羽生善治が語る「将棋とAI」の未来 「AIは“わざと”負けられるか?」
かつて、「AIに接待将棋はできない」という結論に至った対談があった。棋士・羽生善治氏と、AI企業のエクサウィザーズ・石山洸氏によるもので、純粋に勝負するのではなく、接待ゴルフのように相手を喜ばせるための将棋は、まだ難しいというものだ。 【写真を見る】羽生善治の経歴と写真 それから8年――。AIが演算能力で人間を遥かに凌駕した今、その問いは解決されたのか。 同社のイベント「AI Innovators Forum 2025」で石山氏に再会した羽生氏が口にしたのは、「わざと負けることは容易」という事実と、その先にある「文脈(コンテキスト)理解の欠落」という本質的な課題だった。 過去の経緯を切り捨て、「現時点の正解」のみを導き出すAIの合理性は、時に組織の歴史や個人のモチベーションを削ぎ落としてしまうのではないか──。前編【羽生善治が語る「“将棋とAI”の10年」 ビジネス界より先に活用、だからこその変化】に引き続き、羽生氏の言葉をヒントに、AI時代の経営者が直面する「合理性と組織文化のジレンマ」と、その突破口を探る。
石山: 日本将棋連盟会長時代は、AI時代ならではの対策をしていたことはありますか。 羽生: 将棋界は、他の分野と比べても非常にユニークな世界だと思っています。今のルールになってから約400年、広い意味では1000年以上の歴史を持つ、とても伝統的な世界である一方で、最新のテクノロジーの影響をこれほど強く受けている世界でもあります。 この伝統とテクノロジーの共存というユニークさは他になかなか例がない強みであり、その特性をどう生かしていくかを考えることが重要だと感じていました。 ただ同時に、AIがこれほど強くなると、棋士が存在する意義は何か、人間の価値はどこにあるのかという問いを突きつけられることにもなります。組織としては、そうした状況の中で、どれだけ新しい価値や存在意義をつくり出していけるかが、これからの大きな課題だと考えています。 石山: 8年前の羽生さんとの対談では、「人工知能に接待将棋はできない」話で盛り上がりました。今あらためてAIに接待将棋はできるのかどうかお聞かせください。 羽生: 接待将棋については、「わざと負ける」こと自体はAIにもできると思います。ただし、「相手に気付かれないように負ける」ことができるかどうか(笑)。ここが本質的なポイントだと考えています。相手に悟られずに手を緩めるという部分こそが接待の重要な要素であり、そのレベルまで含めて実現できるかというと、8年経った今でもまだ難しいのではないかというのが自分の感覚です。 ただ、そういう方向に技術を発展させていくこと自体はとても面白いと思っていますし、強くする、速く読むだけではないベクトルでAIを進化させていく方が、むしろ健全なのではないかという感覚もあります。