AIで科学研究を自動化するエージェントシステム「Robin」誕生、実際に科学的新発見を達成して2カ月半で論文を公開

サイエンス

科学研究を自動化するためのAIエージェントを構築する非営利団体、FutureHouseが、「Robin」というAIエージェントを構築し、実際に新しい科学的知見を得ることに成功したと発表しました。

Demonstrating end-to-end scientific discovery with Robin: a multi-agent system | FutureHouse

https://www.futurehouse.org/research-announcements/demonstrating-end-to-end-scientific-discovery-with-robin-a-multi-agent-system

[2505.13400] Robin: A multi-agent system for automating scientific discovery

https://arxiv.org/abs/2505.13400

Today, we’re announcing the first major discovery made by our AI Scientist with the lab in the loop: a promising new treatment for dry AMD, a major cause of blindness.

Our agents generated the hypotheses, designed the experiments, analyzed the data, iterated, even made figures… pic.twitter.com/ZiX9uj9s7e

— Sam Rodriques (@SGRodriques) May 20, 2025

Robinは文献検索に特化したAIエージェントである「Crow」および「Falcon」と、データ解析に特化したAIエージェント「Finch」を連携させて1つのシステムに統合したもので、仮説生成、実験設計、データ分析の反復サイクルを通じて科学研究を自動化できるものだと説明されています。 FutureHouseのサミュエル・ロドリゲス氏らが実際にテストしたところ、視力障害を引き起こす主要な疾患の1つ「ドライ型加齢黄斑変性」に対する治療候補を同定することに成功したとのことです。

ドライ型加齢黄斑変性は、視細胞に栄養を与える「網膜色素上皮」という細胞が萎縮することで起こる疾患です。この疾患に対する研究を任されたRobinは、まずCrowを使って幅広い文献調査を行い、網膜色素上皮の貪食作用を高めることがドライ型加齢黄斑変性の効果的な治療法になるとの仮説を立てました。 次にRobinはFalconを使い、貪食作用を高める可能性のある分子群を評価しました。ロドリゲス氏らはそのうちの10個を研究室でテストし、実験データをFinchに分析させました。

分析の結果、Finchは「ROCK阻害剤Y-27632」という薬が細胞培養において網膜色素上皮の貪食を増強することを見出したとのこと。 Robinは次に、Y-27632が貪食作用を増強させる遺伝子発現変化を引き起こしているのかを調べるため、 RNA-seqと呼ばれる実験を行うことを提案します。ロドリゲス氏らが実験を行い、Finchに分析させた結果、脂質を細胞外に排出する働きを持つタンパク質「ABCA1」が、Y-27632により増強されていることが明らかになりました。 最終段階として、Robinは既存の薬のうちY-27632と同等の効果を持つものを調査し、すでに緑内障の治療薬として用いられている「リパスジル」を候補として提案したとのこと。ロドリゲス氏らがリパスジルで実験を行った結果、ドライ型加齢黄斑変性に対する効果的な新治療法として同定するに至ったとのことです。

Robinの構想から論文提出までの全プロセスは、少人数の研究チームによって、わずか2カ月半で完了したとのこと。ロドリゲス氏らは「この研究に関連する論文のすべての仮説、実験の選択、データ分析、本文の図は、Robinが自律的に作成したものです。物理的な実験は人間の研究者が行いましたが、知的な枠組みはすべてAIが主導しました。今回の発見を検証するには臨床試験が必要で、それにははるかに長い時間がかかりますが、その前段階の研究としては画期的な短さです」と説明しました。 加えてロドリゲス氏らは「仮説生成、実験計画、データ解析を1つのシステムで自動化できました。Robinによる最初の成果は治療薬でしたが、Robinの汎用(はんよう)性は高いため、材料科学から気候技術に至るまで多様な分野で使用することができます」と話し、Robinをオープンソースとして公開することを約束しました。

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