「批判媒体にはお金を払わない」の定型文では逃げ切れない… 若年層離れの高市首相に問われる“師”が説いた「責任感」
毎日新聞は6月5日、5月23〜24日に行った世論調査で若年層の内閣支持率が減少したことを報じた。18〜29歳が前月から6ポイント減の45%で、全体の支持率50%を下回った。 発足時は若年層の支持率が高かった高市早苗政権。読売新聞は昨年10月23日に「高市内閣で『若年層』の支持急増、18〜39歳は石破内閣の15%から80%に……」と報じ、産経新聞も同年12月22日に「高市内閣、18~29歳の支持率92% 若者世代で圧倒人気…… 全世代65%超 政策も好感」と配信した。
高市首相が持つバッグやボールペンなどに注目が集まり、「サナ活」という言葉が流行したのもこの頃だ。「高市人気」を支えていたのも若年層だった。 しかし今、その熱気は急速にしぼもうとしている。 ■「ハネムーン」終了と相次ぐ「問題」発覚 理由の1つは「ハネムーン期間」の終了だ。一般的に、政権発足後の100日ほどはスキャンダルの報道が控えられ、政権支持率は比較的高く維持される傾向がある。高市政権の場合、ハネムーン期間は通常より長く維持され、大きな落ち込みも見られなかった。
転機となったのは、「サナエトークン」問題の発覚だろう。高市首相は3月2日にXで、「私は全く存じ上げませんし、私の事務所側も知らされておりません」「本件について我々が何らかの承認を与えさせていただいたこともございません」と関係を全否定した。 だが、問題はそれだけで終わらなかった。 「現代ビジネス」は疑惑の中心に地元・奈良県の高市事務所の事務所長を務める木下剛志氏が存在することを指摘。4月10日には、昨年11月の「SANAE DAO PROJECT構想概要書」に高市首相のサインがあることを報じた。
さらに問題となりそうなのが、昨年10月の自民党総裁選と今年2月の衆院選で流された誹謗中傷動画の疑惑だ。『週刊文春』は2026年5月14日・21日合併号で「高市陣営が流した『進次郎は無能』動画 独占入手」と一報を出した後、これまで5回連続で追及キャンペーンを展開。6月3日には「高市首相秘書・木下剛志氏と動画作成者の『Zoom会議音声』」をネットで有料配信した。 中道改革連合の伊佐進一議員は、6月4日に開かれた衆院予算委員会で、この音声が木下秘書のものか否かを高市首相に事前通告したうえで質問した。だが、高市首相は答弁作成のために多忙であったことに加え、「質問通告を見たのは午前3時半」「私を批判してきた媒体にお金を払いたくない」とこれを拒否した。
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これには大きな問題がある。伊佐氏の質問自体を拒否しているとしか思えないからだ。 4日の衆院予算委員会は7時間行われ、自民党、中道改革連合、国民民主党、日本維新の会、参政党、チームみらい、そして共産党と、7党15人が質問に立った。内容は重複するものもあり、とりわけ誹謗中傷動画疑惑では、中道改革連合だけでも3人が質問。どう見ても最重視すべきものだった。 ■定型フレーズで乗り越えられない問題 さらにいえば、これは民主主義の根幹に関わる問題だ。大量の動画を配信し、有権者をフィルターバブル(インターネットのユーザーがネットから得る情報が、自分と同じ意見や趣味のものばかりになり、異なる意見や趣味が見えなくなる現象)に閉じ込め、特定の内容で“洗脳”することを意図するからだ。
高市首相はこの問題について、これまで「定型文」で否定してきた。5月8日の参院本会議、5月11日の参院決算委員会、5月13日の参院本会議、5月22日の参院本会議で、「他候補に関するネガティブな情報を発信する、あるいはそのような動画を作成して発信するといったことは一切行っていないということは報告を受けている」と述べ、訪韓前の5月19日に行われた記者団によるぶら下がりでも同じ言葉を繰り返した。 ところが、この定型フレーズで乗り越えられない問題が出てきた。文春が配信した音声が木下氏のものなのかという確認だ。そのためには、文春に課金して有料動画を視聴しなくてはいけない。高市首相は「拒否」に出た。
もっとも、音声が収録されたのは昨年12月17日で、この時点で自民党総裁選はすでに終わっていた。また、今年1月の衆院解散はまだ決まっていなかった。内容もサナエトークンはもちろんのこと、誹謗中傷動画についてのやり取りではなかった。だが、この音声をもって問題と無関係と言うことはできない。 そして共同通信は6月7日夜、松井健氏のインタビューをネットで配信。松井氏は高市事務所の秘書から相談を受け、総裁選で高市首相を当選させる目的で、小泉進次郎防衛相を批判する動画をAIソフトで作成し、投稿したと証言した。
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さらに今年2月の衆院選でも、高市事務所を含む与野党約50人の陣営から相手候補に関する動画の作成依頼を受け、20人に協力したことを明らかにした。疑惑は野党にも飛び火しそうだが、それで高市首相の責任が薄まるわけではない。 ■高市首相の“師”が語った「責任感」 民意が歪められては、民主主義が成り立つはずがない。国政のトップが手を染めていいはずはなく、潔白ならその証明をすべきだろう。 「いま私は日本国を背負って、国家経営に取り組んでおります。本当にそういうことに時間を使っている暇はない、そういう思いでございます」
5日の参院予算委員会で立憲民主党の塩村あやか議員の問いに対し、高市首相は国家経営の邁進を理由に『週刊文春』を提訴しないと断言した。だが、ネット選挙の弊害が深刻化している今、民主主義を守ることこそ国家経営の基本ではないのか――。 松下政経塾出身の高市首相にとって師である故・松下幸之助氏は「国家指導者の4条件」の1つとして「すべての責任はわれにありと考える責任感」を挙げた。その責任がいま、問われようとしている。
安積 明子 :ジャーナリスト