任天堂とソニーがたどりついた“ゲーム業界の新方程式”…「稼げるゲーム機」スイッチ2とPS5好調の裏で起きていた静かな革命(集英社オンライン)

任天堂には苦い思い出がある。2012年11月に発売したWiiUの失敗だ。2012年3月期から3期連続の営業赤字という暗黒期に入ってしまう。 このとき囁かれていたのが、ゲーム機を主軸としたビジネスの衰退だ。新型機の当たり外れが大きいうえ、利益を犠牲にするために失敗した際の打撃も大きくなる。しかも、当時は「パズル&ドラゴンズ」や「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル」などモバイルゲームが隆盛を極めており、ユーザーもゲーム機とは違うプラットフォームを求めていると見られていた。つまり、ゲーム機ビジネスは時代遅れだと思われていたのだ。 そうしたなかで、任天堂が決断したのがディー・エヌ・エーとの資本業務提携だった。 記者会見で当時の社長だった岩田聡氏は、ゲーム機とスマートフォンのゲーム体験がバッティングしないよう最大の注意を払う旨の発言をしていた。ユーザーの体験価値が下がってしまうからだ。どこまでも消費者目線を尊重した岩田氏らしい考えだ。 大ヒットした「ポケポケ」は、アナログのトレカの質感を残しつつ、バトルではスキマ時間に楽しめるような工夫がなされている。トレカでもゲーム機でも体験できない、スマートフォンに最適化しているのだ。このゲームは、天才ゲームクリエイターと呼ばれた岩田氏の意志を引き継いだかのような設計がなされている点にも注目したい。 任天堂はニンテンドースイッチの成功で、意気消沈ムードを払拭した。しかし、モバイルゲームへの進出という任天堂の経営判断は、およそ10年が経過した今期の業績で見事に結実したというわけだ。

いっぽうソニーグループにも変化の兆しがある。 11月11日の決算説明会で、CFOの陶琳(たう・りん)氏が後継機の開発について問われ、PlayStation5販売を今後も拡大していきたいとの考えを示した。同機は発売から5年が経過し、6年目に入っている。PlayStation4からPlayStation5が販売されるまでの期間は、日本でおよそ6年ほどだったため、後継機の言及があって良さそうなタイミングだが、今後もPlayStation5でまだ業績を伸ばせる自信があるようだ。 それを裏付けるように、ゲーム事業の今期上期の決算は好調だった。売上高は前年同期間比6%増の2兆497億円、営業利益は同32%増の2683億円だった。 業績をけん引しているのがソフトウェアと、アドオンコンテンツと呼ばれるゲーム内課金や拡張コンテンツだ。売上はおよそ7%増加している。一方、ゲーム機の売上は横ばいだった。 ソニーはこのアドオンコンテンツに早くから注目していた。そして打ち出した戦略が「ライブサービスゲーム」の強化だった。 ライブサービスゲームはリリース後も継続的にアップデートやコンテンツを追加し、ゲーム内課金などでユーザーから中長期的な利益を出すもの。従来の買い切り型とは対極にあるゲームだ。 ヒットタイトルに業績が左右されやすいゲーム会社にとっては夢のような仕組みだが、ヒット作を生み出す難易度は極めて高い。そのため、ソニーは海外のゲームスタジオを次々に買収した。 こうした背景の中で「ヘルダイバー2」という大ヒット作が誕生した。ソニーが買収したスタジオが開発したタイトルではなかったものの、発売から12週間で(PlayStationとPCあわせ)1200万本突破のインパクトは大きかった。ソニーはソフトの販売手数料に加え、アドオンコンテンツで長期的な収益が得られるからだ。 収益の長期化はゲーム機の寿命を長くすることができ、会社は開発期間を十分にとることができる。アドオンコンテンツの販売は利益率が高いため、新型のゲーム機販売による利益率低下ショックを吸収することも可能にする。 長い時間の中で、ゲーム機ビジネスを取り巻く環境が大きく変化したのだ。 ソニーが5000億円超という破格のM&Aを行なったゲームスタジオBungieが、2026年3月を目途に新作のリリースを控えている。さらなる躍進にも期待ができそうだ。 取材・文/不破聡  写真/shutterstock

不破聡

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