最新ドローン兵器で戦争が「古典的な戦い方」に回帰してしまったわけ、ウクライナ戦争で見えた皮肉な現実(ダイヤモンド・オンライン)

 かつて「戦争はハイテク化し、人が死なない時代になる」と言われていた。ボタン1つで標的を狙い、コンピューターがピンポイントで爆撃する。そんな未来を信じてきたが、ウクライナ戦争が見せつけたのはその正反対の様相だった。ドローンが戦争にもたらした皮肉な現実を、軍事評論家の2人が指摘する。※本稿は、小泉 悠、黒井文太郎『国際情勢を読み解く技術』(宝島社)の一部を抜粋・編集したものです。 【この記事の画像を見る】 ● どんなに革新的な兵器でも 戦局を変えるだけの力はない  黒井文太郎(以下、黒井):戦局をどう見るかですが、双方の火力に注目するというのがまず基本になります。双方、それぞれの戦線における火力がどうか、ですね。  報道では新しい武器に注目が集まりますが、問題は、数がどうかです。そこがなかなか説明が難しい。新たな武器が供与されると、メディアはどうしても、それがゲームチェンジャーになるかどうかという話が好きです。戦局を見る際、そういった側面も必要ですが、火力の現状を見ることも重要です。  小泉悠(以下、小泉):この戦争で何か新しい兵器が配備されるという時、そのたびに「これはゲームチェンジャーですか?」と聞かれました。ゲームチェンジャーというのはあるのですが、私の考えでは、それは特定の兵器システムということではない「能力」なのだと思います。  能力というのは、たとえばロシア軍の陣地帯を突っ切って突進していく能力であるとか、敵の後方深くを大規模に叩く能力であるとか、そういう能力のことをゲームチェンジャーというのであって、あるミサイルとかあるドローンがそれだけでゲームチェンジャーになるわけではないと思うのです。兵器システムはあくまでもその能力構成の一部であるということです。

 その意味で言うと、何か新しい兵器を配備したら戦線の様相で大きく変わりましたという事例が、この戦争では具体的にはないのです。実際に戦場のあり方を大きく変えてきたのは、火力とか動員能力とか軍需生産能力といった非常に古典的な能力です。  たとえばドローンは、それ自体が火力であり、また火力発揮を支える眼や指揮通信能力でした。 ● ウクライナ優勢と言われても 火力の差は歴然だった  小泉:そういう意味では、やはりロシア軍が全体的に優勢に立ちます。偵察能力とか航空優勢を取る能力とか、本丸である射撃を行う能力が大きいわけです。  年間1000万発とか撃つわけですよ。年間1000万発撃つということは、平均すれば1日に3万発撃つ計算になります。  黒井:もともと旧ソ連時代からの在庫が豊富にありましたし、シンプルな砲弾なら製造能力もあります。最近は北朝鮮がくれます。  小泉:途中で弾の供給が追いつかなくなったのが2023年です。その年の夏から北朝鮮からの弾の輸入が始まりました。現時点までの推定では600万発程度ということです。  一方で、ロシアの弾薬の生産能力が、少ない見積もりで年間300万発くらいで、多い見積もりで450万発くらいです。さすがにロシア軍も今は年に1000万発は撃てていないのですが、年に500万〜600万発は撃っているのではないかな、と。すると1日平均で1万5000から2万発弱くらいになります。  ウクライナ軍は1日に1万発も撃てていないので、やはりそこはロシア軍が圧倒的に火力優位にあります。  黒井:戦局の話に戻ると、2023年夏の反転攻勢の失敗以降、基本的には膠着状態ですね。じわじわとロシア軍が押していて、2024年に入ってまもなくドネツク州の要衝のアウディーイウカが陥落しています。  小泉:それほど大きくは動いてないのですよね。アウディーイウカの戦線では、ロシア軍はものすごい損害を出しながらも押し切って2024年初頭までに制圧した。  その後は仰るようにロシア軍が一方的に攻めるという展開が始まっていて、それ以降、ウクライナ軍は、戦場において主導権奪還はできていません。  アウディーイウカを取られて以降のロシア軍が主導権を取った状態というのは、おそらくこの戦争が終わるまで続くと思います。あとはいかにロシア軍が主導権を取った条件下で、受け入れ可能な条件で戦争を終わらせられるかという局面に、勝負の流れが移ってきています。

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