石破茂首相「これから先はいばらの道」 21日の記者会見全文

石破茂首相(自民党総裁)が21日、自民党本部で開いた記者会見の全文は次の通り。

【冒頭】

昨日おこなわれた参院選で私ども自由民主党は極めて厳しい国民の皆様方の審判をいただいた。自民党そして友党公明党の皆様方にも大変なお支えをいただいた。自民党そして友党公明党、多くの有為な同志の方々が議席を得られなかったのは痛恨の極みだ。自民党総裁として、心より深くおわび申し上げる。

私どもはこの結果について、謙虚に真摯に受け止めなければならない。厳しい中、私ども自民党は、多くの方々のお支えをいただき、比較第1党という議席を頂戴した。ありがたいことだ。

厳しい暑さの中、厳しい情勢の中、応援してくださった多くの皆様方、お支えいただいた都道府県連の皆様、地方議会の皆様、党本部並びに都道府県連の職員の皆様方、心より厚く御礼を申し上げる。また暑い中、演説会場に足を運んでくださり、足を止めて聞いてくださった皆様方にも活動に御礼を申し上げる。誠にありがとう。

【進退】

日本は今、米国の関税措置あるいは物価高、明日起こるかもしれない首都直下型地震あるいは南海トラフ、そのような自然災害、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境といった国難ともいうべき厳しい状況に直面している。今最も大切なことは、国政に停滞を招かないということだ。

特に国際情勢などの外部環境の変化、あるいは自然災害、このようなことは政治の状況が整うということを待ってくれるわけではない。政治には一刻の停滞も許されない。

このため、今般の選挙結果に対する重大な責任を痛感しながらも、政治を停滞させないよう、漂流させないよう、地方の皆様方の声も丁寧に真摯にお聞きしながら、比較第1党としての責任、そして国家、国民の皆様方に対する責任を果たしていかねばならないと考えている。

先ほど自公党首会談をおこなった。引き続き自民党は公明党と連携して、政権運営に当たっていきたいことを確認をした。加えて、公明党以外の他党の皆様と真摯な議論を通じ、この国難を打破できる新たな政治のあり方について一致点を見いだしていきたいと考えている。

引き続き比較第1党となる議席をいただいたが、今回の厳しい審判を踏まえ、喫緊の政策課題について他党の皆様方とも真剣に真摯に協議をおこない、ともに責任を持って優れた方策や政策を作り上げていきたい。

【米関税措置】

特に米国の関税措置については、日本の国益を守り抜くことを大原則に、8月1日という新たな節目も念頭に、関税ではなく投資という考え方を基盤に、日米双方にとって利益となる合意を実現していく。先日、来日されたベッセント財務長官にも直接そのような話をさせていただいた。

本日からは赤沢亮正経済財政・再生相が8回目となる訪米で協議をおこなうため渡米している。私自身もできる限り早期にトランプ米大統領と直接話し、目に見える成果を出したい。

同時に全国1000カ所の特別窓口で、相談にきめ細かく対応する中堅、中小企業の皆様への資金繰り支援を講ずるなど、国内産業への支援に万全を期し、必要に応じて追加の対策を講じていく。

【他党との連携】

足元の物価高対策については、成長への投資を加速し賃上げを進めていくことが基本だが、物価上昇を上回る賃上げが実現できるまでの間は選挙戦での議論を踏まえ、財政に対する責任も考えながら党派を超えた協議を呼びかけ結論を得たい。

選挙戦を通じて私どもが訴えてきたのは日本の将来、国民の皆様方に責任を持つ政党であるということだ。これから先は、まさしくいばらの道だと考えている。昨年の臨時国会、今年の通常国会での熟議の経験も踏まえ、より真摯に丁寧に他党との議論を深めて赤心報国の思いで国政に当たっていく。

国民の皆様、各党の皆様、ご理解とご協力を心よりお願い申し上げる。

【質疑応答】

■首相の進退

Q:首相は続投の意向を示したが、いつまでと期限を区切らないのか。

A:いつまでという期限を今考えているわけではない。米国の関税措置、あるいは物価高への対応、明日起こるかもしれない自然災害への対応、そして戦後最も複雑で厳しい安全保障環境、このような喫緊の課題に解決の道筋をつける、全力で対応すると申し上げている。

■連立枠組みの拡大

Q:衆院に続いて参院でも少数与党になった。連立の枠組みを拡大する考えはあるか。具体的に働きかけを検討している政党があるか。

A:現時点において、連立の枠組みを拡大する考えを持っているわけではない。ともに責任を持って優れた政策方策を作り上げていける、そういう皆様方と真摯な議論を続けていきたい。それはどこの党なんだというようなお尋ねかと存じるが、他党の都合、いろいろな事情もある。私どもとして今この党ということを申し上げることは考えていない。

