イタリアで相次ぐ「フェミサイド」、首相の対応に批判の声 同国が抱える男女格差
ジェンダーを理由とする暴力に抗議するデモの様子=ナポリ、5月/Ivan Romano/Getty Images
ローマ(CNN) 女性であることを理由にした殺人「フェミサイド」が、イタリアで相次いでいる。メローニ首相の対応が不十分だと批判する声も上がっている。
ミラノに住む29歳のパメラ・ジェニーニさんはモデル、実業家として人もうらやむ人生を送っていた。海辺の高級物件を扱う不動産業者として成功を収めた後、10年前にテレビのリアリティー番組で注目されて人気インフルエンサーとなり、同業の友人と共同で水着のブランドを立ち上げたばかりだった。
30歳未満の失業率が高く、雇用も安定しない同国の若者としては、型破りの成功だった。
だが10月中旬のある夜、アパートに侵入した元恋人のジャンルカ・ソンチン容疑者(52)に刃物で襲われた。警察が駆けつけた時、ジェニーニさんはバルコニーで息絶えていた。予審判事によると、そのかたわらにソンチン容疑者がいた。
同容疑者は現在、独房に拘束されている。殺人と残虐行為、ストーカー行為、計画的犯行の罪で起訴される見通し。担当弁護士がCNNに語ったところによると、本人は今のところ事件についての質問に答えていないという。
イタリアでフェミサイドの問題に取り組む監視団体「ノン・ウナ・ディ ・メノ」によると、同国で今年起きたフェミサイドの被害者は、ジェニーニさんが72人目。フェミサイドの多くはパートナーや元パートナーによる犯行だ。ジェニーニさんの事件の後にも62歳、80歳の女性を含む4人が殺害され、さらにフェミサイドが疑われる6件の捜査が進められているという。
昨年の発生件数は116件で、2年前と3年前はこれをわずかに上回っていた。
首相の対応を疑問視する声
メローニ氏は3年前、イタリア初の女性首相に就任した。それ以来、国内で増え続ける女性への暴力や、職場にはびこる男女格差に十分対応してきたのかと疑問視する声が上がっている。公式データによると、同国の今年1~7月の出生率は昨年の同時期と比べて6.3%下がり、賃金が同僚の男性より40%低い女性もいる。
イタリアのフェミサイド問題は数十年前までさかのぼる。メローニ政権はこれまでに、過去のフェミサイドに関連する反ストーカー法を成立させ、家庭内暴力の量刑を重くして終身刑も適用可能とした。
だが犯行を防ぐための対策は期待したほど進んでいないとの声が多い。
議会では最近、幼稚園や小中学校で引き続き性教育を制限する法案が成立した。イタリアは、欧州の中で公立学校での性教育を義務化していない数少ない国のひとつだ。専門家らは長年、早期の性教育は若者に家庭内暴力や性的同意の知識を伝える前段階となり、犯罪防止につながると主張してきた。
メローニ氏は性教育の制限を、「woke(ウォーク、社会問題への意識が高いことを揶揄(やゆ)する表現)なジェンダー理論」が入り込むのを防ぐ手段と位置づけてきた。
これに対して野党側は、早期に基礎的な性教育を提供しなければ、国全体を古い家父長制に縛りつけることになると主張している。野党議員の一人は、「欧州が前進するなかでイタリアだけが中世に後戻りしている」と訴えた。
CNNはこの件についてメローニ氏の事務所にコメントを求めたが、拒否された。ただ同氏はこれまで、女性の利益向上に逆行しているとの批判を否定してきた。自ら家族を養うシングルマザーとしての立場から、女性のための施策が不十分との批判は「ばかばかしい」「フェイクニュースだ」と言い切っている。