広末涼子さん家宅捜索に疑問の声「薬物検査セーフなのに」、もう一つの容疑「危険運転致傷」はどんな罪? 起訴される可能性は?

俳優の広末涼子さんの自宅が、「危険運転致傷」の疑いで、静岡県警に家宅捜索されたと報じられています。

報道によると、広末さんは4月7日、新東名高速道路で乗用車を運転中、大型トレーラーに追突する事故を起こし、車に同乗していた男性がケガをしました。

このあと、静岡県内の病院で看護師を蹴るなどしてケガをさせたとして傷害の疑いで逮捕されていました。

家宅捜索は、先の交通事故に関する捜査として実施されたとみられています。ただ、逮捕容疑が「傷害」だったことから、ネットでは「危険運転致傷」とみられる家宅捜索に驚く声が書き込まれています。

そもそも危険運転致傷罪とはどのような罪なのでしょうか。また、広末さんの身柄は今後どうなるのでしょうか。

●同乗者をケガさせた場合も適用される

危険運転致傷罪とは、「自動車運転処罰法」(正式:自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律)で定められている犯罪です。

2条と3条があり、3条のほうは「準」危険運転致傷罪と呼ばれることもあります。2条の場合は15年以下の懲役、3条の場合は12年以下の懲役とされています。

今回は、2条1号の「薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為」によって、人を負傷させたという疑いがかけられていると考えられます。

まずこの条文からみていきます。

この条文は、知らない通行人に自動車を衝突させ、ケガをさせた場合などはもちろんのこと、同乗者をケガさせた場合にも適用される可能性があります。

自動車運転処罰法2条(弁護士ドットコムニュース編集部作成)

●「違法な薬物」でなくても危険運転致傷罪は成立しうる

単に「薬物を飲んで精神状態に何らかの影響があり、事故を起こしてケガをさせてしまった」だけでは、危険運転致傷罪は成立しません。

まず、先に挙げた条文のとおり、「薬物の影響により」「正常な運転が困難な状態」であるという客観的な証明が必要です。

報道によると、広末さんは、簡易検査では薬物について陽性結果は出ていないようです。

ただし、簡易検査では、大麻や覚せい剤などの一部の違法薬物について検査するだけですので、広末さんの体内に一切薬物成分がないということまでは意味しません。

本罪の「薬物」は、違法なものでなくてもかまいませんので、広末さんに普段から処方されている薬などの影響についてはさらに調べる必要があります。

そのようなわけで、今回家宅捜索がおこなわれたのは、違法な薬物を摂取していなくても、病院から処方されている薬物があるのか、あるとすれば実際にどういうもので、どういう飲み方をしているのかなどを調べて、薬物と事故との関係について捜査するためと考えられます。

たとえば精神科に通院している人が、向精神薬や睡眠薬を処方されている場合、その影響でとても眠くなったり、精神状態に何らかの影響が及ぶことがあるでしょう。

そのような場合でも、薬物の強さや量、飲んだ日時などによっては、「薬物の影響により」という要件を満たす可能性があるのです。

●2条の危険運転致傷罪は「故意犯」

次に、上で挙げた客観的な事実に対応する「故意」が必要です。

故意とは、それぞれの犯罪で規定されている事実の認識・認容のことを指します。

つまり、危険運転致傷罪の場合、「薬物の影響がある」という認識・認容だけでなく、「正常な運転が困難な状態である」ことの認識・認容も必要になります。

この立証のハードルはかなり高いです。

たとえば、思いどおりにハンドルやブレーキなどの操作をすることが難しい場合や、前方を注視することが現に難しい場合には「正常な運転が困難」といえるとされています(最決平成23年10月31日等参照)。

そして、このように正常な運転が現に困難なことを認識していなければならない、とされています。

なんとなく「薬を飲んでいるから運転に気をつけなければならない」と認識しているだけでは、本条の故意は認められないと考えられます。

●「準」危険運転致傷罪は「故意の立証」のハードルが少し低い

なお、故意が立証できずに2条の危険運転致傷罪は成立しなくても、3条の危険運転致傷罪(自動車運転処罰法3条)に問われる可能性はあります。

3条の危険運転致傷罪は、薬物の影響により「走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転」し、「よって」薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥って人を負傷させた場合に成立します。

3条も故意犯ですが、ポイントは、「よって」という条文の文言の位置です。

この位置が2条とは異なることで、2条と3条では故意の対象が異なります。

「よって」とある場合、条文上、その後ろにある文言については、故意は必要なく、「結果として生じればOK」です。

つまり、2条でご説明した「正常な運転が困難な状態」の認識までは不要で、3条では「薬物の影響により」「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」であることを認識・認容していれば良いことになります。

