女性はアスリートが95人で、BMIが21.9以上の「L-sports群」が39人、BMIが21.8以下の「S-sports群」が40人。女性の非アスリートは83人で、BMIが20.4以上の「L-normal群」が41人、BMIが20.3以下の「S-normal群」が42人。

なお、スポーツを行っているアスリートは、競技レベルがTier2以下(地域大会レベルまで)とし、Tier3(国内大会レベル)以上のアスリートは少数のため解析から除外した。

では、結果を見ていこう。

性別を問わず非アスリートはBMIにかかわらず位相角が低値

男子の位相角は、L-sports群が7.05±0.45°、S-sports群6.90±0.46°、L-normal群6.41±0.49°、S-normal群6.17±0.47°であり、非アスリートの2群はBMIにかかわらず、L-sports群およびS-sports群よりも有意に低値だった。

各群間の位相角の違いを効果量(Cohen's d)で比較すると、L-sports群とS-sports群の比較(d=0.33)やL-normal群とS-normal群の比較(d=0.52)は中程度の効果量だったが、その他はすべて大きな効果量(d≧0.8)が認められた。

女子の位相角は、同順に5.88±0.50°、5.78±0.43°、5.18±0.41°、4.75±0.40°であり、男子同様に、非アスリートの2群はBMIにかかわらず、L-sports群およびS-sports群よりも有意に低値だった。さらにS-normal群はL-normal群との比較でも、有意に低値だった。

効果量で比較すると、L-sports群とS-sports群の比較(d=0.22)のみ効果量が中であり、その他の効果量はすべて大と判定された。

除脂肪量は性別を問わずL-sports群が有意に高く、S-normal群が有意に低い

次に、除脂肪量に着目すると、男子・女子ともに、L-sports群が最も高値であり、S-sports群、L-normal群と続き、S-normal群が最も低値だった。性別にかかわらず、L-sports群は他の3群よりも有意に高値で、S-normal群は他の3群よりも有意に低値だった。

男子・女子ともに、S-sports群とL-normal群の除脂肪量は、有意差がなかった。

非アスリートはBMIと位相角が正相関するが、アスリートは相関せず

続いて、BMIと位相角との関連が検討された。

その結果、男子では、非アスリートではBMIが高いほど位相角も高値となるという、正の相関関係が認められた(r=0.34、p<0.01)。同様に、女子においても正相関が認められた(r=0.55、p<0.01)。それに対してアスリートでは、男子(r=0.17、n.s.)、女子(r=0.20、n.s.)ともに、bmiと位相角の関連は観察されなかった。<>

非アスリートではBMIと位相角が相関し、アスリートでは相関しないという違いが生じる理由として、著者らは以下のような考察を加えている。すなわち、BMIは一般集団において、エネルギー出納の指標として機能し、BMI低値では栄養素摂取量の少なさに起因する栄養不良が位相角に反映されることが多いのに対し、アスリートにおけるBMI高値は栄養摂取だけでなく、トレーニングによる除脂肪量の高さによるものであるため位相角に反映されにくいのではないかという。

位相角を身体活動量や競技レベルのマーカーとして使える可能性も

まとめると、非アスリートの学生においてのみ、位相角とBMIの間に有意な正の相関関係が認められ、BMIが高い学生ほど位相角も高かった。しかし、位相角自体はアスリート群のほうが高い範囲に分布していた。そのため、BMIの高い非アスリート学生とBMIの低いアスリート学生では、除脂肪量に有意差がないにもかかわらず、位相角はアスリート学生で有意に高かった。一方アスリート群内ではBMIの高低によって除脂肪量に有意差がみられたが、位相角には有意差がなかった。またアスリート学生では位相角とBMIの間に有意な関係は認められなかった。

著者らは本研究が横断研究であること、女子学生の月経周期を考慮していないことなどを限界点として挙げたうえで、「明らかになったこれらの結果は、位相角がBMIや筋肉量では捉えられない競技レベルや身体活動量の違いを把握するための、新たな指標になり得ることを示唆している」と総括している。

なお、論文の末尾には、解析から除外したTier3以上でBMIがL-sports群と同じ範囲の学生アスリートの除脂肪量や位相角のデータが参考として付記されている。それによりと、除脂肪量、位相角のいずれも、L-sports群(BMI高値のアスリート学生)よりさらに、有意に高値であることがわかる。このことから著者らは「推測の域を出ないが」と断りつつ、「よりハイレベルのアスリートを含めた大規模サンプルで検討した場合、競技レベルと位相角の相関が検出される可能性もあるのではないか。この点は、スポーツ領域における位相角の位置づけや重要性にかかわるため、今後の研究では、身体活動量や競技レベルごとに位相角を調べる必要がある」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Assessment of muscle quality by phase angle and body physique in nonathlete students and trained/developmental athletes」。〔Physiol Rep. 2025 Jun;13(11):e70412〕 原文はこちら(John Wiley & Sons)

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スポーツ栄養Web編集部

0.01)。同様に、女子においても正相関が認められた(r=0.55、p<0.01)。それに対してアスリートでは、男子(r=0.17、n.s.)、女子(r=0.20、n.s.)ともに、bmiと位相角の関連は観察されなかった。<>

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暑熱下においては運動前にカフェインを摂取すると、運動時の過換気や脳血流量減少などの生理的ストレスを増大させる可能性がある。それに対して運動中にカフェインを摂取すると、それらの生理的ストレス増大を伴わずに、長時間運動の後半にパフォーマンスが向上する可能性のあることが報告された。筑波大学の研究グループによる成果であり、「Medicine and Science in Sports and Exercise」に論文が掲載されるとともにプレスリリースが発表された。

研究の概要:暑熱下でのカフェイン摂取の有効性を探る

飲食料品などから日常的に摂取されるカフェインは、運動パフォーマンス向上に有効であることが広く知られているが、近年、暑熱環境下ではその効果が得られない可能性が指摘されている。本研究グループはこれまでに、暑熱下での運動前にカフェインを摂取すると、深部体温上昇に伴う過度な呼吸(高体温誘発性換気亢進)や、それに起因する脳血流の低下反応などの生理的ストレスが増大することを明らかにしている。これらの生理応答は、血中カフェイン濃度が運動前から急激に上昇することで引き起こされ、カフェインの有益な効果を打ち消している可能性がある。

本研究では、健常な若年男女を対象に、暑熱下での長時間運動において、運動途中に中用量のカフェインを摂取したときの効果を調べた。その結果、運動時の血中カフェイン濃度は徐々に上昇し、運動終盤に実施した高強度運動の継続時間が延長した。また、高強度運動の直前には、運動の主観的なきつさが軽減された。一方で、運動時の高体温誘発性換気亢進反応や脳血流低下反応は、カフェイン摂取によって増大することはなかった。

以上のことから、暑熱下においては、カフェインを運動中に摂取することで、運動時の生理的ストレスを増大させることなくカフェインの有益な効果が発揮され、パフォーマンスの向上につながると考えられる。ただし、パフォーマンスが向上した場合には結果的に仕事量が増加するため、運動終了時の深部体温や呼吸・循環系への負荷が増大するリスクに留意する必要がある。

研究の背景:暑熱時はカフェインを運動前ではなく、運動の途中に摂取してはどうか?

多くのスポーツでは、長時間の運動中に高いパフォーマンスの発揮が求められる。その対策の一つとして、飲食料品に含まれるカフェインの運動前摂取がパフォーマンス向上に有効であることは広く知られている。しかし近年、地球温暖化に伴い、暑熱環境下での競技場面が増加しており、こうした条件下ではカフェインの有益な効果が発揮されない可能性が指摘されている。

暑熱下運動時には、深部体温※1の上昇に伴って、代謝量に見合わない過度な換気※2(高体温誘発性換気亢進反応)が生じ、体内の二酸化炭素が過剰に排出される。その結果、動脈血中の二酸化炭素の分圧が低下し、脳血流量が減少する。これが脳での熱除去を妨げ、脳温上昇および中枢疲労を招き、運動効率を低下させる可能性がある。

本研究グループはこれまでに、暑熱下運動前に中用量のカフェインを摂取すると、高体温誘発性換気亢進および脳血流低下反応などの生理応答が増大することを明らかにしている(Fujii et al. Med Sci Sports Exerc 2020、図1左下)。これらの生理応答がカフェインの有益な効果を打ち消す可能性があり、パフォーマンス向上には、こうした負の影響を引き起こさないカフェイン摂取方法の構築が必要。

図1 参考図

参加者は、気温35°C、湿度50%の暑熱下において、30分間の中強度自転車運動を実施し、それに続いて高強度運動を疲労困憊まで行い、運動継続時間(運動パフォーマンス)を評価した。また、中強度運動開始5分⽬に、体重1kgあたり5mgのブドウ糖(プラセボ)またはカフェインを摂取した。その結果、カフェイン条件ではプラセボ条件に比べて、高体温誘発性換気亢進は増大しない(脳血流低下を助長しない)こと、高強度運動のパフォーマンスが向上すること、などが示された。

(出典:筑波大学)

上記の先行研究では、運動1時間前にカフェインを摂取しており、運動開始時には血中カフェイン濃度が急激に上昇していたと考えられる。そこで本研究では、暑熱下での長時間運動時において、カフェインを運動途中に摂取すれば、血中のカフェイン濃度が徐々に上昇し、高体温誘発性換気亢進や脳血流低下反応の増大を最小限に抑えつつ、運動終盤における高強度運動の継続時間が延長(パフォーマンスが向上)する、という仮説を検討した。

研究内容と成果:運動中のカフェインで生理的ストレスを増大させずに効果を得られる

本研究では、健常な若年男女12名を対象に、気温35°C、湿度50%の暑熱下において、中強度の自転車運動を実施した後、高強度の自転車運動を疲労困憊まで行った。中強度運動開始5分目に、二重盲検ランダム化比較試験※3を用いて、体重1kgあたり5mgのブドウ糖(プラセボ)またはカフェインを摂取した(図1上)。実験中には、血清カフェイン濃度、食道温(深部体温の指標)、呼吸代謝パラメーター(換気量など)、中大脳動脈平均血流速度(脳血流量の指標)、主観的運動強度※4などを測定した。

その結果、カフェインを摂取した場合(カフェイン条件)は、運動時に血清カフェイン濃度が徐々に上昇し、運動終盤に実施した高強度運動の継続時間はプラセボ条件よりも延長した(図1右下)。また、中強度運動終了時(高強度運動の直前)における運動の主観的なきつさは、カフェイン条件でプラセボ条件よりも低値を示した。

一方で、換気量は両条件とも運動時間経過に伴って増加し、深部体温上昇に対する換気量増加の傾き(高体温誘発性換気亢進反応の指標)に条件間の差はみられなかった(図1下)。同様に、運動時の脳血流低下反応にも条件間の差はみられなかった。

以上のことから、暑熱下での長時間運動時において、カフェインを運動中に摂取すると、高体温誘発性換気亢進反応や脳血流低下反応などの生理的ストレスが増大することなく、パフォーマンスが向上すると推察される。ただし、カフェインによってパフォーマンスが向上した場合、結果的に仕事量が増加するため、運動終了時の深部体温や呼吸・循環系への負荷が増大するリスクに留意する必要はある。

今後の展開:暑熱下でのカフェイン摂取の最適な方法の確立へ

著者らは、「本研究の知見は、暑熱環境下の運動時におけるカフェイン摂取のタイミングを再考するうえで重要。今後は、より幅広い条件(摂取量、摂取タイミングの個別化、習慣化の影響など)を考慮した研究を進める。暑熱下でのカフェイン摂取の最適な方法の確立は、競技パフォーマンスの最大化につながると期待される」としている。

プレスリリース

暑熱下では運動中のカフェイン摂取によりパフォーマンスが向上する(筑波大学)

文献情報

原題のタイトルは、「In-Exercise Caffeine Improves Exercise Performance in the Heat Without Exacerbating Hyperventilation and Brain Hypoperfusion」。〔Med Sci Sports Exerc. 2025 Jun 23〕 原文はこちら(American College of Sports Medicine)

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サプリの摂取タイミングが運動後の疲労回復に及ぼす影響を、システマティックレビューとメタ解析により検証した結果が報告された。運動直後に摂取したほうが、時間がたってから摂取するよりも有効性が高いという結果が示されている。ただし、研究間の異質性が高く、摂取タイミングによる効果の差は、個人差や運動のタイプなどによって異なる可能性が示唆された。中国の研究者らの報告。

回復のためのサプリは運動直後がよいのか、タイミングは関係ないのか?

