看護学校が危機的状況、コロナ禍で「大変な職業」の印象が定着…長野県では全6校が定員割れの異例事態
看護師や准看護師を養成する医師会立の看護学校への入学者は今年度、長野県内全6校で定員割れし、入学者数を定員で割った「定員充足率」は5割未満だったことがわかった。少子化や大学への進学需要の高まりなどが背景にあり、長野市医師会は市に対して運営の見直しの検討を求めた。看護学校は地域医療を担う人材を輩出しており、関係者らは異例の事態に危機感を強めている。(金沢ひなた)
市に陳情書提出
存続の岐路に立たされている長野看護専門学校(8日、長野市で)長野市医師会は8日、長野看護専門学校の公立化など存続に向けた運営の抜本的な見直しを検討する場を早急に設置するよう陳情書を市に提出した。同会の釜田秀明会長は「このままでは廃校を考えざるを得ない。学校が存続しないと、市内の医療行政が 逼迫(ひっぱく) するだろう」と説明する。
荻原市長(左)に陳情書を提出した釜田会長(8日、長野市役所で)受け取った荻原健司市長は「高齢化が進展する中で、看護人材の確保は非常に大きな課題。医療界や県とも相談し、検討の場を設けたい」と話していた。
1952年に開校した同校は、看護師と准看護師の養成課程を設け、これまでに5250人の卒業生を輩出している。地域で働く看護人材を育てる重要な役割を果たし、今年3月の卒業生49人のうち全体の6割にあたる30人が市内の医療機関に就職している。
だが、少子化や4年制大学への進学需要の高まりに加え、コロナ禍で看護師が大変な職業だとのイメージが定着したこともあり、2019年度以降、定員割れの状況が続いている。
学生の減少で経営も悪化し、県や市などの補助金を受けるほか、同会から毎年、数千万円を繰り入れて運営している。釜田会長は「普通の企業であれば倒産している状況。正常な医師会活動ができなくなっている」と語る。
こうした危機的な状況にあるのは同校だけではない。
長野県内にある医師会立の看護学校は、長野、松本、上田、小諸、諏訪、伊那の各市に計6校ある。
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読売新聞が今月、長野県内の各医師会に尋ねたところ、6校の今年度の入学定員計310人に対し、入学者は計148人で、定員充足率は47・7%だった。
学校別でみると、充足率は松本看護専門学校が80%と最も高かったのに対し、上伊那医師会付属准看護学院(伊那市)は20%と最も低かった。
直近では、昨年3月に岡谷市医師会付属准看護学院が閉校している。県医師会は「どこの学校も経営状況が苦しいのは確か。各学校ごとに今後の在り方を検討している段階だ」と話す。
学生集めに工夫
学生を集めようと工夫を凝らす学校もある。上田看護専門学校では、今年4月から学生の経済的負担となっている通学定期代や駐車場代を補助する事業を始めた。定期代は年3万円を上限に半額補助し、駐車場代は月1000円を負担する。
同校は「この学校は地域にとって貴重な存在。長野市などの近隣地域からも志願する学生を増やし、学校を維持したい」と期待を込める。
地域医療に詳しい伊関友伸・城西大教授は「看護師が継続的に持続可能な形で養成されて地域に定着し、そのまま仕事を続けられる体制を作るという大きな視点を踏まえながら、学校経営を議論することが必要だ」としている。