焦点:中国、限られる米関税への有効打 消耗戦に備え

 4月8日、トランプ米政権が中国からの輸入品、さらに中国から調達した部品を加工している国から輸入品に対する関税を引き上げたことを受け、中国は経済的な消耗戦に備えようとしている。写真は米国と中国の旗。北京の米系企業オフィス前で8日撮影(2025年 ロイター/Tingshu Wang)

[北京/深セン 8日 ロイター] - トランプ米政権が中国からの輸入品、さらに中国から調達した部品を加工している国から輸入品に対する関税を引き上げたことを受け、中国は経済的な消耗戦に備えようとしている。

米国は先週、ほぼ全世界に10%以上の輸入関税を課すと発表。うち中国企業が生産拠点を移しているベトナムなどにはさらに高い関税を適用することを公表した。中国は米国からの輸入品に報復関税を課すと表明し、トランプ大統領は中国製品への関税をさらに引き上げると脅した。

中国の政策顧問は「先に降伏した方が被害者になる」とし、「どちらがより長く持ちこたえられるかの問題になる」との考えを示した。

とはいえ、中国に「大きな有効打」と言えるような選択肢はない。自国製品の輸出先をアジアや欧州、その他の市場に振り向けようとしているものの、逃げ道にはならないかもしれない。

こうした国々は米国よりもはるかに小さな市場しか持っておらず、同じくトランプ関税で地域経済が打撃を受けるからだ。また、安価な中国製品をさらに受け入れることに警戒感を抱いている国も多い。

Share of select countries in China's exports

国内的には、通貨人民元の切り下げが関税の影響を和らげる最も簡単な方法となるが、これは資本流出を引き起こす可能性がある。中国はこれまで、非常にわずかな人民元の下落しか容認していない。

さらなる補助金や輸出品への減税といった景気刺激策も考えられるが、こうした施策は企業の設備過剰に拍車をかけ、デフレ圧力をさらに強めるリスクもある。

アナリストらは長年にわたり、中国が内需を大きく押し上げる政策を実施するように提唱してきた。

中国政府は低迷する個人消費の喚起を呼びかけているものの、個人消費を実質的に増加させる施策はほとんど実施されていない。大胆な政策転換が必要であるにもかかわらず、短期的には製造業を混乱させる可能性があるからだ。

中国の米国へのモノ(物品)の輸出額が、輸入額約1600億ドルの約3倍であることを踏まえると、中国が独自の関税や輸出規制で反撃することはあまり効果的ではないかもしれない。しかし、中国が自分たちの方が米国よりも痛みに対する限界点が高いと信じ込んでいるのならば、それが唯一の選択肢かもしれない。

米国が中国からの輸入品に34%の追加関税を課すと先週発表したのに対し、中国も同様の措置で対抗すると表明した。トランプ氏が関税をさらに50%引き上げるとけん制すると、中国は「最後まで戦う」と宣言した。

調査会社ガベカルの調査責任者、アーサー・クローバー氏は「中国は米国に対して大きな貿易黒字を抱えており、レアアース(希土類)を除けば輸出規制で失うものの方が大きいため、中国が受けるほどの痛みを米国に与えることはできない」と指摘。その上で「中国政府の動きから読み取れるのは、米国が支配しようとしているのを押し返し、経済的な消耗戦に陥っても全く構わないという姿勢だ」との見方を示した。

<「精密な攻撃」>

中国は米国に対して関税措置に加え、戦略的な物資や企業の一部に対する支配力を行使することで米国の最大の痛みを突くことができる。

中国は今月7日、米国の防衛・ハイテク分野が大きく依存している資源の供給を制約する動きとして、7種類の希土類を輸出規制リストに追加した。中国は他に10種類の希土類にも適用を広げるか、米国への輸出を全面的に禁止する選択肢を残している。

中国は米企業を制裁の対象としたり、現在は台湾に武器を売却している大手企業が含まれている「信頼できない企業のリスト」に加えたりすることもできる。中国から電池を調達していた米国の無人機メーカー、スカイディオは中国の制裁に直面している企業の一つだ。

復旦大米国研究センターの呉新波所長は「わが国の攻撃方法は『精密な攻撃』だ」とし、「主な優先事項は自制を維持することであり、次に非対称的な方法を用いること」としてその中には輸出規制も含まれると説明した。

米国と中国は互いに痛みを増大させようとしている中で、他の国々も貿易戦争の巻き添えとなっており、歯止めをかけて収束させていくのは想像しにくくなっている。エコノミストらは一方が世界有数の生産国であり、もう一方が世界最大の消費国であることを考えると、トランプ氏が目指す中国との貿易の均衡は短・中期では実現不可能だと指摘する。

中国を拠点とするコンサルティング会社プレナムのパートナー、Bo Zhengyuan氏は「中国は、米国の措置が交渉のための適切な雰囲気を作るのに役立つとは考えていない」と語った。

交渉が難航した場合には政治的な意思のぶつかり合いになり、中国が優位に立つと考えるアナリストもいる。

先週末には数千人ものデモ参加者が米首都ワシントンなどの都市に集まり、トランプ氏に抗議した。トランプ関税が引き起こした世界市場の混乱に対しては、米金融界も反発している。

厳しく統制された中国では同じような抵抗に直面する可能性は低く、必要になれば今年後半に金融・財政刺激策を打ち出して社会的ストレスを幾らか緩和することも可能だ。

香港大ビジネススクールのジウ・チェン教授は「最終的にはどちらの国がより効果的に自国民を管理し、この貿易戦争による経済的影響を制御できるかというゲームになる」と言及。「トランプ氏と少なくとも共和党の政治家は、選挙による大きな圧力に直面しなければならなくなる」とし、「よってトランプ氏が中国と政治的に戦う能力はそれほど高くはないと思う」との見解を示した。

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Laurie Chen is a China Correspondent at Reuters' Beijing bureau, covering politics and general news. Before joining Reuters, she reported on China for six years at Agence France-Presse and the South China Morning Post in Hong Kong. She speaks fluent Mandarin.

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