スポーツ栄養戦略の目的はさまざまだが、トレーニングや試合後に摂取する飲食物に関しては、水分補給とともに、筋タンパク質合成、グリコーゲン回復、疲労の回復促進などを主に意図したものと言える。従来、運動後30分以内のタンパク質や炭水化物の摂取が回復促進につながると考えられてきているが、近年では必ずしも運動直後ではなくても、必要量を満たすことのほうが重要なのではないかとの指摘もみられる。また、運動直後には通常、食欲が低下していたり、食品摂取によって消化器症状が発現しやすく、それらを回避するためにも食直後にこだわらずに摂取したほうが良いとする考え方もある。

今回取り上げる論文の著者らは、このトピックについて、システマティックレビューとメタ解析による検討を行った。

PRISMAに準拠し8件の研究報告を抽出

システマティックレビューとメタ解析のガイドライン(PRISMA)に基づき、Web of Science、PubMed、Cochrane Library、EmBaseなどの文献データベースやライブラリを利用し、それぞれのスタートから2024年3月3日までに収載された論文を対象とした検索を実施。包括基準は、運動後のさまざまな時点での栄養補給に関する無作為化比較対照試験であり、筋機能の回復、グリコーゲン回復、疲労などの運動後回復効果を評価した研究。除外基準は、総説論文、学会発表抄録、一次研究でないもの(専門家の意見、理論的研究など)、データが不完全な報告など。

一次検索で184報がヒットし、2名の研究者がスクリーニングを実施。採否の意見の不一致は討議により解決した。全文精査を経て最終的に8件の研究報告を抽出した。

抽出された研究の特徴

8件の研究の参加者数は合計270人で、158人が運動後早期摂取群、112人が対照群だった。米国から3件、ブラジルから2件報告され、その他、韓国、カナダ、オランダから各1件報告されていた。

評価指標は、血清クレアチンキナーゼ、筋タンパク質合成と異化、筋肉痛と回復、ホエイプロテインの炎症と代謝への影響などだった。サプリメント摂取のタイミングは研究によって大きく異なり、運動後摂取群内においても差が認められた。例えば、一部の研究は「即時摂取」と「遅延摂取」という二つの群に分けていて、別の研究では運動の30分後、1時間後、2時間後というように細分化して検討していた。

運動後早期の摂取が有利と考えられるが、条件による異質性が高いという結果

8件の研究のうち7件は、摂取タイミングの違いによる有効性の有意差を示しておらず、有意差ありとする研究は、研究参加者数が最も多い(全体の45.22%)1件の研究のみで、その研究では即時摂取の優位性を示していた。遅延摂取の優位性を示す研究報告はなかった。

メタ解析の結果、効果量0.27(95%CI;0.04~0.50)で、運動後の早期に摂取(即時摂取)したほうが、種々の回復指標により優位な影響を及ぼし得ることが示された。ただし、研究間の異質性を表すI2統計量が53.9%であり、比較的高かった。またこのメタ解析の結果は、唯一単独で有意な結果を報告していた前述の1件の研究のデータに、強く影響を及ぼされたものと考えられた。

異質性が低くなるサブグループでは有意差が認められない

研究間の異質性が認められない(I2=0%)となる4件の研究のサブグループ解析(研究参加者数は全体の32.38%)では、効果量は-0.19(-0.59~0.22)であり、摂取タイミングの違いによる回復促進効果の有意差が認められなかった。

それに対して、それら以外の4件の研究のサブグループ解析(研究参加者数は全体の67.62%)では、効果量は0.49(0.21~0.77)であり、運動後の早いタイミングに摂取したほうが、回復促進効果が高いという有意差が認められた。ただしこのサブグループの異質性は全体解析より高くなった(I2=60.7%)。

この結果について著者らは、サプリの摂取タイミングによる回復促進効果の有用性は、解析対象者の特徴、運動の種類、サプリの摂取タイミング、評価指標などにより左右されると考えられると述べている。

論文は、上記のメタ解析のほかに既報研究に基づく考察を加えたうえで、以下のように総括されている。

「食事摂取のタイミングは、運動後の疲労回復に大きな影響を与える。とくに激しい運動などの身体活動の直後にタンパク質と炭水化物のサプリメントを摂取すると、筋肉の合成、グリコーゲンの回復、そして疲労の軽減に役立つ。本研究は、アスリートをはじめとする幅広い運動人口にとって、エビデンスに基づいた回復戦略を提供するものである。今後の研究では、さまざまな異なる対象や活動状況において、サプリメント摂取がどのようなタイミングで有益となるかを明らかにすることに重点を置くべきだろう」。

文献情報

原題のタイトルは、「An investigation into how the timing of nutritional supplements affects the recovery from post-exercise fatigue: a systematic review and meta-analysis」。〔Front Nutr. 2025 Apr 25:12:1567438〕 原文はこちら(Frontiers Media)

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非肥満者ではコーヒー摂取と血清アディポネクチン値が有意に正相関し、肥満者ではその相関がみられないとする研究結果が報告された。徳島大学の研究チームによる成果であり、「Nutrition, Metabolism, and Cardiovascular Diseases」に論文が掲載されるとともにプレスリリースが発表された。著者らは、今後のコーヒー摂取を含めた食習慣と代謝異常との関連についての研究では、肥満の有無による違いに注目した検討が必要ではないかと述べている。

研究のポイント

  • 脂肪細胞から分泌されるアディポネクチンは、インスリンの働きを助け、血糖値を下げる、動脈硬化を予防するなどの働きがある。
  • コーヒー摂取で血清アディポネクチンが増えるという報告があるが、肥満ありの人、なしの人に分けて解析されていなかった。
  • 本研究では、コーヒー摂取と血清アディポネクチンとの関係を肥満の有無で分けて検討した結果、肥満がない人において有意な正の関連がみられた。

研究の背景と経緯:コーヒーとアディポネクチンとの関連は、肥満の有無で異なるか

循環器疾患は主要な死因の一つであり、2021年には世界で2,050万人が循環器疾患関連で死亡したと報告されている。循環器疾患のリスク要因である肥満、高血糖、脂質異常、高血圧は、それらの複合体としてメタボリック症候群を形成する。

一方、コーヒーは世界で最も人気のある飲料の一つで、疫学研究の結果から、コーヒーの健康への効果も期待されている。例えば、本論文の著者らの研究グループは既に、コーヒーをよく飲んでいる人は、肥満の有無に関わらず代謝の異常が少ないということを報告している(Watanabe et al., Nut Metab Cardiovasc Dis. 2023)。

脂肪細胞から分泌されるホルモン「アディポネクチン」は、インスリンの働きを助け、血糖値を下げる、動脈硬化を予防するなどの働きがあることが知られている。そして、コーヒー摂取により、血清アディポネクチン値が上昇するとする、複数の研究報告がある。

しかし、アディポネクチンは脂肪細胞から分泌されるホルモンであり、肥満と重要な関係があるにもかかわらず、肥満の有無に分けた、コーヒー摂取との関連の解析は行われていなかった。

研究内容と成果:普通体重群でのみ、コーヒー摂取とアディポネクチンが正相関

本研究では、日本多施設共同コーホート研究(J-MICC STUDY)徳島地区調査に参加した606名の方を対象に、コーヒー摂取と血清アディポネクチンとの関係について、肥満の有無によって分けた解析を行った。

年齢、性別などの交絡要因となり得る因子を調整した重回帰分析※1の結果、普通体重者においてはコーヒー摂取と血清アディポネクチンに有意な正の関連(コーヒーをよく飲む人では血清アディポネクチンが高い)がみられた。その一方、肥満者においては有意な関連がみられなかった。

今後の展開:個人の体質を考慮した栄養指導へ

コーヒーを飲んでいると代謝の異常のある人が少ないことの理由として、肥満のない人ではアディポネクチンが関与していることが示唆された。

これまでの研究から、肥満者と非肥満者の代謝異常は、遺伝的背景も含めて病態が異なるとされている。著者らは、「今後、コーヒーを含めた食習慣、生活習慣と代謝異常との関係について、肥満の有無による違いに注目した解析を行うことで、個々人の体質にあった、健康に良い生活習慣を考えるうえで有用な情報を発信していきたいと考えている」としている。

プレスリリース

肥満の無い人はコーヒー摂取で代謝を助けるホルモンアップ?(徳島大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Association between coffee and adiponectin according to the obesity status: A cross-sectional analysis of the Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort Study in Tokushima, Japan」。〔Nutr Metab Cardiovasc Dis. 2025 Apr 28:104103〕 原文はこちら(Elsevier)

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スポーツ栄養Web編集部


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京都で人気のラーメン店のナトリウムとカリウム含有量を調査し、ナトカリ比を含めて比較した研究結果が報告された。醤油ラーメン、味噌ラーメン、塩ラーメンの比較では意外にも塩ラーメンのナトカリ比が最も低いことや、スープベースでの比較では魚介系のナトカリ比が最低で、豚骨が最も高いことなどがわかった。京都府立大学大学院生命環境科学研究科の奥田奈賀子氏らの研究によるもので、「Dietetics」に論文が掲載され、大学のサイトにプレスリリースが掲載された。

人気ラーメン店のラーメンにはどのくらいナトリウムが入っているのか

日本食は健康的とされているが、食塩が多いことには注意が必要。日本人が好む食品の中で、味噌汁や麺類はとくに高食塩であることが知られている。麺類の中でもラーメンは人気が高く、さまざまな創意工夫がなされた新しいメニューが次々に加えられ、日本人の食生活に根付いている。

しかし、ラーメン店が提供しているメニューの食塩含有量に関する報告は多くない。その一方で、都道府県別の人口あたりのラーメン店舗数が脳血管疾患による死亡率と相関するというデータが報告されており、ラーメンの食塩含有量は気になるところだ。このような現状を背景として奥田氏らは、京都市内のラーメン店を対象とする実態調査を行った。

スープと具、それぞれのナトリウム、カリウムの含有量、ナトカリ比を調査

この調査では2023年7~12月に、「食べログ」での評価が高い京都市内のラーメン店34店舗を訪問して研究の趣旨を説明し、協力を得られた24店舗で提供している53種類のラーメンを分析対象とした。このうち1種類は分析が適切に行われなかったため、52種類を解析対象とした。

解析項目は、スープと具に含まれている塩化ナトリウム(NaCl)、カリウム(K)の量であり、それらを基にナトリウム/カリウム比(Na/K比)を算出した。なお、KはNaの排泄を促進する作用などによって、血圧を下げるように働く。よってNa/K比は血圧への影響という点で、Na単独よりも鋭敏な指標と考えられている。

麺については分析が困難なことから調査対象としなかった。ただし論文中には考察として、麺に含まれているNaやKは、茹でた際に溶けだすこと、および、多くのラーメン店では製麺業者から納入された麺を使っていて1食あたりの量もほぼ等しいことから、「店舗間、メニュー間の差は少ないのではないか。先行研究では麺のNaClは0.4g、Kは120mgとされている」と述べられている。

Na/K比は醤油・塩・味噌の差より、スープのベース材料の違いによる差のほうが大きい

解析対象とされた52種類のメニューの味、および、スープのベースとして使われている材料は以下のとおり。

醤油ラーメンが最多で33種類(63.5%)を占め、スープのベースは鶏ガラが15種類、豚骨12種類、魚介6種類。次いで塩ラーメンが11種類(21.2%)で、鶏ガラ7種類、豚骨1種類、魚介3種類。味噌ラーメンは8種類(15.4%)で、鶏ガラ2種類、豚骨5種類、魚介1種類。スープベースでみると、鶏ガラが24種類、豚骨18種類、魚介10種類だった。

すべてのラーメンを平均すると、1食あたり(スープと具の合計)のNaClは6.53±1.48g、Kは448±141mgであり、Na/K比は10.7±4.3mmol/mmolとなった。なお、「健康日本21(第3次)」では、NaCl摂取量の上限を7g/日、日本高血圧学会は高血圧患者のNaCl摂取量上限を6g/日としており、京都の平均的なラーメンを1杯、スープも残さず食べると、1食でほぼそれらの上限値に達することになる。

醤油、塩、味噌の比較でNa/K比に有意差はないが、ナトリウムは味噌ラーメンが最多

1食分での比較

醤油、塩、味噌の各ラーメンを1食分(スープと具の合計)で比較すると、NaClが最も多いのは味噌ラーメン(7.57±1.83g)、次いで醤油ラーメン(6.55±1.29g)で、塩ラーメンのNaClが最も少なく(5.74±1.41g)、味噌ラーメンと塩ラーメンとの間に有意差が認められた(p=0.022)。K含有量やNa/K比については、この3種類のメニュー間に有意差はなかった。

スープと具ごとに比較

スープと具を別々に検討すると、スープについては上記の1食分合計の解析結果と同様に、味噌のスープは塩のスープよりNaClが多いという有意差があり(6.76±1.61 vs 5.10±1.46g、p=0.031)、KやNa/K比は有意差がなかった。具については、NaCl、K、Na/K比のいずれも有意差がなかった。

