「保守か進歩か」はもう古い? 韓国で広がる「政治価値観テスト」参加者10万人越え
尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の弾劾を巡る賛否で社会の分断が加速した韓国で、主要紙が行き過ぎた二極化の解消を目指して「政治価値観テスト」を開発し、今月に入り参加者数が延べ10万人を突破した。日韓の若者の間で近年流行する「性格診断テスト」を模した形で多様なタイプを示し、「保守・革新」で分類しないのが特徴。専門家は「分断解消に向けた重要な取り組みだ」と指摘する。
若者に流行の性格診断がベース
日韓の若者の間でここ数年、爆発的に流行する性格診断テストは、数十問の質問への回答を通じて「外向的か内向的か」「論理型か感情型か」などを分類し、性格を16タイプに分ける。1960年代に米国で開発された「MBTI診断」にとは別物だが、類似した点もあるとして韓国ではMBTIと呼ばれることが多い。かつての血液型性格診断に代わり「私はENFP(運動家タイプ)」「僕はISFJ(擁護者タイプ)」などといった会話のやり取りが広がっている。
韓国紙の中央日報が開発した政治価値観テストもこれと同様に計16タイプに分類する仕組み。問題解決にあたり「効率」と「理想」のどちらを重視するか、制度運用に「厳格さ」と「柔軟さ」のどちらを求めるかなどを問う。
政治学者や心理学者の監修の下、作成された質問は計36問。「気に入らない政治家にはショートメールを直接送り抗議するのも市民の権利と考えるか」といった、韓国ならではの質問もある。これまでの受験結果では「①効率主義で②制度運用の厳格さを求め③情熱的な政治参加を好み④共同体から自立した生活を重視する」タイプの「ELPS(圧倒的な統率者)」が最も多かったという。このタイプはサッチャー元英首相に重なるという。
筆者が受験した結果、「EFQS(論理的な現実主義者)」と診断された。「①効率主義で②制度運用の柔軟さを求め③穏健的な政治参加を好み④共同体から自立した生活を重視する」タイプだそうだ。韓国の保守系与党支持層では16タイプ中で5番目に少なく、革新系野党支持層では2番目に少ないマイノリティーだ。筆者が保革どちらの党とも相性が良くないことを確認する結果になった。
開発の契機は議員秘書の一言「うちの党では…」
中央日報では2016年以降、主要選挙のたびに政治価値観診断ツールを開発。22年版では「右派/左派」「社会秩序を重視/個人の自由を重視」の2つの大分類で計4タイプに分けるテストを作成していた。保守系与党「国民の力」が惨敗した昨年4月の総選挙に合わせて23年末に発表されたテストでは、一気に16タイプに増やした。
開発チームの責任者を務めた呉炫錫(オ・ヒョンソク)記者は、革新系最大野党「共に民主党」の20代の議員秘書が22年版のテストに対して漏らした感想が、今回の新テスト作成のきっかけになったと明かす。
「4つのタイプだけで表現できますか? うちの党内だけでも文在寅(ムン・ジェイン=元大統領)系や李在明(イ・ジェミョン=前党代表)系、大企業に近いか労働組合に近いかなど、少なくとも4つ以上に分かれるのに…」
呉氏は「テストを通じて政治に対する国民の要求が多様であることを示し、政界が大統領夫人や数人の政治家のスキャンダルに明け暮れる現状を打破したかった」と振り返る。
現職議員ら100人も受験
テストの参加者は総選挙が終わっても増加の一途をたどり、今月3日に10万人を突破した。参加者の約76%を10~30代の若年層が占める。呉氏は「保守と進歩(革新)の二分法的な政治に嫌気がさした若者の需要を強く感じた」という。
現職の国会議員や総選挙の立候補者約100人もテストの受験結果を公表しており、開発に協力した世論調査会社メタボイスの金奉信(キム・ボンシン)副代表は「テストを通じて自分とタイプが似ている政治家を確認し、一体感を感じることが可能になった」と強調。「診断結果を見て投票先を変えたという声を、相当数聞くことができた」と手ごたえを語る。
韓国政治に詳しい高麗大の朴仙暻(パク・ソンギョン)教授は、韓国社会の分断について「理念や政策の方向性の違いではなく、対立陣営の政治家や支持者を紋切り型で判断し、ひたすら嫌悪する感情が根底にある」と指摘。価値観診断のような取り組みを通じて「相手方にも多様性があることを互いに認め合えば、対立の解消につながるのではないか」と期待を寄せる。
(時吉達也)
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取材協力・中央日報開発チーム(呉炫錫記者、姜寶賢記者、金貞材記者)