「EVの二の舞」を避けられるか。中国ヒト型ロボット、日本の部品メーカーに求める役割(後編)

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ヒト型ロボットへの関心が高まり、中国の現場に足を運ぶ日本企業の「視察」が増えている。だが「とりあえず見てみたい」では商談は生まれない——現地で投資に携わる張一欧氏は、そう釘を刺す。

完成品メーカーが本当に欲しがっているのは何か。日本の製造業が自動車で培った技術はどこまで生きるのか。そして「EV需要を取り逃した」教訓を生かすには。

みずほが共同GP(Co-GP)を務める投資ファンド「Mizuho Leaguer Investment」のパートナーで、ディープテック投資を担当する張一欧氏に、前編に続き日本企業の中国ロボット企業との関わり方について聞いた。

Mizuho Leaguer Investment・張一欧氏

モジュールメーカーと関係築くべき

——日本企業はヒト型ロボットの市場にどう参入すればいいのでしょうか。

宇樹科技(ユニツリー、Unitree)や優必選科技 (UBテック、UBTECH)といった完成品メーカーが今欲しいのは、販売チャネル、二次開発パートナー、全国にフィールドエンジニアを持つ会社、システムインテグレーターなどです。それに当てはまらない日本企業が訪問しても、お互い成果につながりにくいです。

大切なのは「自分たちが何者か」を先に整理することです。部材が強い会社なら、モジュール(ユニット・パーツメーカー)との関係を強化するべきです。ロボットが本格的に普及した時、完成品メーカーからモジュールメーカーに部材の仕様指定が来る可能性が高く、その時に既存の関係があるかどうかが鍵になるからです。

——日本企業と中国のモジュールメーカーとの協業の具体的なイメージは?

日本の製造業が自動車で培ってきた技術——コネクターの設計、ワイヤーハーネスの耐久性、モーション制御——はヒト型ロボットに直接使える強みです。

今のロボットの現場を見ると、ワイヤーがぐちゃぐちゃだったり、ドローン用のコネクターをそのまま流用してゆるゆるだったり、品質面の課題は山積みです。いずれ自動車部品メーカーが培ってきた知見が必要になってくる。

海外売上高が大きいモジュールメーカーは地域ごとに現地調達できるサプライヤーを必要としているので、こうした会社と先に関係を築いておくことが、将来のサプライチェーン参入につながります。

ヒト型ロボットは急成長しているとはいえ、現時点では研究開発向けの市場が中心だ。

3度目のミーティングで成果なければ終了

——中国企業と日本企業の協業にあたっては、ハードルがいくつもあります。日本企業がよく陥る「失敗パターン」は?

私は「スリーストライク制」と呼んでいるのですが、3回目のミーティングまでに具体的な協業イメージがつかめないと、関係が終了しがちです。相手が何を求めているかを把握してから動くべきです。

「とりあえずヒト型ロボットを見てみたい」という視察が増えていますが、課題を持たずに行くと何も生まれない。「自社の何を使ってほしいのか」「何を解決したいのか」を明確にしておかないと、お互いの時間が無駄になります。

私が日本企業によく提案するのは、まず「箱もの」から始めることです。10〜20平方メートルの閉鎖空間でロボットだけで完結する環境を作り、そこでデータを蓄積しながら精度を上げていく。工場全体にいきなり導入しようとするのではなく、小さく始めて、そこから工場設計を考え直すくらいの順序でいいと思います。

ヒト型ロボットへの関心が高まり、中国の現場に足を運ぶ日本企業の「視察」が増えている

——中国と日本では、データの蓄積スピードに大きな差があります。その背景はどこにありますか?

中国では政府が音頭を取って、大規模なデータファクトリーを整備しています。ビル一棟を丸ごと使って、さまざまなロボットのデータを同じプラットフォーム上に集約するというような取り組みもあります。

製造業、サービス業など複数のセクターの企業が一緒にデータを集めてこそ価値が出ますが、日本だと音頭を取る組織が不在です。

あえて言えば地方の方がやりやすいと思っています。地銀は地元企業との関係が深く、アイドリングしている工場もある。コストも東京より低い。地域の雇用創出という文脈で語れれば、行政も動きやすい。今すぐ大規模なものは難しくても、小さな「データファクトリー」の芽は地方から生まれる可能性があると思っています。

——EVの波を取り逃したという反省から、ヒト型ロボットに先行投資したい日本企業が多いことが、関心の高さにつながっているように見受けられます。

たしかに、EV化で仕事を失いそうな部品メーカーが、ロボット向けの精密歯車などで活路を見出せる可能性は十分あります。ただし、最初から「量が出る」とは思わないでほしい。今のヒト型ロボットは年間10万台規模ですが、1台に16個のモジュールが使われるとして、シェア1割だとしても年間で作るのは数万個。歩留まりも悪い。だから最初は共同研究開発のような形で、長期的な目線で入ってほしいです。

そして、量産が本格化するタイミング——20万台、200万台、2000万台になった時——に、品質管理や工場管理のノウハウを持つ日本企業が必要になります。だから今から関係をつくるべきなのです。米中関係の緊張が続く中で、日本を生産パートナーとして求める中国企業も増えてくるでしょう。

中国のロボット企業の技術のスピードはすごいですが、弱いところもたくさんあります。そこに日本の強みが刺さる余地が必ずあります。

「あそこは強いけど、ここは自分たちの方が強い」と冷静に見極めてほしいです。

中国ロボット勢の技術の進化は速い。だが弱点も多い。だからこそ日本企業が入る余地は意外にも多い。米中の緊張が続くなか、日本を生産パートナーに選ぶ中国企業はこれから増えていくというのが、張氏の見立てだ。ただし、「量が出る日」を待つのではなく、量産が本格化する前に今から関係を築いておくべき——。もちろん日本企業側も同じ認識を持っているだろう。

張一欧氏:みずほリーガー・インベストメントでポストインベストメント戦略を統括し、クロスボーダーで事業を展開するハイテク企業に対し、投資後のハンズオン支援を手がける。14年以上にわたりアジアおよびグローバル株式のリサーチに従事し、日本・中華圏の機関投資家向け営業の経験も持つ。日本語・中国語・英語のトリリンガル。

(取材・文:浦上早苗)

経済ジャーナリスト、法政大学IM研究科兼任教員。福岡市出身、早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で教員。現在は経済分野を中心に執筆編集、海外企業の日本進出における情報発信の助言を手掛ける。近著に『崖っぷち母子 仕事と子育てに詰んで中国へ飛ぶ』(大和書房)『新型コロナVS中国14億人』(小学館新書)。X: sanadi37

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