なぜタイは昆虫食で世界をリードするのか、今や星付きレストランも 写真11点

ミシュランの星を獲得した高級レストラン「アッキー」では、季節ごとにさまざまな昆虫料理を楽しめる。(PHOTOGRAPH BY SIRACHAI ARUNRUGSTICHAI)

2025.08.13

 タイの農村地域には、昆虫をタンパク源とする伝統がある。タイ北東部のイサーン地方で育ったスウィモン・チャンタジョン氏も、幼い頃、第二次世界大戦中に昆虫を食べて命をつないだという祖父からどの昆虫がおいしいかを教わり、昆虫探しに明け暮れていたという。大人になって起業を考えるようになった氏は、食用昆虫産業に目をつけた。そしてコオロギの養殖ビジネスを手がけるサイアムバグズ社を立ち上げ、パタヤ郊外の静かな住宅街に養殖場を建設した。

 タイには現在、2万以上のコオロギ養殖場がある。地元の18の養殖場からなる協同組合の一員として、サイアムバグズの養殖場は年間7トンのコオロギを生産している。飛行機の格納庫ほどの広さの倉庫の中にはコオロギの養殖用コンテナが並んでいる。コオロギたちはここで、穀物、トウモロコシ、米ぬかを餌にして、45日間の一生を過ごす。チャンタジョン氏は、「私は彼らの母親のようなものです」と言う。

タイのラヨーンにあるスリチャナ・コオロギ養殖場で、フタホシコオロギ(Gryllus bimaculatus)に水を与える従業員。(PHOTOGRAPH BY SIRACHAI ARUNRUGSTICHAI)

タイのチョンブリー県パタヤにあるサイアムバグズの養殖場で、収穫前に、紙製の卵カートンに入っていたヨーロッパイエコオロギ(Acheta domesticus)を養殖用コンテナに落とす従業員たち。(PHOTOGRAPH BY SIRACHAI ARUNRUGSTICHAI)

バンコクの夜の屋台ではさまざまな昆虫の姿揚げが売られている。(PHOTOGRAPH BY SIRACHAI ARUNRUGSTICHAI)

昆虫食はグロテスク?

 昆虫食の歴史は聖書時代までさかのぼることができ、昆虫を食べる人は世界中で20億人に上る。昆虫はタンパク質や脂質が豊富で、さまざまな健康効果があることが分かっている。例えば、昆虫の外骨格を構成するキチンという繊維質は、代謝を助け、腸内細菌叢(そう)の健康に役立つ。

 タイには200種以上の食用昆虫が生息しており、その豊富さはメキシコに次いで世界第2位だ。昆虫食が最も一般的なのは北部や北東部の農村地域で、肉の代用品として重宝されてきた。(参考記事:「空飛ぶタンパク源を捕まえる」

 タイの多くの市場では、さまざまな種類の甲虫やコオロギ、アリ、イモムシやセミが売られている。人気の食用昆虫には、バターのような味のバンブーワーム(タケムシ)、ブルーチーズに似た香りのタガメ、そしてタイの春のカレー料理「ゲーン・カイ・モッ・デーン」の重要な材料である赤アリの卵などがある。(参考記事:「「蜂の子」の材料のスズメバチは鳥や哺乳類も食べる、エサ324種」

 南部では、季節限定の大型のコガネムシが、しばしば鶏肉や豚肉よりも高値で取り引きされている。活気あふれるバンコクの市場には、ベトナム人バイヤーも多く訪れ、レストラン向けのタガメを仕入れにくる。

ヤシオオオサゾウムシ(Rhynchophorus ferrugineus)の幼虫であるサゴワームの姿揚げを食べるアッキーの客。(PHOTOGRAPH BY SIRACHAI ARUNRUGSTICHAI)

アッキーの厨房で調理されるセミ。(PHOTOGRAPH BY SIRACHAI ARUNRUGSTICHAI)

 西洋諸国だけでなくタイ国内にも昆虫を丸ごと食べることに抵抗がある人々はいて、食用昆虫産業にとって最大の課題になっている。そこで生産者たちは、恐怖心を持たずに食べられる形にしようと、ココアやパンや麺類といったなじみのある食品や製品に混ぜられるように、昆虫を挽いた小麦粉のような粉末をつくり始めている。

屋台飯から高級料理まで

 昆虫粉末市場は成長しているが、コオロギは今でも丸ごとの形で広く販売されている。コオロギの姿揚げは、ビールのつまみとして広く親しまれているからだ。また、一部のレストランでは、昆虫を肉に代わる食材として使い、成功を収めている。

バンコク郊外にあるミシュランの星付きレストラン「アッキー」の厨房にはさまざまな食用昆虫の容器が並べられている。このレストランでは、旬の昆虫を使った料理を提供している。(PHOTOGRAPH BY SIRACHAI ARUNRUGSTICHAI)

 バンコク中心部にあるレストラン「バウンス・バーガー」のハンバーガーのパテには、揚げてから殻をむいたコオロギの身が15%含まれている。シェフはインフルエンサーに試食してもらうなどして、コオロギがスーパーフードであることや、パテがとてもおいしいことを広めようとしている。

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