なお、具のNaCl含有量は醤油が0.60±0.27g、塩が0.64±0.36g、味噌が0.81±0.63gであって、全体としてラーメンのNaClはスープに多く含まれていることが示された。

鶏ガラ、豚骨、魚介の比較では、魚介が最も体にやさしいという結果

次に、スープのベースに使われている材料の違いで比較された。すると、以下のように、さまざまな違いが見いだされた(図1)。

図1

(出典:京都府立大学)

1食分での比較

1食分として比較した場合、NaClが最も多いのは豚骨ベース(7.56±1.40g)、次いで鶏ガラベース(6.12±1.28g)で、魚介ベースのNaClが最も少なく(5.68±1.06g)、3群間に有意差が認められた(分散分析のp値が0.001未満)。K含有量には有意差がなかった。Na/K比については上記と同順に13.2±4.8、10.0±3.1、8.2±3.8であり、豚骨が最高値、魚介が最低値であって、3群間に有意差が認められた(分散分析p=0.004)。

スープと具ごとに比較

スープと具を別々に検討すると、スープのNaCl含有量については1食分としての解析結果と同様に、豚骨、鶏ガラ、魚介の順に高いという結果であった(分散分析p=0.006)。スープのKは魚介が最多で(411±192mg)、3群間に有意差が認められた(分散分析p=0.027)。それらの結果として、Na/K比も豚骨、鶏ガラ、魚介の順であり、3群間に有意差が認められた(分散分析p=0.028)。

具のNaCl量は、豚骨が鶏ガラや魚介よりも多い傾向があった(それぞれ0.79±0.46、0.55±0.29、0.59±0.22g、分散分析p=0.090)。具のKやNa/K比は有意差がなかった。

魚介系はカリウムが多くNa/K比が低下し、出汁のうま味が塩味を引き立てている

これら一連の結果を基に著者らは、「京都の飲食店のラーメン1食あたりのNaCl含有量は1日の摂取上限値と同程度であり、Na/K比も高い。また、スープベースの比較でNa/K比に有意差があり、豚骨スープや鶏ガラスープは魚介系スープよりも高い。高血圧リスクの抑制には、スープの種類を考慮してメニューを選択し、スープをあまり飲まず、ラーメンを食べた日はほかの食事でNa/K含有量の低い調味料を使用したり、K含有量の多い野菜等の摂取を増やしたりすることが勧められる」と総括している。また、「日本人が好んで食べるラーメン以外の麺類、例えばうどんなどについても、同様の調査が必要ではないか」と付け加えている。

なお、魚介系ラーメンのNa/K比が低いことの理由について、煮干しや削り節、魚のアラから抽出されるカリウムが多いこと、カリウムの塩味増強作用のためにNaClを多く使わなくても味が出ること、および出汁のうま味が塩味を引き立てるように働くことなどが、全体的に寄与しているのではないかとの考察がなされている。

文献情報

原題のタイトルは、「Na and K Content and Na/K Ratio of Ramen Dishes Served in Ramen Restaurants in Kyoto City, Japan」。〔Dietetics. 2025 Jun 3;4(2):21〕 原文はこちら(MDPI)

プレスリリース

京都市内人気ラーメン店のナトリウム・カリウムの調査結果(京都府立大学)

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スポーツ栄養Web編集部


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運動誘発性筋損傷に対するクレアチン一水和物(CrM)の効果を、性別や年齢の違いに留意しながら検討した、対プラセボ二重盲検比較試験の結果が「Nutrients」に掲載された。慶應義塾大学体育研究所の山口翔大氏、稲見崇孝氏(同大学院健康マネジメント研究科)らの研究によるもので、CrMの筋損傷抑制・回復促進効果が確認されるとともに、とくに女性では運動後の浮腫も有意に抑制されたという。

クレアチン一水和物(CrM)の回復促進作用を、若年男性以外も含めて検討

クレアチン一水和物(creatine monohydrate;CrM)は、筋肥大や筋力増大を促すエルゴジェニックエイドとして広く利用されている。また、運動誘発性筋損傷(exercise-induced muscle damage;EIMD)の回復促進作用も有しており、山口氏・稲見氏らの先行研究でもその作用が示されている。

EIMDでは筋力低下、関節可動域の低下、筋硬直、遅発性筋肉痛などが生じ、トレーニングの量や質を低下させる。質の高いトレーニングの継続とパフォーマンスの維持のため、EIMDからの迅速な回復が重要となる。

CrMによるEIMDからの回復促進作用は、これまで主に若年男性を対象とする研究で示されてきており、女性、および、より広い年齢層での知見は少ない。EIMDの病態に性ホルモンが関与することが報告されていること、および加齢とともにEIMD後の回復が遅延しやすくなることも知られていることから、若年男性以外での研究が望まれる。

これらを背景とし山口氏・稲見氏らは、幅広い対象でCrMのEIMD回復促進作用を検討した。

研究の対象と方法について

事前の統計学的検討から、このトピックの検証に必要な研究参加者数は36人以上と計算され、脱落を見込み60人を対象とした。研究参加の組み入れ基準として、減量中でないこと、疾患や傷害を有していたり服薬治療中でないこと、喫煙者・習慣的飲酒者でないこと、サプリメントを摂取していないこと、習慣的なトレーニングを半年以上続けていないことなどが設定されていた。

年齢と最大収縮筋力(maximal voluntary contraction;MVC)の分布が偏らないように留意したうえで、CrM群とプラセボ(セルロース)群のいずれかに無作為化した。用量は1日あたり3gとし28日間連続摂取し、運動負荷を行った後にも5日間摂取して、計33日間の摂取とした。

28日間の介入後に、MVCの50%の重量のダンベルで肘関節に負荷をかけ、5秒間で90°から180°に伸展するという遠心性の運動を10回、5セット実施。介入前と運動負荷直後、48時間後、96時間後に、MVC、肘関節可動域、上腕周囲長、筋硬直(上腕二頭筋のせん断弾性率〈shear modulus;SM〉、およびビジュアルアナログスケール(VAS)による主観的な筋肉痛と筋疲労の程度などを評価した。

個人的な理由による離脱や研究プロトコルからの脱落により20人が除外され、解析対象は40人(各群20人)となった。ベースラインにおいて、上記の指標はすべて有意差がなかった。なお、CrM群は年齢25.1±7.1歳、女性10人、プラセボ群は26.8±8.4歳、女性11人だった。

CrMはEIMDを抑制し、女性ではむくみも抑制される

クレアチン一水和物(CrM)は運動誘発性筋損傷(EIMD)を抑制し回復を促進する

結果について、まず、CrM群とプラセボ群とを比較した結果をみると、複数の評価指標から、CrM群ではEIMDの影響が少なく、かつ回復が促進されることが明らかになった。

例えば最大収縮筋力(MVC)は運動直後(p=0.036)および48時間後(p=0.047)に有意差が認められ、CrM群で高かった。筋疲労や筋肉痛は、運動直後、48時間後、96時間後の時点で有意差があり、CrM群で低値だった。筋硬直(上腕二頭筋のSM)は96時間後に有意差が観察され、CrM群が低値だった。

女性ではさらにCrMによる浮腫(むくみ)の抑制作用も認められる

次に、本研究の主題である性別を考慮した比較を行った。すると、プラセボ群ではすべての評価指標について、男性と女性による有意な差異は観察されなかった。対照的にCrM群では男性よりも女性において、EIMD抑制作用がより強いことを示唆する結果が示された。とくに、運動直後には複数の評価指標で有意差が観察された。

例えば、上腕周囲長(負荷前からの変化率)は女性のほうが低値であり(p=0.002)、筋硬直(上腕二頭筋のSM)も同様に女性のCrM群が低値だった(p=0.037)。さらに、浮腫(むくみ)を示唆する全身水分量(p=0.019)や細胞内水分量(p=0.015)についても、運動直後の値に性別間の有意差が認められ、女性のCrM群が低値だった。

より個別化されたCrM摂取プロトコルの確立へ

本研究によって、CrMの習慣的な摂取によりEIMDが抑制され回復も速まることが示された。とくに女性においては、運動後の浮腫抑制作用が強く認められ、CrMに性特異的作用が存在する可能性が考えられた。著者らは、「CrMサプリメントのEIMD回復促進作用を、スポーツパフォーマンスの維持や効率的なリハビリテーション戦略の一部として効果的である可能性を示唆している。今後の研究では、個人の体組成とホルモン状態を考慮したCrM摂取プロトコルの最適化、および長期的な影響の検討が望まれる」と総括している。

なお、女性において浮腫抑制作用が強くみられたことに関しては、先行研究に基づき、「エストロゲンの抗炎症作用や細胞膜安定化作用とCrMの作用が相加的に働き、炎症性サイトカインの放出や血管透過性の亢進が抑制されるという機序が考えられる」との考察が述べられている。

文献情報

原題のタイトルは、「The Effects of Creatine Monohydrate Supplementation on Recovery from Eccentric Exercise-Induced Muscle Damage: A Double-Blind, Randomized, Placebo-Controlled Trial Considering Sex and Age Differences」。〔Nutrients. 2025 May 23;17(11):1772〕 原文はこちら(MDPI)

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食塩摂取量が多くなりがちな食事の状況や食品の特徴が明らかにされた。状況としては、非勤務日、2人で食事をする時など、食品では麺類などで摂取量が増えるという。東京大学の研究グループが、食事の情報をその都度リアルタイムに記録する「生態学的瞬間評価」という手法を初めて用いて行った研究の結果であり、「International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity」に論文が掲載され、プレスリリースが発表された。著者らは、「この成果は、日本人の食塩摂取量を減らすための、具体的で実践的な対策の検討に役立つことが期待される」としている。

研究の背景:他者との比較ではなく、同じ人のなかで食塩摂取量はどう変わるのか?

食塩の過剰摂取は世界的な課題だが、なかでも日本では食塩摂取量がとくに多いことが知られている。この状況に対して、減塩を目的とした栄養教育やキャンペーンが行われており、その際、食事の状況(いつ、どこで食べたらよいか)や、食品の種類や量(何をどれくらい食べたらよいか)に関するメッセージがよく伝えられている。実際、これまでの研究では、外食や飲酒の頻度が高い人は、そうでない人に比べて食塩摂取量が多いことが示されている。

しかし、こうした異なる個人間の比較ではなく、同じ人のなかで、食事ごとに食塩摂取量がどう変わるのか、すなわち「どのような食事をすると、その人の食塩摂取量が多くなるのか」については、これまで十分に明らかにされていなかった。

この疑問に答えるには、食事に関する情報をリアルタイムに繰り返し収集する「生態学的瞬間評価(ecological momentary assessment)」という手法が有効と考えられる。そこで本研究では、生態学的瞬間評価を用いて、各食事における食塩摂取量と関連する食事の状況や食品摂取の特徴を調べた。

研究の内容

研究には、18~79歳の日本人男女2,757人が参加した。各季節に2日ずつ、合計8日間にわたり、すべての食事について、食事の状況、すなわち食事の種類(朝食・昼食・夕食)、勤務日かどうか、食事場所、一緒に食べた人数と、食品の種類と量を記録してもらった。

その記録内容に基づき、一般に減塩政策で控えることが推奨されている食品(汁物、漬物、加工された肉や魚介類)と、積極的にとることが勧められている食品(果物、減塩調味料、ハーブやスパイス、酢や柑橘類の果汁、野菜)の摂取状況を調べた。さらに、日本人の食塩摂取量と関連があると考えられる、主食の種類(米飯、パン、めん、その他の主食、主食なし)とアルコール飲料の有無についても分析した。食塩摂取量への影響が小さい間食は除外し、延べ6万3,239食を解析対象とした。

その結果、図1に示すように、1食あたりの食塩摂取量は、昼食や夕食、仕事や学校が休みの日、レストランなどの外食、だれかと2人でとる食事、および、秋や冬に多かった。その一方で、公園や車などでの食事や、夏に少ない傾向があった。

図1 食事状況の各カテゴリーの基準と比較した1食あたりの食塩摂取量(g)の差

(出典:東京大学)

また、図2に示すように、食塩摂取量は、主食(特にめん類)や汁物、漬物、減塩調味料、ハーブやスパイス、酢やかんきつ類の果汁、中程度〜高度に加工された肉や魚介類(ソーセージやかまぼこなど)、アルコール飲料を含む食事で多い一方で、果物を含む食事では少ない傾向があった。加えて、塩を使った調味料や野菜の使用量が多いほど、食塩摂取量が多い傾向もみられた。

図2 食品の種類の各カテゴリーの基準と比較した1食あたりの食塩摂取量(g)の差

(出典:東京大学)

