米中首脳会談が30日に迫る、貿易戦争の今後の行方は-QuickTake
トランプ米大統領と中国の習近平国家主席が30日に予定通り会談すれば、トランプ氏が4月に世界的な貿易摩擦を引き起こして以降、対面で会うのは初めてとなる。
米中首脳会談では、長く待ち望まれていた貿易合意が成立し、一時3桁台の税率に達した関税など脅威のエスカレーションに終止符が打たれるかに注目が集まる。
両国は首脳会談を前に融和的な姿勢を示し、貿易協議の進展も示唆している。トランプ氏がレアアース輸出規制などに反発して中国への100%関税を警告したのはわずか数週間前のことだが、ベッセント米財務長官はトランプ氏の警告について「事実上撤回された」との認識を示した。
ただ、トランプ大統領1期目以降、米中関係の妨げとなってきた多くの問題の解決につながり得る包括的で持続的な合意が実現する公算は小さいとみられる。対立の背景には、米国が中国の経済力や技術力の向上を自国の覇権に対する直接的な挑戦と見なすという根深い戦略的な競争関係があるためだ。
今回の首脳会談を巡る最良シナリオはトランプ、習両氏がそれぞれ勝利を主張でき、約7000億ドル(約106兆円)相当に上る二国間貿易を大きく損ねない範囲の妥協が成立することだろう。
米中貿易戦争の経緯や未解決の問題、その重要性を以下に挙げる。
これまでに合意した内容
トランプ政権は4月に対中関税を145%まで引き上げる一方、中国も米国からの輸入品に125%の報復関税を課したが、経済的な打撃が本格化する前に両国は休戦を決め、協議継続で一致した。
米国は対中関税を30%に引き下げたが、内訳は10%の「相互関税」と、合成麻薬フェンタニル関連の20%関税となっている。鉄鋼など他国にも適用される分野別関税は継続されている。
一方、中国は米製品に対する新関税を10%に引き下げることに同意。4月2日以降に導入した非関税措置を停止または取りやめると表明した。
米側はこの合意により、中国がレアアース輸出規制を解除すると理解していたが、中国政府は輸出ライセンスの発給制限を継続。米国はレアアース供給を妨げているとしてこれを非難した。
その後、米中は6月に枠組み合意に達し、中国は法律に従い条件を満たした「管理対象品目」に対して輸出許可を発給することで合意。米国はエタンや半導体ソフトウエア、ジェットエンジンなどを巡る報復措置を解除することにした。
米国による現在の対中関税
トランプ大統領は6月、対中関税が計55%に達すると指摘。これは10%の「相互関税」と20%に上るフェンタニル関連関税、さらに政権1期目からの既存関税25%を合わせたものだ。
ブルームバーグ・エコノミクスは、さまざまな免除措置などもあるため、今年の平均実効関税率はこれよりも低く、約40%になると推計している。それでも、2001年の中国の世界貿易機関(WTO)加盟以降では最も高い水準にある。
対中関税を再び引き下げる可能性はあるのか
中国がフェンタニル原料となる化学物質の流入抑制に取り組んでいると米国が判断した場合、関税を引き下げる可能性がある。10月下旬、中国側の交渉代表は米中がフェンタニルに関して暫定的な共通認識に至ったとの見方を示していた。
ただ、ベッセント長官は5月にブルームバーグテレビジョンで、対中関税が10%を下回るとは「考えにくい」と述べており、高関税が続く公算は大きい。
米中の貿易関係は最終的にどこへ向かうのか
ベッセント長官は米中がいずれも経済のデカップリング(切り離し)を望んでいないとしながらも、トランプ政権は半導体や医薬品、鉄鋼など国家安全保障に関わる分野で「戦略的デカップリング」を進める方針だと明らかにしている。
米中が最終的に包括的な貿易合意に至る可能性はあるものの、その実現には数カ月、場合によっては数年を要するかもしれず、持続的な解決策となる保証もない。第1次トランプ政権で実現した第1段階の貿易合意も、1年半以上にわたる断続的な交渉と関税応酬を経て、ようやく20年にまとまった経緯がある。
トランプ氏はなぜ中国の輸出を関税の標的にしているのか
トランプ大統領は米貿易赤字を解消し、製造業を国内に呼び戻すことを目指している。米国の貿易相手国では対中赤字が最も大きく、24年には2955億ドルと公式に記録されている。だが、「デミニミス」免除対象となる少額貨物の無関税輸入がカウントされておらず、実際の赤字額はさらに大きかったとみられる。
トランプ氏は1期目に締結した貿易合意の条件を中国側が順守しなかったと不満を示している。この合意は、中国による米製品の大規模購入などを通じて貿易不均衡の是正を目的としていた。
中国は実際に購入を拡大したものの、目標額には達せず、新型コロナウイルス禍による米国の輸入急増で貿易赤字はさらに拡大した。
米中は双方を競争上の脅威とますます見なすようになっており、安保面で重要とされる物資への依存を減らそうとしている。
