「斎藤氏の指示で学校トイレきれいに」は誤り 知事就任前からの取り組み 県教委がSNSの言説否定
神戸新聞社が、選挙や行政を巡って虚偽かどうか判断に迷う情報を読者から募ると「斎藤元彦知事の指示によって学校のトイレがきれいになったというのは本当か」との質問が寄せられた。昨年11月の知事選前後にも同様の言説がSNS(交流サイト)上で飛び交ったが、県教育委員会は取材に「斎藤知事の就任前から計画的に取り組んでいるもので、就任後に変更を指示されたことも、前倒しした事実もない」と言説を否定した。(井上太郎)
県が予算を組んで整備に当たるのは主に県立高校と特別支援学校。学校行政は原則県教委が担うが、執行権限は知事にあり、財政支出を伴う設備改修は知事が意思決定できる。
X(旧ツイッター)では、例えば知事選投開票前日の2024年11月16日、「俺の高校学校の友達全員斎藤さん推し」「やっぱりトイレを綺麗(きれい)にしてくれたのがみんな嬉(うれ)しいんだよな」との投稿が拡散。今年6月4日現在で表示回数は340万回に上り、引用も3300回以上されている。
こうした「斎藤知事のおかげ」とされる言説の背景には、知事が23年に示した方針があるとみられる。20年度に県立高校の環境整備に充てた費用が全国46位だったことを踏まえ、23~28年度に約300億円を集中投資すると表明。備品更新やグラウンドの芝生化などが計画されている。
しかし、トイレを洋式などに改修する経緯を確認すると、これは井戸敏三前知事時代の16年策定の「県立学校施設管理計画」に基づいて実施されていた。実績を見ると、17~21年度の第1期には校舎などの「長寿命化改修」が予定の32校に対して12校にとどまりながら、「トイレの改修」は予定58校の2・3倍に当たる134校で完了している。
斎藤知事は最終年度の21年8月に就任。残り期間があるため、前倒ししたかのような言説が出回る余地になった可能性がある。
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そもそも、なぜ予定を上回る校数で改修が進んだのか。県教委の説明では、計画初年度の着手段階で、日常生活に密接に関わるトイレ改修を最優先する方針を掲げた影響とする。実際に管理計画を見ても、トイレ改修には設計-工事で12カ月かかると想定するが、斎藤知事就任から年度末までは8カ月しかない。
着工時期別では、第1期の5年間の中で最多は斎藤知事が就任前の20年度で、対象校を24校から2倍の47校に増やしている。理由は、新型コロナ対策の地方創生臨時交付金を財源に充てることができたことだ。ほかは年間10~20校台で推移しており、最終の21年度も例年並みの水準だった。斎藤知事が就任後の22、23年度は第2期に当たり、年間10校ずつ着工して全154校で改修を終えた。
担当者は取材に「初年度から粛々と進めた結果でしかない」と断言した。
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また、Xでは「高校にクーラーがついたのは斎藤知事のおかげ」との言説も飛び交っているが、その一部はほぼ正確な情報だった。
エアコンの整備状況を見ると、県立高校の普通教室では知事就任前の18年度に完了。特別教室での整備も20年度から始まっている。
一方、選択教室と体育館は斎藤知事の「300億円」予算で設置が進む。県教委が具体的な事業を挙げた上で、選択教室は101校、体育館は災害時の指定避難所を対象に52校で整備することに決まった。
文部科学省が24年9月時点でまとめた都道府県別の高校体育館の空調設備設置率を見ると、兵庫は11・0%で全国平均の14・0%を下回っており、引き続き予算の確保が課題になっている。
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