スイス、対米通商交渉「より魅力的な提案の用意」-対抗措置検討せず
スイス政府は、米国がスイスからの輸入品に39%の関税を課すとしていることを受け、米国側により受け入れやすい通商条件を提示する意向を明らかにした。
スイス政府は5日発表した声明で、「スイスは米国の懸念に配慮しつつ、現在の関税状況を緩和することを目指し、より魅力的な提案を行う用意がある」と表明。対米直接投資や研究開発への取り組みを強調した。また、当面は対抗措置を講じない方針も示した。
米国の対スイス関税は先進国の中で最も高く、7日に発効する予定だ。スイスのケラーズッター大統領兼財務相は対応を協議すべく、政府の最高意思決定機関である連邦評議会を緊急招集した。
スイス経済相経済事務局(SECO)の交渉担当者はすでに米国側に接触し、打開策を模索している。同局は1カ月以上前、より有利な暫定合意を米国とまとめた経緯があり、4日には経済界の代表へのブリーフィングも行った。
事情に詳しい当局者によれば、スイス側は少なくとも7日以降への発効延期を目指しており、現状がわずかでも改善されるなら成果だと考えているという。
先週末のスイス国内メディアでは、トランプ米大統領の不意打ちに対して備えを欠いていたとして、ケラーズッター氏への批判が噴出した。同氏は「合意の可能性があるなら、ワシントンに土壇場で出向く用意がある」と述べた。
反発はあるものの、ケラーズッター氏は直ちに職を失う危険にさらされているわけではない。スイスの政治制度は継続性を重視しており、大統領職は毎年交代制で、同氏の任期は年末までとなっている。
米国勢調査局のデータによると、スイスは2024年、米国との2国間貿易で380億ドル(約5兆6000億円)の貿易黒字だった。米国の貿易赤字相手国としては13番目の規模だ。米国が4月に世界一律の基本関税を導入した際、スイスから米国への輸出は一時急減したものの、6月には持ち直しており、両国間の貿易はなお堅調に続いている。
スイスに残された少ない選択肢の一つとして、米国から液化天然ガス(LNG)を購入する案がある。スイスは内陸国で、水力発電と原子力発電に依存しているが、エネルギー供給の変動を緩和するため、冬季を中心に少量のガスも使用している。
今のところ、市場ではケラーズッター氏とスイス政府がより有利な合意を取り付けるとの期待が優勢だ。
ロンバー・オディエの投資ストラテジストはリポートで「交渉によってスイスの関税率39%が、欧州連合(EU)並みの15%程度に引き下げられると見込んでいる」と述べ、「この貿易紛争が解決されない可能性は低いが、その場合は国内総生産(GDP)の予測を見直すことになる」とも述べた。
スイスの緑の党の国会議員フランツィスカ・リュザー氏は、ブルームバーグの取材に対し「今回の状況からは政治的な教訓を引き出すべきだ。少なくともトランプ政権下において、米国はもはや信頼できるパートナーではないという現実を認識する必要がある。EUとの連携を強化し、欧州のパートナー諸国とより緊密に協調すべきだ」と強調した。
原題:Switzerland Is Ready to Make More Attractive Trade Offer to US(抜粋)