米中貿易はなぜこれほど拡大したのか
中国によるWTO加盟を控えていた2000年、米国は同国に「恒久的最恵国待遇(PNTR)」を付与。これにより、中国は他の貿易相手国と同等の関税待遇を受けることになり、米中間の貿易は急速に拡大した。
米企業などが相次いで生産拠点を中国に移転し、これが米国内産業の空洞化、いわゆる「チャイナ・ショック」を引き起こした。一方、中国が世界の工場となることで消費財の価格を引き下げる効果もあった。
24年までに米中間の輸出入総額は01年の約9倍に達した。第1次貿易戦争によって米中関係は一時的に冷え込んだが、コロナ禍による需要の活発化で、中国の対米輸出は22年に過去最高を記録した。
米中の主要輸出入品目とは
米国が24年に中国から輸入した3大品目はスマートフォン、ノートパソコン、リチウムイオン電池だった。米国際貿易委員会(ITC)のデータに基づくブルームバーグ・ニュースの分析によると、米国に出荷されたスマホ総額560億ドルのうち、70%超が中国からだった。
一方、米国から中国への24年の主要輸出品目には、液化石油ガス(LPG)や原油、大豆、ガスタービン、半導体製造装置などが含まれ、金額ベースで上位を占めた。
中国に生産拠点を持つ輸出企業はどう対応するか
米国の対中関税を受け、中国に製造拠点を持つ企業は関税負担の軽い国への生産移転を進める可能性がある。トランプ氏の第1次貿易戦争時にも同様の動きが見られ、生産拠点を分散し、地政学リスクを下げる取り組みである「チャイナ・プラスワン」戦略が広がった。
ベトナムやタイなど多くのアジア諸国に対する米国の関税率は中国より低いが、トランプ大統領は貿易以外の政治的要因を交渉カードに使う傾向もある。ブラジルのボルソナロ前大統領のクーデター未遂裁判を理由の一つとして多くのブラジル製品に対して40%の追加関税を課したように、他国にも同様の措置を講じるリスクがある。このため、企業が中国国外に大型投資を行う意欲をそぐ恐れがある。
トランプ政権は高関税を回避する目的で第三国を経由し出荷される「迂回(うかい)輸出」にも40%の追加関税を課す。積み替え品の定義に用いるいわゆる原産地規則については、具体的に明示していない。中国産の原材料を多く使う製品に関しては、同国由来の含有比率に厳格な基準が適用される可能性があり、生産拠点の移転を思いとどまらせる要因となり得る。
中国で業務を行う企業には別の選択肢もある。原材料や部品の価格引き下げに向けてサプライヤーと交渉に臨み、関税による消費者への影響を一部相殺する方法だ。ただ、これは生産者物価指数をさらに悪化させ、企業収益を圧迫する恐れがある。
また、中国国内の生産体制を維持したまま、販売先を米国から他地域に切り替えるという選択肢もある。実際、中国の9月の対米輸出は前年同月比27%減少し、6カ月連続の2桁減を記録する一方、欧州やアジア向けの出荷が拡大し、全体の輸出額は増加した。
だが、大規模かつ持続的な輸出先の転換は、すでに安価な中国製品の流入を懸念する諸国の反発を招く可能性が高い。各国が自国産業を守るため、中国製品に反ダンピング関税を課す恐れもある。
関税が中国経済に及ぼす影響とは
中国経済は第1次貿易戦争時に比べて脆弱(ぜいじゃく)な状況にある。根強いデフレ圧力や個人消費の低迷、長引く不動産市場の不振に見舞われており、内需の弱さを補うため、外需への依存度が強まっている。
貿易は昨年、中国の経済成長の約3分の1を占めた。直接的な対米輸出は全体の約15%にとどまるが、メキシコやベトナムなどを経由して最終的に米国市場に流れる製品を含めると、その割合はさらに大きくなる。
5月に関税休戦が成立した後、ブルームバーグ・エコノミクスは中国の対米輸出が中期的に約70%減少する可能性があると推計した。
トランプ政権の関税措置を回避するため、メーカーなどが中国から他国へ移転すれば、失業の増加や税収減、GDPの下押しにつながる恐れがある。製造業基盤への脅威は、中国当局がこれまで掲げてきた消費主導型経済への転換を加速させる圧力として働くかもしれない。
米経済や消費者への関税の影響は
ゴールドマン・サックス・グループの調査によれば、米消費者は年末までに関税コストの55%を、企業が22%を負担する可能性がある。ナイキやウォルマートなどは利益を維持するため、関税による追加コストの少なくとも一部を販売価格に転嫁しており、消費者は商品の値上がりに直面している。
中国製品の安価な代替先を確保するには時間がかかる。トースターや各種化学製品、LED照明など、一部の品目では米国が中国にほぼ全面的に依存している。
こうした価格上昇は、米国内のインフレ圧力を高める要因となる。18、19両年とは異なり、今回の関税は調理器具や衣料品など消費財を含むより幅広い品目に及んでいる。