塩を使った調味料および野菜については、それぞれ摂取量が中央値にあたる12.5g(塩を使った調味料)および80g(野菜)増えた場合の、1食あたりの食塩摂取量(g)の変化を示す。その他の食品については、食べていない場合と比較した食塩摂取量の差を示す。

本研究は、食事の状況や食品の種類と食塩摂取量の関連を、生態学的瞬間評価を用いて明らかにした初めての研究。本研究の成果は、日本人の食塩摂取量を減らすための、具体的かつ実践的な対策の検討に役立つことが期待される。

プレスリリース

食塩摂取量が多い食事とは?食べる状況と食品の特徴を解明(東京大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Ecological momentary assessment of meal context and food types contributing to salt intake at meals」。〔Int J Behav Nutr Phys Act. 2025 Jun 28;22(1):85〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部


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カカオの成分であるココアフラバノールを利用したサプリメントが、運動中の判断力を向上するとする研究結果が報告された。早稲田大学と立命館大学の研究グループによる研究成果であり、「Psychopharmacology」に論文が掲載され、プレスリリースが発表された。著者らは、この成分を用いたサプリメントの摂取によって、「競技中の素早い判断が可能となり勝負の明暗を分けるかもしれない」としている。

運動中の判断力を向上させるサプリの探索

中強度程度の有酸素性運動中、認知機能は向上することが知られている。しかしながら、考え事をし続けながら有酸素性運動を行うと、認知疲労が生じ、認知機能は低下する。

このことは、状況判断を要するスポーツにおいて、運動誘発性の疲労だけでなく、認知疲労も競技パフォーマンスを左右する要因であることを意味している。しかしながら、認知疲労下での運動中の判断力を向上させるサプリメント(栄養素)は明らかにされていなかった。

高用量ココアフラバノールで認知疲労下での有酸素性運動中の判断力が向上

本研究では、安静時の精神的疲労感を軽減させる作用のあるココアフラバノール※1に着目。認知疲労下での有酸素性運動前に高用量のココアフラバノールを摂取しておくと、精神的疲労感が軽減し、低下するはずの認知機能が改善するのではないかと考えた。

そこで二重盲検法※2で、高用量のココアフラバノールが入ったカプセル2錠を摂取する条件と、低用量のココアフラバノールが入った2錠のカプセルを摂取する条件を設定し、無作為化クロスオーバー試験で比較検証した。

具体的には2錠のカプセルを摂取した1時間後に認知疲労下での運動中の判断力(速度と精度)を測定。サッカーを想定し、50分間かけて認知疲労を誘引するプロトコルを設定した。そのほかに、心拍数や血圧、血液バイオマーカー(脳のエネルギー基質である血糖値と乳酸値、脱水の指標である血漿量、酸化ストレスマーカーのチオバルビツール酸反応性物質※3、神経細胞の成長を促す脳由来神経栄養因子)、気分(精神的疲労感、主観的集中力、意欲、不快感、イラつき、覚醒度)を評価した。

結果として、高用量ココアフラバノールを摂取すると、認知疲労下での有酸素性運動中の判断力が向上した(図1)。なお、精神的疲労感など、そのほかに測定したデータは高用量ココアフラバノール摂取の影響を受けなかった。

図1 認知疲労下での有酸素性運動中の判断力に対する高用量ココアフラバノールの効果

(出典:早稲田大学)

血管機能の改善や認知症予防効果にも期待

本研究では、高用量ココアフラバノールの単回摂取の効果について検証を行い、競技中に認知疲労が生じ得るスポーツにおいて、その判断力の向上効果を明らかにした。つまり、競技力向上のために高用量ココアフラバノールが有益であることを提供したエビデンスと言える。

今回使用したサプリメントの効果は、カカオの木の実の種子から抽出された天然素材であるフラバノール摂取によってもたらされたもので、ドーピングの対象にはならない。類似の食品には、カテキン(緑茶)やりんご、ウコン(クルクミン)、赤ワイン(レスベラトロール)が挙げられるが、カカオが最も効率的にフラバノールを摂取できる。また、このフラバノールを習慣的に摂取することで、血管機能などを中心とした健康増進効果があることも認められている。

さらに、プロサッカー選手は認知症になりやすいというデータもあるが、今後、競技前に摂取する高用量のフラバノールの短期的な効果だけでなく、長期的な認知症予防効果などがあるのか明らかになれば、より有益なサプリメントとして認知される可能性がある。

メカニズムの特定と、精神的疲労感をも軽減し得るアプローチの探索が必要

一方、本研究では高用量のココアフラバノールを摂取しても、運動時の精神的疲労感を軽減させる作用は認められなかった。精神的疲労感は、とくに日々のトレーニングにおいて重要な要素であり、今後は精神的疲労感を軽減させるためにはどのようなアプローチが必要かも考えていく必要がある。

また、高用量のココアフラバノール摂取によって認知疲労下での運動中の判断力が向上した機序について、今後さらなる検証が必要。

研究者のコメント

2022年サッカーワールドカップで日本代表が強豪スペインを相手に勝利したことは記憶に新しい。この重要な試合で、三笘薫選手の“1.88mm”が演出した2得点目のシーンからわかるように、サッカーなどの競技スポーツにおいて、判断力はパフォーマンスを左右する非常に重要な要素。本研究は状況判断を常に必要とするスポーツにて生じ得る認知疲労に対するアプローチを行ったが、この視点での研究はこれまでになかった。本研究成果を受け、今後、関連する研究成果が増えることで、競技力のさらなる向上に貢献することが期待される。

プレスリリース

カカオの有効成分でスポーツ時の判断力が向上(早稲田大学)

文献情報

原題のタイトルは、「A single intake of flavanol-rich cocoa improves inhibitory executive process under cognitive fatigue during aerobic exercise in men: a randomized, double-blind, placebo-controlled crossover trial」。〔Psychopharmacology (Berl). 2025 Jun 10. doi: 10.1007/s00213-025-06826-7〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部


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筋タンパク質合成刺激作用のある必須アミノ酸のロイシンが2個つながったジペプチドである「ジロイシン」が、ロイシン以上に筋トレ効果を高める可能性を示唆する研究結果を紹介する。米国の研究者によって行われた、日常的に筋トレを行っている男性対象の二重盲検比較試験の結果であり、昨年末に「PLOS One」に報告された。

ジロイシンはロイシンの効果を上回る?

必須アミノ酸の一つであるロイシン(leucine)は、筋タンパク質合成(muscle protein synthesis;MPS)刺激作用を持つことから、筋量や筋力を高めるためのサプリメントとして広く利用されている。一方、近年、食品中のペプチド(ジペブチドやトリペブチド)の研究が進み、ロイシンが2個つながったジペプチドである「ジロイシン(dileucine)」に関する理解も深化して、体内への吸収率がロイシンを上回り、筋肉へより速く到達する可能性が示唆されてきている。とはいえ未だ基礎研究が多くを占めており、実際にヒトがジロイシンを摂取した場合にロイシン以上の効果が発揮されるのかどうかは明らかでなかった。

ふだん筋トレを行っている男性を3群に分け10週間介入して比較

今回紹介する論文の研究は、日常的に筋力トレーニングを行っている男性を3群に分け、ロイシン、ジロイシン、およびプラセボのいずれかを摂取してもらい、10週間での筋力関連指標の変化を比較するという、二重盲検並行群間比較試験として実施された。事前の統計学的検討により、このトピックの有意差を検証するたに必要とされるサンプルサイズは24~33人と計算された。

研究参加者の募集に対して587人の男性が応募。適格条件は、自己申告に基づくBMI25未満、体脂肪率25%以下、過去1年以上の筋トレ継続、ベンチプレスでの最大挙上重量が体重の1.0倍以上、レッグプレスでは同1.5倍以上、過去1年以内にアナボリックステロイドを摂取していないこと――を満たし、かつ研究手法の説明後にも参加に同意したのが113人で、このうち57人が研究に参加した。

この57人を、除脂肪体重に群間差が生じないように考慮のうえ無作為に3群に分類。ロイシン、ジロイシン、プラセボのいずれかを毎日2g、10週間にわたり摂取してもらった。摂取タイミングは、筋トレ実施日は筋トレ後60分以内、休息日は朝食時とした。また、研究参加の30日前からは、マルチビタミン/ミネラル以外のサプリメント(例えばクレアチン、β-アラニン)の摂取を禁止した。

介入期間中は標準化されたプロトコルで筋トレ(週に上半身と下半身を各2回で計40回)を継続。また、食事に関してはエネルギー量を30kcal/kg以上、タンパク質1.5g/kg以上として、食事記録に基づき遵守状況を確認。遵守率が90%未満だった参加者は、解析から除外された。

評価項目は、体組成、レッグプレスおよびベンチプレスの1回最大挙上重量(one repetition maximum;1RM)、1RMの80%の負荷で挙上不能になるまでの回数(repetitions to failure;RTF.筋持久力)、下肢筋力指標としてのカウンタームーブメントジャンプ(countermovement jump test;CMJ)などで、8時間の絶食、および、24時間前からのカフェイン・アルコール・ニコチン摂取、運動を禁止した状態で評価した。

ジロイシンは下半身の筋力や筋持久力をロイシン以上に向上させるという結果

10週間の介入を終了した参加者は34人だった。年齢は28.3±5.9歳、BMI25.5±3.7、体脂肪率19.1%で、サプリ(ジロイシン、ロイシンまたはプラセボ)の摂取と筋トレの遵守率は97.6%だった。介入前(ベースライン時点)において3群間に、年齢、BMI、体脂肪率、レッグプレスおよびベンチプレス1RMはいずれも有意差がなかった。また、介入期間中の摂取エネルギー量、主要栄養素バランスにも有意差はなかった。

レッグプレスの1RMとRTFの変化に有意な群間差

体重や除脂肪体重、および大腿中央部の筋厚は、3群ともに介入期間中に増加するという、有意な時間効果が認められた。ただし、変化量の群間差は非有意だった。一方、筋力や筋持久力の指標の一部に、以下のような有意な群間差が観察された。

レッグプレスの1RM

レッグプレスの1回最大挙上重量(1RM)は各群で以下のように変化していた。ロイシン群は介入前が290±67kgで介入後は335±62kg、ジロイシン群は同順に263±75kg、324±78kg、プラセボ群は286±74kg、307±86kg。

介入前後の変化量を群間で比較すると、ロイシン群とプラセボ群(p=0.23)、および、ロイシン群とジロイシン群(p=0.48)は有意差がなかったが、ジロイシン群とプラセボ群の比較では前者の変化量のほうが有意に大きかった(95%CI;5.8~73.2kg、p=0.02)。

レッグプレスのRTF

レッグプレスの筋持久力(RTF)は各群で以下のように変化していた。ロイシン群は13±5回から18±5回、ジロイシン群は13±4回から28±8回、プラセボ群は14±8回から24±11回。

介入前後の変化量を群間で比較すると、ロイシン群とプラセボ群(p=0.47)、および、ジロイシン群とプラセボ群(p=0.32)は有意差がなかったが、ジロイシン群とロイシン群の比較では前者の変化量のほうが有意に大きかった(95%CI;0.58~20.3回、p=0.04)。

以上を基に著者は、「1日2gのジロイシンサプリメントは、レジスタンストレーニングを行っている男性において、ロイシンやプラセボよりも下半身の筋力と筋持久力の向上という点で効果的だった。この結果は、ジロイシンがレジスタンストレーニングへの適応を改善する効果的なサプリメントとなる可能性を示唆している」と述べている。

なお、一部の著者が、ジロイシンに関する特許を出願中であることや、本研究の研究資金提供企業との利益相反(COI)に関する情報を開示している。

文献情報

原題のタイトルは、「Dileucine ingestion, but not leucine, increases lower body strength and performance following resistance training: A double-blind, randomized, placebo-controlled trial」。〔PLoS One. 2024 Dec 31;19(12):e0312997.〕 原文はこちら(PLOS)

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スポーツ栄養Web編集部


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大学サッカー選手を対象に、ボールを止めて方向を変える「トラップ動作」における身体の動きを解析した結果、上級者はボールを止める際に、方向転換を予測して、骨盤の向きや足首の動き、ボールとの接触位置を調整し、より素早く正確に次のプレーに移行していることが明らかになった。筑波大学の研究グループによる研究成果であり、「International Journal of Sports Science & Coaching」に論文が掲載され、プレスリリースが発表された。

研究の概要:上級者のトラップは中級者と何が違うのか?

