ゴミを拾って公益通報、それって罪になる? 免責規定なく「グレー」

路上に置かれたゴミ袋。ゴミを拾い、それを基に公益通報したら、はたして罪になるのか=東京都内で2026年1月10日、小林慎撮影

 会社の資料がゴミとして捨てられているのを見つけ、公益通報したら警察の取り調べを受けるケースが起きた。ゴミを公益通報したら罪になるのか?

占有離脱物横領容疑で捜査される

 サカイ引越センター(堺市)で働いていた男性は、ゴミ捨て場に顧客の個人情報が記された書類が捨てられているのを見つけた。

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 流出の危険があると考えて書類を抜き取り、労働組合に相談した。労組は新聞社に情報提供。この件が報道され、サカイは謝罪に追い込まれた。

 一連の行為は、公益通報の理念に沿ったものと言える。

 しかし、ゴミから資料を持ち出した行為が占有離脱物横領罪にあたる疑いがあるとして、男性は警察の取り調べを受けた。

 一般的に、ゴミの持ち出しは窃盗容疑などにもあたる可能性がある。ただし、ゴミがリサイクル可能な古紙類や金属くずなど価値のある「有価物」に限られるなど立件にはハードルがある。

 しかも、今回のケースは公益通報につながる行為である。

 それでも男性が取り調べを受けたのは、公益通報者保護法に資料収集・持ち出しに関する刑事責任を免じる規定がないためだ。

免責認める国も

 組織の不正を暴く公益通報をするには、証拠となる資料やデータが欠かせない場合がある。

 実は公益通報者保護法を2025年に改正する際、刑事免責を求める声が専門家から上がった。

 議論の対象になったのは、通報者が通常業務の範囲を超え、閲覧権限のない資料をUSBに保存したり、自宅に持ち帰ったりする行為だ。

公益通報の資料持ち出しで問題となる主な犯罪類型

 想定される犯罪類型は、窃盗罪や横領罪に加え、他人のIDで社内のシステムに入る不正アクセス禁止法違反▽侵入禁止エリアに立ち入る建造物侵入罪――などがある。

 罪に問われるのを覚悟で資料を入手しないといけないとなれば、通報のハードルは上がる。日本弁護士連合会が通報者から寄せられた相談をまとめたところ、証拠資料が存在しても持ち出せない、持ち出していないケースが半数強に上った。

 欧州では免責を認める国もあり、弁護士を中心に「免責が認められないことが通報をちゅうちょする要因になっている」「通報のために必要であり、社会的相当性を逸脱しない行為である限りは免責する規定を設けるべきだ」との指摘が出た。

企業のリスク懸念、導入見送り

 しかし、企業側からすると、免責規定を設ければ情報漏えいのリスクが高まる懸念がある。

 顧客から損害賠償請求を受ける恐れもあり、企業側の免責も同時に検討する必要があると慎重論が出た。最終的に今回の改正で免責規定の導入は見送られ、今後の検討事項となった。

 公益通報に詳しい有野優太弁護士は「安心して通報するには、民事上の責任も含めて免責が不可欠。その規定がない現状では、情報の持ち出しに正当性があることを、通報した側が裁判を通じて立証するしかない。判決で白黒が決まるが、それまではずっとグレーな状況が続く」と話す。

 サカイ元社員の男性は不起訴になったが、会社側から損害賠償を求めて訴えられており、そこで正当性を主張するつもりだ。【川上晃弘】

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