先進医療技術の普及により1型糖尿病患者の血糖管理が大きく改善
先進的テクノロジーを用いた医療機器の普及によって、1型糖尿病患者の血糖管理状態が顕著に改善しているとする研究結果が、「JAMA Network Open」に8月11日掲載された。米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院のMichael Fang氏らの研究によるもので、血糖コントロールが良好(HbA1c7%未満)の18歳未満の患者の割合は、2009年は7%であったものが2023年には19%となり、成人患者では同期間に21%から28%に増加したという。
研究者らによると、これらの改善は、持続血糖モニターやインスリンポンプの技術革新によるところが大きいという。Fang氏は、「かつて、1型糖尿病患者の血糖コントロールは困難なことが多かった。こうした顕著な改善は喜ばしい変化だ」と述べている。ただし一方で、1型糖尿病患者の多くが、いまだに十分な血糖コントロールができていないことを、研究者らは指摘している。
米国糖尿病学会(ADA)によると、米国の1型糖尿病患者数は約200万人であり、そのうち30万4,000人は小児や10代の若者で占めている。1型糖尿病は膵臓のインスリン産生細胞が破壊されてしまう自己免疫疾患で、発症後は生存のためにインスリン療法が必須となる。従来のインスリン療法は、指先穿刺による血糖測定とインスリン注射を頻回に行う必要があり、また低血糖対策のための甘い物を常に身に着けておくことが欠かせない。一方、近年になり、持続血糖モニター、および、その測定結果を利用するアルゴリズムに基づき必要なインスリンを自動的に注入するポンプが普及し、安定した血糖値を維持できるようになってきた。
今回報告された研究には、約16万人の成人患者および約2万7,000人の18歳未満の小児・若年患者の医療記録が用いられた。分析の結果、2009~2023年の間に、前述のように血糖管理が良好な患者の割合が顕著に増加していた。その背景として、持続血糖モニターを使用している患者の割合は、小児・若年患者では4%から82%へと20倍以上に増加し、成人患者では5%から57%へと10倍以上に増加していた。また、インスリンポンプを使用している患者の割合は同順に、16%から50%、11%から29%に増加していた。2023年には双方のデバイスを利用している患者が、小児・若年者の47%、成人の22%を占めていた。
ただし、論文の上席著者で同大学院のJung-Im Shin氏は、「このような改善は喜ぶべきことだが、1型糖尿病患者の大半はいまだ最適な血糖コントロールを達成できておらず、改善の余地が残されていることを忘れてはならない」と話している。また、医療格差も認められ、先進的医療機器を利用し良好な血糖コントロールを維持しているのは、白人や民間保険に加入している患者に多いという。例えば18歳未満の患者の中で、良好な血糖コントロールを維持している割合は、白人では21%であるのに対し、ヒスパニック系では17%、黒人では12%にとどまっていた。
なお、研究グループでは今後さらに詳しい調査を続け、心臓病や腎臓病などの糖尿病に多い合併症の罹患率の変化も明らかにすることを計画している。(HealthDay News 2025年8月14日)
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