サッカーでは、パスを受けた後に素早く向きを変えて攻撃に移る「トラップ」という動作がとても大切。とくに相手の守備と中盤の間のスペースでこの動作がうまくできると、試合の流れを大きく変えることができる。しかし、実際の試合における、トラップが上手な選手の体の使い方については、これまであまり詳しくわかっていなかった。

本研究では、大学のサッカー選手を対象に、180度方向転換をするトラップ動作を詳しく調べた。ボールを止めて向きを変え、パスを出す一連の動きを、赤外線カメラで記録し、対象選手を、全国大会に出場するレベルの上級者グループと、出場経験のない中級者グループに分けて比較検討した。

その結果、上級者は中級者より、足とボールの中心位置を正確に合わせているためにトラップミスが少なく、素早い足首の外側への回転運動でボールの勢いを吸収している傾向がみられた。また、上級者は中級者より、トラップ時に身体や骨盤の向きを大きく進行方向に向け、あらかじめその動作をしやすい位置に足を置くことで、よりバランスよく、かつスムーズに方向転換をしながら精度良くトラップをしていることがわかった。

これらのことから、上級者はトラップ時において、ボールをコントロールしながら、方向転換を予測した先取り的な運動準備を行うことで、効率的かつ目的志向的なトラップ動作を実現していることが明らかになった。本研究成果は、サッカーを練習する人たちが、より効果的にトラップ技術を身に付けるためのヒントになると期待される。

研究の背景:複雑な状況下でのトラップ動作のメカニズムを探る

サッカーにおけるボールトラップ(ボールを足や胸で止め、次の動きに向けて方向転換する)は、攻撃の起点を作り出すための基本的かつ戦術的に非常に重要な技術。とくに、守備ラインと中盤ラインの間のギャップスペースでパスを受けて、180度の方向転換を行いながら攻撃へとつなげる動作は、得点機会を創出するうえで極めて重要なプレーの一つ。このような状況では、選手は限られた空間と時間の中で、瞬時に身体の向きや重心位置を調整し、次のプレーへとスムーズに移行する必要がある。

しかしながら、これまでのトラップに関するバイオメカニクスやコーチング学的な研究の多くは、静的な条件下でセーフティコーンを相手に見立てた単純な動作を対象としており、実際の試合のように動的かつ予測困難な状況下での身体制御や熟練度による動作の違いに注目したものは限られていた。とくに、方向転換を伴うような複雑な状況下でのトラップ動作のメカニズムについては、十分に明らかにされておらず、これを科学的に解明することは、選手育成や実践的なコーチングにおいて重要。

研究内容と成果:上級者はトラップでボールを止めた後の動作が連結している

本研究では、大学サッカー選手18名(全国大会に出場経験のある上級者10名、出場経験のない中級者8名)を対象に、180度の方向転換を伴うボールトラップ動作における身体の使い方の違いを、三次元動作解析によって検討した(図1)。使用機器にはVicon社製モーションキャプチャシステム(撮影周波数500Hz)を用い、選手の全身およびボールに複数の反射マーカーを装着して、室内において精密な動作データを取得した。

図1 トラップ動作の実験概要

20台の赤外線カメラを備えたモーションキャプチャシステムを用いて、サッカーのトラップ動作を三次元的に計測した。被験者には全身およびボールに反射マーカーを装着し、方向転換を含む実戦的な動作を高精度で記録した。

(出典:筑波大学)

実験では、被験者が5m走行後に正面からパスされたボールを受け取り、トラップと180度方向転換を行った後、再度パスを出す一連の動作を実施し、ボールインパクトからパスまでの所要時間、足とボールの接触点、足関節の動き、骨盤の角度、足部や重心の速度などの指標を、上級者グループと中級者グループとで比較した。

分析の結果、上級者群はインパクトからパスまでの所要時間が0.98±0.14秒と、中級者群(1.22±0.26秒)に比べて有意に短く(p<0.001、d=-1.14)、より迅速な動作を実行していることが確認された。また、足とボールの接触点は、垂直方向でボール中心より約0.071m上方、前後方向では約0.007mと中心に近い位置に集中しており、トラップ後の跳ね上がりや過度なボール速度を抑制するのに有利な位置をとっていた(p<0.05、図2)。0.001、d=-1.14)、より迅速な動作を実行していることが確認された。また、足とボールの接触点は、垂直方向でボール中心より約0.071m上方、前後方向では約0.007mと中心に近い位置に集中しており、トラップ後の跳ね上がりや過度なボール速度を抑制するのに有利な位置をとっていた(p<0.05、

図2 トラップ時のボール接触点の比較

青:上級者、赤:中級者。 上級者はボールの中心よりやや上かつ前後の中心付近で足と接触しており、跳ね返りや方向のズレを抑えやすい位置でトラップしている。一方で中級者はばらつきが大きく、接触点が低く遠くなる傾向が見られた。

(出典:筑波大学)

さらに、上級者群ではインパクト直前の足関節の外反角速度※1 が3.9rad/sと、中級者群(1.67rad/s)よりも有意に高く(p<0.05)、ボールからの衝撃をより効率的に吸収していることが示唆された。骨盤の角度についても、インパクト時の骨盤角が−79.4°と中級者群の−72.5°より有意に小さく(p<0.01、d=−0.50)、ボールの進行方向と平行に近い姿勢がとられていた(図3)。0.05)、ボールからの衝撃をより効率的に吸収していることが示唆された。骨盤の角度についても、インパクト時の骨盤角が−79.4°と中級者群の−72.5°より有意に小さく(p<0.01、d=−0.50)、ボールの進行方向と平行に近い姿勢がとられていた(

図3 トラップ時のボールに対する骨盤の位置と向きの比較

青:上級者、赤:中級者。 上級者はボールに触れる瞬間、骨盤の向きがボールの進行方向とより平行に保たれており、次の動作へのスムーズな移行が可能な姿勢となっている。中級者は骨盤が進行方向からややそれており、回旋の効率に差がみられた。

(出典:筑波大学)

また、支持脚(左足)※2の位置関係では、上級者群がボールに対して水平方向で0.44m、縦方向で0.20mと、中級者群(0.50m、0.12m)よりも近接かつ斜め後方に配置されており(p<0.001)、安定した重心移動と方向転換の実行に寄与していると考えられる。<>

これらの結果から、上級者はトラップを単にボールを「止める」動作としてではなく、次の攻撃動作に連結する準備動作として戦略的に活用していることが明らかになった(図4)。本研究結果は、実戦に即した視点からトラップ技術を評価し、指導するための有効な科学的知見を提供している。

図4 トラップ動作における先取り的な動きの準備の比較

上:上級者、下:中級者。 上級者と中級者がトラップを行う際に見せる先取り的な運動準備(proactive movement preparation)の違いを連続写真で示したもの。上級者は、中級者よりも早い段階で身体と骨盤の向きを進行方向へ大きく整え、さらに足を「動き出しやすい位置」に配置している。その結果、ボールを正確にコントロールしながらもバランスを崩さずにスムーズな方向転換を実現している。一方、中級者は、トラップ直前まで体をボールに正対させた姿勢を保つ傾向が強く、次の動作に移る際に体の回転を大きく伴うため、方向転換に時間を要する。これらの結果から、熟練者は単にボールを「止める」だけではなく、次のターンを予測して身体を準備し、効率的かつ目的志向的なトラップを実現していることが明らかとなった。

(出典:筑波大学)

今後の展開:新たなトレーニングメニューの開発へ

著者らは、「今後は、本研究で明らかになったトラップ時の動作特性(接触点の調整、骨盤の先行回旋、足関節の可動性と筋力など)を生かして、これらを反映したトレーニングメニューの開発を進めていく。また、実際の試合に近い実験条件(屋外環境、守備者からのプレッシャーなど)での検証を通じて、生態学的妥当性をより高めた実践的研究の展開を目指す。さらに、トラップ技術の改善に向けた個別的な指導アプローチの構築や、選手の身体的特性に応じたトレーニング計画の最適化にも取り組む予定」とし、「これにより、選手の技術向上に寄与するとともに、競技パフォーマンスの質的向上につながると期待される」と述べている。

プレスリリース

サッカー上級者はプレーを止めないようにボールを止めている(筑波大学)

文献情報

原題のタイトルは、「Motion Characteristics of Directional Ball-Trapping Techniques in Soccer: A Comparative Study of Advanced and Intermediate Players」。〔Int J Sports Sci Coach. 2025 Jun 27〕 原文はこちら(SAGE Publications)

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スポーツ栄養Web編集部

0.001)、安定した重心移動と方向転換の実行に寄与していると考えられる。<>

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エリートレベルの格闘技におけるパフォーマンスに対するサプリメントの有用性を、これまでの多数の論文のデータを統合して比較検討した結果が報告された。ピークパワー、平均パワー、投げ技やキックの回数などに対する、カフェイン、重炭酸ナトリウム、クレアチンなどの有意な効果を報告している。中国とマレーシアの研究者による論文。

ベイジアンネットワークメタ解析で格闘技パフォーマンスへのサプリの影響を比較

格闘技は古代五輪から競技として存在し、現在では夏季五輪のメダルの25%以上が格闘技選手で占めるほど、多くの競技・種目・階級が設けられている。格闘技は瞬発的な筋力だけでなく持久力も要することが多く、アデノシン三リン酸・クレアチンリン酸系(ATP-CP系)、解糖系(乳酸系)、有酸素系(酸化系)という代謝経路のいずれもが、パフォーマンスの発揮に重要とされる。また、効果的なトレーニングのために回復の促進も欠かせない。これらの需要を満たすために、食事由来の栄養素に加えてサプリメントが利用されることが多い。

これまでにも格闘技におけるサプリの有用性を示した研究は多く報告されてきている。しかし、それぞれのサプリの効果の比較はあまり行われていない。今回紹介する論文の著者らは、システマティックレビューとベイジアンネットワークメタ解析によって、格闘技アスリートに用いられるサプリの効果を比較検討した。なお、ネットワークメタ解析は、複数の異なる研究の結果を統合して統計学的な解析を行い、介入手段の有効性を比較する手法。なかでもベイジアンネットワークメタ解析は、介入手段の優劣の順位付けに向いている。

システマティックレビューについて

PubMed、Web of Science、Cochrane、Embase、SPORTDiscusという文献データベースのスタートから2023年11月2日までに収載された論文を対象として検索を実施。包括基準は、エリートレベル(Tier 3以上)の成人アスリートを対象に、世界アンチ・ドーピング機構(World Anti-Doping Agency;WADA)の禁止物質以外を用いて対照群(プラセボ摂取またはサプリ非摂取)を置き、格闘技関連パフォーマンス指標への影響を検討した、無作為化比較試験の英語論文。除外基準は、未成年対象、WADA禁止物質による介入、査読システムのないジャーナル、レビュー論文、学会発表、同一の試験結果に基づく論文など。

一次検索で2万731報がヒットし、重複削除後に2名の研究者がタイトルと要約に基づくスクリーニングを実施して133報に絞り込み、全文精査を行った。採否の意見の不一致は3人目の研究者を含めた討議により解決した。最終的に67件の研究報告を適格と判断した。

抽出された報告の研究参加者数は合計1,026人で、多くは男性選手対象研究であり(男性598人。ただし14件は性別について記されていない)、ブラジルから19件、ポーランド9件、台湾7件、チュニジア6件、英国、スペインが各5件、イラン4件で、日本、セルビア、エストニアが各2件などであり、競技については柔道、レスリング、ボクシング、空手、剣道、総合格闘技などだった。

用いられていたサプリはカフェイン、重炭酸ナトリウム(重曹)、クレアチン一水和物、クレアチンリンゴ酸塩、β-アラニン、分岐鎖アミノ酸(branched chain amino acids;BCAA)、β-ヒドロキシ-β-メチルブチレート(β-Hydroxy β-Methylbutyric;HMB)、アルギニン、ビート根ジュース、コエンザイムQ10、ω3脂肪酸、炭水化物、ビタミンD、プロバイオティクス、アルカリ水、水素水などだった。評価項目は、ピークパワー、平均パワー、握力、自覚的運動強度(rate of perceived exertion;RPE)、柔道特異的テスト、投げ技やキックの回数、攻撃回数、乳酸値、心拍数などだった。

カフェイン、クレアチン一水和物などが格闘技を有利にする可能性

論文では、前記の指標ごとの解析結果が述べられている。それらの中から、解析の結果、有意な影響が認められたものを中心に、いくつかを抜粋して紹介する。

パワー

17件の研究で平均パワーへの影響が検討されており、解析の結果、クレアチン(標準化平均差〈standardized mean difference;SMD〉=1.00〈95%CI;0.38~1.61〉、重炭酸ナトリウム(SMD=0.42〈0.18~0.66〉)、クレアチン+重炭酸ナトリウム(SMD=2.25〈1.47~3.11〉)が、対プラセボで有意な違いが認められた。

