人類が歯痛に悩まされるのは歯が古代の魚の感覚器官だったからかもしれないとの研究結果

サイエンス

虫歯や知覚過敏など、歯の痛みに苦しめられた経験のある人は多いはず。シカゴ大学の研究者らが2025年5月に発表した研究では、歯が痛くなりやすいのは歯が感覚器官に由来する器官であるため、鋭敏な感覚を持っているという可能性が示されました。

The origin of vertebrate teeth and evolution of sensory exoskeletons | Nature

https://www.nature.com/articles/s41586-025-08944-w

Teeth hurt? It could be because of a 500-million-year-old fish https://phys.org/news/2025-05-teeth-million-year-fish.html 歯は皮膚のような感覚器ではないにもかかわらず、髪の毛や爪と違ってかなり強い痛みを感じやすい器官のひとつです。アメリカのサンファン大学で歯科衛生プログラムのディレクターを務めるジュリアス・マンツ氏によると、歯が痛みを感じるようになっているのは、ものをかみ切る能力が低下した時のための防衛メカニズムであるそうです。歯の痛みがなければ、歯がすり減った状態で処理できないものをかんでしまい、深刻なダメージが発生します。

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また、冷たいものを口にした際、歯に鋭い痛みを感じることがあります。このメカニズムは歯の主成分である「象牙質」が関係しているとされていた一方で明確な原理は分かっていませんでした。2021年に発表された研究では、冷たさに敏感に反応するイオンチャンネルが象牙質を形成する細胞に存在することを発見し、そこから強い感覚刺激が脳に送られるのだと結論付けられました。

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歯の正確な起源を解明することで、歯が痛みや冷たさに敏感な原因を突き止めようとするアプローチも存在しています。従来の研究では、歯の起源には約5億年前に古い魚類の外部装甲に見られた「歯状突起」と呼ばれる硬い構造物であると考えられていましたが、正確な起源や目的は解明されていません。 シカゴ大学生物学・解剖学部のヤラ・ハリディ氏らが2025年5月にハリディ氏らが科学ジャーナルのNatureで発表した論文では、古代の魚の歯状突起は身を守ったり移動を助けたりするための外骨格ではなく、もともとは感覚を神経に伝える感覚器官として伝われていたという仮説を裏付けています。

ハリディ氏らの研究チームは、歯の研究をしていたわけではなく、古生物学の大きな疑問のひとつである「背骨を持つ動物の最も古い化石は何なのか」という課題に取り組んでいました。研究の一環で数百点の脊椎動物標本をCTスキャナーで分析していたところ、これまで「歴史上最初の魚類」と考えられて板カンブリア紀のアナトレピスという化石に、象牙質が含まれていた可能性を発見しました。結果として、アナトレピスは脊椎動物ではなく、外骨格を持った甲殻類や昆虫に近い節足動物であると結論付けられました。

カニやクモなどの節足動物では、感覚器は温度や振動、匂いを感知するために使われます。アナトレピスの象牙質を持つ外骨格、および約4億6500万年前の魚類、そしてナマズやエイといった現代の魚類が持つ歯状のウロコには、「驚くべき類似点として、敏感に感覚を伝達する神経が存在することを発見しました」と研究者らは報告しています。 ハリディ氏は「象牙質の外骨格や歯状突起に共通する特徴は、歯の組織が敏感な感覚組織である可能性を示唆しています。時がたつにつれて魚はアゴを進化させ、口の近くに歯状突起を形成します。最終的には直接口の中に入っているのも現れ、それが歯の起源となったと考えると、歯痛は古代の感覚器官の名残だと言えます」と語っています。

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