ホワイトカラーは消えるのではなく「削ぎ落とされる」。AIが暴く“思考停止の優等生”の末路(All About)
AIを使えば、誰でもそれなりの答えにたどり着ける時代になった。文章は整い、資料は一瞬でまとまり、提案書も形になる。 ではそのとき、「仕事ができる人」とは誰のことを指すのだろうか。かつては、知識を多く持つ人、処理が速い人、ミスが少ない人が評価された。しかし今、その多くはAIが代替しつつある。 問題は、「能力の定義そのもの」が変わり始めていることである。 近年、ホワイトカラーの仕事がなくなるのではないか、という議論が急速に広がっている。 たとえば2023年のMcKinsey & Companyの分析では、生成AIは現在の仕事の最大30%の作業時間を自動化し得るとされている。さらに2025年4月『フォーブス』誌では、仕事の60%がAIによって大きく変化する可能性も指摘されている。 つまり、仕事そのものが消えるというより、「仕事の中身」が大きく変わるということである。
一方で、より刺激的な予測もある。 最近の海外報道では、AI企業のトップが「エントリーレベルのホワイトカラー職の半分が消える可能性」に言及し、2026年4月Business Insiderでは、“white-collar bloodbath”(ホワイトカラーの大量消失)という言葉まで使われた。 また、企業現場でも変化はすでに起きている。ある企業では、AI導入によりマーケティング部門が17人から2人に縮小したという報告もある。 さらにMichigan Journal of Economicsによると、金融業界でも、AIの進展によって今後採用を減らすという発言がトップから出ている。 これらを並べると、「ホワイトカラーは不要になるのではないか」という不安が現実味を帯びるのも無理はない。私が産業医をしている現場でも、働き盛りの年代の事務職の人たちの不安の声を聞くことが増えた。 テレビの報道で、ブルーカラーになって収入が倍増したという人のインタビューもあり、ホワイトカラーの持つエリートのイメージが変化している。
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ただし、この議論には1つの誤解がある。 AIが代替するのは、仕事そのものではなく、「仕事の中の一部」である。多くの研究が一致して示しているのは、AIは「タスク(作業)」に置き換わるが、「職業全体」を消すわけではない、という点である。 実際、OpenAIの経済分析でも、短期的に大きな影響を受ける職業は全体の18%程度にとどまるとされている。 またテクノロジーと人工知能(AI)の経済学における世界的な第一人者であり、デジタル経済研究のパイオニアとして知られる経済学者Erik Brynjolfssonらの研究では、AI導入によって労働者の生産性が平均15%向上したことが報告されている。 つまりAIは、「人を排除する技術」というより、人の仕事の中身を変える技術なのである。 では、何が削ぎ落とされているのだろう。
AIが最も得意とするのは、次のような仕事である。 ・情報を集める ・整理する ・書き直す ・形式を整える いわば、知的だが構造化された作業である。 実際、データ入力や事務処理、文書作成などの仕事はAIの導入によって大きく減少すると予測されている。消えていくのは「思考を必要としない仕事」である。 ここで重要なのは、これらはこれまで「ホワイトカラーの中核」とされてきた仕事だという点である。つまり今起きているのは、ホワイトカラーの“中心”が空洞化する現象である。
さらにもう1つ、見逃せない変化がある。 AIは、「できない人をできるようにする」のではなく、「できたように見せる」力を持っているということだ。 報告書を書く力がなくても、AIに頼めばそれらしい文章はすぐにできる。英語が話せなくても、AIが洗練された表現に直してくれる。しかし、その内容を本当に理解しているかというと、そうとは限らない。 これは教育の現場でもすでに指摘されている問題であり、理解なきアウトプットの増加と言える。そしてこの現象は職場にも広がっている。 「それらしいもの」は増えるが、「本当に考えられているもの」は減っていく。これは就職採用をする担当者の悩みにもなりそうだ。 更に怖いのは、出来ていないのにその自覚がなくできていると思い込む人が増えそうだという点だ。 著者:海原純子(心療内科医・産業医) 東京慈恵会医科大学卒業。同大講師、日本医科大学医学教育センター特任教授、ハーバード大学大学院客員研究員などを歴任。1986年に日本初の女性クリニックを開設し、復興庁「心の健康サポート事業」統括責任者も務めた。読売新聞「人生案内」回答者、毎日新聞「心のサプリ」連載中。 著者:ラスカウスキー照美(ITコンサルタント・トレーナー) ペンシルベニア大学ウォートンスクールMBA修了。米国陸軍、Goldman Sachs、Symantecなどを経て独立。情報セキュリティの国際資格CISSP・CCSPを持ち、セキュリティ・クラウド・AI分野の企業研修や技術書の執筆を行う。
海原 純子