また、15件の研究でピークパワーへの影響が検討されており、前記同様、クレアチン(SMD=1.10〈0.45~1.75〉、重炭酸ナトリウム(SMD=0.35〈0.11~0.57〉)、クレアチン+重炭酸ナトリウム(SMD=1.57〈0.85~2.27〉)という三つのサプリで有意な違いが認められた。

柔道特異的テスト

11件の研究で、柔道特異的テストにおける投げ技の回数への影響が検討されており、カフェイン(SMD=0.35〈0.08~0.61〉)の有意な効果が認められた。一方、クレアチンリンゴ酸塩は負の影響が認められた(SMD=-1.84〈-3.53~-0.18〉)。なお、クレアチン一水和物については、SMDは正であるものの非有意だった(SMD=0.42〈-0.13~0.97〉)。また、8件の研究で柔柔道特異的テスト指数への影響が検討されていたが、有意な影響を示したサプリは特定されなかった。

キック数

5件の研究でキック数への影響が検討されており、カフェイン(SMD=1.44〈0.19~2.71〉の有意な効果が認められた。

このほかの評価指標のうち、自覚的運動強度(RPE)、模擬戦での攻撃回数、握力に関しては、どのサプリも統計的に影響が認められなかった。

文献情報

原題のタイトルは、「Advantages of different dietary supplements for elite combat sports athletes: a systematic review and Bayesian network meta-analysis」。〔Sci Rep. 2025 Jan 2;15(1):271〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部


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世界保健機関(World Health Organization;WHO)は7月2日、各国に対し、慢性疾患の抑制、および公的な収入の創出のための目的税(健康税)を通じて、タバコ、アルコール、加糖飲料の実質価格を、2035年までに50%引き上げることを求める新たな大規模イニシアチブ「3 by 35」をスタートさせた。以下、WHOのサイトに掲載されている情報の要旨を紹介する。

タバコ、アルコール、加糖飲料がNCDを蔓延させ早期死亡を増やしている

タバコ、アルコール、加糖飲料は、非感染性疾患(non-communicable diseases;NCD)の蔓延を助長し、心臓病、癌、糖尿病などのNCDは、世界の死亡原因の75%以上を占めている。最近の報告によると、タバコ、アルコール、加糖飲料の価格を50%引き上げるだけで、今後50年間で5,000万人の早期死亡を防ぐことができるとされている。

WHO健康促進・疾病予防管理局のJeremy Farrar氏は、「健康税は我々が採用可能な最も効率的な手段の一つだ。有害な製品の消費を削減するとともに、医療、教育、社会保障へ政府が再投資するための歳入を生み出す。今こそ行動を起こす時だ」と述べている。

健康税で3製品の消費が削減され、公衆衛生財源が拡大する

「3 by 35」イニシアチブは、タバコ、アルコール、加糖飲料という3製品のいずれか、またはすべての実質価格を、増税によって2035年までに少なくとも50%引き上げるという世界的な取り組み。今後10年間で1兆米ドルを調達するという、野心的ながらも達成可能な目標を掲げている。2012~22年の間に約140カ国がタバコ税を引き上げ、実質価格が平均で50%以上上昇したという事実は、大規模な変化が可能であることを示している。

コロンビアや南アフリカほか、健康税を導入した国々は、消費の減少と歳入の増加を実現している。その一方で多くの国は、タバコを含む不健康な産業への税制優遇措置を継続している。さらに、タバコ税の増税を制限する業界の働きかけもある。WHOは、効果的なタバコ規制を支援し公衆衛生を守るため、各国政府に対してこうした優遇措置を見直すことを促している。

「3 by 35」イニシアチブによる各国への支援

「3 by 35」イニシアチブの成功の根幹は、強力な連携にある。WHOが主導するこのイニシアチブは、各国が健康税を導入できるよう支援するために、強力なグローバルパートナーグループを結集している。多くの国々は、国内資金による自立した医療システムへの移行に関心を示しており、WHOに指導を求めている。

「3 by 35」イニシアチブには、以下の目標を念頭に置き、各国主導の改革へ直接的な支援を行うことも含まれる。

タバコ、アルコール、加糖飲料に対する税を増額、または導入して価格を引き上げ、消費を減らし、将来の医療費と予防可能な死亡を減らす。

健康政策のための財源を増やす

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(すべての人々が基礎的な保健医療サービスを、必要なときに、負担可能な費用で享受できる状態)を含む、不可欠な保健・開発プログラムに資金を提供するために、公的資金を動員する。

省庁、市民社会、学界全体にわたる幅広い政治的支持を構築する

財務省、保健省、国会議員、市民社会、研究者を関与させ、効果的な政策を設計、実施することで、多部門間の連携を強化する。

WHOは、各国、市民社会、関連組織・諸団体に対し、「3 by 35」イニシアチブを支持し、健康を守り、持続可能な開発目標に向けた進歩を加速させる、より合理的で公平な課税に取り組むよう呼びかけている。

関連情報

WHO launches bold push to raise health taxes and save millions of lives(WHO) The 3 by 35 Initiative(WHO)

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スポーツ栄養Web編集部


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今回は、アスリートに限らず広く飲用されているエナジードリンクについて、ありがちな誤解や質問をピックアップし、ナラティブレビューに基づく回答を加えた論文を取り上げる。Q&Aは16項目あり、それぞれについて詳細な解説と結論が述べられている。ここでは結論部分を中心に紹介する。なお、この論文の著者らの研究グループは、過去に同様のフォーマットにより、プロテインやクレアチン、カフェインなどについても論文を発表している。

関連情報


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60歳以上の日本人を対象に、運動介入にBCAAとビタミンDのサプリメントによる栄養介入を並行して行ったところ、除脂肪体重が維持され身体機能が向上したとする研究結果が「BMC Geriatrics」に掲載された。宮崎大学医学部整形外科の横江琢示氏らによるもので、高齢者のサルコペニアやロコモティブシンドロームの予防戦略の確立につながる知見と言える。

運動とBCAA、ビタミンDの複合的な効果を探る

急速な高齢化を背景に、サルコペニアやロコモティブシンドローム抑制のための公衆衛生対策の重要性が増している。これまでの研究から、運動介入と栄養介入の有用性が示唆されており、後者については筋タンパク質の同化刺激作用のある分岐鎖アミノ酸(branched chain amino acids;BCAA)、および、骨代謝や筋肉機能の改善作用のあるビタミンDに関するエビデンスが蓄積されてきている。

ただし、現在までのエビデンスの多くは、それらの介入効果を個別に検討した研究結果が多く、複合的な影響については十分に検討されていない。横江氏らはこの点を明らかにするため、以下の研究を行った。

宮崎県の三つの自治体の住民を対象として、居住地域ごとに3通りの介入

この研究には、宮崎県内の三つの自治体から募集された、60歳以上でロコモティブシンドロームに該当する地域住民247人が参加登録された。このうち、元プロスポーツ選手、日常的に運動を継続している人を除外。また、医師が研究参加に不適と判断した人やプロトコルからの脱落者などを除外し、12週間の介入を終了した121人が解析対象とされた。

居住している自治体によって、運動介入のみを行う地域(解析対象者45人)、運動介入と栄養介入を並行して行う地域(同45人)、および介入なし(週1回の電話連絡のみ)の地域(31人)という3群に分類した。つまり、介入の割り付けは無作為化されていなかった。ただし、ベースライン時点で、年齢、性別の分布、BMI、疾患既往歴、疼痛の有無、ロコモティブシンドロームの重症度(Geriatric Locomotive Function Scale-25;GLFS-25〈ロコモ度〉)などは3群間に有意差がなく、後述する三つの評価項目についても有意差がなかった。

介入方法

運動介入の内容は、開眼片足立ち、スクワット、かかとの上げ下げ、フロントランジなどを1日3機会実施することとした。

栄養介入も行う群では、毎日いずれかの運動機会の終了後30分以内に、BCAAとビタミンDを主成分とするサプリメント(大塚製薬「ボディメンテゼリー」)の摂取を指示した。

これらの介入を行う2群には、週1回電話連絡を行い、遵守状況を確認した。

評価項目

評価項目は、除脂肪体重、身体機能(立ち上がりテスト、2ステップテスト)、GLFS-25(ロコモ度)、および血清25(OH)Dとした。

これらのうち、立ち上がりテストは、高さ40cm、30cm、20cm、10cmという4種類の椅子から立ち上がるテストで、より低い高さの椅子から立ち上がれるほど身体機能が優れていると判定する。本研究では先行研究に従い0~8点にスコア化して評価した。

2ステップテストは、できるだけ大股で2歩歩き、その距離を身長で除した値が大きいほど身体機能が優れていると判定する。

GLFS-25は25項目からなる自記式質問票で、0~100点の範囲でスコア化され、スコアが低いほどロコモが重症と判定する。

運動+栄養介入は除脂肪体重と身体機能の維持・改善につながる

前述のように、ベースライン時点ではすべての評価項目の群間差が非有意だったが、3カ月の介入により、以下のような差が生じていた。

除脂肪体重:運動+栄養介入群は有意な変化がなく、他の2群は有意に減少

全身の除脂肪体重は、運動介入群(-0.64±1.33kg、p=0.002)と対照群(-0.74±1.15kg、p=0.001)では有意に減少していた。それに対して運動+栄養介入群は有意な変化が生じていなかった(-0.14±1.15kg、p=0.418)。

部位別にみると、左右の上肢および体幹の除脂肪量は、対照群では有意に減少し、運動介入群、および、運動+栄養介入群の変化は非有意だった。左右の下肢については、対照群と運動介入群は有意に減少し、運動+栄養介入群の変化は非有意だった。また、左下肢については、3カ月の介入前後の変化量に有意差が認められ、運動+栄養介入群の変化量が少なかった(分散分析p=0.047)。

身体機能:立ち上がりテスト、2ステップテストともに介入後に有意差が観察される

介入後の立ち上がりテストのスコアは、対照群3.52±1.26点、運動介入群3.84±1.17点、運動+栄養介入群4.22±1.06点であり、3群間の有意差が認められた(分散分析p=0.033)。また、運動+栄養介入群のスコアは対照群より有意に高かった。

介入後の2ステップテストの値にも3群間の有意差が認められ(分散分析p=0.004)、対照群1.182±0.130、運動介入群1.286±0.155、運動+栄養介入群1.268±0.123であった。また、運動介入群、および、運動+栄養介入群は、対照群に比べ有意に高値だった。

運動とBCAA・ビタミンDの栄養介入が、加齢による筋量や身体機能の低下抑制に有用

上記以外の評価項目であるGLFS-25には、有意な群間差はみられなかった。血清25(OH)Dについては、対照群では有意な変化がなく、運動介入群では有意に低下、運動+栄養介入群では有意に上昇し、介入後の3群間の値に有意差があった(分散分析p<0.001)。<>

著者らは本研究について、介入条件が無作為化されていないこと、栄養介入のみの群が設定されていないことなどを限界点として挙げたうえで、「運動介入とBCAAおよびビタミンDサプリメントを用いた栄養介入を組み合わせることで、身体機能低下リスクのある高齢者の筋肉量を維持し身体機能を向上し、血清ビタミンDレベルを改善できることが示された」と総括している。

文献情報

原題のタイトルは、「Effects of branched-chain amino acid- and vitamin D-containing high-protein food supplementation plus exercise on elderly people with decreased physical functions」。〔BMC Geriatr. 2025 Jul 5;25(1):500〕 原文はこちら(Springer Nature)

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スポーツ栄養Web編集部

0.001)。<>

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オーバーユース障害を来しやすい男子高校生バスケットボール選手の特徴が報告された。クラスター分析の結果、骨格筋量指数(SMI)や垂直跳びの記録が低く、トレーニング時間が長いという三つの特徴を併せもっている選手のリスクが高いことが明らかにされている。和歌山リハビリテーション専門職大学健康科学部リハビリテーション学科の山下裕氏らによる研究の結果であり、「Cureus」に論文が掲載された。

キャリアを左右しかねないオーバーユース障害のリスク因子を包括的に探る

オーバーユース障害は組織への反復する負荷により徐々に発症する。バスケットボールはジャンプや急な方向転換・停止などが繰り返される高強度スポーツであり、また高校生は骨格が未熟でかつ急な成長期にあたり、競技スキルも短期間で大きく変わるため、オーバーユース障害のリスクが高い。オーバーユース障害は、トレーニングの制限、試合参加機会の喪失、さらにはキャリアの短縮にもつながり得るため、予防的介入が重要とされる。

これまでにもオーバーユース障害のリスク因子に関する研究は行われてきているが、限られた因子との関連のみを検討した報告が多い。実際には、単一の原因でオーバーユース障害が発症するということは少なく、複数の因子が相互に作用してリスクを押し上げていると考えられる。そのため、有効性の高い予防戦略の確立には、関連するリスク因子を総合的に評価したうえでクラスタリングを行い、ハイリスク者の特徴を探る必要がある。

