日米関税交渉にアラスカLNG開発協力浮上…日本の参加をトランプ氏期待、費用6兆円超で採算性に疑問の声も
米国トランプ政権の関税政策を巡る日米交渉で、米アラスカ州の液化天然ガス(LNG)開発への協力が交渉材料として浮上している。トランプ大統領は日本や韓国などのプロジェクト参加に期待を寄せているが、開発には6兆円を超す巨額の費用が必要とされ、大手商社やエネルギー業界からは採算性を疑問視する声も出ている。(金井智彦)
発電所に向けてLNGを運搬するタンカー=ロイター米国の固執
プロジェクトを担うアラスカ・ガスライン開発公社によると、計画はアラスカ北部地域のガス田から約1300キロのパイプラインを敷設。輸出基地となる南部の太平洋岸までガスを運び、年間2000万トンをアジアに輸出するというものだ。
2月に開かれた日米首脳会談では、双方が米国産LNGの輸入拡大で一致。翌3月、トランプ氏は施政方針演説で「日韓は(開発)パートナーになりたがっている」と言及した。5月中旬にはアラスカ州のダンリービー知事も「(日韓などと)幅広く協議している」と明らかにするなど、米国側の鼻息は荒い。
6月上旬にはアラスカ州でLNGの国際会議が予定されており、日本や韓国、台湾の関係者に出席を呼びかけている。トランプ氏はこの会議で日韓が開発への参加意向を表明することを求めているとされる。
開発費は440億ドル(約6兆円)に上るとも指摘され、LNGの輸出先となり得るアジア勢が参加すれば米国側の負担軽減につながる。LNGの輸出で貿易赤字が削減できることもトランプ氏がこだわる理由とみられる。
厳しい環境整備
突如として浮上した感もあるアラスカ州のLNG開発。ただエネルギー業界関係者にとっては、20年以上にわたって検討されてきた案件だ。
ガス田が位置するアラスカ北部は、氷に覆われた北極海に面し、港から直接輸出するのが難しい。パイプラインを敷設すれば、通過する南部の都市部へのガス供給も可能となる。
2031年の生産開始を目指しているが、パイプラインは北米最高峰のデナリ(マッキンリー)山を含む三つの山脈や800の河川を通過する厳しい環境での整備となる。大手商社幹部は「31年など到底間に合わない」とみる。最近のインフレ(物価上昇)で建設費は10兆円以上に膨れあがるとの見方もある。
三井物産の堀健一社長は「プロジェクト全体の経済性、長期的な持続性を徹底的に見ていくことが必要だ」と指摘している。
地政学リスク
石油より燃焼時の二酸化炭素(CO2)排出量が少ないLNGは、国のエネルギー基本計画でも当面の現実的な燃料と位置付けられるが、地政学リスクに 翻弄(ほんろう) されるケースも多い。
三井物産などが参画するロシア北極圏のLNGプロジェクト「アークティックLNG2」は、経済制裁の影響で生産が停止し、日本への供給のメドは立っていない。
リスク分散のため、大手商社や電力・ガス会社などは東南アジアや豪州、中東、北米などで多角的な権益拡大に取り組んでいる。アラスカの計画も1週間程度で日本に届くため、輸送日数の短縮につながる期待がある。
それでも、「結果的に高いエネルギーを買うことになれば国民負担が増えるだけ」(エネルギー業界幹部)との懸念は根強い。政府や関係企業には慎重な検討が求められそうだ。