■人事

Q:自民党執行部も誰も責任を取らずにこのまま続投させる考えなのか。政権の立て直しに向け、党役員人事と内閣改造を考えているか。その場合、時期はいつ頃か。

A:現時点で人事について考えを持っているわけではない。皆で全身全霊、誠心誠意、選挙に対応してきた。国会対応にも万全、全力を尽くしてきた。党役員の任期というものもあるので、そのことも念頭に置きながらよく考えて対応していきたい。

■首相の求心力低下

Q:政策を進めていく上ではまず足元の自民党内での理解や首相自身の求心力が重要な要素になってくる。党内からは退陣を求める声なども上がっている。そうした声に首相はどのような形で続投に理解を求めていくか。党内から退陣要求などが上がってきた場合には、総裁を辞任するか。

A:党内にいろいろな意見があるということは当然のことだ。自民党は活発な議論をおこない、いろいろな意見を集約しながら党を運営してきた。今回のこういう事態にあたっても、いろいろな機会を通じて、両院議員懇談会のような機会を設けて、国会議員のみならず、地方の皆様方、地方組織の皆様方、お支えをいただいている皆様、そういう方々のお声も丁寧に聞いていく。

言いっ放し、聞きっぱなしではなく、適切な答えをしてさらに議論を深めていく。国を思い、党を思っての発言だ。自らの利益を考えてというような人はいない。丁寧に対応していくべきは当然のことだ。どういう議論が出て、どういう方向に収斂(しゅうれん)をしていくのか推移を見極めながら、その都度適切な判断をしていくのは当然だ。まだ承ってないうちから、ああだのこうだのということを申し上げるべきではない。

■首相への信任

Q:衆院に続いて参院でも過半数割れという結果は、首相が国民から信任を得られなかったということを示しているのではないか。

A:実際に今、日本が直面している幾多の課題に時限性があるという意味で申し上げれば、8月1日を一つの節目とする米国との関税問題がある。米国との関税措置にどのように対応していくかということもある。

物価高や経済情勢というものが非常に変化をする。どう対応していくかということだ。自然災害に対する対応など喫緊の課題がたくさんある。そのような国の課題に責任を持って対応していかなければならない。

また比較第1党ということをことさらに強調するつもりはないが、多くの方々のご支持をいただいていることも責任として自らよく自覚しなければいけない。自らのことを考えて判断をするということは全くない。ただ国家、国民のため、いただいたご支援に対する責任をどう果たすかということを考えている。

■敗因・安倍元首相への退陣要求

Q:2007年の参院選で自民党が惨敗した際に、当時の安倍晋三首相に対して「辞めるべきだ。そうでないと自民党が終わってしまう」と述べられた。このときの対応に比べて今回のご自身の判断は自分に甘いのではないかという見方も出かねない状況をどう考えるか。敗因はどこにあるのか。

A:安倍第1次政権のことをおっしゃっておられるのだと思う。私自身、一字一句克明に覚えているわけではないが、私が両院議員総会で申し上げたのは「安倍総裁が続投すると表明をされたなら、なぜ続投なさるのかということをお述べをいただき、国民の皆様のご理解を得る必要がある」と申し上げた。

総裁が続投されるなら、それはなぜなのかということを説明いただき、我々議員のみならず、党員、国民の皆様方の広いご理解をいただくということが必要だということを申し上げたものだ。もちろん両院議員総会は議事録をとっているわけではないが、私自身強く、記憶をしている。したがって私も今、そのことを思い起こしながら発言をしている。

なぜ自民党が支持を得られないかについて、いろいろな要因がある。これだけが原因だということを特定するのは極めて難しい。政治改革の問題、あるいは物価高に対する対応、あるいは外国人の方々に対する対応など、多岐にわたる。

自民党は幅広い国民政党なので、いろいろな方々のご意見、ご要望に耳を傾けるという政策を常に提示をしてきた。いくつかの分野に非常にアクセントを置いた政策を提示されると、なかなかそういう方々に対して、自民党として、非常にエッジの効いた政策を提示することが難しいこともあったかもしれない。

要因について、これと、これということを断定的に申し上げるのではなく、党の中で本当に真剣に真摯に早急に分析し、教訓を得ていきたい。

■社会保障改革での野党との協力

Q:社会保障改革について財源となる税負担含め、与野党で早期に議論する場を設けるか。立憲民主党の野田佳彦代表が昨晩、補正予算の中で給付の話が出てきた場合は、実現に向けて努力をするという考えを表明した。給付の制度設計について協力していくか。 給付付き税額控除に関する首相の考えは。

