やせ細ったイスラエル人人質の映像をハマスが公開、各国から非難噴出 赤十字は「人質へのアクセス」要求
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ヒューゴ・バシェーガ中東特派員(エルサレム)、マロリー・メンシュ記者(ロンドン)
パレスチナ・ガザ地区で拘束されているイスラエル人質のやせ細った姿を捉えた映像が公開され、西側諸国の指導者から非難が噴出している。赤十字は、ガザに残る人質全員へのアクセスを許可するよう求めている。
イギリスのデイヴィッド・ラミー外相は、「プロパガンダ目的で人質を見せ物にする映像に、吐き気がする」と述べ、人質は「無条件」で解放されなくてはならないとした。
こうした呼びかけは、衰弱した人質の映像が公開されたことを受けてのもの。ガザの武装組織「パレスチナ・イスラム聖戦(PIJ)」は7月31日に、ガザで拘束されている人質のロム・ブラスラフスキー氏(21)がやせ細り、泣いている映像を公開した。2日後の8月2日には、イスラム組織ハマスが、人質のエヴィヤタル・ダヴィド氏(24)がやせ細っている映像を公開した。
イスラエルの指導者らは、人質たちが飢えている責任はハマスにあると非難した。
これに対し、ハマスの軍事部門は、人質を意図的に飢えさせているわけではないと反論。ガザが飢餓危機に陥る中、人質はハマス戦闘員やガザ住民と同じ食事をとっていると主張した。
10月7日には、イスラエル南部の各地から251人がガザへ連れ去られた。その後、イスラエルとハマスの合意に基づき、イスラエルで収監されていたパレスチナ人と引き換えに一部の人質が解放されたが、イスラエルによると今も49人(うち27人は死亡しているとされる)がガザで拘束されている。ブラスラフスキー氏とダヴィド氏はこの49人に含まれる。
人質の映像が公開された後、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はブラスラフスキー氏とダヴィド氏それぞれの家族と面会し、「深い衝撃」を受けたと述べた。そして、人質全員の帰還に向けた努力は「絶え間なく、執拗に続いていく」とした。
ネタニヤフ氏は3日、国際赤十字委員会(ICRC)ガザ支部の責任者と協議し、人質に食料と医療支援を即時に提供するよう要請した。
ICRCは、公開された映像は「人質が命に関わる状況に置かれていることを明確に示す証拠」で、「がくぜんとした」と述べた。
ICRCは、人質の健康状態を確認し、医療支援を提供し、家族との連絡を可能にするため、人質へのアクセスを許可するよう、改めてハマスに要求した。
ハマスの軍事部門アル・カッサム旅団は、ガザへの人道回廊が定期的かつ恒久的に開かれ、援助物資を受け入れる際に空爆が停止されるならば、ICRCによる食料・医薬品の搬入要請に前向きに応じるつもりだとしている。
ICRCをめぐっては、ガザで拘束されている人質への支援が不十分だとして、イスラエル国内から激しい批判が上がっている。
今年初めには、イスラエルとハマスとの合意の一環として、人質が解放された際に混乱が生じたことへの怒りが高まった。ICRCは当時、紛争地域で活動するには、交戦当事者の善意に依存せざるを得ず、ICRCの役割には限界があると説明していた。
パレスチナ人も、2023年10月7日以降、ICRCはイスラエルの刑務所に収監されているパレスチナ人を訪問することを許可されていないと、批判している。
こうした中、イスラエル・テルアヴィヴでは先週末、人質の家族や抗議者らが再び集まり、イスラエル政府に人質解放を実現するよう訴えた。
ダヴィド氏とブラスラフスキー氏の家族は2日の集会で、「今すぐ全員が、この地獄から脱しなければならない」と述べた。
PIJが公開した映像には、ブラスラフスキー氏が泣きながら、食料も水も尽きていて、この日は「ファラフェルのくず」を三つ食べただけだと語る様子が映っている。同氏は、立つことも歩くこともできず、「死の淵にいる」と訴えている。
ブラスラフスキー氏の家族は声明で、「(ハマスは)ロムを打ちのめしてしまった」とし、息子を連れ戻すようイスラエルとアメリカの指導者に懇願した。
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ハマスが公開した映像では、ダヴィド氏が「もう何日も食べていない(中略)飲み水もほとんど手に入らない」と語り、自分の墓だとして穴を掘る様子が映っている。
ダヴィド氏の家族は、「ガザにあるハマスの(地下)トンネルで、意図的かつ冷酷に飢えさせられている。生きた骸骨のような状態で、生き埋めにされている」と述べた。
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ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は、これらの映像に「がくぜん」としたと述べ、イスラエルとハマスの停戦には、人質全員の解放が絶対条件だと付け加えた。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、ハマスが「卑劣な残虐性」を体現しているとし、フランスは人質解放、停戦の再開、ガザへの人道援助の流入を確保するために、休むことなく取り組み続けると述べた。
マクロン氏は、こうした取り組みは政治的解決策とともに進めるべきで、「イスラエルとパレスチナが平和的に共存する」2国家解決が必要だと語った。
ハマス運営のガザ保健省は3日、現在の戦争が開始以降、栄養不良で死亡した人が175人に達したと発表した。うち93人は子供だという。
国連や援助団体、イスラエルの一部の同盟国は、イスラエルがガザへの人道援助の流入を制限していることで、ガザが飢餓危機に陥っていると非難している。イスラエルはこうした主張は事実ではないと否定し、責任はハマスにあると主張している。
ガザの飢餓を示す圧倒的な証拠があるにもかかわらず、イスラエル当局や、一部のイスラエルメディアは、ガザで飢餓が起きているという主張を強く否定し、ハマスが捏造したうそを、海外メディアが拡散していると主張している。
イスラエル国内では、ハマスとの合意を求める抗議者が、やせ細った子供の写真を掲げることもある。しかし、多くのイスラエル国民は、ガザの危機的状況がいかに深刻かを認識していないようにみえる。
戦争が続く中、ガザでの広範な破壊と、パレスチナ人の苦しみに対する怒りが巻き起こり、イスラエルは国際舞台で孤立を深めている。
各国の世論調査では、イスラエルに対する世論はますます否定的なものになっていることが示されており、各国の指導者に行動を迫る圧力は高まっている。