トランプ氏支えた若者たち-支持基盤奪われた民主党の前途は多難
米大統領選投票日の夕方、民主党候補カマラ・ハリス氏の選挙陣営は、主要な激戦州の大学キャンパスで投票率が伸びていると発表した。
ハリス陣営によれば、投票所が閉まろうとする中で、ノースカロライナ大学のシャーロットとウィルミントンにあるキャンパスでは、数時間待ちの列ができていた。
ウィスコンシン州の8つの大学では5日、投票するまでに一時1、2時間待たなければならず、ペンシルベニア州のリーハイ大学では、7時間待ちの列ができていた時間帯もあったという。
しかし、夜が深まるにつれ、副大統領のハリス氏(60)が、前大統領のドナルド・トランプ共和党候補(78)に敗れることがはっきりと示されつつあった。
ソーシャルメディアでの注目やビヨンセらセレブの応援にもかかわらず、ハリス氏は結局、2020年の大統領選を制した現職の大統領ジョー・バイデン氏ほど多くの若者の支持を得られなかった。
エジソン・リサーチが実施した出口調査によると、ハリス氏は30歳未満の有権者で54%の支持にとどまった。04年の大統領選で敗れたジョン・ケリー氏と同じ支持率で、民主党の大統領候補としては20年ぶりの人気の低さだ。
データによれば、トランプ氏は18-29歳の有権者層で得票率を20年から7ポイント伸ばした。
The vice president ties with John Kerry for the worst Democratic presidential nominee performance with the bloc in 20 years
Source: NEP/Edison Research exit polling
これは特に大きな変化だ。この有権者層はこれまで確実に民主党に投票してきた。若い支持者を失った民主党の前途は多難だ。
トランプ氏は経済政策を強調することで、これら有権者の支持を得た。同氏のメッセージは、学生ローンや食料品から住宅費に至るあらゆるコスト負担に苦しむ若年層に響いたようだ。オンライン上にもトランプ氏を応援するコンテンツが広がった。
聴衆にリーチ
投票日までの世論調査で、有権者にとっての最重要課題として常に挙げられていたのが経済だった。
バイデン政権発足以来、インフレ率は計21%上昇しており、米国民は大きな負担を強いられていた。それに対し、トランプ政権1期目の消費者物価指数(CPI)上昇率はわずか6%だった。
20年の大統領選でバイデン陣営に助言した世論調査の専門家ジョン・デラ・ボルペ氏は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)期に孤立感を味わった若い有権者が、民主党に関する誤った情報も含むオンラインコンテンツを何時間も視聴したことが大きく影響したと分析している。
一方、20年の大統領選でトランプ氏の戦略的コミュニケーションディレクターを務めたマーク・ロッター氏は、16年の選挙以後、トランプ氏が「放送電波を独占」しており、ほとんどの20代にとって同氏は人生の大きな部分を占めるほど身近な政治的象徴となっていると指摘する。
トランプ政権下の「経済や戦争がない状態を経験したことが、多くの物事に対する思考プロセスを形成している」という。
イスラエルがパレスチナ自治区ガザで展開している戦争は、相当な割合の米国民が支持していない。ハリス氏の集会では、少数派グループやわずか1人の抗議で演説がしばしば中断された。
ハーバード大学が9月に発表した若者を対象とした世論調査では、32%の若者がイスラエルへの武器禁輸に賛同していることが分かった。選挙をボイコットすると訴える声もあった。
タフツ大学市民学習・参加研究センターが分析したデータによると、トランプ氏は20年には41%だった若い男性からの支持を56%に伸ばした。
これは、男性に直接アピールし、メディアの細分化という環境の中で注目を集めるという同氏の手法が成功したことを示している。
Republican posts a 15-point gain with young male voters, while Harris loses 7 points with young women compared to 2020
Source: CIRCLE analysis of AP VoteCast Survey as of Nov. 6