A:野田代表のご発言の全部を承知しているわけではない。 全部読んでない上でのお答えになることをお断りをしておきたい。いろいろな議論をする場というものが必要だということは、通常国会の予算委員会の場、党首討論においても、私から申し上げた。

議論をする場が必要で、そこで事実認識に齟齬(そご)があるとそもそも議論が成り立たない。これから先、年金、医療、介護にしても、人口構成がどのように変わっていくのか、質はどのように変化をしていくのかということについて、事実認識が違うとそもそも議論にならないので、共通認識を持つ場は必要だ。

党にはそれぞれの考えがある。 事実についての認識を共有した上で議論し、結論を得ていくという場所は私は必要だと思っている。

野田代表がおっしゃる給付は、減税ということになると法律を通さねばならない。あるいはシステムを変更するのにある程度の時間を要する。それでは間に合わないのではないか。それまでの間の給付という意味だとすれば、私どもが選挙中に主張してきたことと重なる部分も多々あろうかと考えている。要は本当にお困りの方に早く手厚い形で支援をするために最も有効な方策は何かということだ。

給付付き税額控除についてはそれは一つの解であると私自身も同じ認識を持っている。給付付き税額控除をおこなう場合に、今の生活保護などの社会保障制度との整合をどのようにしてつけるのか。所得ではなくて資産の把握をどのようにして正確におこなっていくのかなど、かなり議論し尽くされた論点ではあるが、まだ国民の皆様方に十分な理解をいただくに至っているとは考えていない。

どのようにして資産の把握をするのか、今ある制度との整合をどう取るのかということについて、党首討論などの場では時間的な制限もあるので、議論が言いっぱなし、聞きっぱなしになる面がある。今きちんとした解を見いだすような努力が必要だと思っている。その点については野田代表と認識を共有する部分も多い。

■消費税減税

Q:消費税減税を掲げた野党が大きく議席を伸ばして支持を得た。直近の民意とも言えるかと思うが首相は消費税減税に否定的な考えをずっと示してきた。選挙結果を受けて消費税の減税・廃止などを受け入れるか。

A:消費税は消費税法によって社会保障の医療、年金、介護、少子化対策、子育てに充てねばならないと決まっている財源だ。全部やめるとか、食料品に限ってとか、期限を区切ってとか、各党おっしゃることがバラバラだ。

給付のあり方についても、国民皆保険を守っていかなければならない点は共通しているが、どの部分を変えていくのか、病床数であったり、あるいは薬のOCTというのか、オーバー・ザ・カウンターというのか、そういうものについての対応も違う。

そうすると消費税の負担をどう考え、いろいろな社会保障の給付のあり方をどうするかということについて、選挙ではいろいろなことを言うが、事実の意識を共有するというところから話を始めないといつまでたっても議論できない。

できるだけ多くの方々の目に触れる形で、どこで何が議論されているのかということを広く国民の皆様方に共有していただくというような枠組みが必要だ。他国で消費税減税をやっている国が、おおむね税率は20%以上であると承知している。日本は10%で基本税率が違う。他国でそれをやった場合、どのような効果があったかということについても認識を共有しなければならない。

みんなに都合のいい話は世の中にない。消費税が減税になれば確かに所得は上がるが、高齢化や介護、日本全体の共通の課題である少子化、何より大切な国民皆保険をどうするのだという話がどうしても選挙のときには十分おこなわれなかった。その点の認識の一致を図ることは政治の責務だ。

■関税交渉

Q:米国による相互関税の発動期限が8月1日に迫っている。首相続投の理由の一つに挙げられたが、米国が撤廃や日本が望む水準まで引き下げずに発動した場合には、交渉の立て直しに向けて担当相の更迭あるいは首相自身の進退に影響するか。

A:お互いに国益となる形で、一方だけが得をして一方だけが損をするというようなことは交渉の成果物として成り立たない。私どもは米国に対する世界最大の投資国だ。世界最大の雇用の創出国だ。

関税よりも投資ということを申し上げ、理解を得るべくいろいろな努力をしている。 一方で米国は米国のいろいろな主張がある。いつまでも平行線をたどっていては仕方がない。精力的にそこの議論の詰めを赤沢大臣を中心に政府を挙げておこなっている。成果を得るべく国益を最大限に実現すべく全力を挙げている。今、たらればの議論をするつもりはない。

関連記事: