ブランドは客を選べない――過激派集団に愛用されたらどうなるか
ロンドン(CNN) 英首都ロンドンで9月、右翼活動家らが実施した反移民デモには、ここ数十年で最大級の11万人あまりが参加し、イングランドや英国の旗を掲げて警察と乱闘を繰り広げた。そこでは英国旗「ユニオンジャック」とイングランド旗「聖ジョージの十字旗」に加えてもう一つ、意外なシンボルが目についた。イタリアのファッションブランド「ストーンアイランド」のロゴだ。
海図に使われる星形の記号とコンパス(羅針盤)をボタン止めのワッペンに配した緑、黄色、黒のデザインは、ストーンアイランドの服によくみられ、デモでは極右の反イスラム活動家、スティーブン・ヤクスリーレノン氏が身に着けていた。デモを主催した同氏は極右団体「イングランド防衛同盟(EDL)」の共同設立者で、トミー・ロビンソンという別名がよく知られている。デモの参加者や、同氏を支持する英ポッドキャスト司会者のリアム・タフス氏ら複数の著名人の服にも、同じロゴが付いていた。
ロビンソン氏は極右政党「英国国民党(BNP)」の元メンバーで、暴行や金融、移民詐欺など複数の有罪判決を受けている。これまでも、ハラスメント行為と暴力の恐怖を与えた罪に問われ6月に治安裁判所へ出頭した時や、7月に開催された別の極右集会などで何度か、ストーンアイランドの服を着た姿が撮影されている。
あるブランドの服を買って着る人々を、ブランド自体がコントロールできる余地は限られている。ロビンソン氏や同氏の支持者らは、ストーンアイランドのロゴや服を極右思想のシンボルとして使うと宣言したわけではないが、好んで着ている様子は明らかだ。
しかし米首都ワシントンの社会学者でアメリカン大学公共政策学部と教育学部で教授を務めるシンシア・ミラーイドリス氏は、世界で政治的立場を問わず暴力が増加している今、各ブランドは「暴力を助長、称賛したり実行したりする団体や運動との結びつきに注意する必要がある」と指摘する。CNNはストーンアイランドと親会社のモンクレールにコメントを求めたが、応答はなかった。
問題のあるお墨付き
近年、過激派運動の関係者に着用されてきたブランドは、ストーンアイランドだけにとどまらない。
その一例は、世界最大の高級ブランド「LVMH」が所有するイタリアのブランド、「ロロ・ピアーナ」だ。ロシアのプーチン大統領が2022年、テレビ放映された集会で自国のウクライナ侵攻を称賛した際に、同ブランドの1万4000ドル(約210万円)のフード付きパファーコートを着ていた。一般視聴者がこれに気づき、SNSではロロ・ピアーナがプーチン氏を非難しないことに批判が集中した。
あるブランドの特定のデザインを、政治団体がユニホームに採用したケースもある。20年には、英国のスポーツウェアブランド「フレッドペリー」と一目で分かる、黒に黄色のラインが入ったポロシャツが米極右団体「プラウド・ボーイズ」に使われ、同ブランドはこの商品の販売を一時的に停止した。
この不本意なお墨付きに対し、フレッドペリーのブランドアンバサダーの1人で英映画「トレインスポッティング」の原作を書いた小説家のアービン・ウェルシュ氏は、同ブランドの服を今後は着ないと表明。長年サブカルチャーとの結びつきを高く評価してきたが、「西洋優越主義者」を標榜(ひょうぼう)する団体に採用されてしまったからだと述べた。フレッドペリー側は公式サイト上の声明でプラウド・ボーイズを「私たちや関係者の信念に反する」と断じるなど、繰り返し同団体から距離を置いている。
16年には、ネオナチのサイトが米ボストンのスポーツシューズブランド「ニューバランス」のスニーカーを「白人の公式シューズ」に指定し、支持者らに向けて「スポーツウェアで互いを認識できるように」と購入を呼び掛けた。これに対してニューバランスは当時、フェイスブックやX(旧ツイッター)などのSNSアカウントを通し、「いかなる形の偏見や憎悪も容認しない」と表明した。
符号化された服装の起源
ミラーイドリス氏によると、人気ブランドが政治的シンボルとして使われた最初の例は1990年代初頭のドイツにさかのぼる。同国では当時、ベルリンの壁崩壊に続く東西統一の後、極右によるデモと暴力が急増していた。
コンサートやサッカー試合、公共の広場などでネオナチの集団が目立つようになった時期だ。ドイツの厳格な反ナチス法でナチスのシンボルを掲げることが禁止され、かぎ十字やナチス親衛隊のマークが非合法とされたため、過激派集団は代わりに特定の服装を符号化し、合図に使うようになった。この過程で採用された主な例が、ニューバランスと英国のスポーツウェアブランド、ロンズデールだ。
ミラーイドリス氏がCNNとの電話インタビューで語ったところによると、ニューバランスは大きな「N」の文字がネオナチを意味するとして定番になった。「メンバーは夏になると戦闘用ブーツからニューバランスのスニーカーに履き替えた」という。
一方、ロンズデールのTシャツの角ばったロゴには、たまたまナチスを示す文字が入っていた。「ボンバージャケットのファスナーを半分上げると『NSDA』の文字が見えた。これはドイツ語でナチス党の頭文字、NSDAPの初めから4文字を思わせるが、警察に捕まることはない。ジャケットのファスナーを開ければ、罪のないロンズデールのTシャツが見えるだけだと、ミラーイドリス氏は言う。こうして、服装は状況次第で見せたり隠したりできる、便利な符号となった。
興味深いことに、ここ何十年かのうちに治政治団体や過激派団体はスキンヘッドのような挑発的な姿から、カーキ色のパンツにポロシャツといった、より平凡なスタイルに流れてきた。ミラーイドリス氏は、かつてよく知られたネオナチのブログで、服装の手引きにこう書かれていたのを読んだ記憶があるという。「人々が私たちの考えに耳を傾ける可能性は、その考えを包む外装が気に入った場合のほうが高くなる」
サッカーのフーリガンから高級ファッションへ
ストーンアイランドは82年、イタリア北部の町ラバリーノでデザイナーのマッシモ・オスティ氏が立ち上げたブランドだ。染色技術や新開発の生地で知られ、温度に応じて色が変わる感熱ジャケットなどの商品がある。
最近では俳優のジェイソン・ステイサム、映画監督のスティーブン・スピルバーグやスパイク・リー、ラップ歌手のドレイク、カノ、デイブ、サッカー選手のアーリング・ハーランド、ボクシング王者のオレクサンドル・ウシク、さらにはスターマー英首相も、同ブランドのファンに名を連ねている。女性のファン層も広がり、ポップス界のスター、デュア・リパやDJでソングライターのペギー・グーらが挙げられる。
だが同ブランドへの愛着の多くは、歴史的にサッカー文化におけるルーツに由来する。そこでは、有名な羅針盤の記章がファンの帰属意識、仲間意識、アイデンティティーのシンボルとなった。特に、90年代英国の「カジュアルズ」(スタジアムの立ち見席を意味する「テラス」文化とも呼ばれる)の中で、サッカー観戦に行く若者たちのうち相当な人数が、社会的地位を誇示しつつ警察やライバルのファンをかわす手段としてバーバリーやフレッドペリー、ラコステ、エレッセなどを身に着けていた。筋金入りのサッカーファンの多くは、スキンヘッドなど暴力と結びつきがちな別のサブカルチャー集団にも属していた。よくフーリガンとも呼ばれるかれらは、普段の定番アイテムでなく高価なスポーツウェアを着ることで、ライバルチーム間の暴力沙汰を防ごうとパトロールする警察の目をたやすくすり抜けることができた。
フーリガンのプライドや絆(きずな)に共感する過激派集団の一部メンバーは、ストーンアイランドとフーリガンのかつてのつながりに魅力を感じるかもしれないと、ミラーイドリス氏は語る。熱心なサッカーファンにとって、対戦相手のチームに対する強い感情や、自分の縄張りやクラブを守る義務はファンの要だ。多くの極右団体は、この部族主義的な思考を自国対外国勢力という枠組みに当てはめている。
ロビンソン氏と同氏のストーンアイランド好きも、恐らくその一例だろう。古着販売から広告代理業に転じた英企業トゥー・ホットの創業者、オリー・エバンス氏は「高価な商品はステータスシンボル。人々が立ち見席で高価な服を着るのはそもそもこれが理由で、見せびらかしたいからだ」と話す。同氏によると、ロビンソン氏はストーンアイランドの服を着ることで、「自分がtop boy(社会階層の頂点に立つ者を意味する英国のスラング)だと伝えようとしている」のかもしれない。
メッセージを取り戻す
インターネットとSNSの普及によって、ブランドがそれ自体のメッセージをコントロールできる余地は大幅に狭まっている。だがブランド自体の価値観に合わないメッセージを回避する方法はあると、ミラーイドリス氏は主張する。例えばロンズデールは、ネオナチや極右団体とのネガティブなつながりに対抗し、反人種差別のイベントや運動を展開した。「ロンズデールはすべての色を愛している」と題した2003年のキャンペーンは非白人のモデルを前面に打ち出し、「ブランドを取り戻す」助けになったという。ミラーイドリス氏はまた、各ブランドが「自分たちの価値観に沿った」運動に収益の一部を寄付することもできると指摘した。
ここで重要なのは、ブランドの熱心なファン層が離れないようにするのが目的だということだが、ストーンアイランドの場合は違うようだ。エバンス氏は、ロビンソン氏やほかの政治的人物らが同ブランドを身に着けても、そういった人々の趣味が低俗なので気にならないと話す。「問題はかれがどのジャケットを着ているかではなく、どんな着方をしているかだ」と説明し、ロビンソン氏がダメージジーンズやロゴの目立つスニーカーを好む傾向を例に挙げた。
エバンス氏はさらに、ストーンアイランドの創設者オスティ氏が政治的左派を強く支持し、イタリア共産党の活発な党員で、ボローニャ市議会議員も務めた人物だったと指摘。「これほど多くの人々がオスティ氏を崇拝し、同氏が死去して20年経った今でも称賛しているのなら、ロビンソン氏のような人物がストーンアイランドの服を着たところで影響はないだろう」と強調した。
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原文タイトル:Brands can’t choose their customers. So what happens when extremists wear their clothes?(抄訳)