そのうえで、客観的な結果として、「薬物の影響により正常な運転が困難な状態」となり、「人を負傷させ」た場合に、同罪が成立します。

したがって、2条の場合よりは成立範囲が広いといえます。このような点から、3条を「準」危険運転致死傷罪と呼ぶこともあります。

ただし、3条の場合でも「正常な運転が困難」だったことは、検察官の側で立証しなければなりません。

つまり、先ほども説明したように、本当にハンドルやブレーキの操作が困難なほどの状態だったのか、という客観部分についての立証は必要、ということになります。

自動車運転処罰法3条(弁護士ドットコムニュース編集部作成)

●過失運転致傷罪であれば立証のハードルはさらに下がる

自動車運転処罰法では、故意の運転による事故だけではなく、過失による場合も処罰しています。

過失運転致傷罪(同法5条本文、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金)であれば、薬物の影響かどうかも関係ありませんし、客観的に「正常な運転が困難」だったかや、そのような認識・認容があったかという点についての立証も不要です。

自動車運転処罰法5条(弁護士ドットコムニュース編集部作成)

●看護師への傷害罪とは「別」に成立する可能性

広末さんは、事故後に運ばれた病院で、看護師に対して暴行を加えケガを負わせたという傷害罪で逮捕されたと報じられています。

この傷害罪と、同乗男性に対する自動車運転致傷罪(※過失運転致傷罪の場合も)とは別の犯罪です。

したがって、自動車運転致傷罪でも立件され、有罪となった場合には、両罪は併合罪(刑法45条前段)となり、より重く処罰されます(おおざっぱな説明だと1.5倍になります)。

●別の罪で家宅捜索して良いのか?別件逮捕では?

「別の罪なのに、看護師への傷害罪で逮捕し、自動車運転致傷罪の容疑で家宅捜索をすることは許されるのか?」と思う方もいらっしゃるでしょう。しかし、それ自体は特に問題ありません。

令状にもとづいて捜索・差押えをするには、必ずしも「逮捕されている事件であること」は求められていません。

ですから、広末さんに自動車運転致傷罪の疑いがあり、それに基づいて捜査機関が令状を請求し、裁判官の審査の結果、OKが出た場合には、捜索・差押えは可能です。

報道によると、看護師への傷害時にも、広末さんはかなり精神的に不安定な状況だったようですので、薬物の影響がどうだったのかということは、この傷害罪の動機や経緯を解明する意味でも、危険運転致傷罪の薬物の影響を調べる意味でも、捜査すべき事情といえます。

今回、危険運転致傷罪の容疑で家宅捜索のための令状が請求されたのは、薬物の影響は危険運転致傷罪との関係ではまさに条文上求められている要件(構成要件)であり、看護師に対する傷害罪とくらべて、被疑事実との関係でより直接的な証拠と考えられるからではないかと思われます。

「実は広末さんの薬物使用疑惑を捜査しているのではないか」とか「それは違法な別件逮捕・勾留ではないのか?」という声も聞こえてきそうですし、さまざまな意見はあると思いますが、少なくとも現時点で報道されている情報からすると、今回は違法な別件逮捕・勾留とはいえないように思います。

●広末さんは今後どうなるのか

さて、広末さんは「勾留」されたそうですが、今後どうなるでしょうか。

検察官の勾留請求が認められると、原則として10日間身柄拘束されます。その後、「勾留延長」がされることで、さらに10日間身柄拘束されます。合計で20日間身柄拘束されることになります。

勾留から解放されるためには、「準抗告」という手続きをおこなうことが考えられます。たとえば、勾留中に被害者と示談が成立した場合、示談書などを裁判所に提出して勾留を解いてもらうように請求します。

今回は、看護師に対する傷害罪で逮捕・勾留されているため、まずは被害に遭われた看護師との示談が成立するかどうかが争点となるでしょう。

また、看護師に対する傷害罪についての勾留が解かれても、さらに危険運転致傷罪による逮捕・勾留も考えられます。

こちらについては、自動車に同乗していた男性(マネージャーとされている)との間で示談し、勾留しないよう求めたり、勾留されてしまった場合には準抗告をおこなうことが考えられます。

両方の容疑について示談が成立した場合や、危険運転致傷罪による立件がされなかった場合(過失運転致傷罪の場合も含む)には、不起訴処分や略式起訴などの比較的軽微な処分が予想されます。

しかし、危険運転致傷罪の証拠が固まったということになれば、起訴される可能性もあります。

刑事手続の流れ(弁護士ドットコムニュース編集部作成)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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