以上を背景として山下氏らは、エリートレベルの男子高校生バスケットボール選手を対象に、オーバーユース障害の既往を調べ、その関連因子の包括的な調査結果に基づくクラスター分析を実施。オーバーユース障害を来しやすい選手の特定を試みた。

国内トップレベルの高校バスケ部員を対象に調査

この研究は、バスケットボールで全国大会に出場するなど、国内トップレベルの実力を持つ高校のバスケ部男子部員80人を対象に実施された。怪我の急性期(受傷2週間以内)や手術歴のある選手などは除外されている。

オーバーユース障害のリスクとの関連の有無を検討した項目は、年齢、経験年数、トレーニング時間・頻度、ポジション、利き手・利き足、身長・体重・体組成、身体能力(握力、大腿四頭筋厚、座位前屈、サイドステップ、垂直跳び)、および、食習慣(トレーニング前に食事を摂るか、トレーニング量にあわせて摂取量を調整しているか)など。

オーバーユース障害のリスクの高さと関連のある3因子が明らかに

解析対象者は16.5±0.9歳で、バスケの経験は8.5±2.4年、トレーニング時間は1日3.8±1.2時間、週あたり26.0±9.2時間、トレーニング頻度は6.7±1.1日/週だった。食事に関しては、トレーニング前に食事を摂るようにしている選手が27.2%、トレーニング量にあわせて摂取量を調整している選手が31.3%だった。

3割の選手が過去半年以内にオーバーユース障害を経験

オーバーユース障害を、「過去6カ月以内にスポーツ活動に伴い発症し、医療専門家によって診断され、スポーツへの参加が制限される慢性的な痛みや不快感」と定義すると、24人(30%)がこれに該当した。

単変量解析の結果、6カ月以内のオーバーユース障害の既往あり群は、1日のトレーニング時間が有意に長く(4.3±0.6 vs 3.6±1.3時間、p=0.034)、垂直跳びの記録が有意に低かった(52.6±4.3 vs 56.3±6.5cm、p=0.011)。このほかに、週あたりのトレーニング時間や骨格筋量指数(skeletal muscle mass index;SMI)にも非有意ながら比較的大きな群間差(p<0.1)が認められ、リスク因子を探索するという研究目的から、以降の分析ではこれらも説明変数として採用した。ただし、1日のトレーニング時間と週あたりのトレーニング時間については、多重共線性を回避するため後者を除外した。年齢やバスケの経験年数などのその他の因子はp値が0.1以上であり、両群間に差は認められなかった。<>

1日のトレーニング時間、垂直跳び、SMIという3因子に基づくクラスター分析の結果、以下の四つのクラスターに分類できることが明らかになった。

クラスター1(C1)は、垂直跳びの記録がよく(Zスコアが1.13)、SMIもやや高くて(同0.47)、身体能力が高いと判断され、トレーニング時間は平均的(0.05)な群であり、21人が該当した。

クラスター2(C2)は、SMIが最も高く(1.07)、垂直跳びの記録は低く(-0.52)、トレーニング時間が短いという(-0.64)、筋肉量は多いが身体能力と活動レベルは低い群であり、15人が該当した。

クラスター3(C3)は、トレーニング時間が最も長く(1.46)、垂直跳び(-0.26)とSMI(-0.11)は平均以下であって、トレーニング負荷の高さと身体能力が一致していないことを特徴とする群であり、16人が該当した。

クラスター4(C4)は、トレーニング時間(-0.53)、垂直跳び(-0.44)、SMI(-0.86)のすべてが平均以下で、身体能力と活動レベルがともに低い群であり、28人が該当した。

クラスター2、3はオーバーユース障害のオッズ比が顕著に高い

上記の各クラスターのオーバーユース障害を有する選手の割合は、C1から順に、4.8%、53.3%、56.2%、21.4%だった。

オーバーユース障害が最も少ないC1を基準とすると、C2のオーバーユース障害のオッズ比(OR)は22.9(95%CI;2.4~216.9)、C3はOR25.7(2.7~241.1)、C4はOR5.5(0.6~49.3)であり、C2とC3は有意に高いオッズ比が示された。

ROC解析の結果、このクラスタリングによるオーバーユース障害の予測能(AUC)は0.77と計算され、中等度の予測能と判定された。

多因子に基づくクラスタリングで早期スクリーニングと予防戦略の個別化が可能に

著者らは本研究の限界点として、観察研究であり因果関係は不明であること、単一の集団での検討であること、オーバーユース障害と関連が想定されている他の因子(ストレス、睡眠習慣、自己効力感など)を把握していないことなどを挙げ、さらなる研究の必要性を指摘している。

そのうえで、「体組成、身体能力、トレーニング負荷を総合的に評価することで、オーバーユース障害のリスクを体系的に分類・可視化できることが示された。このアプローチは、オーバーユース障害の早期スクリーニングとして実現可能性を有している」と総括。また、「このようなクラスタリングの採用が、個々のアスリートにあわせた予防戦略の開発につながるのではないか」と今後の研究への期待を述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Multifactorial Risk Profiling of Overuse Injuries in Elite High School Basketball Players in Japan: A Cluster Analysis Approach」。〔Cureus. 2025 May 31;17(5):e85134〕 原文はこちら(Cureus)

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0.1)が認められ、リスク因子を探索するという研究目的から、以降の分析ではこれらも説明変数として採用した。ただし、1日のトレーニング時間と週あたりのトレーニング時間については、多重共線性を回避するため後者を除外した。年齢やバスケの経験年数などのその他の因子はp値が0.1以上であり、両群間に差は認められなかった。<>

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日本人の食事パターンの違いを、3種類の解析を通じて可視化したデータが報告された。年齢と性別によって食事パターンが異なり、主に肉、魚、卵、果物、海藻、野菜、乳製品の摂取頻度に差があり、とくに肉と果物の食事パターンに与える影響が大きいという。藤田医科大学の研究グループによる研究成果であり、「Nutrients」に論文が掲載され、プレスリリースが発表された。著者らは、「今後、年代、性別ごとの食事パターンの違いを考慮した栄養指導が必要と考えられる」と述べている。

研究の概要:性別や年齢による日本人の食事パターンの違いを検証

この研究では、20~60歳の男女を対象に、性別や年齢による食事パターンの違いを検証した。10品目(肉、魚、卵、大豆、乳製品、野菜、海藻、果物、芋、油脂)の食品摂取頻度をもとに、食品の多様性を評価。シャノン指数※1では、年齢が高いことと女性であることが多様性の高さと関連していた。さらに、NMDS※2およびRDA※3による解析では、男女ともに年齢によって食事パターンが異なり、とくに肉・卵が若年層、果物・海藻・乳製品が高齢層に寄与することが明らかになった。性別では、魚が男性、果物・芋・野菜が女性のパターンに特徴的だった。

本研究により、年齢と性別ごとの食事パターンが可視化され、今後の個別化された栄養指導に役立つ知見が得られた。

研究の背景と研究手法:食品摂取頻度のα多様性とβ多様性から食事パターンを特定

個人の食事パターンを評価する際、これまでは、10品目の食事の頻度を点数にして、合算する方法がとられてきた。これは簡便である反面、それぞれの食品の比率は無視せざるを得なかった。

本研究では、生態系や腸内細菌叢の解析で使用される多様性の評価指標である、α多様性とβ多様性に注目した。α多様性は個人の多様性を反映し、β多様性は異なるグループ間の多様性の違いを表す。

20~59歳の男女2,743人を対象とした食品摂取頻度の調査結果に基づき、α多様性およびβ多様性の解析を通じて、若年および中年の日本人における年齢層別・性別の食事パターンの違いを明らかにすることを目的とした。

まず、α多様性指標を用いて同一グループ内の食事摂取の多様性を評価し、年齢と性別の相互作用を評価した。次に、NMDSを用いて全体の食事パターンの分布を可視化することを試みた。さらに、年齢と性別で調整したRDAを実施し、10品目の食品がRDA軸に与える寄与を特定した。

研究成果:年齢・性別群間で対立する食事パターンが浮かび上がる

図1は、各年齢層の男性、女性におけるα多様性(シャノン指数)を表したもの。シャノン指数は年齢が上がるごとに男女ともに増加し、男女間の差は年齢が上がるにつれて縮小している。

図1 α多様性の年齢、性別による違い

年齢が上がるほど、また同年齢では女性のほうが食事のα多様性(シャノン指数)が高い。すなわち、年齢が高い女性はいろんな種類の食品を食べていることがわかる。点とエラーバーは平均と95%信頼区間を表す。

(出典:藤田医科大学)

図2はNMDS解析で、類似したデータ同士は近く、類似していないデータは遠くなるように、2次元の図に落とし込んだ。可視化された図からは、20代女性と30~50代女性、20~30代男性と40~50代男性、20代の男女、および30代の男女が互いに目立って離れている。因果関係は不明だが、年齢と性別でグループ分けした場合、食事パターンが異なる可能性がある。

図2 若年および中年日本人における食事パターンのNMDSによる解析結果

20~30代男性と40~50代男性、20代女性と30~50代女性の食事パターンに違いがあることがわかる。また、同年齢における男女の差は20代で最も大きいこともわかる。

(出典:藤田医科大学)

図3・4に示すRDAは、10品目(肉、魚、卵、大豆、乳製品、野菜、果物、海藻、芋、油脂)の摂取頻度からなる食事パターンと、年齢および性別のカテゴリーを組み合わせた解析手法。図3図4にはグループの重心とその95%信頼区間も示されており、食事パターンにおけるグループ間の違いや重なりが明示されている。

図3 RDA解析による、年齢、性別ごとの食事パターンの違いと年齢・性別の寄与

20~30代男性と40~50代男性、20代女性と30~50代女性の食事パターンに違いがあることがわかる。年齢(高齢)、性別(女性)ほどRDA1の正の方向に、性別(女性)、年齢(若年)ほどRDA2の正の方向に分布している。点は各群の重心、エラーバーは95%CIを示す。

(出典:藤田医科大学)

図4 RDA解析による、年代、性別ごとの食事パターンの違いと各食品の寄与

四角で囲まれた食品はとくに貢献度の高いものを示す。肉と果物の貢献度がとくに高いのがわかる。

(出典:藤田医科大学)

RDA1軸の寄与度は男性および高齢者で高く、RDA2軸の寄与度は女性および若年者で高いという結果になった。シャノン指数の結果と一致し、同年齢層における男女間の距離は加齢とともに縮小した。

次に、RDA1およびRDA2への食事の寄与について検討した。RDA1軸(寄与率70.1%)では、「肉」と「卵」が非常に強い負の寄与を示したのに対し、「果物」「海藻」「乳製品」は中程度から強い正の寄与を示した(図4)。一方、RDA2軸(寄与率29.9%)では、「魚」が圧倒的に強い負の寄与を示し、「果物」「緑黄色野菜」「芋類」は強い正の寄与を示した。

したがって、RDA1は「動物性食品中心(肉・卵)と果物・乳製品中心の食事パターン」の対立を強く反映していると解釈され、RDA2は「魚中心の食事パターン(果物・海藻・乳製品)」と「植物性食品中心の食事パターン(果物・芋類・野菜)」の軸とみなされた(図4)。

肉・卵中心パターンと果物・海藻・乳製品中心パターンを反映するRDA1は、若年男性群で最も低く、高齢女性群で最も高い値を示した。一方、魚・脂質主導の食品(負の方向)と主に植物性食品中心の伝統的パターン(果物/芋/野菜、正の方向)を反映するRDA2は、高齢男性群で最も高く、若年女性群で最も低くなっていた(図4)。

このように食品群の中では、果物と肉がRDA軸に沿った食事パターンの分離に最も強く寄与していた。果物はRDA1とRDA2の両方で正の値を示し、肉はRDA1と強い負の関連を示していた。これらの方向性は年齢・性別群間で対立する食事傾向に対応している(図4)。

今後の展開:栄養指導では食事パターンの違いを十分に考慮する必要がある

本研究では、これまで食品摂取量の違いとして大まかに認識されてきた食事パターンの年齢および性別による差異を、統計的に明確に捉えることができた。年齢および性別を一致させたうえで、糖尿病やがんなどの疾患を発症した方とそうでない方の食事パターンの比較も行うことで、疾患の発症予測にも活用できる可能性がある。

日本人集団における食事パターンに関連する要因(年齢および性別)の役割を明らかにするうえで、α多様性およびβ多様性の解析は有意義であると考えられた。栄養指導を行う際には、年齢や性別による食事パターンの違いを十分に考慮する必要がある。

