長引くせき~わずかな刺激に反応「せき過敏症」~|トピックス|時事メディカル|時事通信の医療ニュースサイト
8週間以上続くせきを慢性咳嗽(がいそう)といい、生活の質(QOL)を著しく低下させる。ぜんそくなど原因はさまざまだが、最近注目されているのが「せき過敏症」だ。胸部のレントゲンやCTの画像、血液検査などでは分からず、わずかな刺激に敏感に反応し、せきが出る。
8週間以上続くせきは「せき過敏症」かも=写真はイメージ、杏林製薬提供
◇8週間以上、せきが続く
咳嗽は医学用語でせきのこと。近畿大学医学部の松本久子・主任教授(呼吸器・アレルギー内科学)は「せきは体内に入った異物やウイルス、細菌などを体外に出すという重要な役割を担っている」と話す。ただ、それもせきが長く続くと患者に問題を生じさせる。咳の原因は、3週間以内の急性であれば、風邪などの感染症だが、8週間以上続く場合は慢性咳嗽で、感染症以外の病気が原因であることが多いという。
松本教授によれば、ぜんそくとせきぜんそくの二つが約70%を占めるという。せきぜんそくはぜんそくと違い、「ヒューヒュー」「ゼーゼー」はせず、息苦しさはない。その他、アトピー咳嗽や上気道の疾患、胃食道逆流症、副鼻腔気管支症候群などが考えられる。
近畿大学医学部の松本久子・主任教授
◇さまざまな困りごと
慢性咳嗽の患者はさまざまな困りごとを抱えている。人前でせきをすることが気になる。新型コロナウイルス感染症の流行以降、公共交通機関などの場所ではその傾向が強まった。仕事や学業に集中できなかったり、通常睡眠中には出ないせきが出て、眠れなかったりする。また、尿漏れに悩む女性も少なくない。
松本教授は「せきはかなりのエネルギーを消耗させる」と話す。まれだが、車の運転中に失神して事故を起こしたり、肋骨を骨折したりすることもあるという。
◇難治性慢性咳嗽
原因の治療を行っても長引くせきを「難治性慢性咳嗽」と呼び、せき過敏症という病態が隠れている可能性がある。2025年に改定された「咳嗽・喀痰(かくたん)ガイドライン」では、せき過敏症が重要な病態として明記され、そのメカニズムや治療法も紹介されている。
せき過敏症の人は、気道上皮下の感覚神経が長く、密になって活性化。大脳がせきを抑えようとしても、うまくできなくなる。煙や会話、冷気、乾燥、飲食、香水の匂い、洗剤の柔軟剤の匂いなどがせきの衝動の誘因となる。松本教授は「かなり離れた場所で吸っているたばこの煙を感じ取る患者もいる」と言う。
◇喉にイガイガ感、かゆみ
松本教授はせき過敏症の兆候として「急にせきをしたくなる衝動に駆られる。会話中や電話中に突然せき込んだり、喉にイガイガ感があったり、かゆかったりする」と指摘する。こんな症状があれば、内科をはじめとする医療機関を受診することを勧める。2022年にはP2X3受容体拮抗薬という分子標的薬が保険適用となり、症状の緩和とともに日常生活の質の改善にも効果があることが報告されている。
◇嚥下方法でせきをコントロール
せきが出そうなときにコントロールするためには、水を飲んだり、ノンシュガー・ミント味以外のあめをなめたり、ガムをかんだりする。水を飲む場合には、通常より喉に力が入るような感じで嚥下(えんげ)するのがこつだ。舌を前に出し前歯と唇で軽く挟んだまま嚥下したり、顎を胸に近づけた状態で嚥下したりするといった方法がある。(鈴木豊)