トランプ氏は「ジョー・ローガン・エクスペリエンス」や「インパルシブ・ウィズ・ローガン・ポール」などのポッドキャストに出演。その様子はユーチューブなどのプラットフォームで何百万回も再生され、ソーシャルメディア上のクリップでさらに広がった。
例えば、プロレス団体ワールド・レスリング・エンターテインメント(WWE)の人気レスラー、ジ・アンダーテイカーとケインのトランプ氏出演動画は、X(旧ツイッター)上のレスリングファンのページで、1400万回視聴された。ライバルのレスラーがハリス氏支持を表明した後だった。
20年の大統領選でトランプ陣営だったロッター氏は、「トランプ氏が知っていることがあるとすれば、それは聴衆にリーチする方法だ」と言う。
若い立役者
事情に詳しい関係者によると、トランプ氏にポッドキャスターやインフルエンサーと関わるよう勧めたのは、27歳のアドバイザー、アレックス・ブルースウィッツ氏だ。
また、2人の関係者によれば、トランプ氏の息子バロン氏(18)も父親にインタビューを受けるよう促したという。
「息子はあなたの大ファンだ」とトランプ氏はコメディアン、テオ・ボン氏のポッドキャストで語った。エジソン・リサーチによると、同氏は、ポッドキャストのリスナー数で5位。
選挙陣営とクリエーターや有名人との橋渡し役を担ったのは、総合格闘技団体アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ(UFC)のダナ・ホワイト最高経営責任者(CEO)だと、事情に詳しい関係者が明らかにした。
ホワイト氏は、中国系動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の動画にトランプ氏が初めて出た際に出演。ティーンエージャーに人気のTikTokで、トランプ氏は数百万人のフォロワーを抱えている。
関係者によると、22歳のソーシャルメディアストラテジスト、ジャック・アドベント氏は、トランプ氏のTikTokアカウント開設・管理を手伝うため、5月後半に陣営に採用された。アドベント氏は共和党指名候補争いから撤退したビベック・ラマスワミ氏の予備選に助言していたという。
アドベント氏はまた、トランプ氏がポッドキャストでローガン・ポール氏と対談する際、その調整も手伝った。
リーハイ大の学生ケビン・カオさん(20)は、選挙戦のさなかに自身のTikTokアカウントでトランプ氏を応援するコンテンツを目にしたと話した。カオさんは移民問題を巡り国境を閉鎖するとしているトランプ氏の政策を支持していると述べ、「それは必要だ」との考えを示した。
用意周到
トランプ氏は22年の正式な立候補表明以後、ハリス氏よりずっと早くから準備を進めていた。ハリス氏が選挙戦に参入したのは投票日まで4カ月を切ってからだ。
ハリス陣営は最終的にトランプ陣営より多くの資金を集めたが、ハリス氏はバイデン氏にうんざりしている有権者たちに、自分が変化の象徴であるとうまく説得できなかった。
ハリス氏は集会で「私はZ世代を愛している」とよく語っていたが、一般的に12-27歳と定義されるZ世代の相当な割合に彼女のメッセージは響かなかった。あるいは、届いてさえいなかったのかもしれない。
ハリス氏のTikTokアカウントは、7月に人気が急上昇した時でさえ、トランプ氏よりもフォロワー数が少なかった。ハリス陣営はコメント要請に応じなかった。
政治コンサルタントでZ世代の政治ニュースレターを執筆しているレイチェル・ジャンファザ氏は「ここ何年もの間、民主党が若い有権者にアピールしようとしてきた多くの試みを見ると、それは非常に意図的なものに見え、時に本気でないようにも感じられる」と説明する。
ハリス氏が若い女性を主なリスナーとするポッドキャスト「コール・ハー・ダディ」に出演した際、話題の中心となったのは人工中絶の権利だった。
ハリス氏はこの問題について圧倒的な信頼を得ていたが、特に民主党支持者が多い都市や州では、中絶法を州に委ねるというトランプ氏の公約に満足した有権者もいたようだとジャンファザ氏は語る。
そのポッドキャストのインタビューで、ハリス氏はバイデン政権の目玉政策である広範な学生ローン返済免除を連邦最高裁が一部認めなかったことについて質問された。
負担軽減を約束したハリス氏だが、自身の公約として大きな誓いを立てることはしなかった。
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