プレスリリース

10品目からなる食事パターンの年齢や性別による違いを二次元で可視化することに成功(藤田医科大学)

文献情報

原題のタイトルは、「The Alpha and Beta Diversities of Dietary Patterns Differed by Age and Sex in Young and Middle-Aged Japanese Participants」。〔Nutrients. 2025 Jul 2;17(13):2205〕 原文はこちら(MDPI)

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アスリートのパフォーマンス上のメリットに関するエビデンスが豊富なクレアチンが、血管機能に対して保護的に働く可能性のあることを示唆する研究結果を紹介する。二重盲検クロスオーバー試験の結果、プラセボでは変化のみられなかった血管内皮機能などに、有意な改善が認められたという。米国の研究者によるパイロット研究の報告。

クレアチンの医学領域での可能性を探る研究

クレアチンは、スポーツ栄養の領域ではさまざまなエビデンスが蓄積されてきており、パフォーマンス向上のために利用しているアスリートが少なくない。クレアチンのスポーツパフォーマンス上のメリットは、アデノシン三リン酸(adenosine triphosphate;ATP)再合成促進作用などによるものと考えられるが、基礎研究では、クレアチンが抗酸化作用、抗炎症作用、代謝機能改善・脂質低下作用なども有することが示されている。

一方、酸化ストレスや慢性炎症、糖・脂質代謝低下等を基盤として発症・進展する血管性疾患が昨今、世界的に増加しており、膨大な患者が薬剤による医学的治療を受けている。薬物介入により心血管疾患(cardiovascular disease;CVD)等のリスクを抑制可能であるが、医学的治療には副作用のリスクがあり、また医療費の増大、服薬アドヒアランス不良による効果減少、医療アクセス状況次第で生じる受けられる恩恵の格差などの問題もつきまとう。サプリメントとして流通しているクレアチンに、仮に血管機能を保護する作用があるとすれば、これらの問題を部分的に緩和し得る。

以上を背景として本論文の著者らは、クレアチンの血管保護作用を探るパイロット研究を実施した。

研究の対象と方法について

この研究の対象は、ふだんの運動量が少ない(中強度運動の時間がガイドライン推奨の週150分以下)、50~64歳の成人12人。心血管疾患(CVD)や代謝性疾患の既往、管理不良の高血圧、クレアチン摂取者、喫煙者などは除外した。また、血清クレアチニンが0.6~1.2mg/dLの範囲で、腎機能(eGFR)が60mL/分/1.73m2以上、尿素窒素(BUN)6~24mg/dLを参加の適格条件とした。なお、運動量が十分でない成人を対象としたのは、そのほうが血管機能が低下していることが多いと想定され、介入効果の検討に適していると考えられたことによる。

試験デザインは、プラセボ対照二重盲検クロスオーバー法で、無作為に6人ずつの2群に分け、1群にはクレアチン、他の1群にプラセボを支給し4週間摂取してもらい、4週間のウォッシュアウト期間をおいて割り付けを変更して4週間摂取してもらった。プラセボはマルトデキストリンを用いた。

摂取量は両者ともに、最初の5日のローディング期間(体内のクレアチン量を高めるための期間)は1日20g(5gを4回)、その後の23日間(クレアチンのターンオーバーを満たし体内量を維持する期間)は1日5gとした。支給したサプリがクレアチンかプラセボかは、研究参加者および研究者にもマスクし、割り付けを知らされていない別の研究者が結果を解析した。

評価項目は、動脈の血管内皮機能の指標である血流依存性血管拡張反応(flow mediated dilation;FMD)、動脈の柔軟性の指標である脈波伝播速度(pulse wave velocity;PWV)、および近赤外分光法を用いた細小血管機能、酸化ストレスマーカー、採血検査に基づく糖・脂質関連指標などであり、これらを12時間以上の絶食、カフェイン・アルコール摂取と運動の禁止後に評価した。

4週間のクレアチン摂取で血管機能、血糖値、中性脂肪に好ましい変化

研究参加者の年齢は58.3±3.4歳、男性・女性が各6人、BMI25.6±5.6だった。前記の評価項目のうち、脈波伝播速度(PWV)、酸化ストレスマーカーに関しては、有意な影響は観察されなかったが、FMDや細小血管機能、糖・脂質関連指標には、以下のような有意な影響が認められた。

FMDはクレアチン条件でのみ介入後に有意に上昇

血流依存性血管拡張反応(FMD)は、血管内皮から放出される一酸化窒素(NO)依存性の血管拡張反応を測定するもので、値が高いほど内皮機能が良好と判断する。

本研究において、プラセボ条件では介入前が8.13±2.76%、介入後は8.08±2.07%であり、有意な変化はみられなかった。一方、クレアチン条件では同順に7.68±2.25%、8.90±1.99%であり、介入によって有意に上昇し、かつ介入後の値はプラセボ条件より有意に高かった。より高精度な指標とされるシェアストレス(せん断応力)で補正した値で検討した場合も、同様の結果が得られた。

細小血管機能もクレアチン条件でのみ有意な変化

近赤外分光法を用いた細小血管機能の評価(虚血-再灌流後の酸素飽和度の回復速度)に関しては、プラセボ条件では介入前が2.47±1.4%/秒、介入後は2.11±1.01%/秒であり、有意な変化はみられなかった。一方、クレアチン条件では同順に2.29±1.42%/秒、3.71±1.44%/秒だった。前記のFMDと同様に、クレアチン条件では介入によって有意に上昇し、かつ介入後の値がプラセボ条件より有意に高かった。

クレアチン条件では空腹時血糖と中性脂肪が低下

空腹時血糖は、プラセボ条件では介入前が101.91±7.53mg/dL、介入後は102.82±9.23mg/dLであり、有意な変化はみられなかった。一方、クレアチン条件では同順に103.64±6.28mg/dL、99±4.9mg/dLと有意に低下していた。

同様に、トリグリセライド(triglyceride;TG〈中性脂肪〉)も、プラセボ条件では91±46.34mg/dL、99.45±45.1 mg/dLと有意な変化がないのに対して、クレアチン条件では99.82±35.35mg/dL、83.82±37.65mg/dLと有意に低下していた。

著者らは、「これらの結果はクレアチンの血管系に対する潜在的なメリットの裏付けと言える。この発見の検証と、作用メカニズムの理解のために、より大規模な研究が期待される」と述べている。

文献情報

原題のタイトルは、「Effect of Creatine Monohydrate Supplementation on Macro- and Microvascular Endothelial Function in Older Adults: A Pilot Study」。〔Nutrients. 2024 Dec 27;17(1):58〕 原文はこちら(MDPI)

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競泳のパフォーマンス向上につながる可能性のあるテーパリングの方法が報告された。競技会の2~4週間前に比べて競技会直前の1週間に、主観的疲労度がより低くなるようなテーパリングを行った時に、良好な競技パフォーマンスが記録されるという。城西国際大学大学院薬学研究科の酒井健介氏らが、大学競泳選手の主観的疲労度を2シーズンにわたり連日把握し、レース成績との関連を解析した結果であり、「Sports」に論文が掲載された。

競泳選手の最適なテーパリング法を探る

アスリートはパフォーマンス向上のために日常的に高強度のトレーニングを行っているが、試合前の一時期は負荷を減らして蓄積しているストレスや疲労の回復を図ったほうが、良い結果に結びつきやすい。テーパリングと呼ばれるこの手法の重要性は、経験的にはよく知られているが、テーパリングにあてる期間やトレーニング強度をどのように調整すべきかといった研究は少なく、とくに競泳に関しては知見がごく限られている。

酒井氏らはこの点について、大学競泳選手を対象とする観察研究により、最適なテーパリングの方法を探った。

大学競泳選手の回復の程度を2年間毎日評価して競技会の結果との関連を検討

研究参加者は、単一の大学の水泳部に所属する36人で、研究期間は2020年10月~2022年8月の2シーズン(99週間)だった。この間、休日や休息日も含めて毎日、参加者に対して朝5時にその日の疲労度を問うメールを送信。参加者はメール受信後、6時まで(トレーニング日のトレーニング開始時刻が6時のため)にweb上で、その起床時の主観的疲労度を表す「総合的回復感(total quality recovery;TQR)」を回答した。TQRは範囲6〜20点、基準値(本研究においては回答初日:オフ空けの新シーズンが始まるタイミング)を13点とし、よく回復できていると感じるほど高いスコアをつけるという指標。

2シーズンにわたるこの連日の調査への回答率が85%以上(回答欠落が週1日以内)だった22人を解析対象とした。おもな特徴は、年齢19.7±1.8歳、女子6人、競技歴13.9±3.7年で、競技レベルは国際水泳連盟(FINA)ポイントが739±49点であり、Tier2と4が各1人、その他の選手はTier3だった。解析対象レース数は、延べ550レース。

一部の選手は競技会参加前に計画的なテーパリングを行っていたが、多くの選手は非計画的だった。なお、TQRの回答遵守率は97.2±2.2%だった。

レース当日の回復状況を把握する指標

レース当日の主観的疲労度とパフォーマンスに対する影響を把握するため、7日間のTQRの移動平均(rolling averages)である「TQRra」を算出。また、より直近のTQRが強く反映されるように重みづけした移動平均(exponentially weighted moving average)である「TQRewma」も算出した。さらに、個人内の変動の影響を抑制するために、それぞれをzスコアに変換した値でも検討を行った。 これらの指標について、7日間周期の値と14日間周期の値の比、7日間周期と21日間周期の比、7日間周期と28日間周期の比、14日間周期と21日間周期の比、14日間周期と28日間周期の比、21日間周期と28日間周期の比という6種類の値を算出することで、競技会当日の疲労度の変化パターンを把握した。例えば競技会当日の7日間周期のTQRraと14日間周期のTQRraの比の値がより大きいほど、競技会直前の7日間の疲労度はより大きく低下していることを意味する。

これらの値の四分位数で全体を4群に分け、第一四分位群(レース直近の主観的疲労度が回復していない下位4分の1の集団)の競技成績を基準として、他の群の競技成績を比較した。

競技会前の7日間と21~28日前からの疲労度の比の大きさが、シーズン最高記録に関連

観察期間全体では66%、競技会当日でも55%は回復が十分でない状態

観察期間中の1万1,429人・日のTQRスコアの中央値は11(四分位範囲10~13)であり、最頻値は13だった。このうち競技会に参加したのは550人・日であり、TQRスコアの中央値は12(同10~13)だった。回復が十分でないことを示唆するスコア12未満は、観察期間全体では65.9%にみられ、競技日では55.1%に観察された。

また観察期間全体で、TQRスコアとスイム距離(週平均値)との間に有意な負の相関が認められた(ρ=-0.601、p<0.001)。<>

競技に参加した550人・日のうち174人・日(31.6%)で、当該選手のシーズン最高タイムが記録されていた。

競技会当日のTQRの第一四分位群(主観的疲労度が回復していない4分の1の集団)を基準としてシーズン最高記録が出るオッズ比(OR)を求めると、第3四分位群はOR:2.22(95%CI;1.28~3.30)、第4四分位群はOR:3.13(同1.84~5.30)であり、当日のTQRが高いほど(主観的疲労感が回復されているほど)シーズン最高記録が出やすいという、有意な関連のあることがわかった(傾向性p<0.001)。<>

次に、本研究の主題であるテーパリングとの関連をみるために、前記の6通りのTQRraの比との関連を検討。すると、競技会当日の7日間周期の値と14日間周期の値の比(傾向性p=0.037)、および、7日間周期の値と28日間周期の値の比(傾向性p=0.019)において、その値が大きいほどシーズン最高記録が出やすいという、有意な関連のあることがわかった。

続いて同様の手法でTQRewmaの比との関連をみると、前記の6通りすべてにおいて、オッズ比2以上の有意な傾向性が認められた。最高のオッズ比は、競技会当日7日間周期の値と21日間周期の値の比の第4四分位群であり(OR:2.62〈95%CI;1.56~4.41〉)、次いで7日間周期の値と28日間周期の値の比の第4四分位群だった(OR:2.48〈同1.47~4.19〉)。

なお、zスコアに換算した値の解析からも、ほぼ同様の結果が得られた。

以上一連の結果を基に著者らは、「競技会当日の良好な回復状態は、パフォーマンス向上と関連していた。さらに、直近7日間の主観的被労度を、2~4週間前との比較でより低下させることで、レースパフォーマンスをさらに向上させられる可能性がある」と結論づけている。

文献情報

原題のタイトルは、「Relationship Between the Total Quality Recovery Scale and Race Performance in Competitive College Swimmers over Two Seasons」。〔Sports (Basel). 2025 Apr 30;13(5):139〕 原文はこちら(MDPI)

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スポーツ栄養Web編集部

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