欧中の半導体会社巡る対立、打撃は近く業界全体に-オランダは釈明

中国企業の傘下にあるオランダの半導体メーカー、ネクスペリアを接収する決定を下したのは、オランダのカレマンス経済相だ。起業家出身で、暫定政権の閣僚という地位に3カ月余り前に就任したばかりだった。

  ネクスペリアとの取引を制限する米国の措置に後押しされ、カレマンス氏(38)は同社に緊急条項を発動し、接収に踏み切ったが、欧州経済に再び打撃を及ぼしかねない地政学的な対立を招いた。ネクスペリアはフォルクスワーゲン(VW)などの自動車メーカーに部品を供給する主要サプライヤーだ。

  中国はその報復としてネクスペリアに対する輸出を規制したため、同社の操業には問題が発生し、欧州工場の閉鎖も今や時間の問題だ。同社は日本の自動車メーカーに対し、もはや納品を保証できない可能性があると通知した。

  裁判所に提出された文書によると、ネクスペリアの親会社である聞泰科技(ウィングテック・テクノロジー)は、中国政府に近い法人が30%を保有する。オランダ経済相は来週の総選挙の決定次第で交代となる公算が大きいが、それでもカレマンス氏には欧州各地から問題を解決するよう圧力がかかっている。

  ネクスペリアにおける中国の役割に米国が警戒感を膨らませる中で、同社の張学政最高経営責任者(CEO)はオランダの幹部3人を解任し、自身が支配する別の企業と1億3000万ドル(約200億円)にも上る不審な契約に署名した。この件は速やかに行動を取らなければ、間もなくネクスペリアが厄介な状況に陥るとの不安を高めた。

  カレマンス氏は9月末までに、緊急時に必需品の供給を確保するために設計された冷戦時代の法律を適用する準備を始めていた。ネクスペリア経営陣の申し立てを受けて張CEOは10月7日に裁判所によって解任されたが、この過程で、すでに中国のレアアース(希土類)輸出規制で打撃を受けている欧州は、中国との新たな争点を抱えることになった。

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  地政学とテクノロジーがますます密接に結びつく中で、「ネクスペリアを巡る混乱は完全に予見可能だった」と、英ケント大学ビジネススクールのサプライチェーン専門家デズモンド・ドーラン氏は述べた。「教訓は明白だ。レジリエンス(耐性)とは今や、所有構造や国境を越えた依存関係、産業政策を形成する地政学的な力学を理解することを意味する」と論じた。

  ネクスペリアの企業価値はオランダの同業ASMLホールディングの1%にも満たず、世界の半導体業界では小規模な存在に過ぎない。それでも製品群には、自動車を中心に多くの業界にとって欠かせないトランジスタやロジック半導体があり、毎秒約3000の部品を生産できる能力を持つため業界で重要な地位を占めている。

  オランダ経済省はブルームバーグの質問に対する回答の中で、張氏の行動により、ネクスペリアの欧州における専門技術の一部は移転され、「近い将来、完全に失われていた可能性がある」と説明。「これは将来的に半導体産業に混乱を引き起こし、オランダと欧州の経済に計り知れない影響を及ぼしただろう」と続けた。

   張氏はリンクトインのプロフィルに送信したメッセージに返答しなかった。ウィングテックと中国商務省はコメントの要請に応じなかった。

   ネクスペリアの広報担当者は「全ての関係者のため、当社は問題が早期に沈静化することを望んでいる」と、ブルームバーグへの回答で述べた。

  ネクスペリアは、グローバル化した商取引の縮図だ。ドイツや英国で製造された部品が、中国やマレーシア、フィリピンの拠点に送られて検査や組み立てを行い、その多くが再び欧州へと戻ってくる。ネクスペリアが中国の広東省に持つ施設は、この種のものとしては世界最大級だ。

  事情に詳しい関係者によると、半導体不足は1週間以内に欧州の主要自動車部品メーカーに打撃を与える可能性が高く、その影響は10-20日以内に業界全体に広がる恐れがある。

  ドイツはネクスペリアを巡る対立の影響を懸念しており、この問題について「集中的な協議」を行っていると、メルツ政権の報道官は22日、ベルリンでの記者会見で語った。

原題:Dutch-China Chip Spat Risks Hit to Europe Automotive Production(抜粋)

— 取材協力 Charlotte Hughes-Morgan, Petra Sorge, Jing Li and Jessica Sui

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